モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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 弧白のオトモアイルーであるトモエの、遠い昔にいたオトモダチのお話。


番外編
番外編 初めてのオトモダチ


 ワタシはひとりぼっちだった。

 いわゆる、ちょっと浮いた存在? らしく、同期のアイルー達ともあまり話したことが無い。

 ポッケ村で産まれて、ポッケ村で育って、オトモアイルーとして採用される為に、バルバレの船に乗って色んな世界を見てきた。ユクモ村、ベルナ村、ココット村。他にも沢山色んな所を見て、色んなハンターに話しかけられた。

 だけど、みんなワタシを見るなり「こいつは愛想がない」と断り、他のアイルー達が連れて行かれる。そんな景色を、もう何十回も見てきた。

 幼い頃から、同じポッケ村出身のとある二人のアイルーが一緒にいた。真っ白でツヤツヤした毛並みの、瞳は紫と緑の綺麗なオッドアイの男の子。体格も他のアイルーと比べて一際小さく、ワタシと同じくらいの体格だった為、とても印象に残っていた。

 もう一人は、身体に黒い四葉のような模様がある三毛柄の女の子。その見た目から自身を「ヨツバ」と名乗っており、白い彼がワタシに話しかけているのを見て気になったのか、一緒に話しかけて来た。

 あれはキッチンでの出来事。葡萄を盗んだ白い彼が、こっそりとワタシに差し出してきた事。いらないと突っぱねたのだが、そんなワタシを見た彼は、無理やりワタシの口に葡萄を突っ込み「本ばかり読んでて食事摂っていないの知ってるよ」といじわるく笑う。そこをたまたま通り掛かったヨツバが「何してるニャーッ!?」と興味本位で近づいてきた。それがきっかけだった。

 そんな二人に、ワタシは本に栞を挟み「ワタシに話しかけない方がいいですニャよ。ワタシは優しくないですニャ」と毎回素っ気なく返していたのだが、彼らはニコッと笑ってこう言った。

「でもキミは、わざわざ本に栞を挟んでまで、私達の言葉に耳を傾けて返してくれたじゃないか。そんなキミが優しくないだなんて嘘だよ」

「そうニャ! ヨツバも分かるニャ、あなたは優しい子ニャ!」

 ……なんて純粋な子達なのだと、そう思った。

 ヨツバはその数ヶ月後、ハンターに雇用されていった。仲良くした覚えなんてないのに「あの子はヨツバと仲良くしてくれたのですニャ! また会えたら、ヨツバが見た世界を教えるんですニャ!」と、そのハンターに意気揚々と話していた。

「ヨツバ、行ってしまったねぇ。寂しいな」

「ワタシ達はそういう存在ですニャ。みんな違う所に行って、違う景色を見るのですニャ。仲良くするだなんて言語道断ですニャ」

「キミは相変わらずだね? 私はキミが羨ましいよ」

「それはどういう事ですかニャ? ワタシよりも、アナタの方がずっと強い存在ではありませんかニャ」

 ワタシから見た白い彼の印象は明るくて、いつも愛想笑いを浮かべているような子だ。しかし本性の彼はまた違うようで、「臆病で、仮雇用の時も何も役に立てずに突き返されてばかりで……」と、他人からすれば自虐にも捉えられる発言を零した。

 自分に自信が持てない、と。誰かに期待をされて頑張ってみるけど、結局出来なくて、いつしか期待をされることが怖くなった、と。

 ワタシはそんな彼の言葉を聞き、ふと一つの疑問が思い浮かび、それをそのまま口にしてみた。

「アナタ、そんなにビビりなのに、どうしてオトモアイルーになろうと思ったのですかニャ?」

 ワタシの言葉に、白い彼は顎に手を当てて考え始める。やがて答えが見つかったのか、垂れていた耳がピン、と一瞬立ち、「ちゃんとあるや、理由」と笑う。

「私は、誰かの役に立ちたいんだ。誰かに期待されて動く自分ではなく、自分から動いて、誰かがそれで笑ってくれればそれでいい」

「でも、それはオトモアイルーじゃなくても出来ることでしょう? それなのに何故……」

「オトモアイルーじゃないと出来ないんだ。私達オトモ予定のアイルーは、人間が常に隣にいなければ何も出来ない存在……私は、「いつか出会えるハンターと二人で」人に感謝をされる事をしたいのニャ」

 そう言って、キッチンから盗んできた葡萄を頬張る白い彼を、ワタシは心の中で少し尊敬していた。

 ワタシも、彼のような存在になれたのなら。彼のように、人の役に立てるオトモアイルーになれたのなら、どれだけいい事だろうか、と。

 

 そんな機会はすぐに訪れた。

 ドンドルマに着いた時、とある一人のハンターがオトモアイルーの雇用を申し出てきた。青みがかった銀髪の、まだ幼さが残る若いハンターだ。

「若いね。十五歳かぁ」

「ワタシよりも五個も年上ですニャ」

「私からしたら、二つは年下だね」

「……アナタ、そんなに年上なのですかニャ?」

「私とキミは七つ差だよ。キミの産まれたての姿も見た事ある」

「ニャッ……!?」

 やがてその者は、ワタシ達の目の前で止まる。ワタシも彼も、特に気にも留めずに各々好きな事をしていた。

「ねぇ君、良かったら俺と一緒に来ない?」

 ───あろうことか、そのハンターはワタシに話しかけてきたのだ。

 てっきりワタシは、白い彼に話しかけるものだと思っていた。なのに、あんなに愛想のいい彼ではなく、ムスッとしていて無愛想なワタシに話しかけた事に、心底驚いた。

 だがワタシはそのハンターに、何か自分と近しいものを感じた……ような気がする。気のせいだと思いたいが、この人は何故か自分を見捨てないと、そう感じたのだ。

「……ワタシで良いのですかニャ?」

「うん、君がいいんだ」

 真っ直ぐなその言葉に、ワタシはそのハンター、弧白(こはく)について行く事にした。白い彼は大層喜んでくれて、荷造りをしていたワタシに「これを持って行って!」と、小さくて綺麗なキーホルダーをくれた。どうやら彼の手作りらしく、それにしてはかなり丁寧に作り込まれていた。ヨツバにも同じものを渡していたのを覚えている。

「それがあったら、私をいつでも思い出せるでしょう? まぁ、忘れたっていいんだけどさ」

「……大事にしますニャ、ありがとうございますニャ」

 蓄光で、暗闇でほんのり光る、ホタルのような……そんなキーホルダー。

 ワタシが初めて誰かからもらった、大事な物。

 ワタシの初めての『オトモダチ』からもらった、失くしてはいけない物、失くしたくない物になった。

「行ってらっしゃい! いつかどこかで会ったら、君が見た世界を教えてよ!」

 出発の日。白い彼はそう言って、笑ってワタシを見送ってくれた。ワタシは相変わらず、口をへの字にして手を小さく振り返す事しか出来なかった。

「ねぇトモエ。トモエは将来、どんなオトモアイルーになりたい?」

「? どうしてそのような事を?」

「なんでだろう? 何となくかな」

 旦那さまはそう言って笑う。何となく、気弱な部分が白い彼と面影が似ているような気がした。

「ワタシは……ワタシは、トモエは、誰かの役に立てるような、そんなオトモアイルーになりたいですニャ」

 そんな自分らしくもない言葉を口走った、青空が広がる午前九時。

 残暑が残る初秋に、ワタシは空を見上げて目を細めた。

 

 * * *

 

 あれから何年経っただろうか。場所は未知の島、新大陸。自身の祖先とも言えるテトルーと会話している時に、ふと彼の事が頭に浮かんだ。

「……そういえば、白い彼の時もこうしてお話していましたニャね」

「白い彼って、トモエを見送ってくれたあの真っ白いアイルー?」

 隣にいる旦那さまが首を傾げる。

「はいですニャ。トモエの、初めての『オトモダチ』ですニャ」

「へぇーっ。その子もどこかで、ハンターと一緒に過ごしているのかな?」

「ビビりな彼の事ですニャ、雇用されずそのまま船に乗ってのらりくらりしているかも知れませんニャよ」

「相変わらずだなぁ、トモエは」

「おーい、弧白、トモエちゃん、何してんの?」

 茂みの奥から、ひょっこりと恋海さまが顔を出す。テトルーを見るなり「わ、可愛い〜! 一匹持ち帰りたい!」と物騒な事を口にしていた。

「ダメだよ恋海さん」

「てへ」

 ワタシはひとりぼっちだった。

 でもそれは、ワタシが気づいていなかっただけで、本当は一人ではなかった。

 二人はワタシに、誰かと仲良くなる方法を教えてくれた。誰かを喜ばせる方法を教えてくれた。

 本には書いていない事を沢山教えてくれた。

「……彼は今、どんな世界を見ているのでしょうかニャ?」

 いつかまた二人に会えたなら、今度は互いの名前を教え合って、互いが見た世界を語り合いたいと、ワタシはそう思っている。




 さて、白い彼、ヨツバとは誰なのか……それは神のみぞ知る、と言ったところですかね?ふふふ。
 ご一読お疲れ様でした。引き続き、本編もよろしくお願いしますね。
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