126.プロローグ(と言ったな、アレは嘘だ)
──この物語は覆された。
脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈……すべてが破壊され──
その意味は絡み合い、混ざり、攪拌され──
統制できない程に褪せてしまった。
それは、この物語に入った
主人公も、悪役も、事件も、葛藤も無く──
全てが分解され、縺れあい──
脈絡も、構成も、必然性も無くなってしまった……作為的に作られた世界。
そうして──果ては意味を失い、力が暴れるだけの──理解不能で、不条理な世界へと。
嗚呼、そうだ──元より、この世界はそのように存在していた。
しかして、始めるのだ。
物語と呼ぶに満たない、歪な
脈絡も、ジャンルも、必然性も、構成も、
敵対し、裏切り、覆った……
哀れで、未熟で──物語にすら満たぬ歪な創作を。
観客を冒涜し、登場人物をも侮辱する──叛乱の物語を。
「そうは思わないかね?死の神よ」
「……」
赤い部屋。
円卓がかつてあった部屋の中心で、メンシスは笑う。
その顔には、黒い銃口が向けられており。
対面には、灰髪の少女が立っていた。
「貴公はゲマトリアを狙ったのであろうが──私の筋書きで、アレらをまだ終わらせる訳にはいかないのでね。逃がさせてもらった」
「……」
「代わりを務めるのが私では不満かね?」
その言葉を言い終える前に、銃声が三発。
しかし弾が当たった場所に、メンシスはいなかった。
白い靄と共に掻き消えた彼は、すぐ隣に現れる。
灰髪の少女が幾度撃とうとも、彼はただ煙に巻き続けるのみ。
「そう憤るな。我はメンシス、悪夢の支配者にして……この物語の異分子」
「貴公が相手すべきは、この世界。なればこそ、私は貴公に期待している」
「さあ、終焉を。さあ、悪夢を。さあ、さあ、さあ」
灰髪の少女が放った弾丸は、ついぞメンシスを捉えることはなく。
遂に彼は、白い靄だけを残し姿を消す。
残された灰髪の少女に、言葉だけを残しながら。
「だから奴らに呪いの声を」
「赤子の赤子、ずっと先の赤子まで」
響く声に、灰髪の少女は背を向ける。
その声は、少女のものに聞こえた。
***
それはどこか、遥かなる果て。
美しい景色の中に建つ一つの部屋にて、白いキツネの少女はキヴォトスに思いをはせる。
今、ここに、『色彩』に暴露した者はいない。
しかし、彼女の前には、一人の少女が現れていた。
「……そち、何者じゃ」
「なに、警戒することはない。私は
「ただの生徒がこの場にいる筈がなかろう」
「……フフフ、気にするな。世界には、気にしてはならないこともある──百鬼夜行の預言者、クズノハよ。それは貴公が最もよく知ることだろう」
「……」
「……貴公は、最もアレについて知っている。故に、私は此度話を聞きに来たのだ──あの、『色彩』について」
カオリがそう言うと、クズノハは目を細め静かにカオリを見つめる。
しかしクズノハの眼を以てしても、カオリの本質はその一端すら見えなかった。
まるで、この場に存在しないかのような気配の薄さ、しかし圧はこの世の何よりも強い。
クズノハはこの場で何をしようと無意味だと諦め、彼女に色彩についての話をすることに決めた。
「あれ……『色彩』は、キヴォトス外から到来する、
「色彩に露出された者の肉体は捻じれ──精神をも蝕まれていく。キヴォトスの民であればその程度で死に至る事はない……じゃが、個が捻じ曲げられ、異物と成り果てるじゃろう──果たして、それが同一存在と呼べるかは、別の話じゃな」
「じゃが、色彩がキヴォトスを見つけるのは不可能に等しい。砂漠で一粒の砂を見つける事と同義……それが、なぜ……」
「貴公には関係のないことだ。未だ関われぬ幽世の囚よ」
カオリはその言葉と共に、身体を靄と化す。
そしてそれは、瞬く間に消え去り──後には、音しか残らなかった。
『有意義な時間だった。貴公に感謝を』
「……何者じゃ、一体……このキヴォトスで、何が起きようとしている……」
残されたクズノハはただ、独りごちた。
***
時は移り変わり、闇に包まれた赤い部屋にて。
三人の『大人』が一同に会する。
彼らはゲマトリア、しかし此度は様子が異なっていた。
彼らは皆、一点を見つめ……そしてそこから、白い靄と共に、檻を被った大人──メンシスが、現れた。
「「「……」」」
「待たせたな、貴公ら」
「いえいえ、問題ありませんよ。それでは会議を始めましょうか」
黒服はそう言い、彼を迎え入れる。
メンシスはゲマトリアと相互に協力する契約を行い、互いが互いを利用する関係となっていた。
「少々前の事ですが、『無名の司祭』の遺産が観測されました」
「不勉強で申し訳ないのですが、『無名の司祭』とは具体的に何を意味するのでしょうか?」
「『無名の司祭』というのは、端的に言えばキヴォトス以前に存在していた
「ふむ……」
「『名もなき神』とそれを崇拝する『無名の司祭』──彼らはキヴォトスの神秘の下に堆積し、痕跡だけが残る筈だった存在……」
「『名もなき神』──それは大地、海原、天災といった……所謂、太古の昔より存在する『神秘』や『恐怖』──とでも申しましょうか。彼らは自然を模った形で顕現するとされております」
「そして、それらを崇拝する『無名の司祭』。彼らが何のために巡航ミサイルなどのオーパーツを生み出したのかは定かではありませんが──淘汰されし旧き人は、現代のキヴォトスに対して友好的ではなかったのでしょう」
「彼らは何処かへと姿を消しましたが、その技術はまだこの地に残されておりまして──私は以前から、彼らの遺産に大変興味があり、研究していたのです。何せ、大金になりますからね、クックック」
「ふむ……」
「ですが、観測されたのはそんな凡庸な物ではありません」
「……『方舟』が観測されたのです。一瞬ではありましたが」
黒服の言葉を、ゴルコンダが引き継ぐ。
それに、マエストロは訝しげに反応した。
「……『観測』?それは知覚される概念なのか?物体ではなく、現象であると?」
「興味深い質問ですね。私も『方舟』は実在する物質であると考えておりましたが……どうやらそうではないようでして。カイザーグループにアビドス砂漠を調査させておりましたが……全て無駄骨でした。私は、勘違いをしていたのです」
「ほう」
「『方舟』が、全ての神秘を併せ持つ抽象的な概念であるのならば──いえ、これでは論点がずれてしまいますね。本題へ戻りましょう」
黒服がそう言い仕切り直す。
続きを聞いていたかったメンシスだったが、彼は客、故に話を遮ることはしない。
「消え行くはずの『無名の司祭』のヘイ、そして遺産が再び観測された事……これらは確かに、我々の想定を上回りました」
「シャーレの出現、キヴォトス最高の神秘の確保失敗。唯一残されたアリウス領の剥奪、デカグラマトンの死、ビルゲンワースの支配者たるあなた……メンシスの出現──そして『無名の司祭』の遺産である『方舟』の観測」
「計画通りであれば起こり得ることがなかった事態。遠い未来でさえ到達することが──いえ、訪れることすらない現象だったかもしれません。制御不能の変数によって、私たちが迎えた現在は……元の計画からあまりにも逸脱してしまいました」
「それだけではない──ベアトリーチェの愚行によって、『色彩』がここを発見してしまった」
マエストロが忌々しそうに吐き捨て、ゴルコンダとデカルコマニーも気分が沈んでいるようだった。
黒服も内心彼女に対しては落胆している。
「……どれほど猶予があるかはわかりませんが、できる限りの準備を」
黒服がそういい、ゲマトリアの面々も頷く中──メンシスだけは、虚空を見ていた。
その空間が、歪み、割れ、繋がる。
「……どうやら、その暇はないようだな」
そこから現れたのは、灰髪の少女だった。
***
シロコはアビドス砂漠を一人走る。
大量のカイザーPMCの活動を訝しんだ彼女は、対策委員会の制止も聞かずに情報を得ようとしていた。
しかし──異変が起こる。
「ん、今地面が……地震?」
『シロコちゃん?大丈夫?』
「……不思議な光が見える……黒、いや、虹……?」
凄まじい光と共に、そして地震ともに……シロコの前に現れた存在。
それは……巨大な、一人の『大人』だった。
***
それは、到来した。
透き通る青い空は、瞬く間に真紅に染まり。
キヴォトスが、厚い雲に囲まれる。
そしてキヴォトスの各地で、大きな地震が起きた。
それは、不吉な柱の出現。
巨大なクレーターを産みながら現れたそれは、サンクトゥムタワーをはじめとした邪魔な構造物の一切を破壊し、天を貫く赤く不吉な塔として君臨した。
それは、厄災の出現。
塔を中心として、キヴォトスのあらゆる場所に不気味な人影や機影が現れる。
それらは『感化』された存在たち。
白く変色し無機質な目をしたPMC、
それらは、生徒を、そして市民を襲い、キヴォトスを滅ぼすために侵攻を始める。
“アロナ”
「は、はい!」
先生は、赤い天を眺める。
彼の手にはシッテムの箱が握られており、彼が語り掛ければそれは応答した。
“みんなに連絡を取って欲しいんだ”
「あっ、はい!『みんな』とは、えっと、つまり……誰に連絡を?」
先生の、覚悟の籠った声。
それに応じるように、アロナは連絡を取ろうとして──首をかしげる。
しかし、先生は……先生の脳内では、もう既に……
連絡を取る生徒、その全員が、頭の中に浮かんでいた。
“『みんな』に、お願い”
キヴォトス、その各地にて。
天が真紅に染まり動揺する生徒たちの懐で、手の中で、机の上で。
端末の通知音がなる。
それは、『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』からの特別通知であり。
それは、『先生』からの個人的な通知でもある。
キヴォトス全土に、その地にいる生徒一人一人に、助けを求めるメールであった。
***
やあやあ諸君。
俺だ、月乃カオリだ。
アレから色々あって、今は空の上にいる。
まあ暫くの間色々あったんだが……まあ俺が関わっていないし、普通にだいたい原作通りだったからシャーレ奪還編に関してはクビだクビだクビだ!
ま、カイザーとかいう負け確の、舞台装置にもならない弱すぎる企業なんて誰も興味ないしな。
キヴォトスを一時的に占領できそうだった……だけ!という哀れな存在、調子に乗ってたらヴァルキューレとRABBIT小隊にボコボコにされてやんの。
あとついでに連邦生徒会内の不和とかね。
これも俺にとってはあまり関係あることではないな。
いつも先生にシャーレ総決算を持ちかける名目で会いに来る卑しい子がやらかす内容だが……まあタイミングと相互理解が足りなかったから仕方がないよねという話。
勝手に解決するしあまり興味もない、内部での不和ならもっとこう、陰謀の夜とかさ、そういう壮大なやつじゃないと心惹かれないんだ、すまない。
まあ先生方には問題なく原作をやっていただくということで。
俺がゲマトリアを助けた以外は本当に同じだからキング・クリムゾンしようね〜。
でもフランシスがいないから先生の覚悟が普通に決まってる程度に収まってるのが残念ではあるな。
もっとこう、全て救ってやる!!!って感じのガンギマリして欲しいんだけどね?
でも全員集合キヴォトスアッセンブルはしてくれたので満足満足……
さあ、最終編を走り抜けようか。