覚者と世界   作:朱莉

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前準備

 

 気分が高まり割りとここ最近の事は覚えていない。だが今更それを考える必要は皆無なのだ。

 罪は幾らでもある。この世界ではないに等しくとも起きたことは直せない、正せない。それが実りあることだとしても全てを掬う(救う)ことは不可能なのだ。人であれ、私のような化物であれど。所詮は闘争に生きる狂人なのだと理解した。

 準備するだけでとても愉しいのだ。それを振るえると思うだけで笑みが溢れる。顔に張り付くような深い笑みが。私はここまでの狂人だったのか。向こうの世界では生きるためと行使した力は、根本としては邪な考えであったのかと己を恥じた。そう考えることで罪の行き場を定めているだけだと思うと空回りする。やはり私は人にもなれない、竜を殺すだけが取り柄の血生臭い兵器か。

 思考が悪い方ばかりに進むが手は作業を辞めない。体は正直だとよくいったものだ。頭と体は別個体とも言える。

 

 と、長く言ったものを軽く言えば日常生活でたまったエヴァに対する鬱憤をはらしたいだけである。あの拷問に対する割合は相当あるが。ちょっとシミュレーションを描きすぎてここ最近話し掛けてくれたみんなに悪い事をしたと今更ながら思った。一人楽しんでたせいでとても気まずい。なので、一頻り落ち着いた頃に三人にはとりあえずではあるが電話で言い訳紛いの謝罪をした。その際に食事のお誘いがあったので今は浮かれている。他のクラスメイトも心配してたようで本当に申し訳なかったと謝り倒した。

 

 ネギくんは先生として私を何度か気にかけてくれていたので変なタイミングで割り込んで誤射されても文句は言わないようにしよう。彼が主に使う魔法の一つに武装解除があるが、もし剥かれても恥じるものはないし、逆に悪いと思うまであるのでタカミチに防ぐ術を聞いておこう。力任せに防げるなら良いのだけど。

 

 

 

 別日。学園長やタカミチに停電の事やネギくんの武装解除(と言う名の暴走魔法)の防御法を聞いた。前者はチサメから聞いた内容とほぼ同じ、後者は範囲内に居ないことが一番だと頼りにならないことを言われた。理不尽の極みに近い魔法なんだねあれ。魔法が便利なのはとても理解したが彼にそれを教えた人物を私は絶対に許さない。

 対策として考えたのが一つ、武装解除の威力がどうだかわからないが火炎衣を纏って短期決戦を仕掛ける。……はて、ふと思えば何故ここまで躍起になっているのだろう。火炎衣は顔を隠すのに向いているとはいえ、あれは文字通り火炎に包まれる。体力的にも辛いし、見た目的にも悪者だ。強さ的にはありだがインパクトが強すぎて嫌われる技だ。街でやると有能すぎる衛兵に即組伏せられる技だ。先生というか子どもに見せる技ではない。エヴァは腹を抱えて笑いそうだが。

 もう素手でいっか。痛まないように布を手に巻くだけで、素性を隠す必要も無いだろうから当て布程度を仕込むだけ。枝一つで魔法使えるから持ちやすいの拾って。ネギくんの武装解除は下着になるだけっぽいし水着とか仕込んだら多分防げそう。でもその目論見が外れて防げなかったら全裸……流石に辞めとくか。

 その考えなら武器が無くなるから軽装になるな。服装も……制服でいっか。そもそも隠す必要本当にないな。なんで今まで……あぁそうか使う魔法が悪役まっしぐらなのか。子供向けの表現じゃないからなぁ。他人の命削って射つ矢とかある時点でひねくれてるし。治療に関しては秀でてるけども破壊する方が圧倒的に楽だし……。うーん、顔だけでも隠すべきかなぁ……。嫌われたらやだなぁ、なんて思うのは悪いことだろうか。

 客観的にズバズバ言ってくれるチサメのような人に相談したいけど、この件でチサメは頼れないし、二人に燃えてるところ見せたいとか思わないし、そういうの説明できる人いたかなぁ……ん? ズバズバ言ってくれる人……?

 

 

 

 

「デ、何デオレニ言ウンダヨ」

「参加しないって茶々丸から聞いたから」

「確カニ、参加シナイガ。シナイガ、参考ニナルト思ウカ?」

「だって、物騒なこと聞ける友人居ないから」

「オ前ナ……オ人形遊ビモ大概ニシロヨナ」

「断らないってことは答えてはくれるの?」

「アー、ンー、マァイイケドヨ。ケケ、今度整備シテクレ。最近チョット関節ガナ。礼ハソレデナ」

「うん。私でよければ」

「デ、オ前ノ魔法ノコトヲ言エバ良イノカ?」

「ネギくんに悪影響あるかどうか、だね」

「一回シカ見テネェカラ細部迄ハ忘レテルゾ」

「見せていくよ。それで判断して。ちょっと離れるよ」

「悪ィナ」

 

 

 一つずつ技名を言いつつ見せていく、途中途中で唸ったりしたが最後までじっくりと見てくれた。おいおいと嘆くような声もあるので若干ながらに戸惑いも混じるがヤケも混じり全て披露した。

 

 

「大抵ノ魔法ガヤバイ。火炎衣ッテノハ一番ヤバイ。ソレ初見タガ絶対使ウナ、人型ガ燃エナガラ話ストカホラーダゾ。光ルノハ子供ウケイイダロウガ、燃エルノハナイ」

「わかった」

「魔導弓ダッタカ? アノ辺ノ魔法ハ使エルダロ。デ、素手ハ確定ダナ。事後処理デ回復ノ為ニ杖ハ持ッテロ。攻撃用ノ杖ハヤメロ、アリャ対人ニャ向カネェ。ゴ主人向キダガナ」

「そうする」

「使ウ魔法減ッテ、ゴ主人ニ勝テルカ?」

「勝つ必要ないからね。元々は正座の恨み」

「アー、ソレハ、マァ、悪カッタ。忘レテルゴ主人ニ替ワッテ謝ルワ」

「割り込む必要無さそうだけど、指輪渡したとき誘われた気がした」

「……ナルホドナ」

「だから、精一杯応えたくて」

「終ッタラ今ノ伝エトクワ」

「お願い」

「武装解除、当タラナイトイイナ」

 

 

 その台詞には苦笑しか返せなかった。私の微妙な顔に謝られたがそれも困る。本当に。

 

 





 困ったときの友達。


 このシーズンは仕事で手一杯なので暫く更新止まります。次が今年に出せるかわからないので早いですがよいお年を。
 

 追記:脱字とそれに伴い文の修正。

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