次の日、ベルナ村に降り立った二人は、さてここはどの辺だろうかと辺りを見渡す。飛行船が泊まることを考慮して、村の少し外れに波止場が位置されているのだろう。少し歩けば、村が見えてくる。
「わぁ、これがムーファなのね!」
「私も初めて来るな、ベルナ村……これがメルシィさんの言っていたムーファ……」
左右を柵で仕切られた道を歩き、村の中に着く。見慣れた姿が二人、受付嬢と話をしているのが見えた。睡蓮とメルシィである。
「睡蓮、メルシィ!」
ベガは走っていき、二人に勢いよく抱きつく。咄嗟のことで対応しきれず、珍しく二人揃ってバタリと地面に倒れ込む。
睡蓮は何処か嬉しそうな顔をしている。あんな顔は、海未も久方ぶりに見たような気がする。
「ベガ、久しぶりだね……と、海未、お前も来たのかい?」
「この前ぶりです、せんせい。メルシィさんは四日ぶり」
「あらっ!? 確かに中継地点ではありますが……ベルナ村にようこそ、どうされたんですか?」
「えへへ……せんせいに用があって」
「私に?」
睡蓮は首を傾げる。海未はこくりと頷き「あ、出来ればメルシィさんにも」とメルシィの方を向く。同じく首を傾げ、顔を見合わせる二人。
「ねえ睡蓮、この子から色々話を聞いたんだけれど、なんだか面白いことをしそうなの! 協力、してくれるわよね?」
「まぁ、構わないけど……ベガがそこまで言うなんて、珍しいね」
「だって、私と同じ血筋を引いてるんですもの! とても興味深いわ!」
「天の子のあなたがそう言うのであれば、何かあるのでしょうねぇ。もちろん、出来る限りのことは協力しましょう」
「ありがとうございます……!」
「じゃあ、そうだね。修練場に行こうか」
「ベルナ村に修練場なんてあるの?」
「最近新設したんです。さ、行きましょ」
スタスタと歩いていく二人に、「ストイックだわ」「ストイックですね」とベガ、海未は同時に呟き、笑い合いながら二人の後を追うのであった。
* * *
「さて、何から知りたい?」
村の外れにある修練場。睡蓮は太刀を鞘ごと右腰のベルトに差し、海未に聞く。
「せんせいって、『相殺』とか出来ますか?」
「相殺? というのは……モンスターの攻撃を、かな?」
「はい。倒したい相手がいて、でもきっと強い相手なんです。こう、何か必殺技を一個持っておいたら役に立てるんじゃないかって思って」
「……なるほどね。例の事件の犯人の足取りが掴めたんだね。
メルシィ、“あれ”教えてもいいかな」
「“あれ”ですか? 出来る人は限られてきますが、教えるだけ教えてもいいのではないでしょうか」
「“あれ”?」
睡蓮は鞘から太刀を抜く。峰を右指で触ると、太刀全体が薄桃色の光を帯びる。「意外と簡単だと思うんだけどな。海未、双剣を抜いて。普通に攻撃してきなさい」と、刃を海未に向ける。
「え? は、はい」
と言っても、この人に組み手で勝てたこと、ほとんどないんだよな……。
腰に添えられた双剣を抜刀し、双剣を下から薙ぎ払うように振る。睡蓮はそれを上から振りかぶり、まるで叩き落とすかのように攻撃を止める。
「えっ……!?」
叩き落とされた双剣を握る手が、じーんと痺れるのを実感する。睡蓮は笑い「これが「相殺」。理解した?」と鞘に収める。
「いや分かりません」
「おかしいなぁ」
「睡蓮、教え方がストイック過ぎですよ。
海未さん、そもそも「相殺」というものはどんな技か、ご存知ですか?」
「え? えっと……モンスターの攻撃にタイミングよく攻撃をぶつけること?」
「概ね正解です。では、相殺をするためには何をしなければいけないと思いますか?」
「えぇっと……準備をすること、同じ威力の攻撃を繰り出すこと、あと死ぬ覚悟を持つこと?」
メルシィがじとっとした目で「……睡蓮、あなた過去に変なこと教えましたね?」と問いかける。
「教えてないって」
「嘘よ、「出来なきゃ死ぬだけ」って新大陸で言ってたじゃない!」
「いや、だって出来なかったら死ぬだけじゃん」
「睡蓮は昔からこういう所があるから困るわ。海未さんも苦労したでしょうに」
「まぁ、はい……」
睡蓮の教え方は端的かつ直球だ。出来なければ死ぬだけ、何度そう教えられたことだろう……と、海未は過去の稽古を思い出していた。
「詳しく教えるね。私が来なさいと言った前にやった行動を覚えているかな?」
「……峰に、指を当てていた?」
「そう。これは太刀を『一時的に強化するための』行動だ。双剣なら、もっといい方法がある。
そうだね、鬼人化状態だよ」
「鬼人化……」
「鬼人化は本来、身体能力と攻撃力を上昇させるための手段というのは、お前も分かっているはず。
ではその「身体能力を上昇させている分の攻撃力」を、「双剣に直接流す」と……どうなると思う?」
「えっ、そんなこと出来るんですか」
「出来なきゃ死ぬだけだよ」
「ほら、またそういうこと言うんですから、睡蓮!」
「悪かったよ、メルシィ……。
これはね。メルシィと私とベル、それとあと二人。五人で編み出した技なんだ。あの二人のためにも、使える人は多くいた方がいい。そうでしょ、メルシィ?」
「……まぁ、それはそうだけども」
「もしかして、エスピナスの時にメルシィさんが狩猟笛でやっていたのって……」
「はい、この相殺です。便利なんですよね、火力を上げれば大体のモンスターの頭を殴れるので」
「物騒だわ……」
「戦闘ジャンキーのお前が言うのかい、ベガ?
海未、帰るのはいつ?」
「一応、明後日にはエルガドに着けるようにしておきたいなと」
「じゃ、それまで練習だね」
「鬼だわ……」
「悪魔かもしれません……」
二人の小言をフルシカトして「海未、やるかい?」と、睡蓮は海未に問いかける。
「やります」
「即答だわ……」
「師弟揃って恐ろしい……」
「コツを掴むのには少し時間がかかるかもしれないけど……まぁ、飲み込みの早いお前なら、今日中に出来るようにはなっているだろうさ」
そうして稽古を始める二人をよそに「見学ですかね?」「そうした方がいいのかもしれないわね!」と、端っこに座って稽古の様子を見つめる残りの二人。いつの間についてきていたのか、青いリボンを付けたフェニーがベガの足元に寄ってきて、メェェとひと鳴きする。
「あら、この子は?」
「フェニーのへべれけ二号ですね」
「へ、へべれけちゃん……一号はどうしたの?」
「既に成体になっていまして。一号は八年前の個体ですから」
「ああ、幼体なのね。
……ねぇ、メルシィ。睡蓮、楽しそうだわ」
「あら本当。活き活きしていますね」
「あんなに楽しそうな睡蓮を見たのは初めてだわ。睡蓮って、あんな顔で笑えたのね」
「ある意味狂気的な笑い方ではありますが……そうですね。私も久しぶりに見ました」
稽古は昼まで続く。昼が終われば、また夕方まで。終わる頃には日が落ちていて、四人は村に戻ろうかと修練場を後にする。
「いやぁ、久しぶりに楽しかったね」
「疲れました……」
「それにしてもベガ、申し訳ないね。本来はお前と会って話をするために時間を設けてもらったのに」
「わたしは構わないわよ? それよりも、出来るようになったの?」
「まだ形だけですが。コツは掴めたので、きっと大丈夫だと思います」
「それなら良かった! エルガドの一大事だもの、備えあれば憂いなしよね!」
ベガはニッコリ笑う。「ポジティブだね、お前は」と睡蓮もつられて笑った。
「ベガも、新大陸の話を色々聞かせて。最近クリューテにいてばっかりで、外の景色を見ていなかったから……久しぶりにイルやエレオの話も聞きたい」
「ええ、もちろん!」
沈みゆく夕日を見ながら、四人はメルシィの家へと向かうのであった。
用事を済ませてきて死ぬほど眠いです私です。
暑すぎてコンビニでスイカバーを買いました。後で食べます。