モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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ふっかつのじゅもん

「ところで海未さん。少し聞きたいのですが」

 移動中、満に話しかけられ「何でしょう?」とメルに乗りながら海未は返答する。

「海未さんのお父様のお名前、『海門』ではなかろうか?」

「……!? 父と知り合いなんですか!?」

「ああ、やはり。若い頃の彼にそっくりだったものでな、もしかしてと思いまして」

「海未さんのお父さんの事、ご存知なんですか?」

 弧白が尋ねると「彼とはちょっとした腐れ縁でな。よく共に狩猟に行っていたものです」と懐かしむように返す満。

「へぇーっ、お嬢のお父さんと!」

「知らなかった……すみません、何せ父の記憶は……」

「分かっておる。そなたが十歳の頃に他界しておるからな。ワシと狩猟していたのも、彼もワシも若い時の話だ。知らないのも無理はない」

「どうしてその事を……バルバレの人しか知らないはずなのに」

 海未の問いに、満は何も言わずに代わりに彼女を見つめる。海未が首を傾げると「……このお話は、後で話しましょうか。まずは目の前に集中を」と、前を向いて言った。

「……」

 釣られて海未も前を向くと、ゴア・マガラの姿がそこにあった。

「あっ、ゴア・マガラですよ先生!」

「分かった、分かったって……」

「弧白さん、無理はしないようにね」

「それは海未さんもね」

「……はぁい」

 少し不服だが、彼の言う事は的を得ている。

 それに、今日の海未の武器はヘビィボウガンだ。シールドも付いているため、そうそうキャンプ送りにされる事はないだろう。

「血が騒ぐのう。若ぇの、気を引き締めろよ」

「!?」

「えっ、は、はいっ」

「はいっ!」

 途端に口調が変わった満に驚きつつも、三人は各々準備を始める。

「海未さん、頼んだよ」

「OK」

 少し離れた場所で海未がメルから降り、特殊弾『狙撃竜弾』を装填する。

「撃った時が合図です」

「ん、合わせるぞい」

 地面に伏せ、じっとその時を待つ。ゴア・マガラの顔面が正面に来た時───海未はすかさず狙撃竜弾を発射し、そのタイミングで三人が前線へ飛び出していく。

 着弾と同時に気付いたゴア・マガラが臨戦態勢に入り、大きな咆哮を轟かせる。海未がリロードしながら見ると、太刀使いの二人組はすぐに特殊納刀の姿勢へと入り、咆哮を見切ったようだ。弧白はというと、ガンランスの盾で防いでいた。

「ゴア・マガラは粉塵爆発が主な攻撃方法だ。吹っ飛ばされんようにのう」

「分かりましたぁっ!?」

「はーいっ!?」

 と、返事をしながら早速火垂と弧白が爆発に巻き込まれているのを視界の端に確認した海未。

「……真のプロハンターは動きが違うなぁ」

 満を見ながら、海未は呟く。

 立ち回り方も良く、動きも洗練されている。並のプロハンターでも、古龍相手にここまで動ける者はほとんどいない。海未の中で、無意識に自身の師と姿を重ね合わせていた。

「居合の姿勢は正規通りだけど、なんだかせんせいみたいな動き方……関わりは無いはずだけどなぁ」

 怪力、硬化の種を食べ、「お二人さん、大丈夫?」と二人の様子を見る。

「だ、大丈夫でーすっ……」

「だはぁっ、死ぬかと思ったァ!」

「ゴア・マガラは本当に油断出来ない相手だからね。あと言っておくけど、あれ幼体だよ」

「へ!? 幼体であの強さなの!?」

「へぇーっ、捕獲は出来るんでしょうか?」

「出来るよ。そこら辺は満さんと相談して決めよう」

 回復薬をごくごく飲み、海未は徹甲榴弾を薬室に送り込む。二人も前線へ復帰し、「若ぇの、大丈夫か!」と満が呼びかける。

「何のこれしき!」

「はーい!」

「大丈夫です」

「そうこなくては! さぁ行くぞ!」

 戦っている三人を後方で見ながら、徹甲榴弾をゴア・マガラの顔面に撃ち込んでいく海未。飛んで向かってくるゴア・マガラの突進攻撃をシールドで受け切り、すぐに翔蟲で距離を取って徹甲榴弾を撃つ。反動で身体が後ろに仰け反るが、どうにか踏ん張って体勢を立て直す。

「うー、反動で手が痺れる……」

 次の狙撃竜弾が装填出来るまで、残り九十秒。まだ時間がかかる。

「……でも、それでいい!」

 ボウガンを構え直す。時間稼ぎは三人がしてくれている。その間に援護をして、自分が回復薬に徹すればいい。

 あの時、弧白がしてくれたように。

 傍に寄ってきた満が「大丈夫か、海未さん?」と声を掛けてくる。

「私は大丈夫です。ところで満さん、あいつ捕獲します?」

「いいや、討伐した方が良いだろう。ゴア・マガラは生態系を壊しかねんモンスターだからな」

「じゃあ、討伐の流れで二人にも言っていただけますか?」

「んむ、任せろ」

 ゴア・マガラの様子が変化する。紫檀の粉塵が辺りに飛ぶ───前に、ゴア・マガラがダウンする。

「へ……?」

 思わず海未も変な声が出てしまう。ダウンさせたのは満だった。

「満さんすげぇ、俺達いるのかな」

「あの人に任せて……いや、それはダメですっ! 気炎万丈ーっ!」

 頬に両手をぺちぺちと当て、火垂が太刀を持ち直してダメージを与えていく。

 そうしていくうちにゴア・マガラが悲痛な呻き声を上げ───地面を揺らす程の勢いで地面に倒れ込んだ。

「ハァッ、ハァッ……や、やりましたかね!?」

 息を切らしながら火垂がゴア・マガラを見る。

 しかし、倒れたはずのゴア・マガラが立ち上がっていく。禍々しい角が生え、強靭な筋肉を蓄えた翼がゆっくりと開いていく。

 何かを察した弧白が「火垂、そういうのなんて言うか知ってる?」とガンランスを構え直す。海未や満も察しているのか、各々武器を研いだり翔蟲を出す準備をしていた。

「へ?」

「『ふっかつのじゅもん』って言うんだよ」

 紫色を帯びたドス黒い粉塵が辺りを包み込む。

「うっそぉ!?」

「バルバレで戦った頃が懐かしいのではないですか、海未さんや?」

「ええ全く本当に……過去に幼なじみ達と四人で戦いましたけど、まんまこんな感じでしたね。

 気炎万丈、まだここからだよ」

「燃えてきたぁッ! 気炎万丈ッ!」

「やるしかねぇってか! 気炎万丈!」

「ほっほ! 気炎万丈、ですな!」

 ゴア・マガラは大きく天空へ吼える。

『狂竜化』───つまり、第二ラウンドの開始である。

 

 * * *

 

「提督殿、少々よろしいでしょうか」

 一方その頃、観測所にて。フィオレーネが一つの紙を持ちながら、ガレアスに声を掛ける。遥か遠く、別の何処かを見ているように、そんな海を見続けていたガレアスは振り返り「……どうした?」とフィオレーネを見る。

「過去の狩猟報告履歴をたまたま見ていたら……こんなものを見つけたのです。拝見願えますか」

 いつもの勇敢そうな顔とは裏腹に、何処か不安そうな顔をしているフィオレーネ。持っていた紙を渡され、ガレアスは目を通していく。

 それは今から三年程前の狩猟報告履歴を、ユクモ村の編纂者が一ページに纏めたものだった。狩猟報告されたモンスターの名前には、『海竜ラギアクルス』の文字が縦一列に、それも何十頭も並んでいる。

「……海竜ラギアクルス、絶滅の一途を辿る……か」

「提督殿、これはどういう事なのですか?」

「……フィオレーネ、落ち着いて聞いてくれ。この狩猟報告履歴は本当にあった出来事だ。そして───」

 狩猟報告者、ハンターの名前を指でなぞる。信じられないと言った顔をしているフィオレーネに、ガレアスは重い口を開いた。

「───これは、海未殿の本名だ」

「海未殿の本名という事は、このラギアクルスは全て海未殿が狩猟したというのですか!? そんな、このような事が……」

「……噂程度だが聞いた事がある。三年ほど前から、海竜ラギアクルスの目撃情報が極端に減っている、と。絶滅種と言っても過言ではないほどに、各地で個体数が減っているそうだ。そして、その原因は一人のハンターにある……と、ギルドナイトはこの時から目を付けていたそうでな。恐らくだが、何らかの理由があり、彼女が数年かけてたった一人で絶滅寸前まで追い込んだのだろう」

「……」

 言葉を失うフィオレーネ。ガレアスはそんな彼女を見ながら話を続ける。

「……理由はあれど、このような事は決してあってはいけない。ギルドナイトは彼女に注意喚起を促したが、とある一人のハンターによって阻害されたという。……その者の名は『睡蓮』。貴殿も、よく知っている名であろう」

「……!? まさか、睡蓮が……」

「教え子を庇い、彼女を自身の監視下に置くことを条件に、今の職業……ギルドナイトに就いたのだそうだ」

「……存じ上げませんでした。何せ、自分の事は何も話さないような子ですから。ギルドナイトにいる事も、何も。これは、後で睡蓮に連絡を取って詳しく話を……」

「いいや、辞めておいた方がいい。恐らく、彼女は何も話さない。義理であれど、家族に心配は掛けられない、だから今後も話す気は無い……と、そう話していた」

「ですが!」

「慌てるな、フィオレーネ。我々に今出来ることは、海未殿を注意深く見守る事。ただそれだけだ」

 ガレアスから紙を返され、フィオレーネは改めて紙を見つめる。

 狩猟報告者欄にはこう書いてあった。

愛海(まひろ)』と。

 

 * * *

 

 満が太刀を振り下ろし、ゴア・マガラの片角を切断する。後隙で攻撃されそうになった所を、弧白のガンランスの盾がそれを防ぐ。

「ありがとのぅ、弧白さん」

「いえ、これくらい余裕です……よっ!」

 弧白が発射した竜撃砲がゴア・マガラに直撃する。

「火垂、行けるか!?」

「お任せ下さぁいっ!」

 怯んだ所に、火垂が追撃と言わんばかりに兜割りでもう片方の角を切断する。

「お嬢! 怯みましたよー!」

「海未さん、〆は任せた!」

「海未さんや、一発でかいのを頼む!」

 三人同時に振り向いた視線の先には、既に地に伏せて狙撃榴弾を撃つ直前の海未の姿。

「了解」

 ドッッ、と、少し仰け反りながら狙撃榴弾を撃つ。ゴア・マガラの頭に一直線に刺さり、綺麗な爆発が顔に花を咲かせる。それが会心の一撃だったのか───ゴア・マガラを纏っていた粉塵が辺りにふわりと散り、塵となり消えていく。そのまま地に伏したゴア・マガラは、二度と起き上がることは無かった。

「よっしゃ!」

「やったぁー! さすがお嬢!」

「惚れ惚れしますな」

「よしてよ、そんな大層なもんじゃないって」

 ヘビィボウガンを背中に背負い、海未は三人に近づく。

「はぁ〜、疲れましたな」

 満がフルフェイスを取り、その顔があらわになる。色素の抜けた頭髪を編み込み、歴戦の傷が顔に残っている。それは言うまでもない老人……なのだが、やはり顔つきがハンターそのものだ。

「……口調で何となく察してましたけど、やはりお年を召した方だったのですね」

「いやはや、恐縮です」

「顔に傷……! かっこいいーっ!」

「……」

 父親はこの人と一緒に狩りをしていたのか。

 そう思うと、なんだか感慨深いものがある。海未はそんな思いを心に仕舞いながら満を見つめていた。

「しかし、この歳になると、ソロで行くのも一苦労で……助かりました。少し疲れましたね」

「大丈夫ですか? 回復薬グレート入りますか?」

「お気遣いはありがたいですが、自分のものがありますゆえ───……」

 アイテムポーチをまさぐっていた満の手が止まる。一体何事かと三人が首を傾げていると、「……ない、ですね」と、自身の回復薬グレートが一つも無いことを明かした。

「ッスー……はちみつください」

「……やっぱゆう───」

「馬鹿たれ、空気を読め! ここはあげるところでしょ!」

 海未に口を塞がれ、もごもごと何かを言いたげな弧白、「ほっほ、良いのですよ」カラカラと愉快そうに笑う満。

「……ゆう?」

 結局、二人が言いたい事が分からず、更に首を傾げてしまう火垂であった。




お久しぶりです!色々落ち着いてきたので、またちまちまと投稿していきますよ〜!!
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