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――夜の桜通りに吸血鬼が出る。
これは最近女子寮で流行っている噂話だ。女の子は噂好きとは言うが知る人も少ない噂だ。何しろ昔から似たような噂もあって広がり方がいまいちらしい。
私は女子寮に住んでいないが知っている。何故かといえばカズミが教えてくれた。彼女は面白い話を見つけては私に教えてくれる。流行に疎い私にも噛み砕いて、まるで体験したかのように面白可笑しく話してくれる。あんまりにも怪しい噂だったからチサメが「あんまりガセネタ吹き込むなよ?」とカズミに言っていた。でもこれ……多分ガセじゃないと思う。
その噂を聞いた頃の話だ。最近、エヴァが一頻り何かに夢中になっている。私一応従者のはずなんだけど一切教えてくれない。聞いても「お前が関わるほどではない」で終わる。取り付く島もない。
そして話は冒頭の噂話、吸血鬼が桜並木に出没する噂に戻る。夜な夜な女性の血を吸いにやってくる。女学院がある麻帆良では餌に事欠かないだろう。誰かは知らないがいいところを狙ったものだ。
そんな噂があることをエヴァに伝えれば満足そうに頷くだけ。茶々丸もほんのり嬉しそうに彼女を見る。誰の仕業かすぐさま理解した。なんでもこれからやってくる先生のための行動らしい。私が関わらなくても問題ないってそういうことですか、そうですか。
やり過ぎないようにね? と伝えたけれど笑みを一つ返された。多分何を言っても無駄とらしい。もしも止めたかったら好きにしろとまで言われた。
そしてその噂が起きてから暫く経ちもう一つの話題である新しい先生が来る日になった。
カズミはどんな先生なのかちょくちょくタカミチに尋ねるのを見た。セツナたちは「こちら側」ということくらいしか知らないらしい。私? 私もあんまり知らなかったりする。そもそもなんでこんなに皆が皆楽しそうにしているのもあまり理解できていない。フウカたちが楽しそうだから釣られてそう思えるくらいだ。タカミチの知り合いらしくどんな子か聞いてはいるのでみんなよりも詳しくはあるだろうが、こどもであって、先生をしなければいけない程度しか知らない。あとは名前くらいか。そりゃあ何かあったらフォローしてくれとは学園長から頼まれたけどさ。
私が知っていることはチサメには話した。学園長に頼まれたことも。困る前に相談しろって怒られた。最も過ぎて何も言えないね。
流石に会ってみないとどこまでフォローしたらいいのかわからない。しかもエヴァがエヴァで喧嘩売る気満々だから尚更難しい。仮契約してしまったのは早計だったかもしれない。それで助かった事もあるから悪いわけじゃないけど。
今朝、ホームルームの時間前にアスナが不機嫌な状態で登校してきた。コノカが必死に落ち着かせていたから大丈夫だと思うけど……。「あのガキが先生?」とか呟いたけれど……まさかね。
ホームルーム直前にフウカたちが先生が通るであろう場所に罠を仕掛け始めた。こども相手になんてことを……と思ったけれど知らないからしょうがないか。エヴァもつまらなさそうに本を読んでるので私も若干気を静めよう。これがこのクラスの歓迎方法だと学んだ。騒がしくなりそうだからチサメに耳栓を借りて本を読む。その際にチサメも浅くだが耳栓を付けた。セツナたちも騒がしくなるのを見越して我関せずを通していた。
そしてその時はやってくる。扉を開けて赤毛の少年が教室に入ろうとすると黒板消しがその頭に落ちる。そのままぶつかると思えば一瞬だけ黒板消しが宙に浮く。あ、早速やらかした。私の席から見える範囲だと生徒でそれに気付いた様子はない。その事に安心していると黒板消しが先生に直撃する。白っぽい煙が先生を包みその後も罠に引っかかって、最終的に教卓に激突する。ギャグのように全部引っかかったな……というか大丈夫かな?
ネギくんは割と頑丈な子のようだ。まともに受身を取っているようには見えなかったけれどピンピンしていた。クラスのみんなには心配されてたけれど。
その後はしずな先生が取り纏めネギくんは自己紹介をし始める。そのあたりでチサメが両手で耳を押さえる。あ、耳栓越しでもやばいんだね。私も後を追うように耳を押さえすぐさま音の衝撃が走る。同性とは言え高音は辛い。
きりのいいところで耳栓を外して事の成り行きを見守ることにした。
案の定、彼はクラスにもみくちゃにされた。
その後はトントン拍子で進む。途中アスナが突っかかる場面が見れたけれど特に問題はなかったかな? あったとすればHR終了後タカミチ先生に呼び止められたくらいか。内容としてはネギ先生を気にかけてくれだったか。エヴァが何かやらかすようなので私としては胃が痛む話なんですけどね。了承したけれども。
休み時間になるとネギ先生から私は呼び止められた。名簿と見比べながら私のことを探していたようだった。
「ユキさんちょっといいですか?」
「初めましてネギ先生。タカミチ先生から聞き及んでる。大変だと思うけれど私でよければ力になるから」
「わぁ、ありがとうございます!」
「あまり派手に力を行使しないよう心がけて」
「き、気をつけます……あの、それでなんですけど」
「なんでしょうか?」
「アスナさんのお部屋に泊めてもらうように学園長先生から言われたのですが……もしもダメだったらそちらに行ってもいいですか?」
「……」
「どうかしましたか?」
「あ、いや。わかりました。もしもダメなら私の部屋に来て」
学園長は何を思ってアスナの部屋を提案したんだろうか。確か同じ部屋なのはコノカで彼の孫なはず。仮にも男性であるネギを同室に導くとか……考えるだけ無駄なのだろうか。朝の状態を見る限り辛そうなので同室の件は同意する。自宅の場所をメモに書いて彼に渡す。彼はそれを受け取ると鞄にしまい去っていった。
タカミチから聞いた通り彼は素直で良い子だった。ただちょっと魔法に関して無頓着でもあるけれど。年相応とも言えるか。
エヴァはそんな彼を襲おうとしているのだけれど……彼には注意を促しておこうか。もしも相談されたら答えることにしよう。好きにしろとは言われているのでそうすることにする。すぐに彼女も襲う気はないようなので注意しとけば大事には至らないだろう。彼女の性格上噂を蔓延させてから行動しそうだし。
「なぁ?」
「ん? チサメ、どうかした?」
「やっぱりさ、十歳のこどもが先生っておかしくねぇ?」
「私もそう思う。けど彼の出身地だとそれが試験なんだってさ」
「誰情報?」
「タカミチ」
「あぁ、そう。……深く考えないようにするわ」
「悩み過ぎないようにね」
「お前もな」
そういう彼女の背中はとても疲れているように見えた。
噂出るの早くない? → しばらく前からあったらしいので出してしまいました。
ネギの生徒名簿 → 主人公は左下(その分余白多めにしないとアレが書けませんが)タカミチからは「きっと力になってくれる」と書いてある。
最後の千雨の台詞を入力したら( ´∀`)オマエモナーって出た。このままでも良いと思った(錯乱)