モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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第12話「昇天突き」に出てきたライカがバルバレに派遣に行っていた時に、とある人物から聞いた海未の過去のお話。
Twitterで「ライカは海未の過去を知るキーポイントだよ」とお話したことがあるのですが、その過去を聞いた時のお話です。


番外編 海に愛された双剣使いの英雄

「……『海に愛された双剣使いの英雄』、か」

 火垂が任務でエルガドにトンボ帰りした後、ライカはポツリとその言葉を呟く。気になったヒノエが「海未さんの事ですか?」とライカに尋ねる。

「ああ、うん。バルバレに行った時に、海未がバルバレや他の拠点でどんな事をしていたかをちょっと聞いたんだ」

「まぁっ、それでそれで?」

「……あまりいい話では無いぞ」

「大丈夫、うさ団子の味でかき消されますわ。仕事はミノトに任せてきましたし、座って聞かせてくださいな」

 ヨモギにうさ団子を頼んでいるヒノエを横目に、ライカは席に座って出されたお茶を飲む。

 確かにライカは、海未の過去をあらかた聞いた。聞いたのだが、それは少し奇妙で残酷な話だった。

 

 * * *

 

「報告書です」

「ありがとうございます、ライカさん。遠くから来たばかりですのに、いつもお疲れ様です」

「いえ、これくらいは……それでは」

 時は半年前、海未がカムラの里に到着した頃。拠点バルバレにて、受付嬢に報告書を渡したライカは買い物をしてからマイハウスに戻ろうと雑貨屋へ赴く。

「お、いらっしゃい! 君達見慣れない顔だね、どこから来たの?」

 金髪を二つ縛りにした、緑色の目をした女性が気前よく笑う。ライカは愛想笑いを浮かべ「カムラの里から。ライカという」と答える。

「ハチですニャ!」

 オトモアイルーのハチが元気よく片腕を上げる。それを見た女性は「ライカさんに、ハチ君ね」と名前を確認した。

「カムラの里かぁ、遠いところから来たんだねぇ。あっちはお団子が有名だって聞いたことがあるよ、本当なの?」

「ええ、本当ですよ」

「いいなぁーっ、私も食べてみたいっ! あ、私はヨウコっていうの。紹介も商売も遅れてるねぇ、ごめんごめん。どれにする〜?」

「お構いなく。ええと……」

 ライカがしゃがんで色々選ぼうとしている姿を見たヨウコが「ふふ、何だか██ちゃんに似てるなぁ」とポツリと口にする。

「██?」

「うん。カムラの里って聞いて、そういえばあっちに██ちゃんが行ってたよなーと思って。商品を選んでいる姿がそっくりだったから、思わず口に出ちゃった」

「……聞いた事ない名前だな。特徴は?」

「ライカさんみたいな茶色の髪の毛の瞳をした、前髪がセンター分けで、桜のピンがついてる背の小さい子だよ。ライカさんと同じ双剣使い。見ていない?」

 そう言われ、ライカは少し考えてみる。自分が見ている限りでは、里内にそのような子はいなかったように思える。その事を伝えると「そうなの? おかしいな、睡蓮が██から文を貰ったって嬉々として見せてきた手紙にそう書いてあったんだけど……どこに行ったのかなぁ」と訝しげな顔をして首を傾げていた。

「もしかしたら、すれ違っているのかもしれない。あとで里に確認してみるよ」

 会計を済ませ、ライカはその場を去ろうとする。「あ、待って」と引き止められ、とあるものを渡される。

「? これは……ギルドカード?」

「そうっ、私のギルドカード。私、ドンドルマの商人だからさ! ██ちゃんについて何か分かったら連絡してきてよ」

「ありがとう。恩に着るよ」

 踵を返し、マイハウスへと歩いていく。

「……██、か」

 名前からして女の子だという事は分かるが、如何せんライカは人の顔を覚えるのが大の苦手である。ギルドや里の皆に聞いてみれば、誰か分かるだろうか。

 マイハウスである小型木造船の中に入り、ボックスに買ったものを整理して入れる。

「……それにしても、広いな」

 自分一人が住むにはあまりにも広すぎる。受付嬢いわく、「ここにかつて住んでいた家族がいた」という話を小耳に挟んだが、どうやら本当のようだ。家族写真等は無いが、どこか清潔感があって、それなりに使い込まれている家具や食器を見るに相当昔から存在している船なのだろうということは確認できる。

「家族か……」

 ライカの両親は幼い頃に他界している。二人とも優しい人だったため、亡くした当時はかなりショックで塞ぎ込んでしまったが……その時にこれでもかとお構い無しに話しかけてきたのが、同じ里出身である火垂だった。今考えてみると、彼女の性格に助けられたのも事実だが、あまりにも楽観的な思考回路を持っている彼女に笑わせられたのもまた事実なのだ。

「火垂、元気かな」

 マイハウスを出て、ライカはとある場所へ向かう。その先にはウェスタンな服装をした気前のいい男性ハンターがおり、「おお、ライカにハチよ!」とライカに気づいて近づいてくる。

『我らの団』と呼ばれるキャラバン隊組織の団長だ。神妙な面持ちをしたライカに「どうした、何かあったのか?」と肩をポンポンと叩く。

「団長さん。██って方、ご存知ですか?」

「██? あぁ、つい最近までモガの村に派遣されていたバルバレ出身のハンターだな。今はカムラの里にいると聞いたぞ」

「やはり……」

「なんだ、会っていないのか?」

「ええ。すれ違ったのかもしれませんね。おかしいな、カムラの里にそのような名前のハンターが来るとは聞いていないのだが……」

 独り言を呟いたライカに「……もしかしてだが、“海未”という名前で通っていないか?」と尋ねてくる。

「……ん、その名前、もう一度」

「海未、だ。あいつの偽名さ」

「海未、海未……ああ、偽名なのですね。しかしなぜまた偽名なんかを?」

 ライカが不思議そうに尋ね返すと、団長は「んむ……」と口を噤んでしまい、何が何だか分からないライカは首を傾げる。

「……?」

「団長さん、この資料ですが……おや。失礼、お話中でしたか」

 ふと、団長に話しかけた人物がライカを見て声を上げる。白皙の肌に白い頭髪、綺麗な紫水晶のような瞳を持つ背の高い女性だった、ここらでは見かけない騎士のような装備を着ている。

「睡蓮、こいつァこの前派遣されてきたライカと、オトモのハチだ」

「どうも」

「あぁ、君の噂はエルガドやカムラの里で聞いているよ。私は睡蓮。この子はオトモアイルーのアキツだ。よろしくね」

 そう言い、睡蓮は握手を求めてくる。黒い手袋と衣服の袖の間から見え隠れする痛々しい火傷痕が見えるも、ライカは敢えてそれについて触れる事はなく、彼女の握手に応える。睡蓮の足元には黒子装備に身を包んだ真っ白い体毛のアイルーがおり、覆面越しに目線が合うと「アキツだ、よろしく頼む」と軽く会釈をしてきた。

 それにしても睡蓮という名前、聞いたことがあるような気がする。先程のヨウコからも同じ名前が出ていたが、それ以外でどこか聞き覚えのある名前だった。

 両足にチクチクした痛みが走り何事かと見てみると、ハチが耳を絞り「旦那さん、この人怪しいニャ」とライカの後ろに隠れて警戒している。睡蓮が触ろうとすると、カッカッシャーッとネコパンチを繰り出し、獣人語で何かを叫び始めた。

「無礼だぞ、若い者よ」

 アキツが声色を低くして言う。途端、ビクッとして更に後ろに隠れ、尚も警戒をするハチに対して「おっと……ふふ、手厚い歓迎だ」と睡蓮はずっと愛想笑いを浮かべていた。

「こらハチ……!」

「ううん、構わないよ。嫌われるのは慣れているさ」

「すみません、不躾な事を。後でこいつにはよく言って聞かせておきますので。……ところで、噂とは?」

「カムラの里に私の教え子が行っているものでね。マイハウスを貸してくれている人がいる、と文に書いてあったんだ」

「……教え子?」

「睡蓮は██の師でな。あいつに戦い方を教えたのも彼女なのさ」

「へぇ……」

 右腰に佩いた彼女の太刀にちらりと視線を移す。タマミツネの素材から作られる「たまのをの絶佳麗斬刀」だ。

 その特徴的な太刀の装備の仕方で思い出した。彼女は太刀使いの中でも指折りの実力を持つ、ハンターズギルド界の中でも一際有名なハンターだ。独自の文化を築いているカムラの里でも、彼女の噂はよく聞いていた。

「……私の事を、知っているような顔をしているね」

 睡蓮は愛想笑いを浮かべながらも、目の前にいるライカから視線を外すことは無い。

「ええ、つい先程思い出しました」

「それは嬉しい。カムラの里にまで広まっているとはね」

「いい意味でも悪い意味でも有名になりすぎたんだ、お前は」

「そうなのでしょうか……?」

「……睡蓮さん。██……ええと、偽名では海未でしたっけ。その子のことについて、少し聞かせていただけませんか」

 ……彼女の顔から愛想笑いが消える。少し驚いたような表情に変わり「団長さん、あの子の事を話したのですか?」と団長を見る。

「俺は話していないぞ?」

「いえ、雑貨屋のヨウコから」

「ああ、ヨウコか……いいよ。どこかで座りながら話そうか」

「それなら、私のマイハウスに」

 失礼します、と団長に一言告げ、ライカと睡蓮は二人並んで歩いていく。

「知っているかい、ライカ。君が使っているあのマイハウスは、元は██の実家なんだよ」

「……え!?」

「おや、知らなかったのかい? それなら尚のこと話さないといけないね」

 舷梯を上がり、睡蓮は前を見たまま呟く。

 後ろ姿が、どこか火垂と似ているような気がする。同じ様な頭髪の色をしているからなのだろうか、それは分からないが……この人には敵わないと、ライカは何となくそう感じた。

「どうぞ。と、私が言うのも変なものなのですが」

「構わないよ。今は君が使っているのだからね」

 カムラの里から持ってきたお茶を淹れ、椅子に座った彼女の目の前にあるテーブルに置く。ありがとう、と一言帰ってきて、静かにすする音がマイハウスに響く。

「さて、あの子の事だったね。何から知りたい?」

 ライカはテーブルを挟んで彼女の向かい側にある椅子に座り「どうして偽名を使っているのか、から」と話題を広げた。

「そうだね……それには少し事情があってね。長くなるから、端的に話そうか。

 ライカ、君は『ラギアクルス』というモンスターを知っているかい?」

「名前くらいは。海竜の一種だと聞いたことがあります」

「充分。今から三年前にね、それの『獰猛化』と呼ばれる凶暴化した個体が、渓流で発見されたんだ」

「獰猛化……」

「かつてはベルナ村の狩猟管轄地域で目撃されていた特殊個体でね。それが、モガの村の狩猟管轄地域に出現したんだ。

 酷い興奮状態でね……その時偶然渓流へ狩猟に行っていた██と他三人のハンターが、偶然見つけた洞窟内で獰猛化個体に出会ってしまったんだよ。当然対処出来る訳もなく、██以外の三人が死亡してしまう大事件が起きたんだ」

「……ん、聞いた事があるような気が……」

「当時私は、ここから遠く離れた『新大陸』という所にいたんだけど、そこにまで事件の概要が届いたからね。知らないといったら、██より年下の世代の子達くらいじゃないかな」

 ライカがカムラの里でハンターをしていた時に聞いた事件と酷似していた。新大陸に届いていたと彼女が言うのだから、カムラの里にもその事件が知れ渡っていてもおかしくはないだろう。

「あの事件が起こるまでは、██はとてもいい子だったんだよ。仲間想いで、私の言った事を愚直に守って……『海に愛された双剣使いの英雄』とまで呼ばれるくらいになった。

 だけど事件以降、██は少しおかしくなってしまってね。突然音信不通になって、その間彼女はラギアクルス“だけ”を討伐していたみたいなんだ」

「……復讐心から?」

 ライカの言葉に、睡蓮は無言で頷く。

「あの子は、両親も、仲間も、ラギアクルスに殺されている。復讐をしたいという気持ちは分からないでもないんだ。

 私事だが、私も故郷をラオシャンロンに滅ぼされた経験がある。私一人だけ生き残り、復讐心を抱き、討伐を試みたのは私も同じだ。何もここまで同じになれとは一言も言っていないのに」

「……」

「……話が逸れてしまった。ライカ、特定のモンスターのみを大量に討伐し続けると、どうなると思う?」

「生態系が崩れます。……まさか、絶滅まで追い込んだのですか?」

「その通り。案の定、██はギルドナイトに目をつけられてね……そこから色々あって、██は海未と名乗り始め、彼女が犯した罪を私が代わりに背負っているんだ」

「それは、どういう……?」

 睡蓮はお茶を飲み「そのままの意味だよ」と付け足した。

「頭のいい君なら分かるはずだ。誰かの罪を代わりに背負うという事は、それなりの条件も付いてくる。私はそれに従ったまでなんだよ。尤も、条件を提示したのは上層部に掛け合って説得をした私なんだがね」

 彼女の口ぶりからして、おそらくだが睡蓮はギルドナイトの管轄下に置かれているハンターだ。

 ライカはウツシから少しだけ聞いた事があった。ギルドナイトの表向きの活動は、未発見のモンスターの生態調査やギルドに提供されるクエストなどの事前調査が主である。しかし裏では生態系に影響を及ぼしているハンターや、非公認ハンターと呼ばれるいわゆる『密猟者』と呼ばれる者達の密殺を行っているのではないかという噂があるという事を。

 ───まさか。

 良からぬ想像をしてしまい、思わず身震いをするライカ。それを見た睡蓮は「……君が想像している通りだよ」と、それが真実である事を告げた。

「しかし、そのような事があっていいのでしょうか?」

「私という立派な事例がある。それに、私は実際に上から言われている。「もしも次に、彼女がまた同じような事をしたのならば、その時はお前が彼女を殺せ」とね」

 彼女の言う事が何処までが本当なのかは分からない。だがライカには、彼女が嘘をついているようには見えなかった。彼女の愛想笑いの裏には、何かとんでもなく闇のある、ドス黒い複雑なナニカが隠れているような雰囲気も感じ取れたからだ。

「彼女を生かす交換条件として、代わりに私があの子の監視役をしている。そして次に彼女が同じ事をしでかしたなら、私があの子をこの手で消さなければならない。

 あの子が海未と名乗っているのは、ハンターとしてこれからも活動していく時に本名だと支障が出てしまう為にせざるを得なかった、自身の身を守るための行動の一つ。要約すると、こんな感じだよ」

「なんだか、聞いてはいけない話を聞いてしまったような気が……?」

「ふふ、そうだね……少し話しすぎた。この事は内密にね。下手したら、私も君も、あの子も消されかねないから」

「それは、もちろん」

 言われなくとも、話す気にすらなれない。

 ミステリアスで、何を考えているかがさっぱり読み取れない。この愛想笑いで長年色々な事を隠してきたのだろうという事は分かるのだが、如何せんポーカーフェイスが卓越しすぎていて、ライカにはその程度しか分からない。

 やはり敵わない。挑む人がいるならば、彼女の横に並ぶ██や、彼女よりも上の者くらいだろう。

 ───こんな綺麗な方が、勿体ない。

 内心、ライカはそう思った。

 

 * * *

 

「なるほど、そんな事が……」

 当時の海未が生態系を破壊しかけたことのみをだいぶオブラートに包んでヒノエに話し終えたライカは「……ヤバいだろう?」と団子を口に運ぶ。

「事情は何であれ、復讐心というのは恐ろしいものですね……」

「私も一歩間違えたら、海未側に行っていたかもしれないと考えると恐ろしいよ」

「それでも、海未さんが未だにハンターを続けられているという事は、何か特別な事情でもあるのでしょうか?」

「かもしれないな」

 流石にこの先は話せない。私や海未、そしてあの睡蓮という人が消されかねないから。

 帰り際に、彼女は一言言った。「私のように、“ごく普通のハンター”として世間に紛れているギルドナイト隊員はどこにでもいる。発言には気をつけた方がいい」と。

「……墓場まで持っていかないとな」

「?」

「何でもないよ。さて、久々に帰ってきた事だし……寝るか」

「ふふ、お疲れ様です。ゆっくり休んでくださいね」

「ああ」

 立ち上がり、ライカはマイハウスへと向かう。中に入り、寝床で布団を出していると、「ああそうだ。旦那さま、海未さまから文を預かっておりますニャ」と、ルームサービスから一枚の便箋を渡された。

 開いて見てみると、それは海未からだった。貸してくれた事へのお礼と、僅かながら引き出しにお土産を置いていってくれたようだ。引き出しを開けると、見慣れない綺麗な蒼緑色の鉱石が入っていた。

「わぁ、綺麗ニャ」

「……律儀な子だな」

「海未さま、どんなお方なんだろうニャ〜」

「私とよく似ている子だと聞いている。いつか会いに、エルガドまで行こう」

「楽しみニャ!」

 手紙を引き出しの中に仕舞い、ライカは布団に潜り込む。大きく伸びをして目を閉じ、そのまま眠りについた。




御一読お疲れ様でした!
宜しければブクマやしおり、感想などお待ちしております 
なおライカは多分本編でも番外編でもこれ以上は出てくることは無い……はず。
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