百鬼夜行、最北端。
『大雪原』と呼ばれるこの場所にて、三人の少女たちが危機に陥っていた。
彼女らは忍術研究部、陰陽部ニヤと先生の頼みにより百花繚乱の委員長を探すため『大雪原』を移動していたのだが──
「う、うわぁっ!部長!こっちも塞がれてしまいました!!」
「うっ、一体どうなってるの……大雪原は比較的安全だって聞いてたのに……」
『色彩』に感化された大量の敵たちが、忍術研究部を包囲していた。
その一体一体がイズナたちの実力に匹敵するほどの質であり、向こう側が見えなくなるほどの壁を作り上げる量で襲いかかってくる。
あわや絶体絶命、ここまでか、と最後の抵抗を忍術研究部がしようとした時──
「今だ行くぞ!『超無敵鉄鋼「虎丸」』降下!!」
──空から、戦車が降ってきた。
それは凄まじい轟音と共に着地し。
ついで凄まじいドリフトテクニックで、大量の敵を跳ね飛ばした。
「キキキッ!バッチリのタイミングだったぞ、イロハ!!」
「あっはは〜!すご〜い!降下〜!」
「ああ、はい。ところで先輩、なんでここに来たんですか?」
「知らないのか?危機に瀕した仲間を助けるために決まっているだろう!!正義の味方になるためだとも!!イブキが愛してやまない忍者の為にな!!」
「こんにちは、忍者のお姉ちゃんたち!イブキが助けに来たよ〜!!」
凄まじいテンションと共に現れた助っ人に目を丸くする忍術研究部だったが、純粋に助けてくれるというのならば話が早い。
イブキと顔見知りだったこともあり、彼女らはすぐにこの包囲網を突破するため行動を始めた。
「よ、よーし!行くよ!」
「はい!」
「行けっ!!『超無敵鉄鋼「虎丸」』!!」
「はいはい……発進」
これより短期間。
超無敵鉄鋼は、大雪原に戦車の音を知らしめる。
***
各地で防衛戦が発生し、先生の指揮と生徒たちの頑張りで襲撃を撃退していく。
途中、なんどかトラブルはあったものの……その全てが問題なく解決され、各自治区の避難も完了していった。
山海経では、梅花園、練丹研究部、玄武商会の防衛に……山海経が生徒会、玄武門の手助けもあり、無事に危機を乗り越えた。
レッドウィンターでは、人海戦術の極致を見せる。
動員できるあらゆる生徒を集めれば、それは敵にも負けない矛になり、盾になるのだ。
普段はいがみ合う工務部と事務局も今だけは手を取り合い、共に敵を撃ち倒して危機を乗り越えていく。
百鬼夜行では、お祭り運営委員会の尽力の元、無事に素早く避難を終わらせることができた。
陰陽部や修行部、他の部活も協力し、生徒たちは一致団結して敵を撃退していく。
ゲヘナでは、風紀委員会の尽力で防衛に成功。
避難も万魔殿が抜かり無く行い、ついでにいがみ合う程度の余裕を見せる。
トリニティでは、放課後スイーツ部や図書委員会、自警団……そして、ティーパーティー、正義実現委員会が避難と治安維持を成功させた。
途中、避難が遅れかける事態が発生するも……コハルが適切な避難指示と防衛を行い、正義実現委員会が早期に駆けつけたために大事には至らなかった。
ミレニアムでは、エンジニア部が自治区防衛に参加。
どう考えても過労気味だが身体を引きずり戦った。
途中、トレーニング部のスミレや正体不明の無人機の手助けもあり、無事に防衛を成功させる。
D.U.では、アズサやヒフミ、美食研究会、ヴァルキューレなどが奮闘。
さらに、急遽ヘルメット団や無限回転寿司戦隊・カイテンジャーが世界の危機に駆けつけたことで、戦況は生徒に有利に動き、無事に防衛を終わらせた。
各サンクトゥムでも、勢力が続々と結集し──総攻撃の準備が、整った。
故に、シャーレでは。
全体に、虚妄のサンクトゥム……そしてその守護者への、総攻撃が発令される。
各サンクトゥム守護者攻略完了まで、あと──
***
────────────────────────
アビドス砂漠を、対策委員会はひたすらに走る。
その背後に、巨大な砂煙を上げる存在を連れて。
■■■■■■■■!!
やがて砂煙から姿を現したのは、宇宙色の巨大な蛇。
デカグラマトン3番目の預言者、『ビナー』。
「うわあぁぁ!出たわよ!!」
「さあ、走りましょう!」
「目標地点まで引きつけるよ〜」
ホシノたちが走るのを後ろから追いかけるビナー。
しかし、その口に光が集まり始める。
『ちょ、超高エネルギー反応!?予想されていた、数倍、いや数十倍はある……!!逃げて!!そのレーザーはあらゆるものを一瞬で溶かしちゃう!!』
「ちょ、何それ!?話が違いすぎるじゃない!?」
「回避タイミングが計算できません──ホシノ先輩!!」
ホシノが、後輩たちを庇う。
直後──極光が、砂漠を染めた。
「うっわ、アレ直撃……?」
離れた地点から見ていたムツキたちは、その光景に絶句する。
その破壊は、ホシノたちのいた場所から真っ直ぐ直線上に薙ぎ払われ、そのラインにあったあらゆる物質を全て溶かし尽くしていた。
砂漠の砂までもが余波の高熱でガラスと化し、宙を舞いキラキラと光り輝く。
その熱は、計測によると最低でも数百万度……人の生存は、絶望的。
しかし、陸八魔アルはその光景を見ても眉ひとつ動かさない。
「……ふん。予定通り、計画を進めるわよ」
「アッチチチチチ!いやぁ、なかなか
ビナーの光線跡地。
しかしそこには、ほとんど無傷の対策委員会が残っていた。
砂の大地はガラス化し、自分たちが立っていた場所は周囲より二回りはへこんでいるが……それでも、彼女たちは無事だった。
仁王立ちするは、キヴォトス最高の神秘──小鳥遊ホシノ。
この世界線のキヴォトスにおいて、あまねく神秘はその質に比例して強化される。
で、あるならば……神秘に満ち溢れた預言者や
その強化の恩恵を最も受けるのは、小鳥遊ホシノを置いて他にいない。
更に彼女が持つ盾も、アビドス生徒会に伝わるオーパーツじみた代物。
ホシノの神秘と合わさった時、それは『防御』という概念そのものとなり……彼女の力続く限り、
『あの攻撃で、生きてる……!?』
「無傷だよ〜?ほんと、危ないところだったよ〜……最近腰も弱ってきてるし、無理はできないんだけどなぁ……湿布代もバカにならないしさぁ〜」
「だから、そんなに私たちと歳変わらないでしょうが!!……でも、あれを無傷で耐えれるとは流石に思わなかったわね」
「ですね〜……聞いていた話より遥かに強い攻撃でしたけど、それより私たちがホシノ先輩の本気を知らなかったことの方が驚きです」
「あはは、流石にこんなの使うタイミングないからねぇ〜。ま、奥の手ってやつ?」
マキが絶句していると、ビナーの後ろに列車が現れる。
それは、便利屋68が挟撃に成功した証だった。
『ビナーの挟撃に成功しました!これより、一斉攻撃を開始してください!』
『はっ!そうだ、やっちゃって!』
「おっけ〜。いっくよ〜!」
「頑張りますよ〜♧」
「さっさと倒すわよ!」
『こっちも、攻撃開始』
「うふふ、そうこなくっちゃ!」
「死んでください、死んでください、死んでください!」
「クフフ〜!」
対策委員会と便利屋の一斉攻撃がビナーを襲う。
手持ちの爆弾、銃、神秘、ありとあらゆるものを使っての攻撃。
しかしビナーはそれを意に介さず、全身からミサイルや低出力のビームを連射し始めた。
「あれ〜、なんか効いてる様子がないんだけど?」
「うーん……ですね……」
「ちょっと、爆薬もあんまり効いてないじゃない!」
「あれあれ、おかしいな〜……なんで?」
『……解析完了!どうやらビナーには、強力なリアクティブシールド……要するにバリアが張られてるみたい!それを破壊しないといけないんだけど……肝心のバリアの強度が桁違い……!』
試算された防御力から、最新式の大口径戦車の徹甲弾クラスでもないと貫通できないという想定外の数値。
先ほどのホシノほどではないが、相手もまたかなりの実力を備えていた。
「うへ〜……流石に戦車は用意してないよ〜……」
「今から用意できないの!?」
『む、難しいかと……』
「一体どうすれば……」
彼女たちが途方に暮れた、その時。
ガカァン!!ガガガァン!!
凄まじく早い
それはバリアを貫き、ビナーの装甲を破壊する。
突然の大きな衝撃に、ビナーがよろめき、ゆっくりと倒れていく。
砂埃が舞う中、ホシノの優れた瞳が認識した飛来物──それは、
凄まじく遠くから発射された、
『こ、これは……?』
『お待たせしました』
通信に参加したのは、助っ人として呼ばれていた一人の生徒。
トリニティから遠路はるばる、そこらの不良から奪い取ったバイクでアビドス砂漠までやってきた彼女は、その手に刃のついた
彼女は、月乃ヒトミ。
ビルゲンワースの狩人、その一人。
『バリアであれば、私が破壊しましょう。さあ、皆さん攻撃を……それとも。私があれを倒してしまっても、構わないのですか?』
「おお〜……凄い自信。いや〜、おじさん任せちゃおっかな?」
「こら!」
やってきた増援に、ビナーに攻撃をしながらも茶化すホシノ。
しかしその裏では、あれだけの威力の弓を放てることに驚嘆していた。
***
シモンの弓剣
医療教会、最初期の狩人として知られる、シモンの狩り武器
銃器を忌み嫌った彼のために、教会の工房が誂えた特注品であり
曲がった剣の大きな刃は、仕掛けにより弓に転じる
だが僅かばかりの友の他は、皆、シモンを嘲った
弓で獣に挑むなどと
***
血質と技量の補正がSであるこの武器は、ヒトミがヤーナムで最も愛用していたもの。
変形前はうねった大剣であり、変形した後に水銀弾を矢とし放つ弓となる。
しかし、この弓……変形前は剣なのだ。
つまり、素材は鉄である。
そして、この弓に……補助するための加速機構など、
弓というのは、糸……弦の張力で放つ武器ではない。
その弓に使われている素材のたわみ、変形のエネルギーによって矢を打ち出すのだ。
では、シモンの弓剣はどうか。
その形は極限までたわみやすいように作られているが、素材はどこまで行っても鉄。
しかも、これは仕掛け武器……刃のすり減りなどならいざ知らず、武器そのものの強靭さはずば抜けており、折れず曲がらず壊れずといった狩人の生命線。
これを、弓として扱うのであればどうなるか。
折れず曲がらずの仕掛け武器が、普通の弓と同じ程にしなるパワーで弾き絞り、放つ。
それは、人外の膂力を持ち得る狩人であるからこそ……ヒトミだからこそ成し得る技であり、その威力は想像を絶するものとなる。
そしてここはキヴォトス、神秘の法則はヤーナムよりも素直で、そのエネルギーを力へと変えることができる。
結果──その威力は、戦車砲を遥かに超えるものとなる。
***
「竜を狩るは、騎士の誉よな……あれは、どちらかと言えばヘビでしょうが」
ガギャァン!!
■■■■■■■■!!
ビナーの咆哮が砂漠に響き渡る中、対策委員会と便利屋は猛攻撃を加える。
降り注ぐビームとミサイルの中を避け、破壊された装甲に的確に銃弾を打ち込み、爆薬を投げ入れ、ビナーを破壊していく。
驚異的な連携はすぐさまビナーの余裕を剥ぎ取り、大打撃を与え続ける。
■■■■■■■■!!!!
損傷率、46%。
ビナーのAIが、瞬時に自身のダメージを判断する。
このままではまずい、そう考えた彼は────砂の底へ、潜った。
「なっ、逃げる気!?」
「あっちゃ〜……どうすればいいのかな、これ」
『逃げた……いえ、逃げていません!!』
『みんな気をつけて!何かしてる!!』
アヤネとマキが観測結果を見て、警告する。
それは、ビナーが地中で何か……高速で、円状に移動していることを表していた。
地響きが強くなり、やがてビナーは勢いよく砂漠へその身を晒す。
しかし彼は止まることなく、その果てまで続きそうな長い身体で、戦場そのものにとぐろを巻き始めた。
そして、その円は……だんだんと、狭まってきている。
「……まさか、轢き殺す気ですか!?」
「凄い冷静に禁じ手みたいなのを使ってきたね〜、これがAIか〜」
「ホシノ先輩、笑ってる場合じゃないでしょ!!」
(あわわわわ、ど、どうすればいいのよーーーっ!!)
「あはは、アルちゃんが変な顔してる〜!でも本当に、今回はどうすればいいんだろうね?」
「えっと、えっと……」
『みなさん……!!』
『みんな……!』
『ヒトミさん、なんとか助けられたりしない!?』
「先ほどから矢を撃っていますが、高速移動する装甲で跳弾してしまっていますね」
『そんな……!』
第1サンクトゥム、アビドス砂漠。
その戦場は、砂漠の環境のように非情さを露わとしていた。
しかし、突如────
■■■■■■■■■■■■!!!!!
────天から、名状し難いナニカの音が轟いた。