覚者と世界   作:朱莉

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忘れている人用:主人公の言うあいつは基本竜のこと。



やんちゃ

 

 

 

 おおまかな方向性と自身のやりたいこと、身嗜みを決めたが魔法の防ぐ術はあれど素手でその他を防げるのかと、そう思う。不安はあるし準備不足も否めない。私が介入して円滑に済んだことなんて無限に続く世界で数えることができる程度という。自信の喪失は難しくない。

 

 と言うか破壊力=印象悪がピッタリ当てはまるあの世界の魔法が全て悪い。火炎衣しているやつがヒーリングオーラ出しても誰もそれが癒しだと思わないだろう。入ったら不味いと思わせることができるのは敵を前にして強みだが説明したところで味方から信用される要素は皆無だ。ネギくんは信じてくれそうだが子どもに通用したところで嬉しさが減るのは悲しみ以外のなんでもない。

 

 

 全てに於いて嫌なことというのは早く訪れるのである。気が付けばもう停電の日、準備不足感は拭い切れないが最早負けるのもありと開き直る事ができるのは幸いだ。犬畜生並みのしぶとさを見せる意気込みで外をぶらつく。出立前にチサメには派手に暴れるとだけ言っておいた。苦笑して何時ものように笑いあった。負けたら笑ってやると言われた。思い切りやると決めた。

 

 無計画に歩いて見つかりませんというのは割とあるが、そうはならない。指輪を渡した理由が探知のためである。そりゃ理由を付けてでも持たせるさ。自分の魔力反応を辿るくらいは私にだってできる。逆手にとられて家に置きっぱもないだろう。派手に動いてるし。

 ということは始まっているってことか。急ごう。

 

 

 

 ショートカットをするために電柱を飛び写りながら指輪のもとへ向かうと即見付けた。遠目で見るエヴァは凛々しくて、対するネギくんは辛そうに顔を歪める。弱いものいじめの現場である。傍らにそのネギくんを心配そうに見詰める茶々丸とアスナ。さて、いつ割り込もうか。割りとネギくんは善戦しているようだ。エヴァが指輪に振りまわされているともいうか。属性違いの矢で対抗するがネギくんは押し込まれていた。何時でも割り込めるように魔導弓をつがえて狙いを二人の中点に置く。口上を述べながらエヴァが魔法の矢を大量に呼び出す。負けじとネギくんも出すが込められた魔力が段違いで結果を見る前に魔導弓を解き放つ。一つの矢につき三つの光をもって相殺に掛かる。間を置かずして私はネギくんに駆け寄った。

 

 

「っ!? 来たか!」

「待たせた?」

「文字通り遊んでやっていたところさ。前菜には丁度よかった」

「え?……ユキ、さん?」

「ネギくんお疲れ様。少し割り込む」

「え、ちょっ、ユキさん!?」

 

 

 ネギくんの静止を聴かずに地を蹴りエヴァに肉薄するが残像を残され間を置かれる。遠距離戦をご所望なようで詠唱もなしに矢を放たれた。前のめりな私に有効的な解答をされた。だからと言ってそれが最適解とは言えない。つんのめりながらもそれが当たり前のように魔導弓で数十を打ち落とす。自動照準はベリグッだね。速度もあっちより遅いから膜のように張れば壁にだって出来る。

 

 というか火力調整難しいな。自然に被害が出ないように火力抑えたけど、少しだけ木が凍っちゃった。つまりエヴァの魔力を打ち消せてないってことで……抑えず普通に撃ってみる?

 

 幸いにして彼女は矢を止めどなく打ち続けてくれている。指輪の魔力で相手の損耗はないようだしこちらも試行錯誤できるから助かる。試してから数発で影響の出ない威力まで絞れた。割りと本気の辺りだった。指輪のせいもあるけど悔しい。こっちの調整に途中でエヴァは気付いたようで、強弱を着けてくれたのは助かった。苦笑混じりに笑ってたから間違ってないだろう。その間もネギくんは動けていないのを見るにこっ酷く絞られたようだった。少し間を置いてまた矢を撃ち出してきたので応戦する。が、太さが違う。

 

 

 

防御姿勢でネギくんに攻撃が逸れないように回避行動をとるが、狙いが絶妙過ぎて悪手にしかならなかった。防御した筈なのに膝が震える。

 そんな私を見て彼女は口を歪めて笑う。悪戯に成功した時のような無邪気な微笑みで。それを見て私も負けじと犬歯を見せながら笑う。吸血鬼に噛み付く犬畜生にくらいはなってやろうと。

 

 

「なんだなんだ。割り込んできたのに初手から崩された増援なんぞ期待外れも甚だしいな」

「そうだね。貴女の力を侮った。指輪を渡したことを後悔したよ。というかネギくん相手には本当に可愛がっていただけだったのか」

「いい贈り物だよ。全盛期とまではいかないにしろ懐かしい気分になれる」

「なるほどね? サバ読みでもしたと若者の私は騙された気分だ」

「言うな生娘」

「言ったよおこちゃま」

 

 

 年齢はどっちが上なんだろうね。悲しくなるから答えは聞きたくないけど。と言うかさ、あっちの魔法って感情で威力変わるんだね。肌で感じる力に寒気が混じったんだけど。いや、まて、それは冗談で出していい魔力じゃない。

 

 

「ちょっ」

「大丈夫さ、死んでも復活できるんだろう?」

「そうだけど、やっていいことの境界を考え、」

「詠唱しないのって楽しいよな。おこちゃまはおこちゃまらしく楽しませてもらうよ。オネエサン」

「薄気味悪いことを言うね。どんなに気味が悪くても体を駆け巡るのは強敵と対面したそれのままで違和感だらけだよ畜生」

 

 

 悪態を吐くこちらに浮かべた笑みを深めることで対応したエヴァは悪の魔法使いそのままで、あいつを思い出してこちらも笑ってしまう。あぁ、今なら本気になれそうだよ。正座の恨みを少しでも晴らせたらと考えていたけど止めるよ。それ、本気の殺意じゃないか。

 一回死んだら終わりの短くて儚くて軽い命だけど出しきってやるよ。だが矛盾するけど一回で終わると思うなよ?

 

 

「私を本気にさせたこと、少しだけでも後悔させてみせる」

「何を言っている、私はただ、遊んでもらっているだけさ。そうだろう、オネエサン?」

「あぁ、そうだよ、そうですか、そうだね、その通りさ。惨めに惨たらしく足掻いてやるよ、それが私にできる精一杯で、だからこそ楽しませてやるよ。だから場所を移すぞ」

「フッ……そう言えばお前のおもちゃに盾が有ったよな?」

 

 

 なんで唐突に? そう思うと同時に長年養った勘が、戦い抜いた体が脳とは別に右手で顔を覆うように盾を構える。瞬間爆ぜた。

 

 溜めていた魔法ではなく別の魔法が目前で起爆した。軌道も何も見えなかったからあれはそういうものだろう。そのくせに威力はかなりある。防ぎきった筈なのに手は痺れ、私はネギくん達を追い抜き木を薙ぎ倒しながらもんどり打った。視界は赤く染まり、意識も遠くなる。しかし体は治療魔法を使っていた。喉奥から込み上げるものをなんとか飲み込む。ジリ貧ってレベルじゃない。

 

 

「おやおや、口での戦いは立派だが実技はそうでもないんだな?」

「ぐっ、く…新しいおもちゃではしゃぐこどもほど厄介なものはないね。だけど、そうだね…くぅ、人を傷つけるやんちゃは叱られても文句言えないよなぁ?」

 

 

 ご丁寧に飛んでいる身で私が倒れている場所まで降りてきたことに感謝するよ。こっちだって無抵抗で吹き飛ばされた訳ではない。やれたことなんて限られているけども。

 

 左手から火薬をエヴァの周囲に投げ散らし、盾の裏で構えていた魔力を解き放つ。私の手から地面を走り地面から火柱を上げる。先に投げた火薬と反応して爆発するが、当たってはいない。音からして魔力壁で防がれている。だがこれは大掛かりな煙幕だ。見た目は派手だが雑魚も狩れない火力だ。だがこれでいい。

 

 現状、爆炎と土埃でどうあがいても周りは見えない。とはいえこの距離で指輪の位置を間違えることはない。あれは指に嵌めないと効果が薄い。腕の位置なんて簡単に割り出せる。杖で詠唱、壊す勢いで唱えるは火球、メテオの一点集中だ! どっと疲れが込み上げ立つのも苦労する。スタミナが切れた。でも、やることはひとつだ。カードから竜の心臓を取り出し服のなかに忍ばせる。位置は丁度胸の傷の辺り。

 

 土埃が晴れてエヴァが私の下ろした杖を見て上から来る脅威に頬を引きつかせる。

 

 

「おいおいおいおい! 人に境界どうの言えたもんか?」

「先ずは一発。サヨナラ」

「は? まて、なんだその矢は!?」

「避けれるなんて思うな、死ぬ気で防げよ、私の命の結晶だから──挺身魔槍!」

 

 

 本来は私兵の命と引き換えに放つ矢だけど、今は私一人。使う命は勿論術者のだ。放つと同時に世界から色が消え体の感覚が消え去る。忍ばせておいた竜の心臓が反応して妙な感覚と共に世界に色が戻る。命が安くて悲しくなるね。慣れたものだけど。

 

 エヴァは避けようと動くが矢が自身に揺れたのを見て防ぐことに切り替えたようだ。直角迄なら即座に動かせるからその判断は間違いではない。

 矢はエヴァの盾を粉砕し、メテオが彼女を襲う。目の動きから私の魔法の狙いがわかったようで、舌打ちしてそれを投げた。どこに? 私に。あ、てめ、やりやがったな!

 

 エヴァに向かっていたはずのそれらは綺麗に曲がり、全部が全部私に帰ってきた。復活したてだから盾で防御をするが死ぬ間際の全力全開の魔法だ。諦めよう。

 自分の魔法だからと打ち消せるほどこっちの魔法は便利ではない。なんたって死ぬ前に撃った魔法の所有権は死ぬ前の私にある。生き返った私はなにもできない。メテオに競り勝つのはメテオだけなので軌道が同じで後だししても追い付くわけもなく。受けるしかないわけさ。魔力をレジスト出来ても質量は残るし、軌道も変わる。私以外に当たったら不味いからね。大丈夫、死にはしない。少しだけ抵抗してトルネードを起こして威力を減らす努力はするけどあんまり変わらないね。

 

 これから起こることに覚悟を決めた瞬間、爆ぜた。血煙なんて久々に見たなぁ。

 

 大凡、人から出してはいけない音を響かせて、メテオの落下で出来たクレーターの中を這いずる。持っていた盾は腕ごとベコベコで使い物にはならない。一矢報いることも噛みつけも出来なくて泣きそう。泣くために鳴らす喉と目、焼け落ちてるけどね。

 

 狙いをつけるのに腕が鈍っていないのが理解できてよかったよ。うん。流石に自前のメテオで死なないけど、しばらく痛くて動けない。無傷に近い利き腕でヒーリングオーラは起動してるけど動けない。死ぬのに慣れすぎて思考がはっきりして辛さだけが残る。いやー参った参った。

 

 

 

「……おい、大丈夫か?」

 

 

 先程も述べたが喉は焼ききれている。声なんて出せないぞ。睨み付ける目すら開けるのが辛い。肉の焦げた臭いが酷いだろうに、顔に出さないのは馴れてるからかね。

 

 

「自分の魔法くらい消せるはずだろ? なんでしなかった? お前ならそれくらいできただろう」

 

 

 しないんじゃない、出来ないんだ。いくら魔力をレジストしても落石の結果は覆せない。魔力がなくなっても落ちる岩だぞあれ。

 

 ゲホ。おっと、噎せれた、回復してきたか。でも腕の感覚はないし足に力は入らない。もうしばらくかかりそう。

 

 

「なんだ、悔しくて声も出せないのか?」

「の゛ど、がい゛ぶぐぢ、ゅう゛」

「おう、そうか。もう停電も終わる。私の力も戻る。まぁ、なんだ、楽しかったよ。短かったけどな。盾が壊されたのなんて久々で焦った」

「ぞう゛」

「一思いにとどめ指した方が治ったりするのか?」

「ゲホっ、けっそんは、すぐになおら、ない、じかんがかかる」

「そうか。回復した坊主がこっちに来ないようにしとくぞ。だから、まぁ、チャチャゼロが待ってるだろうから回復したらうちにこい。楽しませてもらったお礼に、ここの後処理は済ましておくさ、なぁ、姉さん?」

「ありが、とう」

 

 

 痛みを感じられる程度には治ったが体は動かない。あの世界でもここまでやった覚えはない。出し尽くして足掻いたけど、遠く及ばなかった。悔しくないといえば嘘になる。けど、憂さ晴らしはした。返り討ちになったのは目を逸らす。逸らす目、回復中だけど。

 

 土の触感が冷たくて気持ちいい。火傷して火照った体に効く。最初から全力でやれば少しは変わったかな……。魔力探知、できるようになってればなぁ……指輪探知でいいやと思ってた私をぶん殴りたいよ。反省点だらけの結果、やっぱりとても悔しい。千雨に慰めて貰おうかな。負けたこといっぱいあるけど、そのどれよりもとてもとても、悔しい。

 

 

 




 エヴァ「やりすぎたか……?」


 感想頂けたので嬉しくて久々に投稿いたしました。暇を見てまた書きたいな。ってことで次話投稿できるように絞っときます。

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