モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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合流

 食事場の横にある研究室で、弧白は文献を読み漁る。

 過去にもこのような事件があったのではないだろうか。そう思い、過去の資料を漁っているところだった。

「いよっ弧白君、まだやってるねェ」

 夜、バハリに声を掛けられる。ここ半日詰め込みっぱなしの彼に、近くにある食事場から団子とお茶を持ってきたのだ。

「バハリさん、お疲れ様です」

「詰めるのもいいけれど、休息も必要だよ? ほら、お団子」

「ありがとうございます……そうですね、一旦休憩します」

 本を置いてメガネをその上に置き、団子を頬張る弧白。その様子を見て、バハリは少しホッとした様子を見せた。

「それにしても、キミは頑張り屋さんだね。過去に何かあったのかい?」

「特に何かあった訳じゃありませんが……そうですね、こういう所でしか俺は役に立てないので、俺が頑張らなきゃって思うと……その……」

 言葉が出てこず、しどろもどろになる。その態度を見て察したのか「まあまあ、皆まで言うまい」とバハリはケラケラ笑う。

「そういや、キミは新大陸にいた事があったんだっけ?」

「は、はい」

「新大陸のプロフェッショナルともなると、自然の摂理は当然分かっているはずだ。オレも答えはまだ出ちゃいないが、弧白君、キミやキミの仲間達なら導き出せると思っているよ」

「そう……ですね。はい、頑張ります」

「気張りすぎるのも良くねぇぜ。

 話は変わるがあの嬢ちゃん……海未ちゃんって言ったっけ? 元から知り合いなのかい?」

「へ? いえ、エルガドに来てから知り合いましたが」

「ヘェ……そうかいそうかい」

 何やらニヤニヤとしているバハリに「何ですか、気になります」と少々引き気味ながらも尋ねる。

「いんや、何も。アンタら、お似合いだなぁと思ってさ」

「? どういう意味ですか?」

「ま、時期に分かるさね」

「あ、あの〜……」

 そろりと入ってきたのはチッチェだ。「おや、姫様がなんの御用で?」と煽り気味に問いかけるバハリ。

「これ、作ってきたんですけど……」

 と、チッチェは小袋を差し出す。中を見てみると、それはクッキーだった。

「クッキーだ!」

「こりゃあ美味そうだ。ありがたくいただきますよ、姫様」

「はいっ、お口に合うといいのですが……」

 口に運ぶと、サクサクとした食感に、生地の香りがふわりと口内を包み込む。チョコチップが入っているようで、ポリポリと硬い食感がする。

「ん、美味い! チッチェさん、お菓子作り上手だね」

「こりゃあいいねぇ、美味い!」

「え、えへへ……」

 チッチェは照れくさそうに笑い「研究のお供にと思って。お口に合ったみたいで良かったです」とほっと胸を撫で下ろす。

「今は、なんの研究をされているんですか?」

「キュリアのことだね。姫様は、こういうのはお好きかい?」

「好きかと言われると、よく分からない、になってしまいます……弧白さんは、ハンターの他にも研究者をされていたのですか?」

「いんや、俺は編纂者の方だね」

「ヘンサン?」

 首を傾げる姫に、「ハンターの後ろについて、その時あったこととか、モンスターの生態をまとめたりして報告する者のことだよ。俺は新大陸でそれをやってたんだ」と弧白は微笑む。

「……なるほど?」

「こっちじゃ、編纂者は馴染み深くはないからねぇ。ましてやハンターの後ろについてくだなんて言語道断だろうよ」

「それは、俺も思います。俺の場合は、付き添いのハンターがこう……戦い方が派手だったと言いますか……」

「キミが編纂者をしていた時は恋海ちゃんだったかい? あの子は派手な戦い方をするって、昔からベルナの方で噂されてたさね」

「恋海さんと、新大陸にいたんですか!?」

 チッチェの目がキラキラ輝く。「そんな大した事はしてないよ」と返す弧白に、バハリは疑問の目を向ける。

「ほんとかぃ〜? アンタら二人は五期団の中でもトップエリートじゃないか。ちと遠慮がすぎんじゃないの〜?」

「そ、そうでしょうか……すみません、あまりそういう自覚が無くて」

「じゃなきゃ、噂が現大陸(こっち)まで回ってこないさね」

「私は、恋海さんはベルナ村での活躍しか聞いたことがありません……」

「あの人はベルナでは大暴れだったらしいからね」

 そう言われ、弧白は過去に彼女が話してくれた内容を思い出す。ベルナ村での出来事だ。初めての派遣先で、初めての任務で色々やりすぎた事や、装備を変えるのが面倒くさくてフィジカルだけでゴリ押ししていた事等々……噂になってもおかしくはないような事ばかりしている、気がする。

「うーん、ゴリラ女……」

「レディに失礼……いや、恋海ちゃんなら別に失礼でもないか。大剣を片手でぶん回すような子だからねェ……。

 っと。姫さん、あまり夜遅く出歩いてちゃ風邪引くから、そろそろ就寝された方がよろしいのでは?」

「えっ? ……ハッ、もうこんな時間! 研究のお邪魔をしてすみませんでした!」

 ペコッと一礼をし「おやすみなさい、ご無理はなさらず!」と駆けて行ってしまうチッチェに「クッキー、ありがとう〜」と弧白は手を振りながら見送る。

「慌ただしい子だ……」

「元からあんなんさ。困ってる人がいたら放っておけない、自分も何かしたい、で始めたのが受付嬢の仕事なのね。最初は皆猛反対したんだけどね、あまりにも強い意志にみんな折れちゃったんだ」

「やると言ったらやる、な性格って事ですね。裏を返せば、どんな状況でも諦めない気持ち、と言いますか」

「弧白君、キミは結構ポジティブ思考だね?」

「表裏がないだけですよ」

 再びメガネをかけ、文献を漁る弧白。その様子を見て「どっちもどっちだねェ」と呆れたように肩をすくめた。

 

 *

 

「えぇーっ、お嬢、睡蓮さんに会ったんですか!? いーなー、いーなー!」

 エルガドの観測所では、海未、火垂、恋海、満の四人が談笑していた。

「一戦一緒に行っただけだけどね。久しぶりのせんせいの太刀捌きが見れて良かったよ」

「睡蓮、色んなとこ飛び回ってんのねぇ」

「今は、くりゅーて? にいると仰っておりましたぞ」

「クリューテ! 本とお菓子の町じゃん

 ねえ海未、エルガドでの活動が終了したら行こうよ〜!」

「え〜やだよ、面倒くさい……」

 その様子を保護者のように見守るタドリ。穏やかに笑い、その顔から考えていることは伺い知れないが、少なくとも悪い考えは持っていないことだけは海未にも分かる。向かい合うようにバハリも立っており、腕を組んで若者たちの会話を興味深そうに聞いている。

 ふと、一人分の足音が聞こえてくる。その音の主は弧白だ。何やら本を一つ抱え、ついでに目の下にクマを添えてふらふらとやってきた。ここ数日寝ていないのだろう。

「あ、先生!」

「お、来たねぇ弧白君」

「お疲れ様。その様子だと寝てないね」

「うん、寝てない……その方は、タドリさん?」

「いかにも。薬師のタドリです」

「あなたが……! 弧白です、よろしくお願いします」

 軽く会釈をして握手を交わす。特徴的な四本指の大きな手が、比較的身長の高い弧白の手を覆い尽くす。

「……よくぞ、タドリを見つけてきてくれた。礼を言う」

 ガレアスが口を開く。

「久しぶりだねぇ、タドリ! 大ピンチのエルガドへようこそ。さぁ、助けてくれ!」

「相変わらずですね、バハリさん。元気すぎるようで、何よりです。

 話は海未さんたちから聞きました。あなたがまとめたメル・ゼナとキュリア、その毒に関する報告書も確認済みです」

「いいねぇ、さすが仕事が早い! それでどうだい、フィオレーネを治す薬は作れそうかい?

 以前、メル・ゼナにやられたあとの疫病とはワケが違う。キュリアの毒は、そう簡単には……」

「いえ、疫病の時と同じ薬で治せます」

「ん……ん? ん? な、なんだって?」

「そうでしょう、弧白さん?」

 タドリは弧白が持っている本に視線を向ける。

「あなたが持っているのは、その時に私が書いた調査報告書の一部をまとめたもの。きっと、私と同じ答えを持っているはず」

「まさか、これを書いたのがあなただとは思いませんでしたよ、タドリさん」

 弧白は本をテーブルに置く。なんだなんだ、と皆が集まると、栞を挟んでいた部分を開く。随分前の報告書のようだが、厳重に保管されていたのか紙やけもせず状態も良い。

 それは時代にして五〇年前。疫病が流行っていた、その対処薬を開発した。住民は回復傾向にあり……と、日毎に細かく当時の状況が記されている。

「フィオレーネさんを苦しめている毒は、疫病の時に患者に蔓延していた毒と同じものです」

「……ということは、この報告書に書かれている疫病って」

「凡そ考えの通りって訳だよ。また流行るかもしれないんだ、これが」

「毒というか、正式にはウイルスですね。

 狂竜化ウイルスというものがありますが、あれに近い構造のものです」

「やっぱり」

「じゃあ克服出来るじゃん!」

「私たちからしたら大したことないですね!」

「ほっほ、常に狂竜ウイルスをまとっているようなもんですからのぉ」

「あのねぇ君たち、それとこれとはワケが……」

「面白い方々ですね。流石はハンター」

 タドリは愉快そうに笑う。やれやれと肩をすくめるバハリは「キミたちハンターが分かっていそうなら、まあいいか」と半ば諦めモードだ。

「なぁ、タドリ。フィオレーネの毒……いやウイルスは、キュリアから検出され、メル・ゼナの体内に息づいていたものだ。たしかに、疫病が流行する前にメル・ゼナが現れてはいるが、その時キュリアは目撃されていないよ?」

「今、私たちが見ているキュリアと、当時のキュリアが同じ外見だった……という先入観を捨てましょう」

「……まだ幼体だったということか。我らが気付かぬほどに、小さな……」

「なるほどね。メル・ゼナと共生関係になり損ねたキュリアの幼体ちゃんが、とりあえず人間を噛みまくった。

 で、ウイルスにやられてバタバタと国民が倒れた。それがあの疫病の正体か」

「無論、キュリアの養分は人間ではない。メル・ゼナに共生出来なかったキュリアは、自然に滅びて行ったというわけです。

 ……ともかく、私の役目はフィオレーネさんを助ける薬を作ることですね。少々お時間をいただきます。

 それと、この中で薬学に精通している方はいらっしゃいますか? お手伝いいただきたいのですが」

「あ、それなら私が」

 咄嗟に海未が手を挙げる。「海未さん薬学出来るの!?」「お嬢すごい!」と弧白、火垂の言葉に、少々胸を張る海未。

「まぁ、ここに来る前に、ね。せんせいやその知り合いの方が得意だと思うけど、私も一応ひとかじりしてはいるよ」

「それは頼もしい。是非お願いします」

「……相変わらずモンスターの動きが活発だ。各位、チッチェ姫のもとに届いているクエストを、よろしく頼む」

「海未の枠が空くし、せっかくだからあたし行こうか?」

「お願い。弧白さんは寝てね」

「ハイ……」

「そうなると、もう一人枠が空きますね?」

「ふむ。どうしましょうか」

「まだ睡蓮いるかなぁ」

「いや、もうおられないでしょう。救難信号を出したら、誰か来てくれるかもしれませぬぞ」

「ああ、それなら、闘技場の覇者がエルガドに来ていたはずですよ」

「闘技場の覇者? って誰」

「えっ、メルシィさんが!?」

 そう声をあげたのは恋海だった。

「おや、恋海殿はメルシィ・グラシアス殿とお知り合いでしたか?」

「知り合いも何も、ベルナにいた時にすっごくお世話になった方です!」

「ほっほ、意外な縁もあるものですなぁ」

「おぉ〜! 探してみます?」

「先程お見かけしましたので、まだいらっしゃるかと。では、海未殿」

「はーい。弧白さん、おやすみ」

「言われなくても寝るよ……」

 タドリと共にどこかへ消える海未、のそのそとマイハウスへと戻っていく弧白。残された三人は、メルシィを探すためにエルガド内を見て回る。

 雑貨屋の前で、オボロと話している女性が一人。ここらでは見かけない装備を身に包んでいる。黄土色の頭髪には、白くねじれた角が二本。そのうちの一本は根本付近から折れていて、痛々しい傷がその角に残っている。

「メルシィ先輩!」

 恋海が声をかけると、女性は振り返る。パッと顔が明るくなり「恋海さん! どうしてここに!?」と駆け寄ってくる。初めは屈んでいて分かりにくかったが、火垂と同じくらいの身長がある竜人族の女性だった。

「えへへ、たまたま郵便交換で。ほら、あそこに船が止まってるでしょ? あれで来たんです!」

「ああなるほど、それで停泊していたんですね。事情はあらかたオボロから聞いています、もしかしてですが、これから狩りに?」

「そーです! 良かったらメルシィ先輩もどうかにゃあ〜と思ってぇ」

「よろしいのですか? 私は構いませんが、そちらのお二人は……?」

「だいかんげーです!」

「ワシももちろん、良いですぞ」

「ありがとうございます、それではお言葉に甘えて。

 改めて、私はメルシィ・グラシアス。ベルナ村で受付嬢……の、ようなことをしている者です」

 オレンジの瞳は、火垂、満を捉える。女性……メルシィ・グラシアスはニコッと笑い、二人に握手を求めた。




更新が遅れました。愚かな人間でございます。
決して忘れていた訳ではなく……お許しを……。
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