「すみません満さん、奢っていただいて」
夜、エルガドの食事場。弧白が軽く頭を下げると「最年長のするべき事です。これくらいは」と満がニコッと笑う。
「ゴア・マガラの討伐報告書、提出してきたよ」
「ありがとう、海未さん」
「……さて、御三方。結局のところ、私はどうすれば良いのですかな?」
「私としては、是非とも入って欲しいところですが……二人は?」
「俺も。誤解は解けている訳だし」
「誤解……? 私も構いませんよ!」
「では、正式にメンバーという事で?」
「そういう事になりますね」
「じゃあじゃあ、これを機にパーティ名決めませんか!? これからは四人で狩りするんですし!」
火垂が身を乗り出して提案する。「いいですな。何にしますか?」と満も乗り気な様子だ。
「パーティ名、ねぇ……」
「そういえば、海未さんは過去にパーティ組んでたんだよね? その時はどういう名前だったとかあるの?」
弧白に聞かれ、そう言えばと海未は昔の事を思い出そうと記憶を巡らせる。
確かに、青嵐がそんな事を提案してきたような気が……する。あれはモガの村での出来事だっただろうか、それとももっと昔の話だっただろうか。
皆の視線が海未に集まる。そうは言われても、とは思ったが、海未の中には一つだけ単語が思い浮かんでいた。
「……アトランティス、だったかな」
「あとらんてぃす?」
火垂が復唱する。他の二人も知らないらしく「どういう意味なんだろう」「聞き慣れない言葉ですな」と首を傾げていた。
「大昔にあった大陸の名前だよ。海に沈んじゃって、今は無いらしいけどね。
ああ、思い出した。周りが沈んでも、自分達だけは最後まで沈まないようにしようって意味で、伊月が名付けたんだ」
「なるほどぉ、いい名前ですね!」
「でも海未さん、それでいいの? 幼なじみの子達と考えた名前なんじゃ……」
「持ち腐れるよりかは、ここで二代目として使った方が伊月達も喜ぶでしょ。だから、私は気にしないよ。
さて、私は明日に向けて寝ようかな。また明日ね」
海未は船へと歩いていく。火垂には、少しだけ海未の顔が曇っていたように見えた。まるで『思い出したくない』とでも言うかのような、素っ気ない態度にも思えた。
提案したのは間違いだっただろうか。しょんぼりとしていると、「火垂さん、暗い顔をしていては海未さんがつられてしまいますぞ。いつも通り過ごしていくのが一番です」と満が声を掛ける。
「満さん……分かりました! うぉーっ、気炎万丈っ!」
「うわうるさっ、火垂のいつも通りは騒がしいな」
「失礼な!」
そんな言葉を耳にしながら、満は小さくなっていく海未の姿を見つめていた。
* * *
それから数日が経った。
共に狩りをしていて、弧白は思った。彼、満の実力は本物だ。元から歴戦の猛者のような雰囲気を醸し出していたのはそうなのだが、老体にしては動きが俊敏である。弧白は自然と、新大陸にいたソードマスターの事を思い出す。
そういえば、彼も太刀使いだったな、と。
何よりも、無計画に力技でゴリ押しをしようとする火垂とは違い、満はきちんと計画を立ててから実行するタイプのハンターだ。どちらかというと、海未と同じタイプである。
……そんな彼女も、最近は面倒くさくなっているのか「まぁゴリ押せば行けるでしょ」と半ばやけくそな部分が垣間見えるのだが。
「ふー、こんなところか?」
「お疲れ様です、弧白さん」
アンジャナフが大きな音を立てて倒れる。しばしの痙攣の後、動かなくなったのを確認すると、満は剥ぎ取り用ナイフを持ってアンジャナフに近づいていった。
「……」
何かがおかしい。
ここ数日……いや、数ヶ月。狩っているモンスターの様子が変なのだ。少し、というレベルではない。目に見えて分かる程の異変が起きていた。
「満さん、最近のモンスター、何か変じゃないですか?」
「ぬ? そういえば、最近狂暴化したモンスターばかりが表に出てきていますな」
「ええ、そこが引っかかっていて……何かあるんじゃないかと思って」
「……なるほど。弧白さん、「獰猛化」という個体をご存知ですかな?」
獰猛化。モルとトモエを一日入れ替えた時に、モルから聞いたのを弧白は思い出す。
「聞いた事があります。海未さんが遭遇した事があるって……あ、そういえば、恋海さんも獰猛化個体についてよく言及していたっけ。なんで忘れていたんだろう」
「おや、海未さんのお姉さんもですか。
正直に言うと、今の狂暴化した個体は、獰猛化に近いような雰囲気を感じますな。まるで何か、外部からの影響を受けているかのような……」
「外部、ですか?」
「ええ。ゴア・マガラのように、狂竜ウイルスに影響されて、肉体が強化している……と言ったような、それと似たような雰囲気を感じるのです」
ネコタクに剥ぎ取った素材を持ち帰ってもらうように指示をしながら、満は言う。
「獰猛化っていうのは、どういった原因でなるんですか?」
「ワシにもよく分かりませぬ。というよりかは、未だ原因が解明されていない、というのが正しいでしょう。何らかの原因で、極度の興奮状態に陥ってしまったモンスターの事を、総称として獰猛化と呼んでいるものですから」
「じゃあ、今回のも獰猛化では───」
「それは違うと思うな」
聞き慣れた声に振り返る。いつの間にいたのか、海未と火垂が後ろに立っていた。
「海未さん、お疲れ。違うって、どういう事?」
「まず確定として言えるのは、今いる狂暴化した個体は、獰猛化個体ではないって事」
「どうして、分かるの?」
「獰猛化個体はもっと強いから。それに、あちこちの部位から黒い蒸気が出ていて、目は爛々としていて、もっと恐ろしい雰囲気を放っているというか。私が渓流で戦った獰猛化ラギアクルスは、今狩ったモンスター達よりも何倍も強かったからね……」
「そっか、海未さんは戦った事があるんだっけ」
「じゃあ、狂暴化している原因ってなんなんでしょう?」
火垂がこてんと首を傾げる。ここ最近で、似たような事象があった時といえば……。
「……この前、メル・ゼナを狩った時。あのメル・ゼナも、狂暴化した個体じゃなかった?」
弧白の発言に「ああ、あの気色悪い赤いギギネブラみたいなやつがくっついてた個体ね」と海未が付け加える。
「ぎぎねぶら……?」
「ここ一帯の地域にはおりませんぞ、火垂さん」
「でも関連性があるとは思えな……」
海未の言葉が止まる。彼女の目線は、先程弧白と満が討伐したアンジャナフがいる。おもむろに近づき、何かをつまむと「……これ」と三人に見せてきた。
「あれ、これって、さっきのギギネブラ? だっけ、それに似たやつ?」
既に息絶えてはいるが、弧白の手のひらほどの小さな生命体。その身体は赤く、目はなく何かを吸血するような鋭い歯が円形状の口に立ち並んでいる。よく見ると、アンジャナフの死骸に同様の赤い生命体が群がっている。
「……死骸を漁る生命体? そんなの聞いた事ないけど。弧白さん、新大陸で見た事ある?」
「……いや、無い。似たような古龍なら見た事あるけど、こんなんじゃない」
海未は死骸に近づき、後ろからそっと羽根を掴んで採集用ポットに生命体を数匹入れる。危険を犯してまでする事ではないのでは? と弧白は思ったが、彼女が噛まれている様子もない。
「こんなもんでいいかな。後で提督に見せる」
「お嬢、たまに怖いくらいの好奇心旺盛さを見せてきますよね……」
「何が?」
「ほっほ、怖いもの知らずという褒め言葉ですよ。さぁ、エルガドに戻りましょう」
「そうですね、戻りましょうか」
海未と火垂は特に剥ぎ取りをせず、ベースキャンプへと歩を進める。
弧白はもう一度振り返る。先程よりも、生命体が多く群がっていた。
なんだか嫌な予感がする。
「……皆、今日は寄り道せずに早く戻らない? なんか、嫌な予感がする」
「先生がそう言うの、珍しいですね?」
「弧白さんの勘って結構当たるし、今日は早めに帰ろ」
「ですなぁ」
新大陸を網羅した弧白にとって、エルガド周辺の生態系は興味を惹かれる物ばかりだった。
だが今回のは違う。遅くなればなるほど、
「……せんせ、珍しく考え込んでますね?」
「まるで私みたい」
「海未さんも、ああいう風に考える事が?」
「ありますよー、このお二人は特に。まぁ私は何も分からないんで、いつも二人に任せてるんですけどね〜」
「癖なんだってば」
そんな会話をしながら、四人は溶岩洞を後にしたのであった。
零式って何のためにいるのだろう(通算10敗目)
ライトボウガン、双剣、ランス、ガンランス、大剣……様々な武器で試してみたがどれも返り討ちにされました。悲しい。
次回の更新をお楽しみに!