見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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散々な言われようのマダムに悲しき今……


114.今と、予知と

 

 

 

 トリニティ、ティーパーティーの会議室にて。

 先生はナギサに呼ばれ、話を聞いていた。

 先ほどまではミネとサクラコもいたものの、彼女たちはすでに己の仕事をするために退席していた。

 

 そして、ナギサが語るのは、ミカについてのこと。

 

 

「エデン条約の事件以来、トリニティ総合学園の情勢は複雑になりました。特にミカさんに対する世論は、今、世間をふたつに割っている状態です」

 

「ミカさんは既に自身の所属していたパテル分派から追放され、明日行われる聴聞会でこれまでの罪に対する罰が決定される予定です……過程や真相はどうであれ、ミカさんはアリウス分校と結託してエデン条約の事件を起こしたことに変わりはありませんから」

 

「しかし現在、トリニティではパ(・)テ(・)ル(・)分(・)派(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)の信頼性が損なわれているのも留意しなければなりません。セイアさんによって発覚した彼女らのミカさんへの脅迫と、調印式の混乱に乗じゲヘナへの戦争を企てた過激派閥上層部は、ミカさんよりも更に問題視されている状況です」

 

「当初、ミカさんは虐めとも取れるような嫌がらせが多発していましたが……現在、パテル分派からの圧力や印象操作があったというのが公式見解になりつつあり、それは和らいでいます。嫌がらせに関しても、以前は檻に石を投げ入れたり、荷物や備品類の破損といったこともありましたが、犯人は取締られ、いずれも問題を起こしたパテル分派上層部の息がかかっていた生徒であり、逆恨みだったことが判明しています」

 

「このことから、世論はミカさんを擁護する声と、断罪を求める声で二分されています」

 

「ミカさん本人は当初自身を擁護する気がないようでしたが、セイアさんに促されたことで自身を擁護することになりました」

 

「まだ何も決まってはいませんが…、少なくとも、正しい状態に向かっていると思います」

 

 

 “うん”

 

 

 先生は頷きつつ、ミカについて思いを馳せた。

 彼女は、やったことの罪を自覚し、その上で……セイアやナギサといった友達たちと話し合い、謝り、そして前に向こうと努力している。

 先生も、セイアも、ナギサも、その力になりたいと、心から願っている。

 

 そしてそれを知っているからこそ、ミカもまたそれに応えようと前を向こうとしていた。

 

 

 “私はミカの味方をするよ。安心して”

 

「……よかったです。その言葉が聞けて安心しました」

 

 

 ナギサの微笑みは、窓から差した陽に照らされ柔く見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 ミカは明日の聴聞会の準備で忙しいとのことで、先にセイアの元へ向かった先生。

 ノックをすれば、彼女は快く部屋へと向かえ入れてくれた。

 

 

「やあ、先生。丁度いいところに来た」

 

 “セイア、久しぶり”

 

 

 セイアは先生を招き入れ椅子に座らせると、自身は安楽椅子に深く腰を下ろす。

 ほんの少し疲れているようにも見えるセイアに、先生は心配そうに口を開く。

 

 

 “大丈夫?丁度いいところに来た、って私に何かして欲しいこととかある?”

 

「いや、問題ないさ。少し予知夢を見過ぎて流し込まれた情報と、それへの対処にゲンナリしているだけだよ……」

 

 

 ため息をついたセイアだったが、何かを吟味するかのように俯いた後、じっと先生の方へ視線を向けた。

 それは確信に満ちている、これから何をすべきかを知る者の瞳。

 

 

「……私はこの予知夢が君も知るべき情報であると考えている。荒唐無稽な話ではあるが、先生、少し耳を傾けてはくれないかい?」

 

 “うん、聞くよ”

 

 

 先生の返答に満足げに頷いたセイアは、少し息を整えてから語り始める。

 それはかつて常に見ていたキヴォトスの終焉、そして数多の経験と干渉を受けてよりはっきりと見えるようになった未来の姿。

 

 

「いい機会だ、順を追って話そう。私には、言うなれば『予知夢』といった類の──つまりは何時しか至る未来の片鱗を視る力がある。以前は制御できなかったことで困窮していたが、それは今は置いておこう」

 

「過日、夢の使者は私の夢で様々な未来の可能性を映し出した。普段の何気ない未来から面白いものまで様々なものを見せてくれるそれは、その日だけは様子が違っていた。あの日、私は──」

 

 

 

「……世界の、キヴォトスの終焉を視たんだ」

 

 

 

 “……キヴォトスの終焉?”

 

 

 先生が思わず聞き返す。

 あまりにも突然の宣言に、セイアの話を真として受け止める覚悟をしていた先生も現実味を感じることができていなかった。

 

 

「ああ。それはいつか必ず……『私たち』の前に訪れる、終焉のカタチだった。天から巨大な塔が飛来し、虚空が緋色に染められ……不吉な塔は、まるで悲鳴を上げるように鳴動し、この世界を少しずつ削り取って……その世界の破片を、『何か』に被せていった」

 

「削られた世界の欠片が嵐のように吹き荒れる中で、黒い光が天から舞い降り……様々な『厄災』が、世界を終焉へと導く」

 

 “厄災……”

 

 

 それはまさに終末の光景。

 にわかには信じがたく、想像すらも難しいそれはしかし、確実な滅びだけは明確に感じさせるだけの内容。

 セイア曰く、厄災とは様々な種類があるが、いずれも生徒たちだけでは太刀打ちできないような危険なものなのだという。

 

 

「私は、この光景を目にしたことで……『救済』に囚(・)わ(・)れ(・)た(・)。果てしない明晰夢、数多に分岐する滅亡の可能性の中、希望を求め彷徨い歩いたんだ」

 

「明晰夢とは、夢である自覚をもって意識的に微睡みに沈む行為。起こった事を全て記憶できることの代償に、夢と現実の境界が曖昧になってしまう」

 

「繰り返し、数多の夢を渡り歩き……しかしその全てで滅亡を見せられた私は、いつしか微睡みから抜け出せぬ夢の虜囚へと成り果ててしまった」

 

「……月乃カオリと出会ったのは、そんな時だった。彼女は夢で私を導き……試練を与え……そして希望を見出す力を与えたが……これも、今は置いておこう」

 

 

 セイアはそうして一旦息をつくと、窓の外を眺める。

 青く透き通る空は至って普通で、異常など本当に存在し得ない。

 しかしそれがひっくり返る瞬間を、彼女は知っている。

 

 

「……アレら(・)はキヴォトスに存在し得ない──キヴォトスの外部から到来したもの。人間の想像を遥かに上回る、理解の及ばない存在だ」

 

「私も片足を踏み入れたとはいえ、真に啓蒙を得たと言うことすら許されぬ、深淵よりなお深い果てから現れたもの……それの一(・)種(・)が、キヴォトスを終焉に導いたのだろう」

 

「これは私の推測だが、恐らくあれを招いたのは『ゲマトリア』──その、一部だろう」

 

 “……ゲマトリア”

 

「私は彼らの一部(カオリ堕ち黒服)を知っているが、彼らとて馬鹿でもなければ一枚岩でもない。彼らは彼らなりに目的があり、このキヴォトスでやることがある……キヴォトスを潰そうなどと考えている愚かな存在は、彼らの存在意義に反するんだ。だから、これを起こしたのはゲマトリアの、本当にごく一部の……『考え無し』だろう」

 

 “……”

 

 

 セイアが想定以上にゲマトリアについてのことを知っていたことに、そしてそれ以上に彼らを擁護していることに対して、先生は大きな衝撃を受けていた。

 ついでに、この滅亡のトリガーを引く存在に対してボロクソに言っていることについても、先生は驚愕していた。

 とりあえず気を取り直し、先生はセイアへと口を開く。

 

 

 “……セイア。『ゲマトリア』に関わることなら、今すぐ手を引いた方がいい。今、君はあまりにも危険なことをしているよ”

 

「……」

 

 “セイアの推測が事実だったとしても、今のようなやり方はダメ。きちんと情報を集めて、みんなで協力してやる事だよ”

 

「……たしかに、そうだね。彼らの足取りを一人で追うのは、いかに私でも少し危険だ」

 

 

 先生の忠告に、セイアは頷く。

 ……しかしセイアからしてみれば黒服の醜態を既に見ており、脅威度のランキングからしてみれば彼らは獣の遥か下にランクインしているのだが……

 それも、上位互換のような存在(且)に出会ってしまっているため、余計に……

 だが、確かに危険であることは正しいため、セイアも気を引き締める。

 

 

「……だから、先生。君には共犯になって欲しいんだ」

 

 “……共犯?”

 

「そうだ。ゲマトリアは危険で、力を合わせて協力しなければ立ち向かえない。君はそう言いたい」

 

 “そうだね”

 

「しかし、私にも立場というものがある。一般生徒は当然巻き込めないし、正義実現委員会のような大規模組織は動かせない。ナギサはただでさえ過労気味で、先日の混乱も含め学内に注力すべきだろう」

 

 “……”

 

「だからこその、共犯だ。世界を救う協力者……と、巫山戯て言えばそんなものだが、実際は水面下で事態を収めようという至極当然な話を実行するために、私は先生の力を欲している」

 

 “……なるほど”

 

 

 それは、先生にとってももっともだった。

 何も関係がない生徒たちは、確かに巻き込めない。

 アビドスでみんなが協力したのは、ホシノを救わなければならなかったからであり、トリニティの応援は縁があったからであり、ゲヘナの応援は貸し借りの精算だった。

 何もないところから力は生まれない、それは先生でも同じこと……代償を払わなければならないのだから。

 必ず、大いなる力には大いなる責任が伴う。

 

 

 “……セイア。私はもちろん協力するよ。でも、条件がある”

 

「ふむ」

 

 “危なくなったら絶対に助けを求めること。もちろん危なくなって欲しくないけど、セイアはダメって言ったら隠れてでもやりそうだから”

 

「ああ、構わない」

 

 “それじゃあ……私とセイアは、共犯だね”

 

 

 二人は握手を交わし、契りを結ぶ。

 そしてキヴォトスの滅亡に対抗するための密約が行われたその時、セイアの懐で軽快なメロディーが鳴る。

 

 

「おっと、電話だ……すまない、出るよ」

 

 “大丈夫だよ”

 

 

 セイアがスマホを取り出し電話に出れば、相手はどうやらティーパーティーの生徒からのようだった。

 漏れ出る音から察するに、ミカがセイアに用があるから来てくれということで連絡してくれたようだ。

 

 

「ミカがお呼びのようだ。先生も一緒に行くかい?」

 

 “うん、そうだね……そうしようか”

 

 

 先生は頷くと、セイアについてミカの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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