「……なるほど。キュリアですか」
砂原でガルクに乗りながら、事情を聞いたメルシィは何かを思い出すように上を向く。
「確かに五十年程前、疫病が流行っていたことは噂に聞いていましたが……まさか本当とは」
「さすが竜人、長生きしているだけ噂を聞くことも多いんですね!」
「私の場合は各地に知り合いがいたりツテがあったりするので、余計かと思われます。
五十年前に幼体だったということは、その時初めて共生関係に? では、それ以前はどこで、何を?
色々疑問は残りますが、私から言えることは一つだけあります。
それは、「真の犯人はメル・ゼナではない」ということです」
「えっ」
「メル・ゼナではない? 一体どういうことですかな?」
「これは私の予想ですが、正確にはメル・ゼナ以外にも犯人がいる可能性がある、と言った方が正しいでしょうか。一昔前に、そんな文献を何処かで読んだことがある気がするんです。
ですが……キュリアという存在は、私も初めて聞きました。恐らく、私の知り合いも知らないでしょう」
「なぁるほどにゃあ……っと、お目当てのモンスターがお見えになったよ」
あちらこちらに大きなトゲが散乱している。その先にいるのは、千刃竜セルレギオスだ。キュリアは付いていないようだが、いなくともじゅうぶんな強敵と言える。
気づいたセルレギオスが甲高い咆哮をあげる。皆それぞれの避け方をして、攻撃の準備に入る。
ヘビィボウガンを持ったメルシィは徹甲榴弾を入れ、頭に撃ち込む。カン、カン、と刺さる音、後に爆発、ふらりとセルレギオスは体勢を崩す。そこにすかさず、満と火垂が足元に斬撃を加えていく。
皆セルレギオスとの戦闘経験はあるが、特に満にとって、セルレギオスは馴染み深い相手だ。エルガドにいる前から相手をしているためか、彼はセルレギオスとの戦いに慣れている。今この場では、メルシィ、満の二人が一番動きを分かっているだろう。
「カウンターを入れます! また怯ませるので、恋海さんは追撃を!」
「よっしゃ来たぁ!」
メルシィに向かって、セルレギオスは強靭な脚を武器に突進してくる。当たる直前────メルシィは寸でのところでくるりと回転しながら横に避ける。直ぐに構え、ヘビィボウガンから相殺弾が火を吹く。大きく転げたセルレギオスに待ち構えていたのは、恋海の大剣による追撃。
「ナイスです!」
「うっひゃあ、セルレギオスってこんな素早かったっけ」
「姉御、戦うのは初めてですか?」
「いんや、ベルナにいた時に何回か。こっちのセルレギオスはちょっと動きが違うのかにゃあ……」
「各地域によって細かい生態が違ってきますから、恋海さんが知っているセルレギオスとはまた違った動きをするのかもしれません。かくいう私も、動きが少し違う事に少々驚いていますが……」
「ってことは、ここにいる全員セルレギオスと一度は対峙したことがあるんですね!」
「ドンドルマやバルバレにいた時は苦戦したのぅ……っと、来るぞい」
セルレギオスは再び攻撃を仕掛けてくる。次のターゲットは火垂だ。太刀を納刀し、左から来たセルレギオスの攻撃を見切って前に躍り出る。ちょうど着地してきた所を、兜割りで追撃する。それは尻尾に向かって入り、スパンッといい音がして切れ、近くの地面に落ちる。
「ひゅ〜、かっこいい!」
「……共に戦っていて分かりますが、やはり近距離使いの皆さんには頭が上がりませんね」
「もっと褒めてくれていいんですよ!」
足を引きずり、何処かへと飛び去ろうとするセルレギオスに、容赦なく徹甲榴弾を撃つメルシィ。爆発すると同時に、まるで撃たれた鳥のようにセルレギオスは真っ逆さまに落ちていく。その下で待ち受けていたシビレ罠に引っかかり、捕獲用麻酔弾で呆気なく捕獲されてしまった。
「なぁんだ、つまんないにゃあ」
「もっと手強い相手が欲しいですね!」
「お疲れ様でした。久方ぶりに狩りをしましたが、楽しいものですねぇ」
「お疲れ様ですじゃ〜」
信号弾を打ち上げ、メルシィは一息つく。
相変わらず、空にはキュリアがあちこちに飛んでいる。メルシィは何を思ったのか、その辺の石ころをひとつ拾い、キュリアに向かって投げる。偶然か否か、一匹に当たって落ちてくる。
「!?」
「そんなに驚かなくても……ただのサンプル採集ですよ。知り合いに見せるんです」
「シェシェさんは知り合いがいっぱいいるんですねぇ〜」
「シェシェさん……ふふっ」
「えっ、な、何ですか!?」
「いえ、シェシェ……懐かしい響きだなと思いまして。古い友達が、私のことをそう呼んでいたんです。元気にしているかしら」
キュリアを採集ポットに詰め込み、メルシィは懐かしそうに笑う。
「古い友達って、『桜狩』でしたっけ。その時のですか?」
恋海の問いに「ええ。今は何処にいるか分かりませんが……まあきっと何処かで呑気にハンターでもしているでしょう」とメルシィは答える。
「竜人族って、別れが多そうですねぇ」
「火垂、それは禁句」
「あっ……す、スミマセン……」
「大丈夫ですよ、事実ですから特に気にしていません。
そうですね、火垂さんの言う通り、私たち竜人族は別れの多い種族です。故郷のグーシュファンドにいる時は、周りが竜人族だらけでその意味が分かりませんでしたが……故郷を出て、色々な場所を旅して、ヒト族に出会って、ようやくその意味が分かりました」
「別れって辛いけど、またいつか会えるかもしれないって思ったら、そんなに寂しくないとあたしは思うにゃあ」
「ふふっ、そうですね。私たちは長生きしますから、輪廻転生してまた何処かで出会うかもしれませんねぇ」
回収班がやってきて、やがて捕獲されたセルレギオスが荷台に積まれる。「帰りましょうか」とメルシィは踵を返して歩き出した。
「そういえばシェシェさん、右の角が折れているのはなんでですか?」
「ああ、これですか。二十年くらい前に、ドボルベルクと闘技場デスマッチをしまして。その時に頭突きをし合ってぶち折れました」
「どぼ……?」
「ドボルベルクっていうモンスターがいるのよ。あたしもメルシィ先輩の角が折れた理由知らなかった〜」
「……なるほど、『闘技場の覇者』とはそういう事なのですな、メルシィさん?」
「闘技場の覇者? ああ……また変な通り名が付いてるのね……一五〇年程前までは闘技場に篭もりっきりでしたからね、きっとその名残でしょう」
「へぇ〜……ん、一五〇年前……?」
恋海の独り言に、火垂がハッとして口に手を当てる。
「シェシェさんってもしかしてめっちゃ長寿!?」
「見た目に惑わされてはいけませんよ。竜人族としてはまだ若い方ですが、一応二〇〇年以上生きていますから」
「二〇〇歳で若い方と言われる竜人族って一体……そうなったら、タドリさんやオボロさん、カゲロウさんはどれくらい生きてるんだろ……」
「少なくとも私よりかは上ですよ。本人たちがタメ口でいいとの事なので、私はタメ口聞いていますが。
……ところで、オトモガルクって便利ですね」
「シェシェさんも一頭飼いません!?」
「失礼な話ですが、ベルナにはムーファがいますから、皆ガルクが食べてしまいそうですね」
他愛もない話をしながら、四人は砂原を後にする。
途中、火垂は振り返る。
なんだろうか、何か嫌な予感がする。
「火垂?」
恋海の声で我に返り、なんでもないです、と三人の後を追って走り出した。
*
「ちょうど良かったよ! 今、キミ達を呼びに行こうとしていたところさ!」
観測所に戻ると、バハリが駆け寄ってくる。タドリと海未が神妙な面持ちで待っており、周囲にピリッとした空気が漂う……が、その雰囲気を砕くように、「タドリ、久しぶりね」とメルシィのふわふわとした言葉が飛び出る。
「メルシィ殿、お久しぶりです。元気そうで何より」
「ええ。あなたも元気そうね、バハリ」
「これはこれはメルシィ、まさかエルガドに来ていたとはねぇ」
「偶然よ。……と、あなたは、海未さんですね」
海未に向き直り、視線を合わせる。「メルシィ……あなたがメルシィさん!?」と何故か驚いて握手を求める海未。
「ええ、如何にも」
「あ、あの、父からずっとあなたのお話を聞いていて!」
「懐かしいお名前ですね。私も、あなたや恋海さんのお話はミカドからずっと聞かされていましたよ。なんせ親バカなもんですから……大きくなりましたねぇ」
「あんのバカ父……」
恋海が悪態をつくが、メルシィはそれも笑顔で受け止める。
「それで、タドリ。キュリアの毒が再び蔓延……というか、被害者が出たと聞いているけれど」
メルシィはタドリに向き直る。はい、と一言添え、タドリは言葉を続ける。
「フィオレーネ殿が受けたウイルスに対する薬を使ったのですが、意識が戻らず……。思ったほどの効果が出ていないのです。
キュリアが巨大化している分、ウイルスが予想以上に強くなっていました。故に、薬も強くせねばなりません」
「五〇年前のようにはいかないって訳ね……」
「そこで、エスピナスの毒を用いてみようかと」
「エスピナス? って、最近発見されたモンスターですよね?」
「あら、こちらでは近年なのね……もっと前からいるものだと思っていましたが」
「書士隊によって正式にモンスター登録されたのは近年の話です、メルシィさんや」
「……毒をもって毒を制す……というわけか。エスピナスであれば、ちょうど狩猟の依頼が来ているが……」
「おお、それは好都合です。海未殿、エスピナスの狩猟をお願いしても良いでしょうか?」
「それはいいですが……エスピナスか」
海未は少し気難しい顔をする。「何かあるの?」と恋海の問いに、「ん、いや……」と言葉を濁す。
「笛がいないと、少し不安だな、と。ほら、いつもは弧白さんが笛持ってくれていたから」
「私でよければ、笛を持ちますよ。持って欲しい笛があれば、の話ですが」
「万能シェシェさん!?」
「あたしは大剣一筋だからにゃあ」
「笛がいるなら丁度いい、私とメルシィさんで倒せると思います」
「お嬢!?」
「頼もしいですなぁ! では、おれはひと休みさせてもらいますかのぉ」
「いやいやいや、シェシェさんはともかく、お嬢には任せられませんって! だってほら、こんなに細い! 怖い! ポキッと折れそう!」
海未を抱き上げてウエストを測る火垂に「おい」と怒りを露わにする海未。
「ウエストは関係ないでしょ〜〜〜〜」
「そうじゃなくても! 最近のお嬢は無茶しすぎなんです! ぜ〜〜〜〜〜〜ったい行かせません!!!」
「よ、弱ったなぁ……」
困った表情を浮かべる海未。「火垂さん、私がいますから大丈夫です」とメルシィがカバーに入り、それなら、とようやく火垂は引き下がる。
「それに、私は海未さんと少しお話したいことがありますので」
「えっなに、怖いです」
「どうして私は昔から怖がられることが多いのでしょうか……大したお話ではありませんよ。あなたの父親について、少し昔話をと思いまして」
「あなぁんだそんなことかぁ。じゃあ、二人で行ってくるね」
「あたしは今日で帰らないと。新大陸の皆が心配しちゃう」
「そっか、もうそんな時期ですか……姉御、寂しいです!」
「あたしも寂しい! また来るからね! というかこっち来てもいいのよ!」
「いつか行きます、絶対に!」
ひしっと抱き合う二人を見て「似たもの同士」と呆れたように呟く海未。
「なんというかこう、属性が似ていますね」
「陽キャ・光って感じ……あ、メルシィさん。笛を持つなら、弧白さんのを借りた方がいいかと。私よりも弧白さんの方が持ってますから」
「あら、そうですか? では借りに行きましょうか」
「……話はまとまったようだな。武運を祈る」
「じゃ、私は姉御を見送ってきます!」
「じゃあ私はメルシィさんと一緒に」
「おれはひと休み、ですなぁ」
各々やる事や休息に入るために解散する。海未とメルシィはそのまま弧白の家へと向かい、扉を叩く……が、反応がない。
「やっぱ寝てるかぁ」
ガチャリ、さも当然かのように開けて中に入る海未を見て、エルガドではこれが普通なのだろうか……とメルシィが後ろを続く。中ではトモエがいつものように武器の手入れをしており、メルシィを見て誰だこいつと言いたげな顔をする。
「すっごい顔」
「どなたですかニャ……?」
「メルシィ・グラシアスさん」
「メルシィ……メルシィ・グラシアスさま……!?」
メルシィの名前を聞いてハッとした表情になり「失礼しましたニャ、トモエと申しますニャ」と立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。
「ご丁寧にどうも。メルシィ・グラシアスです」
「トモエちゃん、弧白さんの笛借りたいんだけどいいかな」
「いいと思いますニャ。当の本人は爆睡してますがニャ」
トモエの視線の先を見ると、布団にくるまって爆睡している弧白さんが目に映る。相当疲れているのだろう、全く起きる気配がない。
「じゃあ遠慮なく〜」
エルガドではこれが普通なのだろうか……と思いつつ、メルシィは敢えて口に出さず、立てかけられている数々の狩猟笛を一瞥する。その中で「ん、これにします」と選んだのは、原初を刻むメル・ゼナの狩猟笛だった。
「弧白さんと同じ武器選んでる……」
「見た目で選んでしまいましたが、大丈夫でしょうか……」
「全属性やられ無効の旋律があるので、結構助かるかもです」
「エスピナスは三属性持っていて厄介ですからね。これにしましょう」
「エスピナスを狩りに行くんですニャ? でしたら、トモエもオトモしますニャ」
武器を持ち、トモエが立ち上がる。
「主人をほっぽいて、いいのか……」
「大丈夫ですニャ、どうせ起きませんニャ」
「段々と扱いが雑になっている気がする……」
「……そうですニャね。メルシィさま、アナタにオトモしますニャ」
「わ、私にですか? お役に立てるかどうか分かりませんが、よろしくお願いしますね」
ハンターがオトモアイルーに頭を下げているところ、初めて見た……いや、いつも尻に敷かれている人がここで爆睡しているか……。
そんなことを思いつつ、二人は家を出る。
「……狩猟笛、洗っておかないと」
そんなメルシィの呟きを聞きながら、起こさないようにそっと扉を閉め、密林へと足を運ぶために出発口へと向かった。
暑くなってきましたね。なんですか40℃弱って?
それはそうと、最近はちみつ梅が食べられるようになった私です。常人のあまじょ酸っぱい!!を経験しました。2個でリタイアしました。