モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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無茶しないで

 夜、共に夕食を食べた後解散し、自宅に着く。買ってもらったおやつをもくもくと食べながら「弧白さま、モルはどうでしたかニャ?」とモルが尋ねる。

「そうだなぁ……賑やかでいいなって思ったよ。トモエとはまた違ったベクトルだから」

「それなら良かったですニャ!」

「それで、モル君。狩猟の前に話していたことを、もう少し詳しく聞かせてもらってもいい?」

 弧白は内心、複雑な気持ちになっていた。

 いい意味で言えば、普段プライベートに一切干渉出来ない海未の普段の様子を聞ける。だが悪く言ってしまえば、モルを利用して海未の素性を暴こうとしているような、そんな感覚だ。

「狩猟の前? えぇと、喧嘩した理由ですかニャ?」

「うん、そう。何があったのか知りたいと思って」

「あれは旦那さまが悪いですニャ! 繰り返し申し上げますが、モルは昨日の朝、「無茶しないように」と気遣っただけなのですニャ! そうしたら旦那さま、「無茶してない! いつもいつもしつこい!」って怒り出して……今まで喧嘩は何度もしてきましたニャ。でもあんな怒り方は初めてで……」

「なるほど? それを言う前日の夜……つまり、一昨日の夜って何か話してた?」

「ニャ、旦那さまの相談を聞いておりましたニャ。あの時のことを思い出して……アッ」

 ハッと口を塞ぐモル。言ってはいけない事だったようだ。ここで聞くのを止めていればいいものを、弧白は自身の悪い癖が出てしまい、「あの時のこと?」と問い詰めるように口にしてしまった。モルはまずい、と言わんばかりに冷や汗をかき、「ウニャ、やらかしたニャ……旦那さまの許可なしにお話していいものなのか。まぁ、口外しないというなら」と指同士をくっつけながらもごもごと呟いた。

「約束するよ」

「ニャニャ〜……」

 モルはしばらく口を噤んでいたが、やがて意を決したように口を開き、話し始める。

「……実は、旦那さまは過去に一度、お二人のような一緒に狩猟をする仲間がおられたんですニャ」

「えっ、そうなの?」

「はいですニャ〜。お名前は伊月(いつき)青嵐(せいらん)小春(こはる)。皆旦那さまと同世代の子達で、旦那さまと同じ年にハンター試験を受け、同じ年に受かり、同じ年に認定されたハンターなのですニャ」

「へぇ、本当に同期だったんだ」

「四人は昔から一緒に遊んでいたくらい仲のいい子達だったのでニャ〜。四人でハンターごっことか、よくやっていたニャ」

「そんなに昔から?」

「モルは旦那さまが生まれる前から、旦那さまのお父さまの傍におりましたので、長い付き合いですニャ〜。前まではこんなに小さな子供だったのに、いつの間にか大きくなってましたニャ」

 モルが手を伸ばし、当時の彼女のおおよその身長を示す。今のモルが仮に一〇〇センチ程度だとすれば、示した位置はそれよりも二十センチほど高い。相当小さい頃なのだろう。

「そんなに昔から!? ってことは、海未さんは今何歳……?」

「今年の三月で十八歳になりましたニャ。それでも、まだまだお子ちゃまニャ〜」

「年下とは言ってたけど、まさか自分より三つも下だったとは……それで?」

「はいニャ。とある日に、四人でいつものようにモンスターを狩りに渓流へと出かけたのですニャ。その時はモルも一緒だったので、よく覚えておりますニャ。

 そうだ、これをお話する前に……弧白さまは、『ラギアクルス』というモンスターをご存知ですかニャ?」

「ラギアクルスって、海竜種としてかつて存在していたあの? 最近は出現数が極小数に減っていて、絶滅に近いって……」

 そこまで自分で言って、弧白はバルファルク戦に挑んだ時に海未がポツリとこぼした言葉を思い出した。

『私が全員殲滅したから』

 ───もしやそれは、ラギアクルスのことでは無いだろうか?

「そのお顔を見るに、旦那さまは何かお話していたようですニャね」

「うん。一週間くらい前に、バルファルクに挑んだ時があったんだ。好きなモンスターの話になって、その時に「私が殲滅した」って、海未さんが」

「ああ、それはラギアクルスの事ですニャ。旦那さまも詰めが甘いですニャね〜」

「……やっぱり、そうなんだね。続きを聞かせて」

「ニャ。伊月さま達は狩猟に出かけたその日、ラギアクルスに偶然遭遇したんですニャ。わけも分からず襲われ、三人は……そのまま」

「そ、そんな……でも、ただのラギアクルスに?」

「旦那さまも重傷を負っていながらも、たった一人で討伐したのですニャ。その時の傷は、未だに身体にありますニャ。

 ああ……その個体は、本来なら渓流にいないはずの「獰猛化」と呼ばれる特殊な個体でして。何も知らない村の人達は、「三人は犠牲になったけど、生きていてくれて良かった」と旦那さまを英雄扱いしたんですニャ」

「じゃあ、海未さんが複数人で狩猟する事を嫌がっていたのはそのせいだったって事……?」

 どれだけ辛い経験をし続けて、彼女は戦いの場に立ち続けていたのだろう。想像し難い過去の話に、弧白は言葉を失っていた。

「ウニャーッ!? 弧白さま!?」

 不意に零れた涙を止められず、弧白は袖で拭う。自分でも何故出てきたのかが分からず、「あれ、なんだこれ……」と手のひらに残る雫を見つめていた。

「何故泣いているのですかニャ!? モルは何かしてしまいましたかニャ!? ご、ごめんニャさいですニャァァ!」

 つられて泣きそうになっているモルの頭に手を置き「違うよ、モル君のせいじゃないよ……大丈夫、大丈夫だから」と弧白は必死に笑った。

「弧白さま、もしかして感受性がとても高い方ですかニャ?」

「かも、しれない。なんだか、その時の海未さんの気持ちを考えると、少し心にくるものがあって。俺も、似たような経験をしたことがあるからさ……」

「ニャ、弧白さまもですかニャ? このようなことを聞くのは失礼かもしれませぬが、どなたか人を亡くされた経験が……?」

 顔色を伺うように尋ねるモルに、弧白は首を横に振り否定する。

「ううん、違う。俺の場合は、俺の不甲斐なさで人を死なせかけたんだよ。新大陸にいた頃に、二度もね」

「お辛い経験をされたのですね……何かあったら、モルがいつでも相談に乗りますニャ」

「うん、ありがとう。ねぇモル君、海未さんのことは好き?」

「ニャ? もちろんですニャ。手間暇かかるお方ですが、モルは旦那さまに雇われて後悔したことはありませんニャ」

「じゃあ、海未さんに謝って仲直りしよう?」

「ニャ〜……モルと旦那さまは、基本謝らずに自然と仲直りのパターンが多いですニャ」

「そっか。でも、モル君は良くても、海未さんが気にしているかもしれないでしょ? 海未さん、凄く悩んだ顔してたよ」

「ニャッ!? だ、旦那さまにそのようなお顔をさせたモルって……ニャァ……」

 再び目が潤みだし、今度こそ泣いてしまったモル。弱ったな、人に泣かれるのは好きじゃないんだよな……と思いながらも、弧白は「大丈夫、きっと海未さんも許してくれるよ」と励まし続けた。

「許してくれますかニャァ……」

「うん、俺も協力する」

「ありがとうございますニャ、明日旦那さまに謝りますニャ。それと、これはボク個人のお願いなのですが……」

 言うべきか迷っているのか、モルは再び口を噤んでしまう。しかし先程よりも早く口を開き、こう言った。

「もし、旦那さまが何かを思い出しているような仕草をしていたり、辛そうな顔をしていたら……その時は、ぎゅっとして、お話を聞いてあげて欲しいのですニャ。きっと旦那さまは「何も無い」「大丈夫」とか言って突っぱねるかもしれませんが……。

 旦那さまは昔から、人に甘えるということを知らない子ですニャ。それが出来るのは弧白さましかいらっしゃらないと、ボクは思いますニャ」

 自分にしか出来ないこと。

 話を聞くことなら誰だって出来る。だがモルの言っていることはそういう意味ではない。ずっと一人で抱え込み、誰にも話さずに生きてきた彼女の傍になるべくいてあげて欲しいという、彼なりの願いだった。

「分かった。俺が出来ることならなんだってするよ」

「頼りになりますニャ〜。やっぱり弧白さまは、あの子にピッタリですニャ」

「どういうこと?」

「そのまんまの意味ですニャ〜。いつか分かる日が来ますニャ」

 ふふふ、とモルは意地悪そうに笑った。

「時に弧白さまは、旦那さまの事をどう思っているのですニャ?」

「え、俺? 俺は、そうだな───」

 

 * * *

 

「っくしゅんっ! ……誰か噂してるな」

「風邪ですかニャ? 今日はもう休まれては……?」

「大丈夫。ありがとう、トモエちゃん」

 場所は変わり、海未の家。本を読みながら、海未は心配するトモエにそう返した。

 トモエは基本、誰かのプライベートに干渉することは滅多にない。この前弧白がショックを受けていた時も、トモエは何処吹く風といった雰囲気だったことから、彼女の性格故の事なのだろう。

 海未も海未で、ゆっくり本が読めるのはいい事だが……こうも静かすぎると逆に違和感がある。いつもうるさい自身のオトモアイルーは、今トモエの主人の所へ出張している。

 余計なことを喋っていないといいけど、まああいつなら話してるだろ、と彼の口の軽さはハナから信用していない海未であった。

「……ねぇ、トモエちゃん。後で少しお話しない?」

「ウニャ? もう少しで武器のお手入れが終わりますので、その後でもよろしいですかニャ?」

 背を向けていたトモエがくるりと振り向き、愛武器を海未に見せる。「うん、ゆっくりでいいよ」と返し、海未は本を閉じて本棚に仕舞う。スケッチブックと鉛筆、消しゴムを取り出し、傍で武器の手入れをしているトモエの後ろ姿のスケッチを始める。

 鉛筆が紙に擦れる音が部屋に響く。普段とは違う光景に、海未はやはり違和感を覚えていた。それもそうだ、自分のオトモアイルーでは無いのだから。だがそれ以上に、普段モルがしてくるような事をトモエが一切してこない事が、なんだか落ち着かなくて仕方がない。

 こうして海未がスケッチをしている時も、モルはだいたい邪魔をしてくる。邪魔というか、ちょっかい掛けというか、今日は何描いてるニャ? ここには影が無いとおかしいニャ、と逐一指摘してくるのだ。海未もある意味助かっている部分はあるのだが、それでも鬱陶しい事に変わりはない。

 だが今は当の本人がいない。それが海未にとって、どうしようもなく寂しかった。

「……よし、出来た」

「海未さま、終わりましたニャ。……と、これはトモエですかニャ?」

 とてとてと駆け寄ってきたトモエが、完成した絵を見ている。武器を手入れしているトモエが丁寧に描かれており、「そう、後ろ姿が可愛かったから」と海未は頬杖を付いて笑った。

「お褒めに預かり光栄ですニャ。ふふ、細かいところまでよく描けておりますニャ」

「でしょ? 良かったらあげるよ、記念に持って帰りな」

 海未はスケッチブックから切り離して筒状に丸め、棚にあった小さな丸筒に入れてトモエに渡す。

「はい、どうぞ」

「よろしいのですかニャ? ありがとうございますニャ、大切に保管いたしますニャ」

「どういたしまして、そう言ってもらえて嬉しいよ。ほら、膝においで」

「ですが、海未さまのお膝の負担が……」

「気にしないでいいよ。正直、弧白さんの前だと気が抜けないだろうし、今だけは楽にしてて欲しい」

 メルが傍に寄ってきて座る。トモエに気を使っているのか、いつもなら撫でてください、と腹を見せるメルは、今日は特に要求もせずにそのまま顔を床に付けて眠ってしまった。

 メルは自分よりも他の子を重んじる、そんな子だ。海未もそれを分かっているため、特に気にはとめなかった。

「……そういえば、海未さまのお部屋は絵が沢山貼ってありますニャ」

「ああ、うん。私が絵を描くのが好きだからね」

 トモエが見つめる壁にはコルクボードが幾つも並べられており、そこには数え切れない程の鉛筆画が所狭しと画鋲留めされていた。その中にはモルやメル、今まで出会った人達の絵まで飾られており、「おぉ……」とトモエが感嘆の声をあげる。

「どれもこれもお上手ですニャ。旦那さまに描かせるとろくな事にならないですニャ」

「そんなに……?」

 彼の描いた絵を見た事がないため想像しがたいが、トモエが言う限りではクオリティはあまり期待できないものなのだろう。人の不得意を笑うことは良くないと思い、海未はあえて何も言わなかった。

「海未さま」

「ん?」

「何かございましたら、トモエにいつでも相談してくださいニャ。トモエは海未さまの味方ですニャ」

「……ふふ、ありがとう。じゃあ、せっかくだから一つ相談してもいい?」

「早速ですニャね。もちろんですニャ」

 トモエを撫でながら、海未は「ありがとう」と笑う。

「昨日の朝、モルと喧嘩してさ。無茶しないでって言われて、ちょっと色々思い出しちゃって、思わずキツく言い返しちゃったんだよね」

「仲直りはされたのですかニャ?」

「……ううん、まだ。謝りたいけど、どう言ったらいいか分からなくて。あの子とはよく喧嘩するけど、特にお互い謝りもしないで自然と仲直りしているからさ」

「では、それでよろしいのでは?」

「それがそうもいかなくてね。キツく言い返しちゃったって言ったじゃん? それが結構怒鳴る勢いで言っちゃって。自分でもあんなに怒ったのは久しぶりだったし、それをモルに向けてぶつけたのも初めてだった。そんな私を見て、モルもきっと怖かったと思うんだよ……だから謝りたいって思ってるの」

 モルに「無茶だけはしないでニャ」と言われた時、海未には伊月達の事がフラッシュバックしていた。

 無茶をしなければ救えない命だってある。その事を、こいつは知らない。そう思って、思わず強く当たってしまったのだ。

「……お二人には、お二人なりのそれぞれの思いというものがあります故、トモエが口出しをするのは野暮だと承知の上ですが……トモエは、海未さまのような心持ちを尊敬致しますニャ」

「え?」

「普段なら謝らずに自然に仲直りしているところを、相手を嫌な気持ちにさせてしまったから謝りたいと……そう言える海未さまは、すごいと思いますニャ」

「あ、ありがとう」

「だからと言って、意地を張っていては解決しないですニャ。明日の朝、トモエも協力しますニャ。そこで謝って、終わらせるニャ」

「……うん、ありがとう。少し心が軽くなったよ。相談して良かった」

「お安い御用ですニャ。さ、そろそろ床に就いて、明日に備えましょうニャ」

「そうだね、そうしようか」

 オトモ専用のベッドで眠ろうとしたトモエを「はい、ストップ」と優しく抱き上げ、自分のベッドに連れていく。

「海未さま、トモエは一人で……」

「せっかくだから、一緒に寝ない? ごめんね、私意外と寂しがり屋みたいで、誰かが隣にいないとあまり眠れないの」

「ふむ……そういうことであれば」

「ありがとう。メル、寝るよ」

 メルに声を掛け、海未はベッドに寝っ転がる。反応したメルがベッドに上がり、枕元に座って眠りにつく。

「メルさまも御一緒なのですね」

「そう。うちはみんなで一つのベッドで寝てるんだ。オトモ用のベッドを用意してるのは、たまにモルがそこで昼寝してるからなの」

 おやすみ、と軽く伸びをして目を閉じる海未。秒で寝息を立て始める海未に驚きながらも、トモエは恐る恐る海未の腕の中に収まる。

「……暖かいニャ……」

 新大陸から現大陸に戻ってきてしばらく経つが、こうして人の温もりに触れるのはいつぶりだろうか。

 そんな事を思いながら、暖かい腕の中で心地よい眠気に襲われ、トモエもつられて眠ってしまった。




ブクマが1件増えてて飛び上がるほど喜びました。ありがとうございます  ✨
ここで出会ったのも何かのご縁でございます。ぜひ最後までお付き合いいただけると幸いです。

さて、海未のかつての仲間達の名前が出てきましたね。実は三人のの名前は軍艦の名前から1文字ずつ取って名付けられているんですよ〜。名前と人物像は特に関係はありませんが、良ければ考えてみてくださいね。
もうすぐ11月に入りますが、暖かくしてお過ごしください〜!!

栞や感想、ブクマお待ちしております!励みになります、いつも見てくれてありがとうございます✨
次回の更新は、11月2日昼12時です。

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