今日はどのクエストに行こうか、と弧白はクエストボードの前に張り付き長時間悩んでいた。バルファルク戦が終わり、さすがに休養を取りたいと海未の要望で三日ほどフリーな時間を与えられ、それが終わった今日。三人のおかげで災厄を免れ、狩猟もひと段落付いた頃というのは、どうもどこに行こうか、どの狩猟をしようか、というのは迷いどころである。
「どうされますか、弧白さん?」
受付嬢のチッチェがクエスト一覧を差し出しながら首を傾げる。それに合わせて弧白も首を傾げ、軽く唸る。
「うーん、って言われてもなぁ。バルファルク戦は終わったし、他にやることと言えばまだ残っている依頼を片付けることくらいしかないし……」
「でしたら、息抜きに探索ツアーは如何でしょうか!」
チッチェがそう言って差し出してきたのは、一つの紙。本来なら物騒なクエスト内容が書かれている紙とは打って変わって、そこには『探索ツアー』の文字。その下には出現するモンスターや場所、そしてカムラの里にいるゴコクからのメッセージが書かれていた。
「先生、それなら溶岩洞に行きたいです! 鉱脈漁りをしたくて」
横から覗き込んだ火垂が片手を上げて提案する。
「鉱脈? 別に構わないよ。海未さんが良ければだけど」
「私が何か?」
「うぇあっ!?」
途端に後ろから声が聞こえ、弧白は驚いて飛び退く。そんな弧白に「後ろから話しかけただけなのに」と彼女はクスッと笑う。「お嬢〜!」と火垂が熱烈ハグで歓迎し、相変わらずのスキンシップの激しさに「はいはい、おはようおはよう」と、海未は慣れた様子で軽くあしらっていた。
「お嬢、今日は息抜きとして、溶岩洞へ探索ツアーに行きませんか? 私個人が採集したいものが溶岩洞にありまして」
「探索ツアー? いいよ、私もサブキャンプ見つけないとだし」
「ってことです先生、決まりです!」
「じゃあ、溶岩洞の探索ツアーをお願い」
「承りました! えぇと、ここをこうして……はいっ、お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
行儀よくカーテシーをして笑うチッチェに「お姫様だぁ」と火垂が真似をする。
「海未さん、サブキャンプの道のりは俺らが知ってますんで、案内しますよ」
弧白が海未に呼びかける。だが海未から返事はなく、弧白は彼女の方を向いて「……海未さん?」ともう一度呼びかけた。
「んぇっ、あ……ああ、ありがとうございます。すみません、少し考え事してました」
弾かれたように顔を上げ、海未は愛想笑いを浮かべる。
海未の様子が少しおかしい事に、弧白は気づいていた。気になった弧白は「あの……」と事情を聞こうとしたが、少し考えて「いや、なんでもないです」と出しかけた手を戻した。
* * *
「ここがサブキャンプです。俺達が先に立ててたんで、海未さんも自由に使ってもらっていいですからね」
溶岩洞に着き、サブキャンプなるところに案内された海未は「ありがとうございます。それにしても……」と、辺りを見渡す。
「……高いですね」
「高所はサブキャンプの特権ですよ! ほらお嬢、ここに地下の洞窟に繋がる穴があるんです!」
火垂が海未の手を引っ張り、大きな穴が空いている場所まで連れていく。恐る恐る穴を見たあと、あまりの高さに火垂の背中に隠れ「ひ、高……利用しないでおこう……」と縮こまってしまった。
「ところで、今何がいるのかな……あ」
海未が一言、小さく声を上げる。
「い?」
「う?」
「このくだり二回目ですよ。いや、「クソ」がおると思って」
彼女の言うクソ……というのは、ちょうどマップで示されているフルフルの事。
───そういえば、海未さんは確かフルフルに恨みがあるとかどうとか、出会い初めの時に言っていた気がする。
「あいつだけは生かしておけない……すみません、ちょっとシバいてきます。お二人は採集してて構わないので」
「はい、お気をつけて〜!」
物騒なことを口にしながら、海未はメルに乗って走り去っていく。見えなくなるまで見送ったあと「大丈夫かな」と思わず心の声が漏れてしまう。
「心配しすぎですって! お嬢なら大丈夫ですよ」
「……俺は嫌な予感がするよ」
「と、言いますと?」
「恐らく、ネコタクでキャンプまで戻ってくる」
「先生の直感はよく当たりますからねぇ。もしかしたら、本当にキャンプ送りにされたりして!」
「嫌なこと言わないでよ、火垂。俺だって想像したくないんだから」
ただ、バルファルクの時から少し様子がおかしかった彼女だ。きっと、今も本調子では無いはずだ。
何故そう思うのかは分からない。もしかしたら、読みが外れているかもしれない。だが明らかな表情の曇り方をしていることを、弧白は見逃してはいなかった。
十分後、弧白が火垂の採集を手伝っていると、「どいたどいたニャーッ」と目の前をネコタクが通り過ぎる。
「え」
「わお! 本当に運ばれていってる! これは見に行かなくちゃ!」
火垂が採集を終え、素早くメインキャンプに戻ったのを見て、弧白も続いてファストトラベルで戻る。二人がメインキャンプに着くのとほぼ同時に、海未がネコタクから投げ出され「ヴッ」と彼女は小さく声を上げた。
「いてて……あーやらかした。覚えとけよクソが……」
珍しく悪態をつく海未に「珍しいですねぇお嬢、どうしたんですか?」と火垂に問われる。
「嵌め攻撃されて、麻痺して動けなくなっちゃってそのまま……」
大の字になって火垂を見る海未を「ほら、言わんこっちゃない」と弧白が両頬を掴み、優しくもちもちし始める。
「どうして無茶したんですか?」
「いらいれすこはくしゃん……らって、クソがいらからぁ……」
「「だって、クソがいたから」だそうですよ。ってか先生! 私と対応が全然ちがーう! 私にも優しくしてくださいよ! 盾でげんこつじゃなくて、もちもちしてくださいよーっ!」
異論をとなえ始める火垂を見てギクッと身体を固める弧白。
「……ソンナコトナイヨ」
「あ、先生これ嘘ついてますね」
「……全く。海未さん、一緒に狩りに行きますから、一人で突っ走って無茶しないでください」
「それ、先生が言えたことですか?」
「ナンノコトカナー」
火垂の正論に、再び言葉がカタコトになる弧白。結局一緒に狩りに行き、いつもの狩猟風景に戻ってしまった。
「あっお嬢! ダメですよそうやって突っ込んじゃ!」
「おっと、ごめん」
フルフルが弱り始めた頃、天井に張り付き、煽るようにニタニタと笑うそいつを見て「地獄に落としてやる……」と海未は真下に落とし穴の罠を設置する。
「お嬢ナイスです! 先生、クナイ投げてあいつ落としましょ!」
「分かった!」
二人がクナイを投げる。肉質が柔らかいフルフルにはよく刺さる便利なアイテムだ。数発投げると、途端に天井からズル、と落下し、そのまま落とし穴に真っ逆さまに落ちる。暴れるフルフルに捕獲用麻酔玉を投げ、すぐに眠ったフルフルを見て、海未は安堵のため息をこぼした。
これでは全然息抜きではない。だが海未の雪辱を果たせたのなら、それでいいだろう。
「ふん、雑魚が……」
「お嬢、一乙してそれはかっこ悪いです」
「あれは嵌めてきたこいつが悪い! いや、見切れなかった私も悪いか……すみません」
しょんぼり顔になる海未の頭に手を置き「お手柄でしたよ、海未さん」と弧白が笑う。
「あーっお嬢ずるい! 私も私も!」
「おめーはいいだろ」
「じゃあ、私が」
海未が火垂の頭も撫でると、「お嬢に撫でてもらった……! ふんすっ!」と誇らしげな態度を見せる。
「わがままに付き合ってもらってごめん。その、ありがとう。火垂……と、弧白さん」
撫でられながら発した彼女の言葉に、弧白は驚いて固まってしまう。
「……エッ!?!?!?」
「え、そんなに驚くこと?」
「お嬢が名前を呼んでくれたぁ……! お嬢大好きぃ!」
「うぉ、離れろ離れろ! ここじゃ暑苦しい!」
再び熱烈ハグをかました火垂を引き剥がそうとするが、体格差故に引き剥がすことが出来ずとうとう諦めてしまった。
「にしても、いきなりですねぇ」
「もう関わって三ヶ月だよ? さすがにね」
「う、海未さん、俺、海未さんの役に立ててますか?」
「え? はい。なんなら実力は私よりも上なんですし、私が役に立ててるかどうかの方が心配なのですが……。
あと弧白さん、私あなたよりも年下ですよ? 年下に敬語っていらないと思うんですが」
「それは私も思いました。先生、なんで敬語使ってるんです? 私にはずっとタメ口の癖に」
「えっ、そりゃあ海未さんは初対面だったし、必要最低限の礼儀だし……」
「じゃあ私には最初から礼儀がなかったってことですか!?」
「だぁーっ、そうじゃねぇっつの!」
素が出た弧白に「意外と男らしい口調も出来るんですね」と意外といった反応を見せる海未。
「でも弧白さん、これからやっていくなら、タメ口の方が何かと便利なのでは?」
「それは確かに! 私はお二人は年上と見ていますので、敬語は外しませんよ! というか、これが癖なので」
「で、弧白さんはどうするんです?」
海未は弧白を見る。弧白は少し考えたあと、「うーん……まぁ、タメ口でいいなら。改めてよろしく、海未さん。火垂もね」と優しく笑った。
「はいっ! お嬢も試しに、先生に対してタメ口を使ってみては?」
「えっ、でも年上だよ?」
「俺は構わないよ」
「え、ええと、じゃあ、はい……じゃなくて、うん……?」
困惑しつつ、敬語が外れた柔らかい話し方になる。海未が顔色をうかがうように弧白を見ると、彼はふっと笑い「それでいいそれでいい。ゆっくり慣れていけばいいんだよ」と返した。
「分か……分かっ、た」
安心したように微笑む海未。「お嬢、さては殿方と接するの慣れていないですね?」と火垂の問いに「いや、実は……うん、そう」と正直に暴露した。
「その、あんまり人と話す機会がなくて……ここ数年は一人で狩猟してきたから、固定の人としか話さなかったし。ウツシ教官はうるさくて苦手だし……」
「ああ、あの人はうるさいですからね」
「里出身の火垂が言うなら間違いないね。里長もそっちのタイプだし、一番話してて楽だったのはカゲロウさんだったな」
「へぇ、ウツシ教官か……どんな人なんだろう、会ってみたいな」
「うるさいから会わない方が吉」
「でも会わせたくないですか!?」
「いやいい。もう組手したくない」
「酷い言いようだね?」
「そういえばお嬢、新作のお団子食べました? あれ超絶品で〜……」
たわいもない話をしながら、三人は帰路についた。
* * *
「それじゃあ、また」
「明日は十時集合ですからねー!」
「分かった分かった。また明日な」
二人に手を振り、弧白は自宅の方へと歩く。トモエが正面から走ってきて「おかえりですニャ、旦那さま」とハイタッチを所望してくる。屈んでハイタッチをして「ただいま、トモエ。今から買い出し?」と問うと、トモエはこくりと頷く。
「回復薬が切れそうでしたので、それの買い足しを」
「そっか。じゃあそれを買ったら、グレートに調合しよう。ちょうど素材も採ってきたし」
「さすが旦那さまですニャ。ところで……海未さまが後ろにいらっしゃいますが、何かあったのですかニャ?」
「うぇっ!?」
慌てて振り向くと、いつの間にいたのか海未が後ろに立っていた。どうやら後ろを付けてきていたようで「う、海未さん……びっくりしたぁ」と胸に手を置いた。足音一つ聴こえなかったが、彼女がその特技を持っているのか、はたまた自分が聴こえていなかっただけなのか……それは分からないが。
「驚かせちゃったか。ごめん、特に用はないんだけど、よく考えればトモエちゃんに挨拶してなかったなと思って」
「ワタシに、ですかニャ?」
「そう。これからもよろしくね。もしかしたら、うちのモルが近いうちに遊びに行くかも」
「モルさまがですかニャ? ええ、歓迎いたしますニャ」
「モル君と何かあったの?」
聞いたあとでハッと口を塞ぐ。聞いてはいけない事だっただろうかと謝罪を口にしようとするより先に、海未が「ん……ちょっと、ね」と寂しそうに笑う。
「何か事情がありそうですニャ」
「大したことじゃないよ。今朝喧嘩したってだけ」
「喧嘩? 珍しいね、仲良しそうに見えたから、喧嘩なんてしないと思ってた」
「うーんそれが……まぁ、色々あって」
海未は口を閉ざしてしまい、バツが悪そうに目を逸らした。朝方から何か考え事をしていたのはそのせいだろう。
「ふむ……じゃあ、うちのトモエとモル君、一日だけ交換してみる?」
「え?」
何言ってんだコイツ、と言いたげな目で見つめてくるトモエに「そ、そんな顔しないでよ、提案しただけじゃんか」と弧白が慌てて弁解する。
「私は構わないよ。モルも息抜きくらいにはなると思うし。……それに、もう私の事、嫌いになったのかもしれないし」
「そんなことはない! それは俺が直接モル君に聞いてみるよ」
「……そう、ありがとう。それじゃあ、また明日ね」
踵を返し、海未は自宅へと歩いていく。その後ろ姿が、弧白には何故か寂しそうに見えた。
「明日、モル君に色々聞いてみるか」
「では、トモエは海未さまの元へ一日派遣ですかニャ?」
「うん、お願い」
「仰せのままに、ですニャ」
一人と一匹は雑貨屋の方へ歩いていく。差し込む西日が眩しく、弧白は目を細めた。
買い出しが終わり、自宅についた弧白は椅子に座り、ひとつ息をつく。
「はぁ……探索の時、海未さんにちょっとキツく言いすぎたかな。そもそも俺がカバーに行ってればなぁ……」
三人で仲良く、かつ誰もキャンプ送りにされないような、そんな狩猟方法はないものだろうか。帰り道、弧白はそんなことを考えていた。
海未が加わるまでは、護る対象は火垂一人でじゅうぶんだった。だがそこに海未という護る対象がもう一人増えたおかげで、ガンランスでは回復や支援にまで手が回らない状況が出来てしまったのだ。
───そうだ。新大陸に行った時に、武器の特徴をまとめたノートがあったはずだ。
弧白は家の中を漁り回り、それらしいノートを見つける。ペラペラと捲る音がしばらく部屋に響き、あるページで捲る手が止まる。
「……狩猟笛」
そのページに書いてあったのは、狩猟笛の詳細だった。
そういえばこんなことも書いていたな、と思いつつ、指で文字をなぞっていく。
『双剣やランス等、前線に突っ込んで回復を後回しにする脳筋達と行く時は、バフ型狩猟笛がおすすめ。一番安定するのは、旋律でバフがけをしてサポート、体力が危うい時は広域化スキルで回復。発言者 恋海』
つまるところ、回復は広域化スキルやその他のスキルでどうにでもなるため、選ぶべき狩猟笛は回復系ではなくバフがけ系にするとバランスよく、かつ安定に出来るということだ。
「……ナイスだよ、昔の俺」
道具ボックスを漁り、なにか手頃な狩猟笛はないかと探し始める。ふと手に取った狩猟笛を引っ張り出してみると、それは『魔奏のゲシュライ』という狩猟笛であった。禍々しいオーラを放っているその狩猟笛を床に置き、弧白はまじまじと見つめる。
「これって確か、この前三人でメル・ゼナを狩った時に、素材が余ったからついでに作ったやつだったっけ。効果は、えっと……切れ味継続回復、聴覚保護、切れ味消費軽減……?」
───これなら、二人を護ることが出来る。
「作ったきり使っていないから、メンテナンスしないと。えっと、リペアの仕方は……」
ノートを再び捲り、『メンテナンスの仕方』と書かれたページを見つけると、弧白はそれを見ながら手探りで作業を始める。
全てのメンテナンスが終わるまでに相当時間がかかるだろう。
だが、二人を護れるのならそれでいい。
弧白は新大陸にいた頃、とある出来事から『人に護られる事』を極端に嫌うようになった。
それならば、自分が護ればいい。
もしかすると、彼にとって狩猟笛はとても手に馴染むものなのかもしれない。
ワールドのストーリーが終わり、アイスボーンのストーリーを進めている最中です。ティガレックス相手に6乙しました
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