モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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一日交代

「……というわけで、一日だけ交代してみようって話になったんだよ」

 モルに事情を説明する海未。彼女のオトモアイルー、モルは「そうかニャ」と素っ気なく返し、そっぽを向いて弧白の方へと向かってくる。

「今日は一日よろしくお願いしますニャ、弧白さま」

「うん。よろしくね、モル君」

 頭を撫でてやると、くすぐったそうに身をよじらせる。嬉しそうにしているモルを見て、弧白は少し安心した。

「海未さま、本日はよろしくお願い致しますニャ」

「よろしくね、トモエちゃん。何かあったら言っていいから」

 海未の言葉に「……それでは」と一つ咳払いをするトモエ。

「道具ボックスを拝見致しましたが、見たところ回復薬が不足していましたので、先程買い足しておきましたニャ。それと捕獲用麻酔玉、閃光玉も不足しておりましたので、そちらは後ほど買い足しますニャ」

「あ、ありがとう。そういえば足りなかった気がする。ごめんね、私道具管理苦手で……助かるよ」

「造作もないですニャ。いつでもお申し付けくださいですニャ」

 淡々と話すトモエに、「うん、分かった」と海未は両手で抱いてスタスタと移動する。

「ところでトモエちゃん、あなたアイルーだよね?」

「はい」

「でもキツネだよね」

「アイルーですニャ」

「どう見たって九尾のキツネにしか見えん……」

「いやアイルーだよ!」

 耐えきれずに弧白がツッコミを入れると、「やっぱりアイルー?」と弧白の方を向きながら海未が問う。

「れっきとしたアイルーだよ! 確かにキツネだけど!」

「結局どっち?」

「アイルーですニャ」

「トモエちゃんが言うならアイルーだね」

 そんなコント(?)を一通り見つめていたモルは「……いつもの旦那さまニャ」と、海未をガン睨みする。

「何ニャ、ボクにはいつも冷たいくせに……」

 その視線に気づいた海未がモルを見て「冷たくなんてしてないよ」と愛想笑いを浮かべる。

「ニャーッ、やるかニャ!? 今日のモルは旦那さまのオトモアイルーではないニャ、好き放題手出しできるニャ!」

 激昂し、鋭い爪を出してシャーッと威嚇をするモル。そんな彼を「はいはい。交代が終わったら相手してあげるね」と愛想笑いのまま軽くあしらって食事場に歩いていく海未。

「余裕そうなあの顔、ムカつくニャーッ」

「落ち着いて、モル君。後でお話聞いてあげるから」

「弧白さまはお優しいですニャァ……」

 まるで仏を見るかのような態度に、弧白はつられて笑ってしまう。表情がよく変わる。何とも忙しい子だ。

「モル君、ほんと礼儀正しくていい子だね」

「お褒めに預かり光栄ですニャ。人との関わり方はちゃんと心得ておりますニャ。……ノンデリすぎて旦那さまに一から叩き込まれたのは秘密ですニャ」

 モルは魚を食べながら、最後の部分だけ小声で話す。口周りについていた食べカスを拭き取り、「凄いねぇ」と弧白は一言呟く。

「いいなぁ、オトモ交代……」

 そんな二方を羨ましそうに見つめる火垂。オトモガルクの朧が傍に寄り添い、慰めるかのように頬擦りをした。

「えへ……ありがとう、(おぼろ)

「モル、あんた火垂の所にも言ってきたら?」

「そうやってすぐイジワル言うニャ!」

「意地悪じゃないよ。私以外の所を経験しておいた方が、色々とモルの為になるんじゃないかなと思って言ってるだけ」

「余計なお世話ニャーッ!」

「まぁまぁ、モル君……」

 こりゃあ機嫌が治るのには時間が掛かるな、と弧白は困ったように呟いた。

 

 * * *

 

「さて。私とトモエちゃんはリオレイア、弧白さんとモルはティガレックス、火垂はヤツカダキでいいんだっけ」

 場所は昨日探索ツアーをした溶岩洞。マップを見ながら海未が確認を取ると「はいっ! 終わったらキャンプ集合で!」と火垂が元気よく返事して朧に乗って行こうとする……が、弧白に首根っこを掴まれて「はい、ストップ」と阻止された。

「ちょっと待って、バフかけるから」

「そういえば、今日の先生は狩猟笛ですね。しかもこの前シバいたメルゼナの」

「どういう風の吹き回し……?」

「俺が出来ることを考えた結果だよ」

 旋律を奏でながら、弧白がそう返す。海未が装飾品を見て「広域化、高速回復……バッファー兼回復って感じなんだ。凄いね」と驚きの声を上げる。

「よし。行ってよし!」

「行ってきまーす!」

 先にスタコラと行ってしまった火垂を見送り「じゃあ私達も。行こっか、トモエちゃん」とトモエを抱いてサブキャンプに飛んでいく海未。

「行こうか、モル君」

「はいニャ!」

 弧白はモルと共にティガレックスのいるエリアへと走り出す。いつもと違う武器の重さに翻弄されながらも、まぁガンランスよりかは軽いしいいか、などと思いながら、弧白はヒトダマドリを集めながら岩やツタを軽々と登っていく。途中、左腕を上に出す動作をして「あ、そうだった……こっちにはスリンガーがないんだった」と腕を引っ込める。

「スリンガー?」

「新大陸のハンターの装備にはね、スリンガーって言って左腕に付ける便利なものがあるんだよ。スリンガーでモンスターに張り付いて攻撃したり、石ころで壁ドンしたり……」

「か、壁ドン? よく分かりませんが、凄いものなのですニャね」

「新大陸に来る機会があったら見せてあげるよ。

 そういえば、昨日から海未さんと喧嘩してるって聞いたけど、何かあったの?」

「あぁ、旦那さまとですかニャ? あれは旦那さまが悪いニャ、いっつも「無茶してない」って言い張るのですニャ!」

 四足歩行で走りながら、モルはぷんすか怒り始める。

「ボクは昨日、狩猟に行く旦那さまに言ったニャ。「無茶だけはしないでニャ」と。ですが旦那さまはフルフルに単独で突っ走った挙句、また怪我を負って帰ってきましたニャ! それを隠そうとしたんですニャ!」

「あぁ〜、なるほど……海未さん、怪我とか隠すタイプなんだ」

「昔からそうなのですニャ。自分で治せるーって言い張って、ボクに怪我を見せようとしない時があるのですニャ。

 ……モルは、もっと旦那さまに頼られたいのですニャ。あの方はなんでも一人で解決しようとして、本当に解決してしまうお方。だからせめて無茶だけはしないようにって言っただけなのにニャ」

 彼の言うことは一理ある。

 なんなら、弧白もそれを経験している。昨日のフルフルの件といい、出会った頃の態度といい、彼女からは何かと『一人の方が楽』という雰囲気が滲み出ているのを感じていた。

「旦那さまは、笑うととても可愛い子ですニャ。でも最近、その笑顔を見る事もあまり無いのですニャ。旦那さまがああいう風になってしまったのは、旦那さまの周りにあった環境や、過去の出来事も影響してますニャ。もちろん、ボクのせいで……という出来事も、山ほどありますニャ」

「……なるほどね。そっかそっか」

 そろそろティガレックスがいる位置が近い。彼の話を詳しく聞くのは、終わってからにしよう。

「さて、やりますか」

「がってんニャ! モルはヒーラーです故、安心して突っ込んでくださいですニャ!」

「頼りになるね! 今日は慣れない武器だけど……どうかな!」

 背中に担いだ狩猟笛を構え、そっと近づいて挨拶程度にと打撃を加える。太古の昔に出てきそうな、典型的ななんちゃらサウルスのような見た目をしたティガレックスが雄叫びをあげ、距離を取った弧白に真っ直ぐ突進してくる。

「あの動きは……二回連続突進!」

 旋律を奏でながら避ける。切り返してもう一度突進して来たのを、頭目掛けて打撃する。鈍い音を響かせ、ティガレックスが勢いよく仰け反った。

「いつ見てもティガレックスは天敵ニャ〜」

「ティガレックス、嫌いなの?」

「ボクも旦那さまも苦手ですニャ。過去に一緒に痛い目にあっているので、自然と苦手意識がついたんでしょうニャ〜」

「俺はガンランスのカモだからそんなに苦戦しないけど……そうか、双剣だとティガレックスが動き回って攻撃が当たらないのか」

 双剣や片手剣といった連続して攻撃を当てなければいけない武器や、大剣等といった後隙の多い武器は、動き回るモンスター相手に相性が悪い。逆に、ガンランスやランスにとっては意外と相性が良く、ではその武器は何が苦手かと言うと、飛んでばかりで降りてこないモンスターである。

 予備動作がハッキリしている分、派手な動きが多いティガレックスは必然的に双剣の天敵と言えるだろう。普段ガンランスで空を舞う弧白には、それがあまり分からない。双剣も使っていた時期はあるが、それでもガンランスよりかは使用数が少なく、使い方を完全にマスターしている訳では無い。

 先程から避け続けて攻撃を繰り返している弧白に腹が立ったのか、ティガレックスは怒りの咆哮を繰り出す。見えない衝撃波に、弧白は少し後ろに退いた。

「怒ってもいい事ないのにニャ〜」

「むしろ好都合!」

 腕が赤みを帯び、また突進をしてくる。一度目を避け、二度目を打撃、そして三度目があり、手前で止まり、尻尾で攻撃。後ろに下がってまた旋律を奏で、その勢いで前進、頭に打撃。これだけでも、ティガレックスがじゅうぶん怯む事を弧白は知っている。モルが太鼓をポンポン叩き、弧白にバフが掛けられた。

「ありがとう、モル君!」

「褒められたニャ……! モルは頑張っちゃうニャ〜!」

 ウキウキで攻撃を繰り出し、ついでにネコパンチを一発食らわせると、ティガレックスは後ろに仰け反って地面に倒れる。ダウンだ。

「ネコパンチでダウンって取れるんだ……」

「モルの拳は特殊なのですニャ! 名付けて、「属性ネコパンチ攻撃」!」

「凄いねぇ、モル君。うちのトモエにも覚えさせようかな、ネコパンチ」

「使えるととても便利と、そうトモエさまにお伝えくださいですニャ〜」

 話す余裕さえあるこの光景に、弧白は内心驚いていた。立ち上がったティガレックスを、モルは腕を中心に斬りつけていく。身代わりの技を繰り出し「ヘイヘーイ、こっちニャ!」とティガレックスを煽りつつ、後ろに下がる。

 モルは周りをよく見ている。それでいて、人によって立ち回り方を変えている。トモエとはまた違った立ち回り方であり、だが自然と息が合う。

「オトモアイルーって凄いなぁ」

 そう呟きながら、弧白は狩猟笛を改めて持ち直した。

 

 * * *

 

 さて、それではもう片方はどうなのか。

「なんてこと。とてもやりやすい」

「時間は……十分ちょうどですニャ」

 あとで皆が素材を手に入れられるようにと、ちょうどリオレイアを捕獲した後だった。

 モルとは違う戦術に、海未は大きな違和感を覚えていた。いつも飛んでくるはずの叱責や、出してくれるスキルも違う。同じヒーラーなのに、立ち回り方が変わるだけでこうも違ってくるのか、と痛手を突かれた気分になった。

「それでもやりやすいのには変わりないか……」

「戻りますかニャ?」

「うーん、火垂も終わったって言っていたし、メインキャンプに戻ろうか。話しながらゆっくり歩いて戻ろ」

「分かりましたニャ」

 トモエを両腕に抱き、海未は歩き始める。歩きながら、彼女は少しだけうずうずしていた。海未は性格上こういったモフモフに目がなく、思わず触りたくなってしまう程の好奇心が湧いてくる。そんな海未の心情を悟ったのか「撫でても構いませんニャよ」とトモエが海未を見る。

「ほんと? じゃあ失礼して……」

 歩きながらワシャワシャ、モフモフと撫で回され、「あうあうあう……」とトモエは変な声が出る。弧白でもここまで撫で回してくることが無いため、トモエ自身も慣れない感覚だ。

「……ふぅ。ありがとう」

「いえ、お気になさらずですニャ」

「じゃあ、お礼に……っと」

 海未がポケットから櫛を取り出す。

「櫛?」

「ふふ、動かないでね」

 そのまま乱れたトモエの毛並みを整え始める。巧みな手つきに、「ニャ……ね、眠気……?」とトモエは何故か眠気を誘われ、頭がうつらうつらと揺れ始める。

「寝ていてもいいよ?」

「ウニャ……そうはいきませんニャ。帰り道とは言えど……油断、は……ニャ…………ウニャァ……すぴぃ…………」

 しかしどんどん眠気が増していき、トモエは遂に抗えずに海未の腕の中で眠ってしまった。そのまま櫛で梳かしながら、海未はマグマの横を歩いていく。

「油断したね、トモエちゃん。私の櫛梳かしは、モルはもちろん、どのオトモアイルーやオトモガルクでさえも簡単に眠ってしまうんだよ……」

 まるで計画通りとでも言わんばかりに、海未は悪役のように静かに笑う。

「……ふふ、寝顔可愛い。モルみたい」

 頭を撫でながら、海未はメインキャンプへの帰路を歩き続けた。

 

 * * *

 

「あれっ、もう戻ってたの!?」

 弧白達が狩猟を終え、メインキャンプに戻ってくると、既に海未達はキャンプの前で談笑をしていた。弧白に気づいた火垂が「あ、先生! おかえりなさい!」と大きく手を振って迎えた。

「ただいま。海未さんも早いね」

「いやぁ、戦いやすいのなんのでさ……当の本人は、今は眠っているけどね」

 海未が腕に抱いているトモエを見せてくる。彼女の腕の中でスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている姿を見たモルが「洗礼を受けてるニャ……」と一言呟いた。

「洗礼?」

「旦那さまはよく、モル達を撫で回した後に櫛で毛並みを整えてくれるのですニャ。その時に来る眠気に、どんなに頑固で寝ないオトモアイルーでも全く抗えずに眠ってしまうのニャ……モルはこれを「洗礼」と呼んでるニャ」

「へぇ、凄い技術持ってるんだね!」

「元からオトモアイルーを撫で回すのが好きで……毛並みを整えている時にみんな寝ちゃうんだよ。なんで寝るのか、今でもよく分かってないんだよね」

 海未の服に爪を引っ掛け、しがみつくように眠っているトモエを見て「珍しい。こんなに無防備な姿は俺も初めて見たよ」とまじまじと見つめていた。

「寝かせたかったら私に言って。梳かしたらすぐ寝落ちするから」

「はは、そうするよ」

「お嬢、うちの村雨(むらさめ)にも今度やってくれませんか?」

「村雨……火垂のオトモアイルー? もちろん、いいよ」

「やったーっ」

「さて、帰ろうか。二人は捕獲してきたの?」

 弧白の問いに「私は捕獲したよ」「私も捕獲してきました!」とそれぞれが返答する。

「じゃあ、みんな捕獲してきた感じか。じゃあ後は回収班に任せて、俺達は帰路につこう」

「はーい! ねぇねぇ、今日は三人でご飯食べに行きません?」

「いいね、行こっか。ところで弧白さん、オトモ交代はいつまでにする?」

「ん? 明日の朝までとか?」

「じゃあその通りに。帰り道で寝かせちゃったから、トモエちゃんともう少しお話したくてさ。ちょうど良かった」

「モルは弧白さまとお話ですニャ」

「うん、色々聞かせて」

「いいなぁ、オトモ交代……」

「火垂もそのうちやろう?」

「! やりますっ!」

 焚き火の火を消し、三人は帰りの船が待つ停泊場へと歩いていく。曇り空はいつしかどこかへ消え去っており、暖かい日差しが三人を照らしていた。




アイスボーンのストーリーが終わりました!現在はマスターランクを上げつつ大発狂クソモンス(ティガレックス)周回をしております。ソロで狩り終えるまで、まだまだ終わらない……ッ!

栞や感想、ブクマお待ちしております!励みになります、いつも見てくれてありがとうございます✨
次回の更新は、10月26日昼12時です。

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