覚者と世界   作:朱莉

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彼女の名前

 

 

 いつも通り麻帆良の夜警をしていた時にそれは起きた。

 突然空に光が出たと思えば辺りに居た鬼が消え去るという現象。そしてそれを起こしたのは魔法先生やエヴァではないということだった。

 

 刹那君の報告では鬼から助けてくれた少女がやったらしいのだけど……言葉が通じなかったと僕が見ても焦っている表情で言っていた。

 龍宮真名君から聞けばその少女は英語で喋っていたそうで刹那君にはもう少し英語を頑張ろうか、と呟いたのはきっと気のせいだろう。

 

 麻帆良とはいえ、あの広域にいた鬼たちを一発で全滅させた少女をただで帰す訳にはいかない。刹那君の話では敵対してはいなさそうだが警戒はしているだろう。

 

 そもそも、それは一度会話をしてみないことには判断できないのだが……。

 

 その出来事が起きたのはついさっき、ならまだ近くに居るはず……そう思い探してみればその子は居た。

 街灯に照らされるように椅子に座り休んでいた。

 武器を持ってさえいなければここまで目立つこともなかっただろう。そこだけは感謝しておこう。

 

 そんな彼女は僕を見つけるとどうしようか悩んだ挙句声をかけてくれた。

 綺麗な英語で。「すみません、いきなりで悪いのですがここは何処ですか?」と。本場の英語でもここまで発音が良くないだろうな……と、どうでもいいことを考えるほど綺麗な英語だった。

 ……軽く現実逃避してしまった。綺麗な英語を喋る彼女に不安ながらに英語で返答をすればやはり件の少女だったらしい。

 背や腰を見れば刹那君たちの証言にもある武器の類も確認できた。

 

 話が通じないというものだから手荒なことになると思っていたけど……そんなこともないようだ。

 流石に僕一人で判断はできなさそうだから学園長に任せよう。それまでに彼女の情報をいろいろ聞いておこうか……。

 

「そういえば名乗っていなかったね。僕の名前は高畑・T・タカミチ、タカミチと呼んでくれ」

「私はユキ、好きなように呼んでくださいタカミチ」

 

 話をすれば彼女は気づけばここにいたと自身でもわからないことだらけらしく、お手上げ状態だった。

 それでも放置はできない。魔法を一般生徒の前で使われるわけにもいかない。

 些か従順すぎな彼女の対応に少々戸惑いながらも校長室に連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 タカミチに会えてよかった。言葉が通ずる人に会えてよかった。

 なんでもこの世界ではオーガなどの生物がいることは隠蔽されているらしい。この学園都市の一部の生徒、先生はそれを内密に処理している。とまで聞いた。

 

 内密に処理しているなんて聞いたときは己の行動に思わず顔が熱くなってしまった。一瞬とは言え閃魔光を打ち込んでしまったのだ。そのことで謝罪すればタカミチは悪気があったわけではないし鬼も消えたから特に問題はないよと言ってくれた。何かあっても誤魔化しておくしとも。

 

 言葉が通じるだけでとても信頼してしまうのはきっと気のせいだろう。

 知らなければ幸せなのだ。私だって覚者の使命なんて知らなければきっと今頃幸せになれて……居たのだろうか?

 ありえないことがあたりまえになりすぎて感覚が可笑しくなっていた。

 

 今更ながらに「学園都市」という言葉が気になって聞いてみれば大人が子どもに勉学を教える場を学園と言うらしい。ここはそれがたくさんあるから学園都市という。なるほど。

 そこで一番偉い人に私の今後を聞くという。その人は何処に居るのと尋ねれば女子中等部、そして性別は男性。え?

 タカミチはそこの先生。少女たちのことを聞けばそれもそこの生徒らしい。

 

「あの子たちに謝りたいのですけれど……」

「たち? 片方は助けたんじゃ?」

「知らなかったとは言え警戒させてしまいました。翻訳を頼まないとそれもできませんが」

「……わかった。僕でよければ協力するよ」

「ありがとうございます」

 

 彼は良き先生なのだろう。偉い人に会った後に会わせてくれると言ってくれた。

 

 夜も更けず朝に満たないこの時間で校長室とやらに到着した。

 人目を憚ってとかそんな理由らしい。お世話をかけます。

 

 部屋に入ってみれば後頭部の長いお爺さんが居ました。どんな人かとタカミチに聞けば会ってみればわかるとのことだったから、これは正直に驚いた。

 私のことを詳しく知りたいとお爺さんが言い私はそれに答えた。

 彼らからすればとてもファンタジーなお話だったようで注釈を入れつつ、とても長く話した。

 この時ほど覚者で良かったと思わずにはいられなかった。説明なんて簡単なことだ。私の心音を聞かせれば一発だった。いちいち説明するのも面倒なので頭を掴んで胸に当てる、単純明快。

 

 そしてこれからの事を話そうということに。

 結果から言えば私はこの学園で日本を学ぶという留学生になり、彼らの言葉を学びつつ学校に通うことに。衣食住も用意してくれるらしく私にとっては嬉しい限り。

 

 彼女たちに謝るのは日本語を理解してからとタカミチと話し終え、そこだけ先に重点的に覚えることにも。

 もちろん、ちょうど良い機会なので学園に通い始めるのもある程度言葉を覚えてから。制服というのを着させてもらい今は日本語のお勉強中。

 

「『ありがとう』これは感謝を表す意味だよ」

「『あぃがとぅ?』」

「惜しい、子音にもっと力を込めてみて」

「『ありがとぅ?』」

「そうそう、良くなったよ。でも語尾を上げると問いかけの言葉になる、気をつけてね」

「『ありがとぅ!』」

 

 新しい言葉を覚えるというのは新鮮だ。褒められるのも慣れていないせいで楽しくなる。一応音として『あかさたな』は覚えた。でも発音は難しい。

 単語としては今やっている『ありがとう』や名詞からじっくりと。

 

「『ごめんなさい』これは謝罪の意を持つ言葉」

「『ごめんください?』」

「それだと違う意味になるね。もう一度言ってみようか『ごめんなさい』だよ?」

「『ごめんあさい』」

「やっぱり子音が弱いね。あ行をもう少し重点的にやろうか」

「……ぁ!『おねがいします』だね」

「そうそう。今のは良い発音だったよ。使い方も合っているしその意気だ」

 

 言葉とは違うが座り方や習慣に関しても学んだ。

 正座を初めてしたときはなれない動作に足が攣った。慣れればどうにでもなるらしいけど無理はしないようにとも言われた。

 日本の人たちは靴を脱いで家に入るらしい。聞いて思ったが確かにそれはいいと思う、物は多くなるが長く保つ。いいことじゃないか。

 

 朝から晩まで飽きもせず休憩もなく教えてもらう。でもタカミチには悪いので彼に直接教えてもらうのは暇なとき。タカミチがダメな時は学園長に教えてもらっています。でも学園長の教え方は私には無理っぽい。語尾に『じゃ』を付けるせいでわかりにくくなる。覚えてから気づくと治すのに時間かかるし。

 

 学園長と話していると戸籍というものを作るのに私の承諾が必要とのことで二、三受け答えさせられた。

 もちろん『おねがいします』に始まり『ありがとう』で締めます。まだまだ片言らしいけど先生たちの顔が優しげだった。

 戸籍というのと関係あるかわからないけど誰の家族がいい? とか、誰と一緒に居ると楽しい? とか関係あるのだろうか? そもそも戸籍って何?

 

 

 






やっとこさ主人公の名前が出ました。(多分初?)
はる樹くんたちとは関係ないです。

お勉強パート。一応これ以降の会話は日本語で喋ってます。
でもタカミチとの会話は大抵が英語です。

英語名と日本語読みで発音が似たようなのがこれしかわからなかったので大抵この名前使ってました。

タカミチが聞き惚れる程度 → 澄んだ声の英語はそんなもんです(深い意味はない)

教え方と覚え方 → なんでも初めて経験することは楽しいものです。時間忘れてなんてしばしば……主人公の学習能力は高いです。
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