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――――なぜ、私は今本気で戦っているのだろうか。
聞きなれない詠唱と共に飛び交う魔法矢を短剣であしらいつつソレを今も射出している彼女を睨む。その彼女は新しい玩具で遊ぶように嬉々としたイイ表情をしていた。
それを見て諦めたように背にある魔導弓に矢を番える。別に殺すわけではない、ただのお遊びだ。そんな台詞と共に行われたこの戦いは最早私にとっても彼女にとってもやめられない戦いになっていた。
何が私は力を封印されているから簡単だろう? だ。せめて装備くらいはちゃんと持ってくるべきだった。
「驚いたよ、覚者と呼ばれる見た目ただの子供がこんなに戦えるなんてな」
「貴女よりは大きいと思うけれど?」
「ふふ……ふははは、いいだろう挑発と取るぞ小娘」
「やってみろチビ」
言われたままで気が済むわけがなく売り言葉に買い言葉で罵声し合う。実力は多少こちらが有利とはいえ私も彼女も切り札を切れないでいた。いや私を含め切れないのだが。
彼女は力を封じられているからそれができず、私といえば持っていた武器しかないのが悔やまれる。今の私ができることといえばソレの真似事の職業くらいなのだ。錆びた武器だったとしてもその武器さえあれば多少なりとも勝率は上がりそうだ。最もいま腰に下げている短剣は彼女に対しては絶対の攻撃力を持っていそうで罵声を使い合う仲とは言え使う気になれないが。だからといってそれを振らない訳ではない。握り手で殴るくらいはするが。
途中口を開いたかと思えば数多の魔法矢が空を覆い私目掛けて放たれる。最初は無様にゴロゴロと転がることで避けていたが、あれは特に追尾性能もないただの矢だったらしくそれがわかったあたりでは「追魔弾」で撃ち落としていた。
この世界……というか彼女しか見たことないが魔法を撃つには若干のタイムラグがあるようだ。ならば!
魔法矢を避け私は近場に落ちていた棒きれを回避行動と共に手に取ると彼女にめがけそれを構える。何も能力のないただの棒きれだがイメージは掴める、いける。最初は小手調べ、走りながらでも粗悪品位は出せる。
「ファイアボール!」
「っ!?」
三点射で出せれば最高だったのだがソレはお世辞にも連続とは言えない速度で放たれた。勿論奇襲紛いの魔法とは言え彼女は横に跳ぶことで避ける。当たるなんて思ってない。だからこそ私は次を撃つためにもうイメージを固めていた。一発撃った事によって感覚は掴めた。
「フレイムウォール!×3」
「なっ! くそ」
避けて体制を崩している彼女の周りに炎の壁を囲むように出現させる。粗悪品とは言えただの魔法矢で壊せるほどやわじゃない。それが分かっているのか軽視しないでも彼女は動けずにいた。背にある魔導弓に持ち替え彼女を狙う。それとともに魔法矢が赤く燃え上がる。
手を離せばそれらは三つに分かれ不規則に動き彼女を襲う。咄嗟に魔法矢を放たれるが相殺されたのは二つ、一つは肩に突き刺さる。それと同時に腰の短剣を手に彼女に疾走する。
「ぐっ……ん?」
刺さったのにも関わらず彼女の顔は苦痛に歪んだりしない。これは直接に損害を与える技ではない。それにも関わらずそれは彼女に刺さったままだった。先程から放たれた魔法矢と違いそれらは頭が丸い鋲。その頭には先ほど煉られた炎が蠢いた矢。なのに熱くもなく痛みもない、困惑するのは最もだった。だからこその奇襲。遊びで私に喧嘩をふっかけた彼女が悪い。威力は抑えているから大事にはならないだろう。反撃を貰う可能性もあったのでかんしゃく玉を投げ込むのも忘れない。
壁の壁直前で飛び込み鋲の頭だけを短剣で撫でる。それだけでソレは発現する。
――――キィン
軽い耳鳴り音。鋲の頭が破裂し空気と混ざり合い爆散する。名前を「爆散魔鋲」、そのまんますぎて笑えない。
だが彼女は何が起こるのか、長年の経験故か初見にしろ片手で顔を覆うことで最小限に防いだ。私のときとは大違いの光景に苦笑が漏れる。私の時は赤い光の鋲としか思ってなかった。まさかそれが物理的な攻撃で破裂、誘爆するなんて露にも思わなかった。
「ごほっけほっ」
「……」
「――すぅ……はー……くくく、くははは! こんな気持ちは久しいぞ」
呼吸を整えるだけで与えた怪我が完治した。回復速度が早いなんてレベルじゃない。使うか? いや短剣を使ってまで勝ちたいなんて思わない。あんなのでもタカミチの友人だ。ここまでやっておいてなんだができることなら穏便に済ましたい。
「遊びなんか目じゃない。有利だと思えば些か不本意だが同等だったとは、な。今回は私の負けだよ……このままやったら遊びにならなくなるからな」
「それはよかった」
「始動キーもない魔法なんて撃たれたんじゃ認めなくてはな。しかもただの棒切れでやられたんじゃ面倒すぎる。使うのを戸惑っているその剣まで使われたら現状じゃ辛そうだ」
気づいてたのか。とは言わない。逆にコレを使わしたいとまで思っていたと思う。手札はまだまだあるがそれは彼女も同じ、力をセーブしている上に彼女は前衛がいれば力が更に倍増するタイプだ。詠唱によるラグがある分まだ楽だが好んでやり合いたくはない。
「だが私はしつこいぞ。目を付けられてしまったことに嘆くがいい」
「なら封印でも解いてから来い。それとも言い訳のためにそのままでやる?」
「……言うじゃないか。私が怖いと思わないのか?」
「……生憎とストーカー被害には慣れている。その程度ならどうとでもなる」
視線をぶつけ思い思いのことを口にする。だが嫌味というより子供のじゃれあいのようだった。その証拠に私も彼女も口の端を微かに上げていた。
この日、悪友ができました。
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エヴァと知り合って暇があれば別荘にお邪魔する程度の仲になった。自宅のようなものがないので常時入り浸っていたりもするが。
ここでいう別荘というものは彼女専用の特別製であり、素晴らしい箱庭だった。
その時に私の「覚者」たる者の解説若しくは解ることを告げ、その度に彼女にこの世界の魔法を教わった。
流石にあいつのことは省いたけど。誰が好き好んであいつの話なんてするか……エヴァに頼まれたら答えるだろうけど。
せっかくあいつのいない世界で私としていられるんだ。【覚者としての私】ではなく【ただの私】でいられるのに。あぁやめよう、考えるだけで嫌になる。
この世界の魔法は私の世界の魔法よりも正直すぎる。
その理由としてはこの世界の魔法が詠唱を必要とするからだ。
基礎的な魔法でさえ詠唱が必要なのだ、この世界の魔法というものは。私がいた世界は詠唱する必要などなく(するものも若干あるにはあるが)基礎魔法に於いては詠唱の必要がないことが最大の利点だった。
だがこちらの魔法にも短所はある。それは杖を装備しなくてはならないこと。
彼女の世界の魔法は杖など必要なく媒体や媒介を使い魔法を撃つ。熟練者であればそのプロセスを無視して発動だってできるようだ。エヴァがいい例だったりする。
私の世界の魔法は杖の大小によりケーン、ウォンドと名前が違い、サイズにより撃てる魔法が違うのだ。粗悪品レベルであれば棒ぐらいで再現できるけども。
短いウォンドでは精々中火力の、それも火壁や氷柱といった自然の力を借りねば使えぬ魔法しか使えない。
でも回復の魔法はこちらのほうが長けているけども。
そしてケーン。これはウォンドと違い大災害とまで言われる事象を発現できるようになるのだ。ハリケーン然り、メテオ然り、クエイク然り。それらは私の世界では珍しく詠唱するのだが……。ブリザードアローやサンダーケイジはこの限りではないが。
流石にこの別荘では使わない。私だって安全だという保証もないのにエヴァを巻き込めるわけがない。彼女は喜んで「やってみろ」と鼻で笑いそうだけど。
ケーンは回復に対しては無頓着だが、治癒に関してはウォンドを超える。火傷や凍傷、呪い果てや石化に対しても使える。即死してしまったらその限りではないけど十分だ。コカトリス相手に重宝したものだ。
でも彼女の世界にはその弱点を克服するための突破口がある。
例えば彼女の世界の詠唱なら高速詠唱や無詠唱などだ。何れも一朝一夕ではできず何度も反復して克服する……努力の賜物とも言える技術だ。
私の世界では竜王の指輪が此れにあたる。指に嵌めるだけで無いような詠唱が更に高速化、手がつけられなくなる。一応私の所持品ではあるが、私の私物ではない。簡単に言えば借りた。
もう少し詳しく言えば国王の所持品だったが窃盗犯に奪われそれを私が頂戴しただけである。何度か冤罪で牢屋に叩き込まれた恨みというやつである。一応女である私が牢屋でどんな目に遭うか考えなくともわかるだろう。もう慣れたものだが。
試しにエヴァに渡してみればただでさえ化物クラスの彼女がドラゴン並みの詠唱速度に強化されたんじゃないかと錯覚するほどだった。
エヴァは私でなかったら死人が出たんじゃないかと思うほど暴れた。
暴れたというか面白がっていたというか、まぁわかるけども。
とても指輪を欲しがっていたが流石にそれはあげれない。彼女に窃盗品は渡したくないから。あ、いや、借り物を又貸しするのはよくないからだ。
そういえば別荘……というか邸宅にてもうひとり知り合いができた。人と言っていいのかわからないがチャチャゼロという人形である。
エヴァの魔力で動かしているが自立しているので私としてはポーンみたいなものだと勝手に理解した。
自らをオレという彼女(彼かも?)とはゲームという道具で遊んだ。
手始めに触ったのはボードゲームというやつだ。聞きなれない言葉に首をかしげてみれば貴族がやる駒遊びみたいなものだとエヴァが解していってくれた。
見た目が怖い彼女だが懇切丁寧に教えてくれた。弱イ者イジメハ趣味ジャネェだってさ。
教えてくれたのにボロッカスでしたけどね。
エヴァは私に嘘でもいいから口を動かして高速詠唱をしているようにしておけと助言してくれた。
無詠唱でやるより高速詠唱でやったほうが相手が油断してくれるらしい。警戒されるのは面倒なので了承した。
それ以降のエヴァとのお遊び(嫌味だが)で利用していたけどエヴァ自身説明しといて教えるべきではななかったとか愚痴っていた。騙すのが馴染みすぎてエヴァのに勝率が下がったからである。もともと高かった勝率が多少下がっただけなのに気にしすぎだと思う。それと射出するタイミングを自在にずらせるからだが。
だからって「えいえんのひょうが」から「おわるせかい」まで繋げなくてもいいじゃないか、本当に死ぬかと思った。心臓がないからって流石にやって良いことと悪いことがあるというのに。
あの時「構え直し」を使ってなかったら腕が使い物にならなくなるところだった。「火炎衣」でも良かっただろうけど。
感想をもらったので舞い上がって後先考えずに次話をぶっこむ単純な作者。
戦闘描写が苦手なくせして頑張って書いてみた。読めるようになっているのだろうか……。
ネギま読者の方に説明すると主人公が持っている短剣は光属性の武器で霊とかスケルトンとかに有効な武器です。だから使わないように必死こいてます。
口が悪いけど二重人格って訳じゃなくてただの女の子同士の喧嘩(割と物騒なやつ)です。
エヴァさん負けてますけどこれもみんなその指輪のせいなんだ。
原作との差異。 → もうドグマの設定で別物って認識でいいと思う。(投げやり)