凄まじい戦闘音を背後に、スクワッドと先生は地下通路を駆ける。
数多の
そここそが、ベアトリーチェの儀式の祭壇。
即ち、『アリウス・バシリカ』であった。
厳格な様式の大聖堂は、広く、そして開かれている。
奥に見えるは美しい巨大なステンドグラス。
ベアトリーチェ自身を型取り偉大に見せるそれの前に、まるで磔刑とされたかの様に荊棘に囲まれた、アツコが吊るされていた。
「姫……!」
“……!”
焦ってサオリが声をかけるも、アツコからの返事はない。
しかしよく見れば、微かに呼吸と合わせて身体が動いており……どうやらまだ、ヘイローを破壊されたわけではないようだった。
「お待ちしておりました、先生。私の敵対者よ……」
そしてついに現れたるは、この至聖所の主人たる『大人』。
ベアトリーチェがついに、先生の前にその姿を晒した。
彼女は先生らを高みより眺め、見通し、そして値踏みする。
そして──口を開いた。
「遅かったですね。儀式は既に進行しています」
「……!!」
「先生……不可解な大人、私の敵対者よ。あなたは、もしかしたら私を誤解しているのかもしれませんね」
“……”
「私たちはこの世界を通じて各自が望むことを追求しています。あなただって同じ。何に成る事もできるし、全てを識る事ができます。より高位な存在になること──それを通じて全てを救うことが、大人の責務なのです」
「この儀式はキヴォトス外の力を利用し、私がより高位の存在になるために用意されたものなのです。そうして高みに登り、この世界を救う──それこそ大人が到達すべき境地!」
「その過程での小さな
恍惚と、そして高揚した声で、ベアトリーチェは先生に語りかける。
全の救済ために一の犠牲を強いるそれは、たしかに避けて通れぬ道かもしれない、絶対に必要なことかもしれない。
しかし、それでも、先生は。
“……それは違うよ”
「……!?」
“私を誤解している。私は大した存在じゃない”
「……?」
「……!」
“私はそんな存在ではないよ”
「……では、あなたは一体何だと言うのですか!あなたの能力は、存在価値は何だというのですか!」
「……!!」
「……ならば、それを証明してみせなさい……!!シャーレの『先生』っ……!!」
ベアトリーチェは叫ぶ。
先生の、選択と、そして貫かれる高潔な意志に対するように。
そして、彼女は、ゆっくりとその姿を変質させていった。
「……!!」
「なっ……」
「あ、あうう……」
スクワッドが絶句する中、先生は静かにその異形の姿を見据える。
彼女の身体は巨大化し、変形し、そして進化していった。
より、高位の存在に。崇高に近しい存在に。
「さあ、その目にしかと映しなさい!これが私……高位の存在となった姿です!」
「これこそが本来の姿……!!偉大なる大人の姿なのです…………!!!!」
彼女はやがて、その身を怪物へと変える。
それは、まるで巨大な花。
5mはあろうかという長身、地面へと巣食う幾本もの根のような脚、真紅の爪を兼ね備えた長く鋭い腕、枝のように細く細かく枝分かれした翼、そして蕾のように変質した頭部の羽。
それにやがて、可視化できるほどに濃密な神秘の蝶が集まり……ベアトリーチェは、開花する。
開かれた花は、白い花弁に数多の瞳が集まっている。
その背には──神秘を宿した証たる、真紅の巨大なヘイローが浮いていた。
「あれが……本物のマダム……」
「ただの怪物にしか見えませんが……」
「そう、私たちはあんなものに、ずっと……」
「……ああ」
「……はい!姫ちゃんを救うのです!
「……うん。あの怪物を倒そう」
先生もまた、アロナの宿るシッテムの箱をしっかりと手に持ち。
スクワッドたちが、ベアトリーチェに向けて行動を開始した。
***
アリウス旧校舎にて。
セイアが聖剣を振るい、ミカが隕石を放ち、イズが暴力の限りをつくし、バルバラが破壊を振りまく戦場となったそこは、壊滅状態にも近い状況だった。
「ほんっとうにしぶとい!」
「君の馬鹿力で殴っても怯むだけ、なんて……本当に桁違いだ」
「セイアちゃん一言余計!」
シューーーーー……
ガスマスクの呼吸音と銃声のみを発するバルバラは、その攻撃が戦術兵器をも凌駕し戦略兵器にも迫る火力を持つ。
両手に備えられたミニガンは、しかし神秘の作用によりヘリなどに備え付けられる30mm級の銃機関砲並の威力があり、それが毎分3000〜4000発という凄まじいレートで放たれるのだ。
戦車の装甲すら用意に貫けるだけの火力であるため、もはや遮蔽物などは存在し得ず、セイアとミカは機動力でもってなんとか回避している状況だった。
その上、バルバラは防御力もピカイチ。
コンクリートどころか鉄板すら容易にぶち抜くミカのパンチを喰らっても、多少怯む程度で済ませるほどに硬く、セイアの月光波をまともに喰らおうとも原形を残すほどに頑丈。
その上、この地に満ち、戦闘中に溢れ出た神秘を吸収し、欠損程度ならば一瞬で回復するほどの再生能力まで兼ね備えていた。
「恐らく、周囲の被害を考えなければ撃破は可能だが……」
「……セイアちゃんが、さっきから警戒してる『何か』がいるから難しいよね」
「……」
そう、セイアはここにいるであろう……『何か』に対して、異様に警戒していた。
無限とも思えるほどの供給能力を持つはずのユスティナ聖徒会が、先ほどからイズ一人で抑えられる程度に少ないためだ。
アンブロジウスも多い時では15体はいたが、今は多くても5、6体ほどしか同時に見ない。
「……隙を見せるわけにもいかないからね」
イズは今、一人でユスティナ聖徒会無双をしているところ。
彼女は神秘の性質で防げる二人と違い銃弾が大ダメージになり得る身体の筈だが、風圧で弾丸を逸らし、斧で弾き、地盤を揺らして照準を逸らすという力技でなんとかしているようだった。
しかし流石にバルバラを相手取るのは難しいだろう、一人ならばともかく周りのユスティナが邪魔すぎる。
そんなことを考えながら戦っていたセイアたち。
戦場は膠着し、体力が有限であるセイアたちだけが少しずつ消耗している状況だった。
そして──ついに。
異様な気配が、旧校舎の中に入り込む。
「……ミカ、すまない。一人で倒してもらうしかなさそうだ」
「やっぱり?」
「ああ……申し訳ないが。私は──カオリの相手をしなければ」
旧校舎入り口のユスティナ聖徒会が、まるで風に吹かれた綿毛のように吹き飛んだ。
そして近場にいたアンブロジウスが、風船のように弾け飛ぶ。
宙を舞い、あらゆるものを粉砕するのは、長い、長い、
『獣肉断ち』、そう名付けられたそれはしかし、通常のものより長い古狩人のもの……から、さらに長大なもの。
左手に備えるのは、雅な装飾の施された美しい銃器。
エヴェリンと名付けられたそれは、カインハーストに伝わる最強の銃器である。
そしてそこにいたのは、処刑隊の衣に身を包んだ、月乃カオリ。
彼女が旧校舎に足を踏み入れると共に、旧校舎に霧がかかり、すべての存在の入出場が制限された。
そして、セイアが彼女の前に躍り出た時。
辺りに荘厳な音楽が流れ始める。
─【BGM:Queen of the Vilebloods】─
「思った通りに完全にブチギレてしまっているじゃないか……!ベアトリーチェ、なんて愚かなことをしてくれたんだい……!」
「……」
「いつもの軽口も無しかい!?」
金属の打ち合う音とともに、獣肉断ちが凄まじい速度でセイアを襲う。
打ち合うのは危険と即座に判断したセイアがそれを避ければ、直後、付近にあった倒れていた柱が粉々の粉塵に成り果てた。
「私が言うのもなんだが、リーチがあるというのはずるいね」
普通、狩人の扱う獣肉断ちのリーチは3mほど。
古狩人の扱う大きなものでも、5mほどに収まる。
しかしカオリが使っているのは、どう見積もっても10mはある規格外の長さのものだった。
あまりにも高い攻撃性能に、手加減していては負けると感じたセイアは惜しみなく力を解放することを決意する。
「……どうか怨まないで欲しい。上位者に怨まれるというのがどれくらい酷いかは知っているからね……『導き』、『ルドウイーク』、頼んだよ」
『
セイアはそう呟くと、その神秘を爆増させた。
***
赤い神秘が、全てを蹂躙する。
それは確かに、高位に至った存在の力であり。
ベアトリーチェはそれを存分に振るい、先生たちとスクワッドを追い詰めていた。
「満ちるっ!満ちるっっ!!ククククッ!!アッハハハハハッッ!!!」
ベアトリーチェが放つ真紅の神秘は、スクワッドの面々を包み込むようにして攻撃する。
彼女たちはそれを間一髪で躱し続けなければいかず、ここまでに消耗し切っていた体力ではそれができなくなるのも時間の問題だった。
「はあっ!」
サオリの渾身の弾丸がベアトリーチェに直撃し、彼女に手傷を負わせるが……それはちっぽけな傷であり、ベアトリーチェにとっては無意味なこと。
ミサキもまた燃焼弾を放ちベアトリーチェを焼き、ヒヨリもベアトリーチェの顔へと弾丸を叩き込んだが……それすらも、彼女にとっては鬱陶しいだけだった。
「……っ!強い……!」
「はぁ……はぁ……」
「っ……周りに湧く
「さあ、終わりの時です!私の偉大さを、存分に噛み締めなさい!!」
ベアトリーチェの言葉とともに、彼女の頭上に神秘の塊が浮かぶ。
それは凄まじい破壊のエネルギーであり、周囲に立っている
壁も、天井も、床も、柱も、等しく塵としながら、それは段々と大きくなっていく。
崩壊したバシリカに宙から月光が差し込む中、それはあまりに神秘的で、あまりに絶望的だった。
もし、それが放たれれば──間違いなく、全員が死ぬ。
しかし、それを止める手段は存在しない。
サオリが苦し紛れに放った弾丸でさえ、その神秘の球体とベアトリーチェに当たる前に塵と化してしまったのだから。
「さあ、私の時代を始めましょう!殺すわ、あなたを!」
もはや、ここまで。
そう全員が思ったその時──
どこからか……
美しい讃美歌の音が、聞こえ始めた。
先生のセリフの選択肢風特殊タグは作成者であるMinus-4(まいなすよん)先生より使用許可を頂きました
Queen of the Vilebloodsはローゲリウスと女王ヤーナム戦でのBGM。おどろおどろしい曲調でとてもかっこいい
だけど、カオリがこのBGM流しながら敵で現れたら気絶する自信があります