覚者と世界   作:朱莉

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きっかけ

 

 

「私はお前にそんな顔をしてもらいたかったんじゃない」

 

 咄嗟に出た言葉に驚いた。口から漏れた言葉から逃げるように私はあいつから離れ自室に帰った。逃げたといってもいい。それくらい驚いた。

 幸い……といえばいいのか、あいつには聞こえていなかっただろうが。

 

 あいつと最初に戦った時以来、私はあいつを懇意にしていた。興味深かったといってもいい。だからこそチャチャゼロとの遊びも止めなかったし、何度来ても嫌な顔もせず入れさせた。仮契約に至っては深い考えではないにしろ繋がりが欲しいと思ってしまったからだ。今思えば浅はかだったと言ってもいい。

 

 あいつは「竜の心臓」と言っていた。正しくは鼓動だったか、自らの心臓がない事と関係があるのだろうか。そもそもわからないことが多すぎて何を整理すればいいのかよくわからない。一度あいつの記憶でも覗くべきか……?

 

 覚者というのはみんなああなのか? あいつが持っていた指輪も謎だらけ、その上あいつは自分から説明なんてしようともしやしな……いや、そういえば一切聞かなかった私も悪いのだろう。

 思考を一区切り終えて振り返れば茶々丸が待機していた。

 

「マスター、ユキさんから伝言を承りました」

「ん? あぁ、わかった。なんだって?」

「【少し出かける、飽きたら帰る】だそうです。それと」

「それと?」

「【何か悩んでいるなら言ってくれないとわからない】だそうですよ」

 

 それだけ伝えると茶々丸は部屋から出た。ふっ……そうか、じゃあ……そうさせてもらおうか。

 

 

 

 

 知り合いも増えてホクホクとエヴァの家に戻れば彼女が珍しく出迎えてくれた。少し雰囲気が明るかった気もするが大丈夫と問いても多分本心は語らないだろう。

 そしてまたチャチャゼロと遊んだ。弱いくせに気が抜けなくて楽しいんですって。

 遊び終えたときエヴァが近くにおらず茶々丸に尋ねてみれば少し出かけているらしい。私も近場にいたのだから言ってくれればいいのに。

 

 またもや学園長に呼ばれたので向かう。今度こそ学園のことについて話してもらえるのだろうか。

 

「学園長、きたよ」

「あぁ、来たかの。今回はエヴァも居らんからやっとこさ話せるのぅ」

 

 しみじみと言う学園長に、あぁやっぱり疲れてるんですねとか思った私は悪くないと思う。

 

 

 深く説明しても私が理解しにくいと思ったのか、はたまた私には必要ではないと思ったからなのか、それはわからないが学園長は掻い摘んで説明してくれた。

 学園というものは子が未来に向けて学ぶ処だと。私にはそれを学生に紛れて手助けして欲しいと。私に経験がないということもわかってくれているのでついでに楽しんで来いと。孫娘も居るから仲良くしてくれとも。

 そう言われた。

 

「あぁ、それとじゃの」

「まだ何か?」

「近々新しい教師が来るようでの。まだ年齢的に幼いんじゃが一応魔法関係者じゃ」

「教師というのに年齢は関係ない?」

「ちょいとワケアリなのじゃ。やってくれるかの?」

「私一人で救えるヒトなんて限られている。それでも?」

「それでも構わんのじゃよ。あぁ、それと夜間警備に参加してみる気はないかの?」

「構わない。けれどやりたい事がある、それが済んだらやる」

「急がずにゆっくりしてくれて構わんよ。住む場所も確保したからの、これがその場所と鍵じゃ」

「……。ありがとう、それではまた」

「簡単な家具は置いてあるから好きなように過ごすといい。必要なものは置いてある。足りなければ好きに追加しておくれ。ではまたの」

 

 やりたい事なんてひとつしかない。そもそもそのために言葉を学んだのだ。

 学園長から手渡された地図と鍵と共に帰路に着く。

 

 帰宅……というのも違和感しか感じないが宛てがわれた部屋はとても質素だった。まるであの世界での私室そのままのようで思わず笑みがこぼれた。

 ベッドと棚、それから調理場と器具に掃除道具。その他生活するにあたっての最低限の物。それだけしかないものだからただでさえ広い部屋が尚且つ広く見える。内装はエヴァに相談でもして追加しようか。

 

 思えば割と馴染んでいる自分に吃驚だ。最初は訳も分からず少女を救えば問い詰められてそこを勘違いされてタカミチに拾われて、初日から大変な思いだった。それでいてとても楽しい思い出だった。

 新しい環境というのを体験するのはやっぱり楽しい。そんな楽しさをこれから来るであろう先生に共感してもらいたい。それが今の私にできるせめてもの恩返しなのではないだろうか。まぁ、彼らにそんな気はなくもっと別なことを期待しているようにも思えるが……。

 

 そして新しいといえば学園生活。どんなものなんだろうか、タカミチが言うには知識を学びやりたいことを見つける。そういうものだと教えてくれた。そんな場所で私に人の手助けを求めるなんて……こういうのは深く考えるだけ無駄なのだろう。気楽に考えよう。

 

――そうだな、それがいい。

 

 !? 突然聞こえた声に咄嗟に反応するが誰も居ない。気配もしない。だがこの声は……。

 

――いい反応だな。顔向きも合っている。流石だな。

 

「エヴァ、悪ふざけはやめて。心臓に悪い……ないけど」

 

――……そうするよ。 「っと、驚かせたのには謝ろう。すまなかった」

 

 にょきりと私の足元にある影から私のものではない手が生え、エヴァが出てきた。いつの間にか私の影に潜んでいたのか、こちらの魔法の効果か何かわからないが彼女は私の影から現れた。便利なものだなぁと軽く感心する。

 

「いいよ。貴女にここを教える手間が省けた。それでなんの用?」

「少し聞きたいことができた」

「私が答えられそうなものなら」

「お前が覚者になった出来事。それとついでにパクティオーカードの扱い方だ」

 

 私の事? そう問われて初めて気付く、そういえばエヴァには言ってなかった。てっきり学園長辺りが言ってくれているものだと安心しきっていた。同じ話をしても彼女にするには浅すぎる。もっと深く話してみよう。覚者のではなく私のお話を。

 

 ちょっと長くなるよ? と一呼吸入れて話し出す。私の世界の事を。自分の記憶からも擦れ掠れの一番最初の記憶を。彼らには伝えず彼女にだけ伝える私の過去を。

 

 

 

 

――私の居た場所はとても大きいと言えない程の小さな漁村だった。

 平和だった私の村に二人の衛兵が来た。内容は覚えてないけど確か「身に覚えのあるものは首都へ来い」だったかな。私には関係ない事だと聞き流して今日は何をしようか、明日は何をしようか。そんなことを考えてた。

 だけどあいつは現れた。遠くからでもわかるくらい大きくて遠くからでも聞こえるくらい大きな声でそいつは降り立つ。

 橋を壊し、家を壊し、何かを求めて降立った。村は混乱に塗れ、或者は戦い、或者は逃げた。衛兵は逃げた方だったね。

 私はそのとき無我夢中だった。なんでそうしたのか今でもちゃんとした答えはわからない。

 

 私は逃げた衛兵の落とした剣を拾って竜の息を超えてその剣を叩きつける。鱗なんて貫通しないから刺さるわけもない、けどもめげずに繰り返す。勝てる筈がない。そんなの関係ない。私はそれを繰り返した。

 そして私は竜に払い除けられて吹き飛ばされる。何度も地面に叩きつけられて痛みで気が飛ぶがそれ以上に痛んで苦しんだ。だけど私は笑ってた。吹き飛ばされる直前に決死の覚悟で構えた剣があいつの手に刺さったから。その程度だけど私は満足気に呟いた。ざまあみろって。

 

 それをね、あいつは笑ったんだ。面白いものを見つけた、新しい玩具を見つけた子供のように。そうして口を開く。いや頭に響いたんだったか。

 

「お前こそ、選ばれた者だ」

 

 何か呟いて器用にも私の胸に爪をあて私の心臓を引き抜く。鈍い痛みが私を襲い、意識なんて留められる訳が無い。私はそこで気を失った。私、死ぬんだ……。そう思わずにはいられなかったけどね。

 

 でも目が覚めた。今まであったことなんて全部悪い夢だったんだ、そう思おうとしたけどそれは無理だった。周りを見れば傷ついた人がたくさんいた、痛みに体を反らして唸って。

 竜の事を思い出せば胸が痛み光った。何もないその場所を示すかのように強く。

 

「私を倒せ」

 

 もう何度言われたかも忘れるくらいその言葉を言われた。奪われた心臓を取り返す為に――

 

 

 私の長い説明に視線を逸らさず彼女は聞き入っていた。

 

「それでお前には心臓がないのか?」

「そう。だけど違う。これは繰り返す始まりの話」

「始まり?」

 

 首を傾げる彼女は尤もだと思う。私だってそうだったから。

 

 

 それが心臓を取り返しても何度も続くなんて思うわけがないじゃないか。

 一度目は世界の王になり、二度目は世界の王を諦め、三度目は逃げ、そして……。

 二の句を告げようと口を開こうとしたらエヴァに人差し指で唇を抑えられた。

 

「いや待て、今はいい。今度じっくり聞かせろ。今全部言われても整理がつかん」

「それもそうだ。んー……あとカードの使い方、だったか」

「何も言わずに使ってみても面白いとは思うんだがもしもの時のためだ。使い方は知っておいて損などない」

 

 いいかよく聞けよ? そう前置きをして話し出す。念話(テレパティア)のやり方、パートナーの召喚(つまりは一方通行)、簡潔ではあったが試し試しだったのでわかりやすくて助かった。私もマスターって呼んだほうがいい? とか冗談で言ったら好きにしろと言われた。時と場合ってやつね、了解。

 

「今度家具とか買いたいんだけど一緒に来ない? そもそも場所よくわからないから茶々丸を借りてもいい?」

「ふんっ……いいだろう」

 

 にんまり笑う彼女は板についてるというか見た目相応で可笑しくて私も笑ってしまう。

 電子機器に関しては茶々丸によく聞くにしてもせめて生活感は欲しいよなぁ……。

 

 

 

 

 何年越しの懺悔か……そう思わせる程の状態で口開かれた内容は言葉では浅く、感情では深く聞いてるだけのこちらを動揺させるには十分だった。表情に出るほどではないにしろ驚いた。こいつが言霊を使えたら相当の力になるんじゃないかと思える程には。

 

 ジジイ達にも同じことをしたのかと聞いてみればもっと浅く説明したらしい。覚者とわかるように軽くだったらしいから相当浅いのだろう。長く生きれば生きるほど説明する量も増えるから面倒だ、あいつがそう言ってがぼやくのも尤もだった。

 覚者……ただ竜の遊びの一環でなっているのだと思っていたがなかなかに深そうだ。

 

 あいつの影に潜っている間にイイ情報が得られた。

 まずは『幼い先生』だな、私に言うよりも先にあいつに伝えたということは私には知られたくない内容だったようだし……帰ったら茶々丸に探らせるか。

 

 それとあいつは人目を避ける癖があるらしい。私の家からジジイのいるところまで人気(ひとけ)があったのにも関わらず一切遭わなかった。人払いの術式だと不信に思う奴もいるだろうがあれは長年の技術故、それを普通だと思わせるくらい日常的にやっているようだった。

 あのクラスに来るのにあんな調子じゃ早々に目をつけられるぞ……。

 

 何があるのかわからないにしろ力を溜め込むいい理由にはなった。新しい従者もできたことだし……な。

 

 





お待たせしました。

子供先生がくるそうですよ? とやっと原作開始フラグが発生。そして主人公は寮ではなく別居が与えられました。

エヴァが力を溜め込むきっかけになりました。
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