モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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薬師

「そういえば、密林に来るのは久しぶりだね」

 木々をかき分けながら、海未の前を進んでいた睡蓮が呟く。「そうなんですか?」と海未が首を傾げると「おや、忘れたとは言わせないよ」と彼女は意地悪く笑う。

「お前がギルドナイトに殺されそうになったのは、まさしく密林だっただろうに」

「ああ……そういえば、そうでしたね」

「あそこで私が通りかかっていなかったら、今頃モンスターの餌だったね」

「縁起でもないこと言わないでくださいよ!?」

 海未の隣にいたモルが心底引いたような目で睡蓮を見つめる。「……ヨツバとアキツ以外にその目をされたのは君が初めてだよ、モル」と若干申し訳なさそうに言った。

「気安く名前を呼ぶんじゃねぇニャ」

「おや、ネコっころの癖に大した口ぶりだね。生肉にしてしまうよ」

「ヒェッ……じょ、冗談ですニャ〜」

「こちらも冗談だよ。私は生粋のネコ好きだよ、そんなことをするはずがないじゃない」

 ……どうやら、海未のは冗談と分かっても、睡蓮のは冗談とは受け止めきれないようだ。

 ふと、睡蓮が制止するように腕を海未の前に出す。後ろからひょっこりと覗くように見てみると、かなり気が立っているモンスターが一頭。

 ツヤのある黒を基調とした身体に、昆虫の羽根のような模様をした虹色の翼膜、首から腹、尻尾にかけて黄緑色の鱗が、身体の色も相まって目立っている。

「ライゼクスだ。なんだかすごく気が立ってますね」

「縄張り争いに負けたのかな? 可哀想に」

「哀れむところ、そこじゃないと思います」

「……どの道、相手をしないと進めなさそうだ。少し頼めるかい? 持ってくる(・・・・・)よ」

「えっ、持ってくるって、何を?」

「後で分かる。アキツ、行くよ」

「承知」

 説明もせずそそくさとその場を後にしてどこかへ行ってしまう睡蓮を、海未はポカンと見つめる。「何しに行ったんですかニャ?」とモルの問いには答えず、とある一つの可能性を示唆しつつ……海未は抜刀をしてライゼクスに近づき、後ろから奇襲攻撃を仕掛ける。

「……まさかね! ははは!」

「旦那さまも壊れたニャ」

 ライゼクスが大きく吼える。ジャストタイミングで腹下に入り込み、螺旋斬で腹を中心に攻撃をしていく。

 やはり怒り状態のようだ。戦いながら、海未はモンスターの部位を一つ一つ見ていく。

 直近で争ったような傷痕はほとんどない。若い個体だ。なのに気が立っている? 縄張り争いをしたとしても何かがおかしい。

 ひらり、と周囲を何かが舞う。小さく赤い何かがライゼクスに集まっていく。キュリアだ。

「……原因はやっぱりこれか!」

「ニャーッ、いつ見てもキモいニャ!」

 赤黒いオーラが各部位に集まっていく。かつて相手をした獰猛化に似た雰囲気を、海未は感じていた。

「気をつけよう。こいつは強い」

 海未がそう言って構えた時だった。

 ドッ、という音と共に、別のモンスターの咆哮が響く。思わず耳を塞ぎながら咆哮の主を見ると、睡蓮がタマミツネを操竜して戻ってきていた。

「まさかと思ったけどやっぱりそうじゃん!」

「少し離れていなさい、上手くやるから」

 そんな事を呑気に言いながら、睡蓮は上手く操竜をしてライゼクスにダメージを与えていく。はて、彼女は翔蟲の使い方を何故知っているのか……というのはさておき、そうこうしているうちにライゼクスがダウンしていた。

「あの、なんで操竜出来るんですか」

「ウツシさんに習っただけだよ。その中で一番操竜しやすかったのがタマミツネだったってだけ。探索の途中で見かけたものだからつい、ね」

「つい、ね。じゃないんですよ!」

 弟子のツッコミに困ったように笑い、ダウン終わりの咆哮をさりげなく見切って回避する睡蓮。空中でバク宙をした彼女は、そのままライゼクスの膝を利用して兜割りへと派生していく。

 ザザザンッ。斬音がライゼクスの身体を流れ、大きく体制を崩したタイミングで、睡蓮は翔蟲を引き寄せる。

 大きく、長く、翔蟲を伸ばし、足、尻尾にかけて刀を振るう。遅れて斬撃音が入り、辺りにぶわっと桜の花びらが舞う。彼女が独自に編み出した狩技『桜花気刃斬【酔蓮華】』だ。

 その花びらのひとつが、海未の手に落ちる。何の変哲もない、普通の桜の花びらだ。

「桜の、花びら……?」

「やっぱタダモンじゃないニャ」

「モル、それは我も思う。あやつはヒトの域を越えておる、ニンゲンと称するのも烏滸がましいほどだ」

「ちょっと、随分と失礼な物言いだね!?」

 頭側でヘイトを取りながら、海未は睡蓮の戦い方を尻目に見る。

 納刀をし、自然な姿勢で構える。攻撃が来たタイミングで、少し横に避け、見切ってまた構え、横に避け、構え……足元を見れば、立っている位置からほとんど動いていない事が分かる。

 あの人は居合の姿勢が少し変わっている。なんというか、綺麗すぎるのだ。普通は中腰で構えるところを、彼女は自然な姿勢で構えて見切るのだ。その時点で只者ではない。

 昔から分かっていた事だが、彼女には絶対に敵わない。そして変わっている。海未はそう思っていた。

 

「お疲れ様。なかなか強い相手だったね」

 転がるライゼクスの亡骸を見ながら、睡蓮は肩を回している。特に剥ぎ取りもせず、その辺にある薬草を採集する辺り、本当に変わった人なのだと改めて感じさせられる。

「……お、いたいた。海未、睡蓮さん!」

 自分達を呼ぶ声がして上を見ると、高台でライカが手を振っている。翔蟲で上がって合流すると「タドリさんらしき竜人を見つけたんだ、すぐに向かおう。こっちだ」と、先導して向かっていく。

 そうして向かった先に、変わった模様の竹笠を被る一人の竜人が、何かを採集しているのが視界に映る。特徴的な長い耳をしている事から、竜人族である事は間違いないだろう。傍に置いてある大きな背負い物の上にはフクズクが留まっており、海未達をじっと見つめていた。

 そうして採集を終え、竜人は振り向く。竹笠を取り、後ろにまとめた銀髪と丸眼鏡をかけた顔があらわになる。

「私を、お探しで?」

「えっと……タドリさん、で合っていますか?」

「ええ。私の名前はタドリ。動植物を調査している薬師です」

「良かったぁ、見つかった……あの、色々お話したい事があって、タドリさん、あなたを探していました。歩きながらでいいので、聞いていただけませんか」

 海未の言葉に、竜人族の男性、タドリは穏やかにふわりと笑い、ひとつ頷いた。

 

「ふむ、姫みこさまのうさ団子……是非召し上がってみたいものです」

 伝言を聞いたタドリは穏やかに笑う。

「しかして、フィオレーネさまがメル・ゼナから受けた傷、となれば、一刻の猶予もありますまい。

 消えては結び……これは終わりか、始まりか」

 ポツリと、そんな事を呟く。すぐに海未達の方を向き直し「私も微力を尽くしましょう。さあ、エルガドへ参りましょうか」と真面目な顔で言うタドリ。

「ありがとうございます。せんせいは……どうしますか?」

「ふむ。私はこのままクリューテに帰るよ。故郷に顔を出さなきゃいけない」

「そうですか……分かりました。じゃあ、ここでお別れですね」

「うん。お別れだ」

「……あなたは、かの有名な太刀使いの睡蓮殿ですね。これから故郷に?」

「いえ、故郷には既に訪れました。来週辺りに知り合いと会う約束をしているので、ベルナ村に行く予定です」

「ふむ……でしたら、こちらを」

 タドリが睡蓮に何かを差し出してくる。それはクローバーを押し花にした栞だった。少し驚いた顔をした後、懐かしそうに見つめ「……綺麗ですね」と口にして懐に仕舞う。太刀に付いているキーホルダーが小さく揺れた。

「たまたま見つけたクローバーで押し花にして挟んだ簡易的なものですが……よく本を読まれるとお聞きしましたので、貴女が持っていた方がお役に立てるかと思いまして。これからの道筋に、数多の幸があらんことを」

「ありがとうございます。海未、フィオレーネとロンディーネによろしく言っておいてくれるかい?」

「えぇー……分かりました、伝えておきますね」

「助かる。あと、これはお返ししておくよ。それじゃあね」

 翔蟲を海未に渡し、睡蓮はその場を立ち去る。アキツが振り向き、小さく手を振っていた。

「さて、向かいましょうか。……そういえば、私の家兼船って今、カムラの里にあるのかな」

「ではないですかな?」

「エルガドに戻しておかないと。ライカさんはどうしますか?」

「私は里に戻る。素材採集ついでに来ただけだから」

「なるほど……じゃあ、私、満さん、タドリさんでエルガドに行きましょ」

 ライカがオトモガルクのロクに乗り、一足先に戻っていく。残った三人は、状況を報告しながらエルガドへ向かっていくのだった。




Steam版アイスボーンでとうとうヤツを倒しました。運が良かった。
次は特任かな……といったところで気力が切れました。また気力が湧いた時にやります。

さて、薬師のタドリがでてきましたね。私はこの人がとても好きなのです。ぶっちゃけストリーで一番活躍していたと思います。
サンブレイクの最推しはフィオレーネさんだけど、声で言うとタドリさんが好きです。やはり津田健次郎ボイスは健康にいい。
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