見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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ミカの成長が急すぎると思う方はエデン条約3と今章を見る前に原作のカルバノグ1を見るといいと思います
実は……すこし時間経ってるのよね……


116.日は暮れて

 

 

 

 日が暮れてきた街を、セイアは走る。

 その宇宙のような瞳は真っ直ぐに前を向いているが、左目だけは星が煌めくように輝いていた。

 それは、予知の瞳であり……左目のみに映し出すことで、現実を見ながら予知も同時に見るという行為。

 

 その彼女の瞳に映る景色では、どこか……地下の祭壇で、磔にされるアツコと。

 さらにどこか、奥深くに縛り付けられた、ヒトミの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 諸君、俺だ、月乃カオリだ。

 最近はめっぽう事件も起きず平和だったと思いながら人形の紅茶を飲んでいる今日この頃だ。

 先生はミレニアムとSRTにかかりきりだったし仕方がないが……アリスもウサギ小隊も無事に助けられたようだし、順調に本編通りだな!

 

 とまあそんなことを考えていると、足元に靄が広がり小さな人影が現れた。

 それは夢の使者、あのグロテスクな子たちだが……

 

 

「うん?使者?何も呼びつけてはいないが……」

 

「狩人様……彼らはお手紙をお持ちのようです」

 

「ほう、どれ」

 

 

 使者が手紙を持ってくるなんて珍しい。

 彼らは遊び心こそあるが、そういうことはしないと思っていたんだが……

 内容は……

 

 

『片割れ、アリウスにより捕らわれたり』

 

『日の出にて贄とし、儀式を完遂せんとする』

 

 

 あー……

 うん……

 

 ヒトミさんが捕まったらしいっすね。

 

 ベアおば死んだな、がはは!

 

 とまあ、これが来るってことはエデン条約編4章が始まったってことだよな?

 流石に大筋ブレイクはこの直後にどういう影響があるかわからんから避けて欲しいんだが……

 でもよりによってヒトミさんかぁ……

 ベアおばもびっくりするだろ、自分が崇高目指して頑張ってたら野良の崇高を捕まえてましたとか……

 

 まあとりあえず、ヒトミさんにはあんまり暴れないように釘を刺しておくか!

 

 

『ヒトミさん?遊ぶのはほどほどにね?』

 

『』

 

『ヒトミさん?』

 

『』

 

『……え?』

 

 

 あれ、おかしいな……

 一心同体である俺たちは、脳内会話というかテレパシーというかそういうのができるんだが……なんで応答しないんだ?

 というか反応もおかしいな、黙ってるんじゃなくてそもそも相手がいない感じ……?

 

 ……もしかして今、相当まずいか?

 あの勘違い女相手に、俺が好き放題されてるのか……?

 あいつ人の逆鱗に触れる天才なんじゃないか、もしかして。

 

 ああ、イラついてきた。

 なんだってベアおば如きに半(・)身(・)を好きにされている?

 俺は狩人、我は上位者であるというのに。

 あの薄汚れた下賤な醜花が、我が力を奪うと。

 

 巫山戯るな。巫山戯るな。巫山戯るな。

 

 

 

 

 

「殺す」

 

 

 

 

 ただ、それだけを言い残し、ソレは狩人の夢から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 雨の降る、人気のない路地裏で。

 一人の少女が、濡れる地面にも構わず地に手をついていた。

 

 シャーレに届いた手紙によって呼び出された先生は、その少女……サオリを前にしていた。

 

 

「……アツコが、連れて行かれた……」

 

「私では、彼女を止められなかった……このままでは、アツコは、姫は……明日の朝、夜明けと共に『彼女』に殺されてしまう……」

 

「私の話など、信じられないだろうが……これだけは、真実だ……」

 

 “……”

 

 

 悲哀に暮れるサオリの話に、先生は静かに耳を傾ける。

 それはスクワッド……否、大人に手駒として使われた、少女たちの悲劇。

 人を傷つけ、どこかで再起しようとし、しかしまだ利用されようとしている、悲しき運命に踊らされる少女たちの嘆き。

 

 

「アツコは……幼い頃から『生贄』にされる運命にあるのだと彼女は言った……『彼女』は、姫を救いたいのならば、従えといい……その通りに私たちは、これまで従ってきた……」

 

「だが……私たちは、『彼女』の言った計画を失敗し……任務を遂行できなかった」

 

「エデン条約の奪還に失敗した上」

 

「トリニティとゲヘナの征服も」

 

「仲間を助けることも」

 

「アツコを守ることさえも……」

 

「全て……できなかった……」

 

 “……”

 

「私は……トリニティにも、ゲヘナにも……同じアリウスにだって……助けを求めることなどできない」

 

「だから、頼れるのは……もう、先生しか……」

 

「頼む……」

 

「……私の命を賭けて約束する、どんな指示だろうと従う。『ヘイローを破壊する爆弾』、これも、預ける。私の命を握ってもらって構わない。私を信用できないと感じれば、それを使ってくれ……死ねと命じられれば、死のう。だから、だから……頼む」

 

「どうか、アツコを……」

 

「姫を、助けてくれ……」

 

 

 涙交じりの、震える声が、静かに路地裏に反響する。

 それは雪のように冷え切り、静かで、溶け消えてしまいそうなほどか細い。

 だが……だからこそ……先生は、口を開いた。

 

 

 “立って、サオリ”

 

 “私はサオリと、対等に話がしたい”

 

 

「……」

 

 

 “先に質問させて。『彼女』って誰のこと?”

 

「……『彼女』はアリウス自治区の代表であり、主人。私たちは『彼女』と呼んでいるが、他の生徒からは『マダム』とも呼ばれている」

 

「私も数回しか見たことはない……背が高く、赤い肌を持ち、白いドレスを身に纏った……『大人』だ。名を、『ベアトリーチェ』という」

 

 “……他のスクワッドはどこにいるの?”

 

「姫を連れ去られてからアリウスの襲撃を受けて……散り散りになった。生死も不明だ……まだ、追われているか、もう、始末されているか……」

 

 “アツコがどこにいるかはわかる?”

 

「アリウス自治区にある……『アリウス・バシリカ』。その地下に、『彼女』が用意した秘密の至聖場がある。おそらくそこだろう……以前から姫のために準備された場所としか、聞かされていないが……姫は以前からそこで『生贄として捧げられる』と言っていた」

 

 “……”

 

「『彼女』は明日の夜明けと共に儀式を行うそうだ……姫に残された時間は、もうない」

 

 “……わかった。状況は大体把握したよ”

 

 

 “サオリ。君を……みんなを、助ける”

 

 

 

 先生は、そうはっきりと、サオリの目を見て宣言する。

 それは迷いなく、絶対にそうするという決意の宿った言葉。

 サオリはそれに目を見開く。

 

 

「……!本当に……手を貸してくれるのか……!?」

 

 “生徒のお願いは、無碍にできないからね”

 

「……それだけの理由で?そんな……わ、忘れたのか!?私は、お前を撃ったんだぞ!?命を狙ったんだぞ!?」

 

 

「先生はそういう人だからねっ⭐︎」

 

 

「……!?」 “……!?”

 

 

 路地裏に響いた鈴のような声に、二人は目を見開く。

 そして驚いたようにそちらに顔を向ければ、そこにはピンクの髪が揺れていた。

 

 

「聖園ミカ……!」

 

 “ミカ、どうしてここに?”

 

 

 サオリが警戒する中、先生は何故ここにミカがいるのかを聞く。

 ミカは明日に聴聞会を控えていて、絶対に牢から出てはいけない立場だった。

 ましてや……脱獄なんて。

 

 

「……あはは、何でだろうね。私の牢屋にさ、なぜか一枚手紙が落ちてたの……書いてあったのは、『スクワッドに危機が迫る』『OK』ってこと」

 

 “……OK?”

 

「私もそんな意味のわからない手紙最初は無視しようとしたんだけどね?セイアちゃんがあんなに慌てるのも珍しいし、今、たぶんとっても大きなことが起こりそうな気がして……気がついたら、先生の後を追ってきちゃった!」

 

 “……あとでお説教ね”

 

「はーい。ね、錠前サオリ」

 

 

 ミカは先生の言葉を聞き終えると、サオリの前に歩み寄る。

 そして彼女の目の前まで来ると、じっくりと観察した。

 サオリはこれまでのこともあり警戒していたが、ミカはそれを気にもせず頷き、口を開く。

 

 

「私もあなたを、あなたたちを助けるよ、錠前サオリ」

 

「なっ……!?な、何故だ聖園ミカ!私は、私たちはお前を──!」

 

「うん、私はあなたたちに利用されてた。そのことは許してないよ?でも、あなたたちも悪い大人に利用されてた」

 

「……」

 

「あなたたちは今まで色々なものに立ち向かおうとして、逃げて……それでも負けずに、諦めずにここまできた。それならさ……そろそろ報われてもいいと私は思う」

 

「……!」

 

「罪を一緒に償おう、錠前サオリ。私だって今まで甘やかされて生きてきた。お姫様みたいに……でも、それだけじゃダメなんだって、みんなと『話し合って』気がつけた……だから、みんなで……話し合って、わかり合おう、錠前サオリ」

 

「……どうしてそんな簡単に……お前も、先生も……理解できない……どうして……」

 

 

「それをわかりあうために、今から悪い大人を倒しに行こう?アツコちゃんを取り戻さなきゃ」

 

「…………わかった。お前は……強いな」

 

 

 サオリはミカに一度腰を深く折って頭を下げると、先生に向き直る。

 そして、先生に爆弾の起爆装置を渡そうとするが……先生は一度、それを止めた。

 

 

 “……サオリ。爆弾は没収。起爆装置も、爆弾も、全部ね”

 

「……ああ、お前がそう言うなら……よし、渡したぞ。その起爆装置なしでは、それは絶対に爆発しない」

 

 “それはよかった”

 

 

 先生はそれを壊すと、ゴミ箱に放り捨てた。

 そして驚いたサオリに向かって、先生もまた鼓舞するように笑顔を向ける。

 

 

 “さあ、時間はないよ。急ごう。先にミサキやヒヨリと合流するよ”

 

「……わかった、行こう」

 

「いっくよー!」

 

 

 こうして異例の二人と先生による、即興のパーティが結成されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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