1.邂逅
私こと先生は今、キヴォトスでなぜか【
御者は向こうの自治区からの迎えらしい。
目の辺りまで頭に包帯を巻いていて、最初はすごく心配したけれど、問題ないらしい。
「心配してくれるなんて……えずくじゃないか……」
なんて言ってたけど……ほんとに大丈夫だよね?
馬車の中で揺られる私は、その学校に行く経緯を思い出していた……
「先生には、トリニティに名を連ねているある学校に行っていただきたいのです」
キッカケは、ナギサの一言だった。
“ある学校?”
「はい。トリニティに存在する小さい自治区の一つで、トリニティ内の他の学校自治区とは山に面していて隔離されています。確か、大きな湖が自治区に一つあり、校舎はそれに面していたかと」
へぇ……
“どうしていきなり?”
「実は……曰く付きの学校でして。エデン条約が控えた今、不確定要素はできる限り無くしておきたいのです」
“補習授業部はどうするの?”
「ああいえ、そこまで時間はかかりません。おそらく長くて往復三日ほどです」
そんなに簡単に解決する問題なのかな?何を解決して欲しいんだろう。
「その学校は、全校生徒が二十人ほどだったのですが、ある時を境に一人を残して全員が発狂してしまって今は精神病院にいます」
!!!???
“は、発狂!!??”
「はい。幸い、自治自体は私たちトリニティ本校から送った生徒で回せているので問題ないようですが」
“私がすることは、その発狂した生徒たちをなんとかすること?それとも、自治を手伝いに行くこと?どちらも往復三日では無理だよ”
「いえ、そうではありません。先生には、一人の生徒を連れ帰ってきて、補習授業部とは別に目の届くところに置いておいて欲しいのです」
“ある生徒?”
「はい。その生徒は、唯一その学校で発狂しなかった生徒なので。その学校の生徒たちがどうしてそうなったのか何か知っているかもしれませんし、不確定因子を放置しておくことはできません」
“なるほどね。じゃあ、行ってくるよ”
にしても、生徒の名前は『狩人』……確実に本名じゃないよね。ナギサは、その学校の転校生で、転校処理の書類を受け取った直後の日付に発狂事件があったと言ってたけど……
こうして私は、ここ、
トリニティの本校舎を出たのは昼だったのに、着いたのは夜。馬車に揺られて少し体が痛いな。
「先生よ……助言だ……」
御者をしてくれていた包帯の人が話しかけてくる。
「ここで起きたことは……全て悪い夢さね……」
そう言って去っていった……不吉だね!?
学院は、月のよく映える大きな湖に面した、森の中にあるこぢんまりとした建物だった。
ここに辿り着くまでの間に、大きな教会が集まった街や、すごく高く積み上がった城壁のような街を通り過ぎたけど……どうして離れているんだろう?
扉を開けて中に入ると、明かりはついておらず暗く、冷たい石の匂いと木の匂いに混じってカビの匂い。
どうやら建物は中世風の石造りの建築に、木材をマッチさせた作りらしい。
“おーい……誰かいるかな?”
私がそういうと同時に、建物内が明るくなる。
どうやら一斉に建物内の蝋燭がついたらしい……ダンジョンとかみたいでかっこいいね!
中央に階段が見えたので、登る。
すると、大きい扉があったので、開けてみることにした。
ギィィィィィィィィ……
お、重い……
なんとか扉を開けると、そこはテラスのようになっていた。
湖と月を綺麗にみることができるこのテラスで、湖を眺めるようにこちらに背を向けた安楽椅子が、一つ揺れている。
……あれが、ここの生徒かな?
どう声をかけるか迷っていると、安楽椅子で揺れていた人物は、突然立ち上がってこちらに歩いてきた。
「おお……こんなところまで人が来るとは……」
そう声を出したその生徒は、黒いスーツ、ズボンに身を包み、その上からコートを羽織っていた。
口元は布で隠され、頭には羽のついた鋭い帽子を被っている。
頭の後ろには、輝くような白銀の髪を束ねている。
腰には、フリントロック式の大型の短銃。
なにか近寄りがたい雰囲気を感じる。
帽子からちらりと見えたその目は、まるで宝石のように透き通るような青だった。
そして、頭の上には
そんな彼女は感嘆とした様子。そんなに来訪者が少ないんだろうか?とりあえず、自己紹介することにした。
“キミは、ここの生徒かな?私は、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生だよ”
そうすると、驚いたような顔をするその生徒。
「ほう、何者かと思えば私と同じく外からの来訪者とは……おお、ゴース……あるいは、ゴスム。それとも、星の娘か……私に先生を遣わしてくれたのか……?」
“私と同じ?キミは、外から転校してきたの?”
「然り。古き楽園の夢、獣狩りの古都、悍ましき悪夢、忘れられた地底墓……そこから私はこの世界に来たのだ」
どうやら私がやってきたところとは本格的に違う場所らしい。
「先生は……ヤマムラと同じく東洋の出身か?」
ふむ、そう聞くという事はこの子は西洋圏の出身なんだろう。ヤマムラさんが誰かは解らないけど。
文化も、気候も、外の世界ならば言語も違う。
彼女の言っている単語の示す意味がわからないのもそれのせいかもしれない。
打ち解けられるといいけど。
“そうだね、私は東洋圏の出身だ。ところでキミは一体?”
「ああ、失礼した……私はここ、ビルゲンワース啓蒙学院の最新にして最後の生徒、『狩人』だ。秘密を破りし者、獣を狩る者、啓蒙を求める者、地底に潜る者、神秘を探る者、悪夢を渡る者、穢れた血族の末席、新たなる上位者、月の香りの狩人……私を表す言葉は多くあるが、呼ぶならば、『狩人』と呼ぶといい」
今度は情報量が多い!けど、やはりこの子が『狩人』らしい。
“ナギサから話は聞いているかな?”
「ああ、もちろんだとも……この古き学院ビルゲンワースを去り、トリニティ本校にて貴公に世話になるのだろう?」
言い回しが独特な生徒だ。
「おお、おお!
……なんて?
全く理解ができないけど……喜んでいることはわかった。
“じゃあ、行こうか”
「待ちたまえ、先生よ。もう夜も遅い……ここヤーナム自治区では夜に出歩くのは愚者のすることだ……下劣な
“でも、泊まる場所が……”
「この校舎に泊りたまえ。私もここで寝泊まりしているのだよ。この学校の先達たちは今は病院だ。私が許せばキミも使えよう」
“……わかった、使わせてもらうね”
そうして私は、『狩人』と出会ったのだった。
〜〜〜数日前、ビルゲンワース啓蒙学院にて〜〜〜
……。
これは……寝っ転がっている体勢か…………俺は確か、貧者物理結晶理論値スタマイの形状変化四十八個目を求めて地底に潜っていたはず……
寝落ちしたのか?確かに最後に寝たのは三日前だったか……
だめだ、何も思い出せない。ずっと飯食ってブルアカやってブラボやって飯食っての繰り返しだったから……?
とりあえず目を開いて体を起こすと、何やら頭の上に光輪を浮かべた少女たちが何やら騒いでる。
「おお!おお!!ついに!ついに成ったぞ!!私はやったんだァァァァァァァァァ!!!!」MADNESS!!
「おお神よ!!我らに瞳ォォォォォォ!!!!」
MADNESS!!
「MAJESTIC!!oh!!MAJESTIC!!!!」
MADNESS!!
……うわぁ
血を吹いたり泡を吹いたりして全員倒れた……ええ……???
これからどうしろと?