見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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118.月の光に導かれ

 

 

 

「……」

 

「…………?」

 

 

 目を開ける、サオリたち。

 その視界は一面、翠緑の光に満たされていた。

 いや、自身らの周囲を翠緑の光の壁が取り囲んでいたと言うべきか。

 

 

「皆、無事かい?」

 

 

 響くのは静かに、しかし凛とした声音。

 その背には黄金の髪が揺れ、見えた横顔には宇宙色の瞳がある。

 そしてその手には、眩く輝く翠緑の大剣が握られていた。

 

 

「……セイアちゃん」

 

「ミカ、待っていてくれと言っただろうに……まったく。帰ったらナギサと一緒にお説教だ」

 

「あ、あはは……」

 

 

 ミカに小言を言ったセイアは、次にスクワッドの面々を見……その状態を確認した。

 消耗しているが戦闘は継続できることを確認した彼女は、最後に先生を見る。

 

 

「待たせたね、先生。無事にスクワッドを回収できたみたいでよかった」

 

 “セイア、この光は……”

 

「なに、ほんの小技さ……月光でできた柱とでも思ってくれ。それよりも、すぐにこれは消える……包囲を突破する準備をしてくれ」

 

 “……!わかった!”

 

 

 先生は一先ず疑問を飲み込み、この状況から挽回する手筈を考える。

 ミカを最前列に置き、スクワッドと先生で陣を組む。

 そして光が薄れてきたのと同時に、一行は進撃を始めた。

 

 

「よーし!いっくよー!」

 

 

 ミカがそのパワーとスピードで、包囲網の前線を破壊し突き進んでいく。

 いかに数を揃えようともユスティナ聖徒会ではミカには勝てず、瞬く間に包囲に穴が空いた。

 

 しかしそこに、巨大な影が現れる。

 

 

ウオォォォォォォオオン──

 

ウオォォォォォォオオン──

 

ウオォォォォォォオオン──

 

 

 三体のアンブロジウスに囲まれたミカ。

 最初に襲いかかってきたアンブロジウスに向かって神秘を込めた銃撃を放ち粉砕するも、残りのアンブロジウスはミカの死角から攻撃をしようとしていた。

 

 

「っ!しまっ!」

 

 

 流石のミカといえども、アンブロジウスの攻撃を受ければ無傷では済まない。

 そしてこの状況でダメージを受けてしまえば、包囲網の突破は絶望的。

 アンブロジウスが伸ばしたその手は──しかし届くことなく、中空で切断された。

 

 

「ミカさん、大丈夫?」

 

「うん!ありがとっ!」

 

 

 そこにいたのは、身の丈ほどもある大斧を持った少女。

 ビルゲンワース啓蒙学院一年、イズ・ガスコイン。

 彼女がアンブロジウスの頭をカチ割ったのと同時に、進んでいた方向へ翠緑の光の奔流が通り抜けていく。

 それはミカに攻撃しようとしていた三体目のアンブロジウスごと、包囲を再形成しようとしていた複製(ミメシス)たちを消し飛ばし、道を切り開いた。

 

 

「今だ!」

 

 

 セイアの掛け声と共に、先生たち一行は包囲に空いた穴を駆ける。

 そうして駆け抜け、しばらく進み……気がつけば、複製(ミメシス)の姿は見当たらなくなっていた。

 

 

 “なんとかまけたみたいだね”

 

「……そうだな。助かった、百合園セイア」

 

 “イズも、ありがとう”

 

「うん」

 

「構わないさ。それよりもう夜もだいぶ遅い……先を急いだ方がいい」

 

 “……そうだね。行こう、皆”

 

 

 促されるのに従い、先生たちはアリウスの旧校舎へと進んでいく。

 日の出まで、あと3時間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 バシリカ、そのさらに奥地にて。

 急遽作り上げられた祭壇に、ヒトミはいた。

 そこへ、扉が開かれ……ゆっくりと、長身の女が祭壇の広間に入ってきた。

 

 

「やはり、予知夢の大天使は本当に厄介ですね……」

 

 

 そう呟きながら、ベアトリーチェはヒトミに近づく。

 アツコは十字架に架けられた神の子を示す意の贄であったが、ベアトリーチェにとってヒトミは違う。

 ヒトミは、ビルゲンワースへの鍵だった。

 ビルゲンワースの、神へ成らんとする秘技への。

 

 ヒトミは意識を失っており、ベアトリーチェはそれを慈しむように眺める。

 彼女は、まるで大きな皿の上に置かれたかのように……巨大な円の祭壇の、中心に寝かされていた。

 

 

「……ビルゲンワース。古より、神に至らんとした者たちの、秘儀と神秘の大釜」

 

「キヴォトスで最も不可侵であり、最も冒涜的で、最も許されざる地」

 

「過去幾人ものゲマトリアが消されてきましたが……私がついに、そのヴェールを剥がします。あなたを使って」

 

 

 ベアトリーチェが何かを操作すると、祭壇に淡い光が差す。

 それはヒトミを照らし、そして彼女はゆっくりと目覚めた。

 

 

「……」

 

「お目覚めですね。いえ、聞こえてはいないかもしれませんが」

 

 

 ベアトリーチェが語りかけるも、ヒトミには全く反応がない。

 まるで、夢(・)を(・)見(・)て(・)い(・)る(・)かのように。

 

 

「あなたは外からの来訪者……そう、報告を受けています。しかし、あなたに宿るその神秘は凄まじい。それこそ、生徒の中でも膨大かつ、その質も桁違い」

 

「そして……あなたは未だ、このキヴォトスの外と繋がっているようです。あなたから伸びる神秘の糸が、虚空へと繋がり消えている……それが、何よりの証拠。あなたの神秘は……キヴォトスの外部につながる、『窓』に顔を出している」

 

 

 ベアトリーチェは計器を置き、ただ彼女のことをじっと眺める。

 それは面白いものを見るかのような、好奇心と、そして期待に満ちた目。

 

 

「あなたは『アレ』にとって、実にいい餌になり得ます。ビルゲンワースに先を越されそうだったのは癪ですが……彼女たちがやりたかったことと、私がやりたかったことは同じなのでしょうね……」

 

「クククッ……しかし彼女たちは、失敗した!おそらく『アレ』を欠片ばかりに見ることは叶ったのでしょうが……生徒では、『アレ』には耐えられません。故に起きたのが、集団発狂……そういうわけでしょう」

 

「『アレ』に露出された生徒の神秘(mystery)は恐怖(terror)に反転され──裏面の原理が、支配するようになる。ああ、できるのであれば、それをぜひ見たかった。私たちも、何も知らないのです。『アレ』について、私たちは全くの無知なのですから」

 

「解釈されず、理解されず、疎通されず──ただ到来するだけの不吉な光。目的の理解も意思の疎通もできない不可解な観念……私たちゲマトリア最大の宿敵……」

 

 

「……『色彩』」

 

 

 彼女がそういった時……ここに繋がるバシリカの方向から、何かの叫び声のような……あるいは悲鳴のような……そんな、巨大な、耳を劈く音が響き渡った。

 彼女はそれを聞くと、ヒトミから目を離し……そして、バシリカの方へと歩んでいく。

 

 

「『シャーレ』を相手にするために準備した私の切り札……聖徒会の最も偉大な聖女、『バルバラ』。彼女も、完成が近いでしょう」

 

「マエストロの言う通り、この方式に美学はないかもしれませんが……『兵器』には兵器なりの機能美というものがありますから。マエストロは、どんな顔をするでしょうか……ああ、彼は表情を作れないでしょうが」

 

「ああ、楽しみです……シャーレと、スクワッドたちの最期と……そして、私の成功が」

 

 

 そうして、彼女は去っていく。

 後に残ったのは、光に照らされた円の祭壇と。

 その中心で再び眠る、ヒトミの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 アリウスの旧校舎にて。

 サオリたちは迅速に地下通路を発見し、突入しようとしたが──そこに、大量の複製(ミメシス)が現れ、進むことができない状態となっていた。

 さらに旧校舎周辺にも、続々とアンブロジウスやユスティナ聖徒会の大軍が集結し始めていた。

 

 

「くっ……キリがない!」

 

「数が多すぎます……」

 

「旧校舎自体も古いから、あんまりここで戦いたくはないんだけど……」

 

 

「イズ、輸血液は足りているかい?ああ、水銀弾は私は余っているから渡そう」

 

「ありがとう。輸血液もまだまだあるから、大丈夫だよ、セイアさん」

 

 

「もう、邪魔ばっかりなんだから」

 

 “うーん……かなり足止めされちゃってるね”

 

 

 一先ず物陰に隠れて体制を立て直していた一行。

 しかしそこに、またもや通信がつながる。

 そうして出てきたのは、ベアトリーチェと……映像で映し出された、磔にされたアツコの姿だった。

 

 

『……さて。どうです?先生。順調でしょうか?』

 

 “ベアトリーチェ……!”

 

「あ、アツコ……!」

 

『あなた方があんまりにも遅いので、眺めていましたが……そろそろ、飽きてきましたね。余興は終わりにしましょうか』

 

 “……!!”

 

『──儀式を、始めます』

 

「「「っ!」」」

 

 

 ベアトリーチェの言葉に、スクワッドの三人が息を呑む。

 それは日の出に行われるはずの事であり、タイムリミットとしていたアツコの命の危機でもあった。

 日の出まで、あと二時間はあるが……ベアトリーチェは遊びを切り上げ、今から儀式を始めるつもりのようだった。

 

 

『ロイヤルブラッドのヘイローは、もう間も無く破壊されるでしょう。そして、その欠片を通じ、私は高位の存在となるのです……』

 

『そして……私は、ビルゲンワースの門をこじ開けます。その神秘と秘儀を、根刮ぎ奪うために』

 

『さあ、幕引きとしましょう……ユスティナの聖女バルバラよ、邪魔者たちを消しなさい!』

 

 

 彼女の声と共に、先生たちが身を隠していた物陰が破壊され……先生たちは、包囲のど真ん中に放り出される形になる。

 そして、その眼前に……両腕にミニガンを持つ、凄まじい圧を持ったシスターが現れた。

 

 

「っ!すごいね、あれは……ミカ、君より強いんじゃないかい?」

 

「あっはは!そうかも!」

 

 

 セイアとミカがそう軽口を叩いた瞬間、バルバラは容赦なくその銃口を二人に向けた。

 そして回転し始める銃身と共に、弾丸が凄まじい勢いで破壊を撒き散らす。

 

 セイアがそれに応じて翠緑の大剣を振るえば、そこから溢れ出た光の奔流がバルバラへと向かうが……それはなんと、バルバラが放った力と拮抗し、止まってしまった。

 

 

「……まさか、止められるとは。旧校舎を壊さない程度に手加減したとはいえ、まさかキヴォトスでそれだけの力を見るとは思わなかった……どう見ても神秘の巡りが猛々しい、向こう(ヤーナム)と同じ理論で強化されてると見るのが自然かな」

 

「何か喋ってる暇ないよセイアちゃん!」

 

 

 戦略兵器をも凌ぐ破壊力に晒された二人だったが、それを回避つつ柔軟に対処しバルバラへと攻撃を始めた。

 時を同じくして、周囲のユスティナ聖徒会とアンブロジウスも動き出すが……同時に、イズもまたその斧を手に前へ出る。

 

 

「皆は、先に進んでください。ここは私が……いえ、私たちが止めるので」

 

 “イズ!?”

 

 

 イズがその言葉と共に地面を踏み込めば、それは凄まじい衝撃を伴って辺りを揺らす。

 聖徒会が剛脚によって体勢を崩され一時的に攻撃の手が止まった瞬間、イズ、ミカ、セイアは先生たちと聖徒会の前に立ちはだかるようにして揃い踏みした。

 

 

「そうだね。不安ではあるが……先生ならば、大丈夫だろう。約束もあるからね、任せたよ」

 

 

 セイアは先生との密約を思い出し、先生もまた、彼女が伝えたい意図を理解する。

 ここでなんとかしなければ、キヴォトスは救えないのだと。

 

 

「……うん、任せてよ。私たちなら、これくらいへっちゃらなんだから!」

 

 

 彼女はそう言い先生に笑顔を作ると、サオリに顔を向けて微笑みかける。

 それは信頼と、信用の微笑み。

 

 

「錠前サオリ……ううん、サオリちゃん。必ず、アツコちゃんを助けるんだよ?」

 

「……!」

 

「……そして、絶対に帰ってきてね!」

 

「……ああ!」

 

 

 サオリはその想いに応えるべく、自らを鼓舞し……そして、地下通路へ向かう道の敵へと、銃を構える。

 そして同じく、ミサキとヒヨリ……そして先生も、地下通路へと目標を定めた。

 

 

 “行こう!”

 

 

 今宵最大の戦闘を背後に、先生たちは前へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 騒がしくなる、アリウス旧校舎。

 そしてそれを取り囲む、まだまだ溢れんばかりに並び立つユスティナ聖徒会、そしてアンブロジウスたち。

 

 そしてそこに、一人の影が現れる。

 それは、厚手の装備を囲んだ一人の少女。

 灰の衣は闇夜に浮くが、彼女の気配は全く無く……ユスティナ聖徒会ですら、接近に直前まで気が付かない。

 

 悪夢は、静かに、そして確実に……忍び寄っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




悲報

最高戦力たち 離脱
超危険存在  接近
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