各地の自治区防衛に成功し、生徒達が攻勢に出たその頃。
セイアとイズは、ビルゲンワースの近郊へとやってきていた。
ここは比較的……どころか、ほぼ『色彩』の影響もなく、セイアたちが恐れていた事態は起こっていないようだった。
「……どうやら、問題ないようだ。ヤーナムの神秘の『色彩』による感化は、気にしなくてもいいらしい」
「……カオリさんたちのお陰かな」
「恐らくね」
セイアはかつての予知夢で、様々な獣や触手がキヴォトスを滅ぼす様を見たことがあった。
それはセイアにとっては今では見知った存在たちではあるものの、キヴォトスでは最大級の脅威に分類できてしまうほどの存在たち。
用心に越したことはなく彼女は警戒していたのだ。
「……トリニティに戻ろう。どこか、戦況が芳しくないサンクトゥムに加勢するべきだ」
「うん、わかった」
イズと、セイア……その2人が、帰ろうとしたその時。
セイアの脳内で、呻き声が聞こえた。
『ぐ、う……なんだ……!?』
(……ルドウイーク?どうしたんだい?)
『わからない……これは……呼ばれている……ぐ、うぁぁ……!?』
(ルドウイーク?ルドウイーク……?)
『…………』
セイアの魂に……取り込まれた遺志に存在する、ルドウイークの魂。
冷ややかで、しかし温かみのあるそれは──いつのまにか、セイアの中から消えていた。
(ルドウイーク!?啓蒙、ルドウイークはどうなっている!?)
【……不明。反応なし】
「……セイアさん?」
様子のおかしいセイアに、イズは問いかける。
セイアは、イズに振り返らず──直感と、【啓蒙】が示した方角を、真っ直ぐに見ていた。
「……不味い。イズ、急ごう。何かが起きている」
***
────────────────────────
凄まじい轟音と共に、大量の機械兵が吹き飛ばされていく。
紫色の閃光はその射線上に例外なく穴を開け、真紅の激流が障害の悉くを破壊していく。
ギャハハハハッ!!ギヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!
ケセドの軍隊は、ドローンや歩兵など総数10000を超える師団級のもの。
これほどの軍隊はキヴォトスに他に存在しえず、数だけで複数の学園を圧倒してしまえるだけの物量。
さらにゴリアテ級や固定砲など兵器群も多数用意されており、一般兵も最高クラスのAIであるケセドが統率をとることからその練度は桁違い。
武装国家と言って差し支えがない程の武力──しかしそれは、たった3人の生徒に覆されていた。
剣先ツルギ。
その神秘の性質は回復、瀕死の重症や欠損を伴うダメージを負ったとしてもものの数秒で全治してしまう程の規格外の再生力を持つ。
更にその防御力は列車に轢かれても無事なほどであり、いくら練度が高かろうと歩兵小銃で傷がつけられぬのならば数も無意味というもの。
その攻撃の一発一発が広範囲かつ高威力、盾やゴリアテをものともせず薙ぎ払っていく。
空崎ヒナ。
その神秘の性質は破壊、あらゆる抵抗を無視する暴威の化身。
その攻撃力は小鳥遊ホシノの防御すら貫くほどのものであり、機械兵では耐えることも出来ず即座にスクラップとなる。
ゲヘナ有数の実力者であるイオリやアルの攻撃すら弾いてしまう防御力も持ち合わせた彼女は、戦車よりも恐ろしい、陸上戦艦とでも形容すべき災害であった。
彼女の愛銃から放たれるのは、紫色のレーザー……より正確にいうなれば、レーザーと見紛う程に連射された弾丸。
しかしそれを受けて耐えることの出来る存在などいるはずもなく、閉じられた幾層もの分厚い隔壁すら穴を開け、ケセドの元へ一直線に突き進んでいた。
和泉元エイミ。
キヴォトスの頂点に立つ前述の二人と比べてはいけないのだが、彼女もまた相当の実力者。
人外二人の全力戦闘から振り落とされずについていけている時点で、彼女の力は証明されているようなものだった。
やがて彼女たちは、障害を全て乗り越えてケセドの元へと到達する。
そこは軍需工場の最奥部、ケセドの鎮座する大広間だった。
「……ついたわね」
「うん。あとはあれを倒して終わり──じゃ、なさそう。少なくともあれは、
事前調査により判明していた、ケセドがいるはずの大広間。
しかしそこに鎮座していたのは──ケセドと同じ形、同じ大きさ、だが宇宙色ではない存在。
色彩の守護者は、他の作戦地域からの連絡ですでに宇宙色に変色しているという情報が入っている。
そのためあれは、ケセドでありケセドではない何かだった。
「嵌められたようね」
周囲の壁に偽装されていた扉が開き──大量の兵器たちが、即座に展開される。
それはゴリアテと、対物ライフルを備えた歩兵の壁、更に隔壁を加工したと思われる重装盾兵たち。
銃口の隙間が見えぬほど効率的に敷き詰められたその背後には、僅かに固定砲台の影も見えていた。
更に、ダミーケセドの殻が開かれる。
そこにあったのは──チャージが完了された、超高出力の、エネルギー砲。
つまりこれは、包囲を完成させるための罠。
脅威的な強さの三人を確実に仕留めるべく用意された、ケセドの綿密なる計画に彼女らはおびき寄せられていたのだ。
エネルギー砲が発射される。
即座にヒナがビームを放ち拮抗……いや、押されていた。
ツルギとエイミも加勢するが、高密度のエネルギー砲を止められるだけの力はない。
更にそこへ、周囲から攻撃が加えられようとしたその時──桜の花弁が、辺りに舞った。
“
「ウフフフフッ……お任せください、あなた様!」
突如後方の包囲網が爆砕されたかと思えば、ヒナたちの目の前に桜の花を形どった神秘が展開される。
それは、ダメージを蓄積し一気に放出するという特性を持った神秘。
三人はそれを即座に理解し──ビームと、散弾と、連射を叩き込んだ。
キヴォトスでも類を見ない瞬間火力により桜の花はその花弁を散らし、即座に軸のみとなる。
そして──炸裂し、エネルギー砲の威力を完全に相殺しきった。
「……助かったわ」
「ウフフフフッ……あのお方に頼まれたからやっただけのことですわ」
「……そう」
七囚人、狐坂ワカモ。
先生の要請により、第2サンクトゥムに参戦。
「……計算結果が出たよ。ケセドはあのエネルギー砲の下にいるみたい」
「……なるほど。なら……押し通るだけね」
ゲハ、ギャヒハハハッ!!破壊し尽くすだけだぁ!!
「早く済ませますわよ」
四人が構える。
ケセドは改めて、軍勢を整え……彼女らを迎え撃とうとしていた。
そして、さらに────
コロコロカラカラ……
────不可解な音が、戦場に静かに響いていた。
***
────────────────────────
『それでは……アバンギャルド君、発進……!!』
ユズの声と共に、現場に一騎の巨大なマシンが登場する。
それは、アバンギャルド君Mark.3……失踪したリオ会長の残した兵器の一つであり、アリスを取り戻す際に絶大な力を誇ったロボであった。
このアバンギャルド君はフレーム単位で入力ができるユズの動体視力に合わせて特注されたコントローラーで操作できる特別機体である。
「私たちも行くとしましょう」
「レイドバトル、開始です!!」
SRTとゲーム開発部、そしてトキが遊園地に突入する。
中にはぬいぐるみや着ぐるみの
そこにいたのは、ネズミを模ったアミューズドールの『シロ』と、カラスを模ったアミューズドールの『クロ』だった。
シロが手を掲げれば、大量の爆弾が雨霰と降り注ぐ。
クロが腕を振れば、複数の回転する円盤が生徒たちを轢こうと迫る。
それらは隙間が見えないほどの圧倒的な物量、さらに目眩しも混ぜられ対処は著しく困難となっていた。
「あわわわわっ!?ちょっと、こんなに大量に爆弾落とされるとか酷くない!?」
「弾幕ゲームですね!」
「爆弾も厄介だけど、あの回転する円盤も厄介……!」
『っ、アバンギャルド君を盾にして!』
回転する円盤はアバンギャルド君の盾で防ぎ、降り注ぐ爆弾の雨はどうにかこうにか避けたり弾いたりと大忙し。
しかしシロとクロはその攻撃を緩めず、生徒たちにターンを譲らない。
「想定以上の猛攻ですね」
「ちっ、爆弾の対処で手一杯か」
『空中支援してるけど、目標はいい感じに爆弾とか屋根とかに身を隠すように移動しててあんまり効果なさそうだね』
『狙撃も同じく……何発か当てたけど、そもそも効果も薄そう……』
RABBIT小隊も苦戦を強いられ、中々攻勢に転じることが難しい。
5分、10分と同じ状況が続き、皆に疲労が見え始める。
そんな中トキは、エンジニア部とヒマリの言葉を思い出していた。
『トキ。あなたのアビ・エシュフは非常に強力な武装ですが、それはリオの技術が詰まったエリドゥでのみ発揮されるものです。今回の作戦ではあの時のような高出力は発揮できないでしょう』
『……わかりました』
『だけど、それじゃあ流石に困るだろうから私たちが手を加えておいた。つい昨日、
『なんとかこの病弱系天才美少女である私が、形にしておきました。5分間だけという制約はありますが──エリドゥの時以上の性能を、一時的に発揮出来るはずです。ですが気をつけてください、これを使った後はエネルギー切れになる可能性が高いでしょうから』
どう考えても、まだ今そのカードを切るには早すぎる。
しかし現状では、それ以外に打開策を見つけることも難しい状況ではあった。
「……なら、今しかないですね」
トキは、今の状況を改善し──ゲーム開発部とRABBIT小隊に、後を託すことを決意する。
即座に用意していたマシンハンガーを呼び寄せ、その中に入り──トキは、コードを唱える。
「アビ・エシュフ。コード『C4-621』」
『メインシステム、戦闘モード起動』
それは、起死回生の一手。
重装甲がパージされ、軽装となったアビ・エシュフだったが、その装備は組み替えられ一新される。
両腕はガトリング砲から、右手は重ショットガン、左手はパイルバンカーに。
両肩についていたレーザーキャノンは取り外され、代わりに換装されたのは2連装グレネード砲に高速ミサイルポッドだった。
それぞれ弾数は限られており、20発程度しかないものの……
武装をより破壊力ある実弾兵器に換装することでエネルギーを推進力に回し、高速軌道を可能とした形態。
さらに換装時にエネルギーも充填されており、今からの5分間、トキは誰にも止められない『借り物の翼』を得る。
「パンパカパーン!トキの最強形態です!ウルトです!!」
「行きます」
爆弾の雨が激しくなる中、トキは、空へと羽ばたいた。
速く、速く、何もかも避けて。
そして辿り着いたるは、カラスに釣られ宙に浮く『クロ』の元。
トキはクロに向かって、左腕を引き絞った。
「っ……!あなたの相手は、私ですっ……!!」
強力なGにも負けず、振り切った腕。
それはクロに直撃し──パイルバンカーが、炸裂した。
ゴジャン!!
鈍い炸裂音と共に、クロは遊園地の奥へと吹き飛ばされていく。
トキは追ってこの場を去り──後にはシロと、相対するゲーム開発部、RABBIT小隊が残された。
「トキさんがあちらを惹きつけているうちにこちらを倒します!」
「了解!」
「さっさと倒してあっちにいくよ!」
「はい!」
廃墟遊園地スランピア。
かつて夢が満ちた場所で、少女達は夢を抱きしめ立ち向かう。