第1サンクトゥム、アビドス砂漠。
ビナーに取り囲まれた生徒たちの元に、不可解で名状しがたい騒音が轟き──直後、ビナーの身体が跳ねる。
■■■■■■■■■■!?
■■■■■■■■■■■■!!!!!
凄まじい咆哮はしかし、ビナーが巻き上げた砂によって見えず、生徒たちはただその主がビナーと暴れていることを察することしかできない。
『作戦地域にビナーに匹敵する高エネルギー反応……!』
「な、なによ!何が起きてるわけ!?」
やがて、ビナーが巻き上げていた砂が収まっていく。
赤い空はいつのまにか
そして見えてくるのは、ビナーと戦う見覚えのない存在──7本腕の怪物だった。
見上げるほどの巨体を有する異形は、ビナーを締め上げる。
網目状の外骨格のようなものに覆われた特徴的な頭部からはビームを発射し、ビナーの装甲を破壊していた。
このような生き物が存在していた──そんなことが信じられないほど異様な存在に、対策委員会と便利屋が絶句する中……ヒトミが、つぶやく。
『アメンドーズ……ビルゲンワースに伝わる神格です。恐らく──今回は味方です』
『っ!わかりました……!みなさん、アメンドーズと協力してビナーを撃破してください!』
「うへー、すごいね、何が起きてるかわからないや〜……でもまあ、やるしかないよね」
■■■■■■■!!!!!
違いを痛感する静観の理解者は、『理解』の及ばぬ憐れなる落とし子に抑えられる。
生徒たちもまた、ビナーを撃ち倒すため駆け出した。
***
第2サンクトゥム、ミレニアム郊外閉鎖地域。
ヒナ、ツルギ、エイミ、ワカモを迎え撃とうとしていたケセドの軍勢が、突如崩れる。
それを成したのは、人よりも大きな
『作戦地域に多数の特異現象反応……!注意してください!』
「部長、たぶん──あれは、味方」
蜘蛛たちはその強靭な肉体で機械兵やゴリアテの抵抗をいなし、鋭利な前足で切り裂き、突き刺し、体当たりなどで破壊する。
それは少なくともケセドとは敵対し──そしてこちらに向かってこないことから、協力できる存在のようだった。
やがて、後方から奇妙な音と共に彼らの主が現れる。
カラカラカラカラカラ……
それは長い身体を持つ巨大な虫。
白くでこぼことした頭部におびただしい数の目玉を備え、背中には淡く発光する植物のようなものを生やしたそれは、ヒナたちを一瞥すると身体を揺らした。
『っ!これは信号……?「白痴の蜘蛛、ロマ」……これがその存在の名前……?』
ヒマリが呟く中、ヒナたちはそれを前にして目配せし合い──信じて、背中を預ける。
「正体が何にしろ、今は嬉しい助けね」
慈悲深き苦痛を持って断罪する裁定者は、『慈悲』すら届かぬ白痴の蜘蛛と相対する。
そしてヒナたちも、今度こそサンクトゥムを攻略するため前に出た。
***
第3サンクトゥム、廃墟遊園地スランピア。
クロを相手に一人で奮闘していたトキだったが、遂に5分の制限時間に達してしまっていた。
「くっ……ここまでですか」
武装は既にパージしており、ここからはパイルバンカーのみを装備した軽装のアビ・エシュフで戦わなければならない。
その上、エネルギーは残りわずか……時間稼ぎにも怪しいラインだった。
しかし、膝をついていたトキに──巨大な影が覆い被さった。
「!?」
……フー……グルルルルルル……
トキが見上げて目に入ったのは、巨大な白い獣の姿。
長く白い、美しい毛並みを持つ獣は、まるでトキを守るように座していた。
細いながらも強靭かつ鋭い爪の生えた手足がトキへの攻撃を弾く。
被さった布により目元は見えないが、犬に似た形状の頭部には鹿を思わせる枝分かれした2本の角が生えている。
ソレが睥睨すれば、クロは縮み上がり必死になって攻撃を再開した。
更にそこに、どこからかシロが合流する。
大きく傷ついたシロもまた、獣を見て震え上がった。
『作戦地域から、発信……?「教区長エミーリア」って……』
「新たな助っ人が参戦です!」
「あれ本当に助っ人なの!?」
追い詰められ逃げ出したシロを追って、アリスたちもまたトキに合流する。
困惑しつつも、無邪気なアリスの言葉に頷いたトキを見て、ゲーム開発部やRABBIT小隊もまた目の前の敵に集中することにした。
さらに、トキのマシンハンガーがアバンギャルド君に運ばれやってくる。
貯蓄されていたエネルギーは残り少なかったが、それでも戦闘に耐える分程度は残っているようだった。
「……ありがとうございます、ユズ」
『と、トキさんが時間を稼いでくれたから、シロを追い詰められました……!ありがとうございます……!』
「……いえ」
満更でもなさそうなトキを尻目に、RABBIT小隊もまた一斉攻撃の準備を整えていた。
いつのまにか不可思議な色に変質した空にヘリが現れ、その標準をシロとクロへと向ける。
「細かい確認は後にしましょう。今は作戦を優先します」
『おっけ〜了解〜。ここは屋根もないしやりやすいね』
キュオオオォォォォォォ!!!!
カラスとネズミ、2匹の忘れられた象徴は──1匹の巨大な獣の餌食となる。
これから始まるのは、壮大な蹂躙劇であった。
***
第4サンクトゥム、カタコンベ内バシリカ。
砂嵐に晒された生徒たちが、突如鳴り響いたオルゴールに困惑する中。
『影』が、辺りを塗りつぶし──晴れた時には、砂は一欠片も残っていなかった。
「一体、何が……」
「……っ!後方に、巨大な存在が……!」
サクラコが見つけた存在は、黒い、黒い影。
それはやがて形を明瞭にし、はっきりと主張した。
黒い布を纏った巨躯の怪物は、その背に烏羽を生やしている。
8本の腕は華奢で細長く、しかし内6本には薄く鋭い刃が備えられていた。
その頭部は存在せず……代わりに、フードのようになった布だけが、不自然に浮き動かされている。
神聖な聖職者であるヒエロニムスと対になったかのような、暗黒の死神を象ったような存在──それが、その場にいた。
「……なんだ、あれは一体」
「わーお……」
『……通知?識別名「メルゴーの乳母」……?』
重厚な威圧感が場を満たす中、ハナコの端末に送られてきた一つの通知。
それこそが、かの上位者を示す名であった。
『■■■■■■■■■■■!!』
ヒエロニムスがメルゴーの乳母に咆哮し、幾つものエネルギー弾と光線が発射される。
しかしメルゴーの乳母はそれをものともせずに肉薄し、ヒエロニムスの肉体を刃で切り裂いた。
『っ!皆さん、少なくともあれはヒエロニムスと敵対しているようです!』
「つまり、あれと協力すればいいわけですね」
「……理解した。任せてくれ」
「変わらず、救護を行います」
「オッケー!任せてよっ⭐︎」
偉大なる太古の教義に、闇夜を統べる上位者が立ちはだかる。
本来逆の二柱が激突し、己の存在を証明し合う。
***
第5サンクトゥム、要塞都市エリドゥ。
危機が迫る生徒たちの前に現れたのは、雷光を纏った黒獣であった。
その姿は四足の獣、されどその身に骨と毛以外の一切はない。
内臓も、筋肉も、皮もなく、しかし機敏に跳ねるその獣はホドの光線を稲妻で相殺してみせた。
「っ、あれは何……?」
「骨が動いてる!すごい!」
「今のうちに戦列を整えろ!カムラッドが送ってくれた救援に応えるのだ!」
『多分先生が用意したわけではないと思うけど……うん?これは電磁パルス暗号?……「黒獣パール」、それがあの獣の名前かな』
パールが放った電磁パルスの一端を解析したチヒロが、その名を読み上げた。
パールが応えるように、強烈な放電をホドに向けて行った。
それはホドの電磁防御を貫通し、アームや砲の機能を短時間の間だが麻痺させる。
『とにかく、あの獣と協力してホドを倒して』
『温泉開発チャンスだ!メグ、やれ!』
「わかったわ!変数を計算に入れて……」
「にはははは!なんだかよくわかりませんが行きますよー!」
「OK!任せてよ部長!」
「総員突撃!不甲斐ないやつは粛清だからな!」
不気味な空模様の下、ホドを前にして生徒たちが闘志を見せる。
輝きに証明されし栄光は、『栄光』を永きに渡り見続けてきた不死の黒獣に通ずるのか。
***
遥か、空の上。
地上からおよそ75000mの高度に位置するこの場所で、
そこは、大気圏と宇宙の境界線。
しかしカオリは、全く意に介した様子もなく、生身で
それは、血に酔ったように赤い空と混ざり合い──血の抜けた死体のように、青白く、紫がかった空へと変質していく。
「……秘匿は破られた」
「キヴォトスの終焉、それに抗う者たち」
「例え全てが無駄だとしても、例え全てが過ちだとしても」
「決して諦めぬ彼女らに、
「私はここに、一つの物語を紡ごう」
「血と死に塗れた、獣たちの饗宴を」
「狂気に冒された、宇宙的恐怖の根源を」
「我らが故郷、ヤーナムの、悍ましくも美しい、悪夢の物語を」
「……我らの神話、Bloodborneを」
彼女はそう言うと、天に向けて手を開く。
まるで、歓迎しているように。
あるいは、待ち侘びていたかのように。
「見たまえ!」
「
彼女の言葉に呼応するかのように、天に現れたるは赤い月。
本来そこに存在し得ぬほど近く、大きいそれは、各地に現れた異形の存在たちへと力を与えていた。
そして──突如、彼女が振り返る。
その瞳は────わたしたちと
「何者も、我らを捕え、止められぬのだ」
「……なあ、
「何も心配することはない」
『何があっても、悪い夢のようなものなのだから』