「さて、海未さん。ミカドのお話でしたね」
密林にて、眠るエスピナスの傍に大タル爆弾Gを仕掛けながらメルシィは口を開く。
「メルシィさん、父はどんな人でしたか」
「そうですねぇ……とても変な方でしたよ!」
「皆そう言う……」
「でも、正義感があって、一度決めたことは曲げない。そんな方でした」
「……皆、そう言う」
「海未さんは覚えていませんか?」
「あんまり……なんならせんせいにも幼い頃に会ったことがあるって言われたんですけど、イマイチピンと来なくて」
同じく大タル爆弾Gを仕掛けながら、海未は首を傾げる。
「なんなら、私とも会ったことがありますよ?」
「えっ、覚えてないです……」
「あなたがまだこのくらいの時ですから、覚えていないのも無理はないかと」
大体一〇〇センチ辺りを手で示し、メルシィは言う。海未にとってその身長で言うと、大体五、六歳頃の話だ、そりゃあ覚えていないに決まっている。
「睡蓮とあなたが会ったのは……そうですね、彼女が十五、六歳の頃だと思いますよ」
「せんせいもそう言ってました」
「ふふっ、でしょうね。私はその頃から知り合いですから、よく覚えています。大体七、八年くらい前でしょうか」
「……となると、私は九、十歳くらいの話かな」
主人たちの会話を聞きながら「モルさま、お二人はなんのお話をされているのですかニャ?」とトモエは首を傾げる。
「旦那さまのお父様のお話ですニャ。あと睡蓮さまのお話ですニャね」
「……スイレン」
トモエはその名前に聞き覚えがあるようだ。だが思考を巡らせる前に、大タル爆弾Gが爆発する。
「むむ、来たニャね!」
「集中、ですニャ」
「このお話はまた後で。今はこいつをシバくのに集中しましょう」
緑色の身体がゆっくりと身体を起こす。海未たちに向かってひと吠えかまし、怒涛の突進攻撃を繰り出してくる。
「わわっ」
慌てて避けた海未に往復してきたエスピナスが突っ込んでくる。すかさずメルシィが狩猟笛で旋律を奏でながら、頭を目掛けて振り下ろした。
エスピナスの頭が叩きつけられ、軽く地面が抉れる。ものすごいパワーに圧倒されながらも、海未は双剣を握り直して鬼を宿す。左目に蒼い炎を灯した小さな身体は、真っ直ぐエスピナスへと向かっていった。
「……」
メルシィはその様子を見ていた。と同時に、かつての海門のことを思い出していた。
かの海門も、同じように左目に蒼い炎を宿していた。
親子だから当たり前なのだが、横顔がやはり彼に似ている。
「“アオイホノオ”……ね」
海門はメルシィによく言っていた。
俺の娘たちは強くなる、と。
海門は未来を視る不思議な力があった。それ故に、メルシィの今後の未来や出来事を、今までおおよそ二〇年先まで言い当てている。
睡蓮やその他のメンバーとの出会い、別れ、それらが全て本当になったのだ。
もしかして、この娘たちもそういう力があるのかしら。
エスピナスを狩猟するのに、そう時間はかからなかった。それは海未が強かったのか、たまたま実力のない個体だったのか、それは分からない。だが前者は確信が持てると、そうメルシィは感じていた。
あまりにも常人離れしすぎている。それはかつての海門を超える程に。
「はぁーっ、疲れた」
「お疲れちゃん、海未ちゃん」
「バハリさん、お疲れ様です……」
「どうだいメルシィ、この子はすごいだろう?」
「ええ、本当に。こっちが圧倒されちゃった」
急に褒められて何を言ったらいいか分からなくなった海未は、ただ照れながら剥ぎ取りを始める。
「旦那さま、チョーシ乗ってるニャ」
「トモエ、お疲れ様です」
「ニャ……お疲れ様ですニャ、メルシィさま。狩猟笛の実力、圧巻でしたニャ」
「そんなことはありませんよ。私は本業はヘビィボウガンと弓ですから。狩猟笛や他の武器は、睡蓮たちと狩りに行った時にサポートとして使っていた程度で……」
「弓も使えるのかニャ!? すっごいニャ〜!」
モルが感心したように声をあげる。
「それでも、ほとんどの武器を使えることはとてもすごいことですニャ」
「ふふ、ありがとうございます。……あら、ふわふわですね」
そっと頭を撫で、メルシィは笑う。「ボクも、ボクも!」とモルがせがみ、はいはいと二人の頭を撫で続ける。満更でもなさそうなトモエと、満足そうなモルを見て「……欲しいかも、オトモアイルー」と呟くメルシィ。
「どうです、一家に一匹」
「うーん……いえ、旅の邪魔になってはこちらが申し訳ないですから、遠慮しておきます」
「……メルシィさんって、優しいですね」
「?」
「メルシィさまは、オトモアイルーはいないのかニャ?」
「元からいませんよ。こちらの方が寿命が長いですから、一緒に過ごせても数十年単位ですし……」
「竜人族はベクトルが違うニャ」
「でも、そういう生き方もトモエはいいと思いますニャ」
「そんなことを言ってくれるのは、あなたたちとこの場にいる方と……あら、沢山。私は恵まれていますね」
メルシィは肩をすくめる。バハリ、タドリが採取を終えたようで、戻ろうと声を掛けてくる。
「メルシィさん、戻りましょ」
「はぁい。お二人も戻りますよ」
「はいですニャ」
「はいニャ!」
回収班に任せ、海未たちは迎えの船へと歩いていく。
「メルシィさん、先程の続きを聞かせてくれませんか?」
「ああ、そうでしたね。何が聞きたいですか?」
「ん〜……父の全部!」
「ふふっ、何から話しましょうか。そうですね……“アオイホノオ”のお話でもしましょうか」
「それって、鬼人化の時の?」
「ええ。ミカドが話していましたが、“アオイホノオ”はあなたの家系……それも、父方の家系に由来するそうです」
「……えっ」
初めて聞いた、と言いたげな反応だ。そんな海未を尻目に、メルシィは続ける。
「鬼人化が蒼いのも、左目に蒼い炎を宿しているのも、全てそうだと話してくれました。
ミカドの血筋は、星の一族……つまるところ、私と同じ血筋です」
「……ん!?」
「そういう反応になりますよね……私の故郷はグーシュファンドというのですが、その民は竜人族の中でも『エストレラ族』という部類に入る、未来を見通す力を持つ極めて珍しい血筋を持っている一族です。ミカドや恋海さん、海未さんはその末裔と言ったところでしょうか」
「未来を見通す……で、でも、それとアオイホノオになんの関係が?」
「詳しくは分かりませんが、私のおばあちゃんが言うには「“アオイホノオ”を宿す者は世界を見通し、救う力がある」……とかなんとか」
「……なんだか壮大な話になってきた」
「普通は、エストレラ族同士の間に子を産むのが主流なのですが……ミカドのように、稀に外の者との間に子を産むケースも多いんです。
そうして産まれたのが、あなたと恋海さん。外の者と血を分け合ったエストレラ族の民は、原則住んでいる村や国、里から出ていかなければいけないという決まりがあります。ミカドはきっと、あなたの母親のことを本当に愛していたんでしょうねぇ」
海未にとって、メルシィの話は初めて聞くものだった。父親の家系や血筋など、今まで気にしたことがなかったのだから。
だが海門が未来を見通していたり、不思議な力を持っていることから、自分の家系はすごい家系なのだと、幼い頃の海未は漠然と思っていた。
それが本当の話とは思わなかったのだが。
この話を聞いて、海未は一つ気になっていることがあった。
「メルシィさん。『ソテルの国』って、何処ですか?」
「あら、グーシュファンドのご近所さんですよ」
「!?」
「山を一つ越えた先にある、城壁に囲まれた小さな国です。昔は争い事に滅法強かったんですよ」
「父が、その国の出身と聞いたことがあって……さっきの話を聞いて、母と結ばれた時に、その国を出てバルバレに来たのかな、と」
「ああ、そういえば。ミカドはソテルの国の民でしたね……忘れていたわ。
惜しい人を亡くしましたね、海未さん。あなたが睡蓮に付きまとわれているのも、それが原因でしょう?」
「いやいや、せんせいは何も悪くなくて、元はと言えば私が悪くてですね……」
海未はバツが悪そうに笑う。噂には聞いていたが、やはりこの子が、とメルシィは内心確信していた。
「……その事は、先のメンバーにお話しましたか?」
「いいえ。今はもう少しだけ、彼らと狩りをしていたくて」
「その考えを私は否定することは出来ませんね。
ですが、いずれは明かされることです。睡蓮とあの三人が接触すれば、口が軽い睡蓮はぽっと話してしまうでしょうねぇ」
「あはは! たしかに!」
「メルシィさま、歩き疲れましたニャ」
トモエが抱っこをせがみ、「仕方ないですねぇ。その代わり、ちょっと撫でさせてくださいね?」とメルシィはトモエを腕に抱き、めいっぱいにふわふわを堪能する。
「あうあうあう……」
「モル、あんたは?」
「ぼ、ボクはいいニャ〜。ボクはオトナなアイルーだから、抱っこなんてせがまないニャ〜」
「またそんなこと言って。ほら、抱っこしてあげるよ〜」
「ニャーッ!」
モルは軽く抵抗するも、最終的に大人しく腕に抱かれる。「モルさまは素直じゃないですニャ」とトモエの言葉に、「ぼ、ボクはオトナのアイルーニャ〜」となおも誤魔化すモル。
「そういえばモル、あなたにもお会いしたことがありますね」
「旦那さまと違って、ボクはバッチリ覚えてるニャ、羊のおねーさん!」
「昔もそう呼ばれた記憶があります」
「覚えてないの私だけかぁ……あ、メルシィさん」
「はい、なんでしょう?」
「父のこと、聞かせてくれてありがとうございました」
「……どういたしまして」
顔を見合せて笑い合い、二人と二匹は密林を後にした。
ナディアさんとのデートクエをクリアしました、私です。
今の私はとてもご機嫌なので更新速度がちょっとはやくなります!!
明日も更新出来ると思います、楽しみにしていてください。