モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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二手に

 船に揺られ数日。早朝、海未は装備を整え、甲板に出てくる。

「……予想以上に時間がかかりましたな」

「ですね」

 いつもなら、カムラの里まで来るのに数日もかからないはずなのだ。

 これには理由があった。本来なら、ラギアクルスを見た時点で既にカムラの里は目と鼻の先だった。しかし悪天候に見舞われ、どういう訳かルートを外れてしまったのだ。雨風が船体を揺らし、日中にも関わらず霧により視界が霞み……悪運が重なり、ようやく今日着いたという訳だった。

「しかし、珍しいですよね。カムラの里って、あんまり悪天候にならないような土地なんですけど……」

「そうでしたかな? そうだったような気がしますなぁ」

 ついにボケ始めたか……? と、曖昧な満の返事に対して思いながらも、海未は船の舷梯を降りていく。

 ……その途中で、見覚えのある姿がこちらを見ているのを視界に収めた。太陽光に透けた長い白髪が風で揺れ、それに合わせて右耳に付けたピアスも小さく揺れる。頭、腕以外は王国砲術隊装備を基調とした装備に、右腰に佩いている大きなミツネ太刀。その姿を一瞥して、海未は確信した。

「せんせいだ!」

「はて? せんせい、と言いますと……睡蓮さんの事ですかな?」

「です!」

 見慣れない鍔付きの帽子で顔はよく見えないが、あれほどまでに綺麗で長身な姿の女性に、特徴的な太刀の装備の仕方は海未の師に当たる人物、睡蓮しかいない。

 残り数段の舷梯を飛び降り、まっすぐ走っていく。彼女も海未に気づいているようで、帽子を軽く上に上げる。

「……おや、珍しい方がご一緒で」

「せんせい! どうしてここに!?」

「久しぶりだね、海未。休暇をもらったのでね、故郷を訪れたついでに立ち寄っただけだよ」

 透き通る紫の瞳が海未を捉える。口角を少し上に上げて笑い、海未の頭を優しく撫でる。

「いやはやお久しぶりですなぁ、睡蓮さん」

「こちらこそ。またお会いできて光栄です、満さん」

「やっぱり知り合いなんですニャア……」

 モルが納得したように呟いたのを見て「久しぶりだね、モル。知り合いというか、少し前に救難信号で偶然一緒になってね……あまりにも目立つ装備を着ているものだから、印象に残っていて」と、モルの頭を撫でながら睡蓮は返す。

「ほっほ! ゴア装備は良いですぞ!」

 ……愉快に笑っているが、かなりの視線を集めている事に彼は気づいていないのだろう。困ったように笑う睡蓮は笑い「それにしても、お前と満さんとは、組み合わせが珍しい。他にも男の子と女の子がいただろう、その子達はどうしたんだい?」と海未に尋ねる。

「え? えっと、弧白と火垂の事かな……今は別行動中です。フィオレーネさんがメル・ゼナに寄生していたキュリアの毒で、エルガド側が混乱していて」

「……フィオ姉さんが? 詳しく聞かせてくれる?」

「……どうします、満さん?」

「何処か座れる場所などは……ああ、食事場がありますな。そこででも」

 

 * * *

 

「なるほど……ライカが狩猟した現場にメル・ゼナが乱入してきたと。庇った時に受けた傷から毒が、ねぇ」

 頬杖を付きながら、睡蓮は何かを考えるように呟く。

「そのキュリアっていうのは、ゴア・マガラの狂竜ウイルスと似たようなものを感じるね。原理は同じなんだろうか」

「ほぼ同じだという見解がエルガド側でも。シャガルマガラのウイルスとはまた違ったものだとは思いますが……ともかく、そのキュリアの毒の影響が他にも出ているのは間違いありません」

「他にも?」

「睡蓮さんや、最近こちらで狩猟を行った事は?」

「あります。暇だったので、カムラの里から幾つか捕獲依頼を受けはしましたが……」

「ふむ……実は最近、狂暴化しているモンスターの討伐依頼が舞い込んで来ていて、ワシらも参っているのです」

「……やけにモンスターが固いと思ったら、それか」

 心当たりがあるとでもいうかのように、睡蓮は目を細める。

「それで、キュリアの毒の事を聞くために、タドリさんという方を探していて……せんせい、なにかご存知ないですか?」

「タドリ……心当たりはあるが、カゲロウさんに聞いた方が早いんじゃないかい?」

「そのカゲロウさんが存じているとの事で、聞きに行く所だったのですよ。ところで睡蓮さん、貴女はいつ頃までこちらに?」

「船が停泊する所を見届けたら出ようと思っていたのですが、その船から二人が出てきたものですから。おかげで留まる理由が出来ました。……これは提案なんだが、良ければタドリさんに、私も会いに行っていいだろうか」

「私は構いませんよ。満さんは?」

「ワシももちろんですぞ」

「ありがたい。ただ、長くは居られない。クリューテの調査も残っているのでね……私は明日には帰るよ」

「なるほど。ところでせんせい、そのオトモ……誰ですか? 初めましてですよね」

 海未が睡蓮の隣をチラッと見やる。ラージャン装備に身を包んだ、真っ白な体毛をした体格の大きなアイルーだ。うさ団子を食べていた手を止め、覆面で覆われた顔が訝しげな雰囲気を醸し出しながら海未の方を向く。

「二代目だよ。名前はアキツ」

 彼女が容赦なく覆面をめくると、紫と緑の綺麗なオッドアイがあらわになる。垂れた耳が小刻みに動き「なんだ、剥がすでない」と不満気な顔をして睡蓮の手を退けようとする。

「二代目……へぇ。わぁ、綺麗なオッドアイ」

「む? なんだ、この小娘とガキンチョアイルーは」

「ンニャーッ!? 旦那さま聞いたかニャ!? ボク、旦那さまより年上なのにぃーっ!」

 突っかかろうと手を伸ばしたモルの首根っこを掴み「モル、多分この子はモルより年上だよ。ごめんねアキツ君、こいつ喧嘩っ早くてさ」と海未は呆れたように呟く。

「ほら、前話したでしょ。教え子の海未」

「ああ、海未殿か。初めまして、我はアキツだ。……と、その隣のでかいゴア装備のは、前にあった太刀使いの満殿、それにタマ殿だな。久しいな」

「お久しぶりです、アキツさんや」

「久しぶりニャーッ」

 感動(?)の再会を喜ぶタマとアキツを目にやりながら、「さて、まずはカゲロウさんに話を聞こう……の前に」と茶を一つのみ、睡蓮は二人を見る。

「朝ごはん、食べなくていいの?」

「私、朝入らないので」

「ワシも老体に来ますなぁ……」

「まぁ、朝から団子はちょっとね……」

「せんせいも朝食べませんもんね。じゃあ、私先に準備してきますね」

 海未が立ち上がり、ライカの自宅へと走っていく。それに続いてメルとモルが走っていき「忙しい子だねぇ。もっとゆっくりしてもいいだろうに」と再び頬杖を付いて睡蓮が呑気に呟く。

「対する貴女はマイペースですな。戦闘の際はあんなにも機敏だというのに」

「いつも通りですよ。若いっていいですよね」

 立ち上がり、睡蓮は後を辿るように歩いていく。その後ろ姿を暫し見つつ、アキツが食べ終わった皿をヨモギに渡した後「行かぬのか?」と満に声を掛けてくる。返事を待たず、先を行くアキツを目で追いかけながら、満は重たい腰(老体的な意味で)をゆっくりと上げた。

 

 * * *

 

「……ほう、ろんでいぬ殿の姉上、「ひおれいね殿」が倒れてしまったと……それは一大事ですな」

 話を一通り聞き、カゲロウは覆面の上から顎に手を当てて口にする。

「カゲロウさん、前に私に、タドリさんの話をしてくれたの覚えてますか? その方って今、何処にいるんですか?」

「……タドリさんは、貴方の古い知り合いと耳にした事がありますが」

「ええ。睡蓮殿のおっしゃる通り、薬師のタドリはそれがしの友。故郷が滅びた十数年前、共に生き延びた数少ない仲間の一人です。

 以来、手紙のやり取りはしていますが……タドリは元々、薬の材料を求めて各地を旅する人物ゆえ、会えてはおりませぬ」

「……打つ手なし?」

「お聞きなされ。つい先日の手紙にて「密林へ向かう」とありました。今もそこにいると見て間違いないかと」

「じゃあ、密林に行けば会える……?」

「かもしれないね。行ってみようか」

 カゲロウにお礼を言い、各々出る準備をしながら「しかし、密林は広いですぞ。お主らとワシで二手に別れるというのはいかがですかな?」と満が提案する。

「あ、それならさっきライカさんを呼んできたので、満さんと一緒に行動してもらおうかなと」

「おお、良いですな」

「何故私と海未固定なのかというのはさておき。準備が出来たらすぐ出発しよう。私と海未はエリアの右半分を探す」

「分かりました。ではワシとライカさんは左半分を」

 そうして別れ、睡蓮と海未が先に行こうとした時「あ、そうだ、海未殿。満殿も」とカゲロウが呼び止める。

「なんですか?」

「タドリ殿に会ったら、一言、伝言を願えますかな。

「姫みこ様は、カムラの里にて笑顔で過ごしておられる。姫みこさまのうさ団子を、一度ご賞味あれ」と」

「ひめみこさま……?」

「伝えていただければ、分かります。手紙で記すにはおそれ多く……しかし、あなた方の伝言であれば安心ですので」

「分かりました。伝えておきますね」

「海未さん、クエストとしてミノトさんに受注処理をしてもらいましたぞ」

「あ、ありがとうございます。せんせい、準備出来ました? 密林行くならガルク、便利ですよ。私のメルか、他の子もいますし呼んできましょうか?」

「いや、必要ないよ。行こうか」

 二人が門を出たタイミングで、ギルドクロス装備に身を包んだライカが自宅からひょっこりと出てくる。いない! という顔をした後「み、満さん、海未がいないのですが」と満に声を掛けてくる。

「海未さんなら、睡蓮さんと共に先に行きましたぞ? 老いぼれで良ければ、ワシと共にタドリさんを探しましょうぞ」

「そ、それは構いませんが……意外と自由奔放だな……まあ、いいか。行きましょうか」

「はい、よろしくお願いしますぞ」

 困ったように呟き、ライカは満と共に門へと歩いていった。




お久しぶりです。エルガド編最終回(暫定)がもう少しで書けそうなので、更新しました。
週一でまた投稿できたらなぁと思います。
もう少しお付き合いください!!
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