「コンコンコン、ごめんくださいニャ」
次の日、朝早くから弧白のマイハウスの扉が叩かれる。トモエが扉を開けると、郵便屋のアイルーが立っていた。
「郵便屋さん、どうかしたんですかニャ?」
「弧白さま宛に、速達でお手紙をお届けニャ!」
「旦那さまに……? ありがとうございますニャ」
手紙を受け取ると、郵便屋のアイルーはさっさと帰って行ってしまう。
「……これは……」
トモエは扉を閉め、ベッドで眠る弧白の上に乗っかる。ぺちぺちと手紙で頬を叩き「旦那さま、起きてくださいニャ」と耳元で声をかける。
「重い……」
「レディになんて失礼な旦那さまニャ」
「ごめんって……何、こんな朝早くから……」
長めの欠伸を零した弧白に「新大陸から、お手紙ですニャ」と手紙を渡す。
「……ごめん、今なんて?」
「もう一度言いますニャ。
「新大陸!?」
ガバッと起き上がった弧白の衝撃で、トモエが「あぁ〜……」とコロコロとベッドから転げ落ちる。
「な、何で急に……というか、新大陸から手紙が来たということは……」
「やっほ〜弧白! 元気してるぅ?」
バーンと勢いよく開けられた扉の前にいたのは、恋海だ。
「やっぱりかぁ!」
「やっぱりって何よ。それよりもその手紙、開けてみなさいな」
言われるがままに、弧白は小型ナイフで封を切る。取り出した中身に書いてあったのは────。
* * *
「あ、お嬢! おはようございます! よく眠れましたか?」
指揮所で待っていた火垂が、やってきた海未に駆け寄る。
「おはよう火垂、ぼちぼちかな。火垂も呼ばれたの?」
「はいっ、なんだか緊急の用があると言われまして」
「おはよう、海未さん、火垂さんや」
「あっ、満さん。おはようございます」
「おはようございます! 満さんもせんせに呼ばれたんですか?」
「も、ということは、お二人も呼ばれたのですな」
「おーい、三人とも!」
弧白、そしてその後ろから恋海が奥からやってくる。その手には、何やら白い封筒が握られていた。
「封筒?」
「お手紙かな? あれ、お姉ちゃんだ」
「おはよう、弧白さんや……と、恋海さんも」
「やっほー! メル・ゼナ討伐したって聞いて!」
「おはようございます、満さん。海未さんに、火垂も。
急に呼んでごめん、まずはこれを見て欲しくて」
弧白は指揮所のテーブルに封筒を置く。海未が中を覗くと、折りたたまれた一枚の紙が入っていた。
「なになに……?
「ハンター 弧白殿
貴殿を新大陸古龍調査団第五期団に再任命、及び帰還を命ずる」……?」
「新大陸って……あの新大陸ですか!?」
「数奇な運命もあるものですなぁ」
「……新大陸古龍調査団、とな。弧白殿、ついにか」
ガレアス提督が口を開く。
「いたんですか!?」
「……最初からここにいたぞ」
「火垂、めっちゃ失礼」
「だ、だってぇ……」
「……弧白殿。メル・ゼナの脅威は去った。貴殿は新大陸に戻り、あるべき調査を続けるべきだ」
「ですがガレアス提督、皆を置いていく訳にはいきません。
皆、これは俺のわがままなんだけど……皆も新大陸について来て欲しいんだ」
「……ん? ん!?」
「でもそうなると、エルガドやカムラを守るハンターが……」
「何を言う。私がいるじゃないか、火垂」
「……あっ」
背後から肩に手を置かれ、一気に血の気が引いていく火垂。手の主はライカだった。傍にはオトモアイルーのハチも一緒にいる。
「ライカさん、ハチちゃんも!」
「ら、ライちゃ〜ん、決して忘れていたわけじゃなくってぇ……」
「分かっているよ。
私からのお願いだ。カムラの里、ひいてはエルガドの調査については、私に引き継がせて欲しい」
「ライちゃんまで。何かあったの?」
「いや、なんだ。ウツシ教官から「もっと広い世界を見よう! まずは手始めに、エルガドに行って調査をするんだ、愛弟子!」と言われたものでな……」
「ウツシ教官の勧めかぁ。じゃあ任せるしかないなぁ〜」
「綺麗に丸め込められている」
「猛き炎がそんなんでいいのか。
満さんはどうですか?」
「ふむ。新大陸は渡ったことがありませんなぁ。良ければ、ご一緒させていただいても?」
「じゃあ、満さんは決まり。海未さんと火垂はどうする?」
「未知の大陸! 行きたいです!」
「んー……」
……海未はあまり乗り気では無いようだ。「何かあるの?」と恋海の問いに「いや、特に何も無いんだけどね」と答える海未。
「エルガドを離れるのが不安だなぁって」
「……海未殿、そのお気持ちはよく分かる。だがこの機会を逃せば、二度と行けない可能性だってある」
「大丈夫、エルガドは私に任せて欲しい」
「……それなら、いいかなぁ」
「! じゃあ、返事書いてくるよ!」
弧白の顔がパッと明るくなり、封筒を持ってマイハウスへと戻っていく。分かりやすい奴だ、なんて思っていたら「分かりやすい奴だにゃあ」と恋海が声を上げる。
「ライカさん、よろしくお願いします」
「ああ。新大陸での活躍を祈っている」
「ライカさん。メルシィさんという方から聞いたのですが、キュリアの脅威は去ったわけじゃ無さそうなんです」
「……バハリが言っていた。飛んで行ったキュリアの行方は様々、皆目下調査中だ、と」
「ふむ……その進捗も含め、何かあったら文を送ることを約束する」
「助かります。じゃあ、私のマイハウスはしばらくライカさんが使うとして……出発までは、狩りをしつつ持っていくものを選別する時間かな。まぁ出発日については弧白さんが知らせてくれるでしょ」
「お嬢は人任せですねぇ」
「私新大陸のこと分からないし……」
「ほっほ、楽しみですなぁ!」
各々やるべきことを済ませ、解散する。海未とモルは持っていくものを選別するために、一度マイハウスへと戻る。恋海は新大陸行きの連絡船内に寝床があるらしく、一度そっちに戻るという。
「ここで過ごすのもあとちょっとかぁ」
「寂しいニャ〜」
「寂しいね。でも少し楽しみかも」
「なんでニャ?」
「ほら、お父さんが新大陸に行ったことがあるって話してたから」
大きな革製のカバンに荷物を詰めながら、海未はかつての父の姿を思い出す。あのナリで新大陸に渡ったと考えると少し考えものだが、優秀なハンターだったのは確かだ。呼ばれていてもおかしくはない。
「そういえば、そんなことを言っていたニャ〜。話半分で聞いてたニャ。
ところで旦那さま。新大陸にセイラー装備は持ってけないニャ」
「えっ、そうなの!?」
「新大陸には新大陸の装備があるらしいニャ。持って行ったらダメだと思うニャ〜」
「そ、そうなんだ……よく知ってるね」
「トモエさまが言っていたのニャ。ギルドクロス装備があるらしいから、無難にそれで行くのがいいと思うニャ」
「じゃあ、ギルドクロスで行こうかな」
モルと他愛のない話をしながら、海未は新大陸に渡る準備を進めていく。後から尋ねてきた恋海から、出発は一週間後と聞かされた。
「……ねぇ、モル」
「なんニャ?」
海未は立て掛けているフォルティス・グラムを見つめる。
「お父さんも、一緒に連れていきたいな」
あれよあれよと過ぎていき……気づけば一週間。
新大陸行きの連絡船に乗る日だ。各々忘れ物がないか確認していると、「皆さん!」と鈴のような声が聞こえて振り返る。見ると、息を切らしたチッチェが走って来ているではないか。
「チッチェさん、どうかしたんですか?」
「は、はい、これを、渡そうと思いまして……」
そう言ってチッチェが差し出してきたのは、手縫いの小さなぬいぐるみだ。それも五人分。
「本当はメル・ゼナを討伐する前にお渡ししたかったのですが、間に合わなくて……急いで仕上げたので、少々荒い部分もありますが、受け取ってください!」
「ありがとう、大事にする」
「これは……環境生物のローゼルフィンですな?」
「すごい! ありがとうございます!」
「でも、一個多いよ?」
「えへへ……恋海さんにも渡しておいてください!」
「なになに、何の話?」
恋海が船から降りてきて、チッチェに駆け寄る。
「恋海さん、これを!」
「わぁ、可愛いにゃあ〜! ほんとに貰っていいの!? ありがとう〜!」
恋海がめいっぱい抱きしめると「わぁっ」と少々困惑しつつも、やがて笑顔に変わるチッチェ。その表情はさながら無邪気な少女だ。
「海未殿」
呼ばれた気がして、声の方向を向く。フィオレーネが柔らかな微笑みで立っており、「フィオレーネさん!」とひとハグかます海未。
「あの子によろしくと、そう言っておいてくれ。文を送る、とも」
「分かりました、伝えておきますね」
「お嬢の意外な一面パート2」
「……皆の者。新大陸での調査は過酷なものになるだろう。いつでも命を優先に行動すること。私からはこれだけ言っておこう。
新大陸での活躍を、心より期待している」
「ガレアス提督も。ありがとうございます、頑張ってきます」
「……ところで、弧白殿は?」
そう言えばと辺りを見渡すも、彼の姿は何処にもない。……が、トモエはしっかりといる。ということは、
「旦那さまは寝坊ですニャ」
「……果たして間に合うのだろうか」
「間に合わなかったら次の便で来てもらうまでなので」
「お嬢辛辣!」
「寝坊する方が悪い」
いつの間にか多くの者が見送りに集まっていた。頑張れよ、気をつけてな、と労いの言葉をもらいながら、海未たちは連絡船に乗り込む。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
涙ぐむチッチェの一際大きな声が聞こえて、皆が揃って「行ってきます」と口にする。
「……い! おーい! 待ってくれ!」
ふとそんな声が聞こえて振り向くと、弧白が翔蟲で向かってきているのが見える。
「お、来た」
「せんせ、早く〜!」
火垂の声に応えるように、弧白は最後の翔蟲を伸ばす。なんとか乗り込み、ゼーハーと息を切らしていた。
「珍しいね、寝坊じゃん」
海未の言葉に、翔蟲を空に返し、弧白はこくりと頷く。
「マジでやらかした……」
「遅刻したら次の便で来てもらうか〜なんて話をしてたのよん」
「それだけは勘弁!」
段々と、エルガドから離れていく。小さな拠点が、更に小さくなっていく。
「寂しいですねぇ、お嬢」
「まぁ、大丈夫だよ。きっと」
「久しぶりの新大陸ですニャ。武器を手入れしておかないと……」
「トモエは相変わらずだね。俺も、新大陸に着いたら武器を手入れしなきゃな。
ところで海未さん。良かったね、フォルティス・グラムをの持ち込み許可が出て」
そう言われ、腰に納刀している片側だけ折れた双剣を見る。
「新大陸には凄腕の鍛冶師がいるから、きっと直るよ」
「そうだといいんだけど……」
海未がどうしても持っていきたい、と弧白にせがみ、無理を言って持ち込み申請を書いてもらったのだ。結果的にギルド側からの許可を得て、今彼女はその双剣を持っている。
ちなみに、火垂は火垂でその話を聞いて、翔蟲の持ち込みを申請したようだが……残念ながら却下されてしまった。
「さて、皆!」
恋海がひとつ手を叩く。全員が注目したのを確認してから、恋海は言葉を続ける。
「新大陸に着くまでに、ちょこーっとお話があります! どっか話せるところといえば……そう! 食堂! というわけで、荷物を置いたら食堂に集合! よろしい?」
「うん、分かった」
「分かりました。新大陸の現状も知りたかったところだし、腹も減ったし、丁度いいや」
「はーい!」
「ん、承知ですぞ」
「ん! じゃあ一旦解散! あんたと火垂はお姉ちゃんと一緒に行こうね〜」
恋海は海未と火垂を連れて中に入っていく。残された男子二人もその後を追い、中に入る。
連絡船内では、慌ただしく動いている者、談笑しているハンターたち、本を読んでいる竜人族、他にも様々な人がいる。
「おっ、導きの蒼い星!」
「新大陸に帰ってくるのか! 依頼がこんもりあるから、頼むよ!」
「久しぶりに見た顔だわ、またよろしくね」
「恋海ちゃん、後でクエストの更新があるから来てくれる?」
恋海や弧白が絶え間なく話しかけられる。海未は薄々気づいていたが、やはり弧白や恋海は新大陸古龍調査団にとって、なくてはならない存在のようだ。
恋海によって寝床へと案内される。男女で分けられているようで、それぞれの寝床に荷物を置いた後、各々落ち着いてから食堂に向かう。
「来たよ、恋海さん」
「ん、まぁまずは座って座って! とりあえずはなんか頼もう!」
そうして注文をして、「じゃあ待っている間に」と恋海は話を切り出す。
「改めて、三人は新大陸古龍調査団へようこそ! 弧白とトモエちゃんは久方ぶりだにゃあ」
「約三年ぶりの新大陸かな? それで、今何が起こっているんです?」
全員が恋海の話に耳を傾ける。
恋海は話し始める。今、新大陸で何が起こっているのかを。
Monster Hunter Atlantis
エルガド編、完……?
これにてエルガド編、一旦完!!!
長くお付き合いいただきありがとうございました
新大陸編、いつ投稿できるか分かりませんが気長に待っていただけたらなと思います……!!