見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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33.もう一つの戦い

 

 

 

「本日もお疲れ様でした!明日はついに、第2次特別学力試験です!この1週間の合宿で、私たちはしっかり合格できるだけの実力を身につけられたはずです!」

 

「うん」

「はい♡」

「そうねっ!」

 

 “うん、本当に頑張ったね”

「ああ。素晴らしい努力だった」

 

 ヒフミの言うことに賛同する俺たち。

 すでに時間は夜。

 補習授業部の模擬試験は終わり、先生はナギサとの会談を終え、俺は夢から覚めて教室へ戻ってきていた。

 

「あとはしっかり合格し……堂々と補習授業部を卒業するだけです。今までの勉強が無駄ではなかったことを、きっちり証明しに行きましょう!そして最後は、みんなで笑ってお別れできるように……!」

 

 必ず合格するぞ、という気迫でもってみんなを鼓舞するヒフミ。

 

「……そうか。合格したら、もうお別れか……」

 

 しかしそれに、アズサはしんみりとした空気になってしまう。

 

「ちょっ、ちょっとアズサ!?どうしてそんな急にしんみりするわけ!?」

 

 そりゃあそうだ。初めて『友達』といえるほど仲良くなった補習授業部のみんなとの生活が終わってしまうんだから。

 しかしそんなことをみんなは知る由もない。

 

「なるほど♡合宿も含めて、なんだかんだですごく楽しかったですもんね?」

 

「……ああ、いや、それでもやっぱり、出会いがあれば別れもある。全ては、虚しいものだ」

 

「……そこまで思う必要はないと思いますよ。アズサちゃんも含めてみんな、試験が終わったらどこかに行ってしまうわけじゃないでしょう?補習授業部が解散しても、みんな同じ学園にいるんですから。会おうと思えばいつでもすぐ会えますよ」

 

「ほ、ほら!私はいつも正義実現委員会の教室にいるから!ひ、暇な時があったら来れば……?」

 

「……うん」

 

 ハナコとコハルが、しんみりとしてしまったアズサを元気付けた。

 

「えっと、気持ちとしては同じなのですが、取り敢えず試験に合格することが先決と言いますか、なんだか急に青春ドラマのエンディングになっているような……と、とにかく。今日は早めに休んで、明日の試験に備えるとしましょう」

 

 そうヒフミが締め括った。

 

 

 

「そういえば、明日の試験会場って前と同じところ?」

 

「あ、そういえば告知をまだ見ていませんでした」

 

 コハルの指摘に、ヒフミがスマホを取り出して確認を始める。

 ……ここで確認しなければ普通に休んでテスト不合格だったんだよな、コハルファインプレーだ。

 結果はどうであれ。

 

「えっと、トリニティの掲示板っと……?え、えぇっ!?」

 

「ヒフミちゃん?どうかしましたか?」

 

「え、嘘っ!?嘘ですよね!?」

 

 慌てた様子のヒフミ。

 ハナコがヒフミのスマホを貸してもらい、その情報を確かめる。

 

「ええっと……『補習授業部の【第2次特別学力試験】に関する変更事項のお知らせ』……?『試験範囲を、既存の範囲から約三倍に拡大』……?」

 

「はぁっ!?何それ!?」

 

「『また、合格ラインを60点から90点に引き上げとする』……?」

 

「わ、私でもまだ、90点なんて超えたことないのに……」

 

 狼狽するヒフミ、事態の飲み込めないコハル、冷静に情報を吟味するハナコ。

 

「ど、どういうことよこれ……」

 

「昨日、急にアップされたみたいです……試験直前になって、こんな……」

 

 “これは……”

 

「……」

 

 俺、先生、ヒフミ、そしてハナコの頭に浮かぶ、1人の人物。

 彼女──トリニティ総合学園生徒会、『ティーパーティー』のホストである……桐藤ナギサのやったことに、違いなかった。

 

「……なるほど。私たちの模擬試験の結果を、ナギサさんが何かしらの手段で把握したみたいですね」

 

 ハナコがそう推測する。

 

「露骨なやり方ですねぇ……どうしても私たちを退学にしたいみたいですね」

 

「……退学?」

 

「えっ、た、退学!?ちょっとどういうこと!?」

 

 ハナコの発した『退学』のワードに反応し戸惑うアズサとコハル。

 

「落ち着きたまえ、2人とも……それは後で先生とヒフミ、ハナコが話すだろう。それよりも、今は変更点についての確認が先決ではないか?」

 

「うっ……そ、そうね」

 

「……そうだね。ハナコ、続きを頼む」

 

「はい。えっと……試験会場は『ゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃墟の1階』……あら?」

 

「「……ゲヘナ?」」

 

 ハナコとヒフミの声が被る。

 

「げ、ゲヘナで試験を受けるんですか!?」

「な、何でよ!?どうしてトリニティの試験をゲヘナで受けるわけ!?」

「もし行かなければ未受験扱いで不合格、ですよね……」

 

 一気に慌て始める皆。

 

「落ち着きたまえよ。まだありそうだ……試験時間を確認したまえ」

 

 俺がそう告げると、ハッとしたようにハナコがその部分を読み上げる。

 

「『試験開始時刻は深夜3時』……!」

 

「意地の悪いことだ。今から出ねば間に合うまい……支度したまえよ」

 

「は、はい!」

「カオリの言う通りだ。すぐ出発しよう、各自装備を忘れずに」

「じゅ、銃火器も!?」

 

 

 

「あの、カオリさん……言いにくいんですけれど……」

 

「何かね、ハナコ」

 

 全員が慌ただしく準備を始める中、ハナコが俺にスマホを見せながら話しかけにきた。

 

「これを……」

 

「ふむ……?『同行者は先生に限り、補佐として補習授業部に協力している月乃カオリはトリニティ自治区内で待機』……は?」

 

 俺、待機???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、補習授業部の面々と先生はゲヘナに向けて出発していった。

 退学については道中で説明するように言い含めておいたからまぁ伝達に問題はないだろう。

 正直俺もゲヘナについていくと思っていただけに、肩透かしもいいところなのだが……まぁ、仕方ない。

 ツルギと同等の実力を持つ俺をゲヘナに入れれば何が起きるかわからない……それこそ俺に企みを阻止されるかもしれないと危惧したのだろうな。

 

 そんなわけで俺は、トリニティの夜の街を歩いていた。

 

 ん?待機じゃないのかって?

 変更事項には、『()()()()()()()()()()()()』としか書かれていなかった。

 つまり、逆にトリニティ自治区内では自由行動できると言うわけだ。

 と、いうわけで前々からやりたいと思って準備を進めていた事柄をやってしまおうと思い、その場所にやってきていた。

 

 辿り着いたのは、トリニティ郊外の某所に存在するとあるビル。

 このビルを管理しているのは、『()()()』だ。

 つまり、俺の目的は──百合園セイア、その生身の身体だ。

 

 

 

 普通のビルとして存在しているビル。その地下に、セイアとミネはいる。これはセイア本人から確認を取ったから確かだ。

 なぜ俺がセイアの生身に用があるのか。

 それは、狩人になったことによる変質を確かめるためだ。

 セイアは夢の中でヤーナムへと飛んでいるが、血というのは唯一夢と現実をつなぐモノだ。血の遺志を力へと換えればそれは現実での肉体にも反映され、輸血すればその血が生身の身体にも入る。

 しかしミネはそんなことは知らない。セイアの変貌に驚いているだろう。だからこそ、それを安心させるために俺はここに来ている。

 

 ああ、追っ手が来ないようちゃんとダミーは置いてあるから安心してほしい。

 ティーパーティーからの監視、シスターフッドからの監視、そしてアリウスからの監視……全て抜けてきているからな。

 元々夢に入る時、出る時は完全に認識外になるようにしているから簡単だった。

 

 このビルの地下、駐車場に俺は入る。普通のビルだから駐車場は明るい。

 一見した感じ、監視カメラはないようだ。元々あったようなところは全て取り外された跡がある。完全にセイアを隠すのに特化した建物、というわけだな。おそらく蒼森家のセーフハウスの中でもかなり上の位のものなのだろう。

 

 すでに座標を知っているので、俺は迷わず駐車場にあった灰色の扉の一つを開け、下に続く階段を降りていく。真ん中は吹き抜けだな。

 降りた先には通路がありその奥は行き止まり、一つの扉のみがある場所だった。

 この先にセイアとミネがいる。

 

 

 

 コンコン、と俺が扉を叩く。

 

『……誰でしょうか?』

 

「蒼森ミネ、で合っているだろうか?」

 

『……あなたは?』

 

「狩人、というものだ……セイアの知人でね。彼女が夢に現れて、ミネに会うように……と」

 

『……わかりました』

 

 ガタリ、と音がしたかと思えば、扉がゆっくりと開いて……

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「っ!?」

 

 武器を用意していなかった俺はそれをモロに喰らってしまい、階段下まで盾を押し付けられながらミネに押され続けた。

 そして、階段下の壁にそのまま叩きつけられる。

 

 

ダァァン!

 

 

「ガハッ!」

 

「ふっ!」

 

「っ!?!?」

 

 叩きつけられ隙が生まれた俺の身体を掴んだミネは、そのまま階段の吹き抜けの上に、俺の身体をぶん投げた。

 

 ……このミネ、フィジカルモンスターすぎるぞ!?

 

 

 

 なんとか空中で体勢を立て直す。俺を吹っ飛ばしたミネを見てみれば、見覚えのあるジャンプ(EXスキルのジャンプモーション)で階段を無視して登ってきていた。

 

(ふざけてるだろっ!)

 

 思わず心の中で悪態をつきつつ、俺は急いで装備を整える。

 まずはこの後来るであろう追撃を防ぐために、『教会の石鎚』を装備。『物理27.2%』×3をつけている、美食研に使ったもの(血晶石無装備)とは比べ物にならない強力なものだ。

 

 続いて裏に『落葉』を装備。こちらは『物理27.2%』の()()()()×3。落葉という武器はスタミナ消費が重く、いつも通りスタマイで揃えるとなかなか響いてくるためこの構成になっている。

 

 左手には『獣狩りの短銃』、裏には『大砲』。オーソドックスな短銃は言わずもがな、あの強固な盾対策として爆発力の高い大砲は必須だと言えるだろう。

 

 

 

 そうこうしているうちに、ミネはすでに()()()()()()()()()()()()()()。空気抵抗や重力があるとはいえ、投げたものに追いつくとかこのミネはかなりの化け物らしい。

 元々この世界の生徒たちは(ツルギなどを含め)原作より強い節があったが……ここまで強くなっているのは聞いていないぞ?

 

 

 

 俺に追いついたミネは、左手に盾を持ち、銃はスリングにつけて肩から下げ、腰あたりで固定し……右手を大きく振りかぶっていた。

 俺は教会の石鎚を変形させ、大きな岩の部分を拳の軌道に合わせるように盾代わりに構える。

 

 コンクリートをも砕くミネの膂力には無意味、と思われるかもしれないが……仮にもこの武器は仕掛け武器であり、通常の岩とは強度が違う。

 

 バゴォン!と凄まじい音を立ててミネの拳が教会の石鎚に衝突する。衝撃で俺は壁に叩きつけられる……と思いきや、叩きつけられた先はドアだったらしく、そのドアごと向こう側に叩き出された。

 

 ドアを突き破った先は駐車場。俺はなんとか体勢を整えて着地し、前を見据える。

 ミネは正面から悠然とドアの残骸を踏み越え、駐車場を歩いて来た。

 

「……いきなりだな、蒼森ミネ」

 

「何人たりとも、セイア様に接触させるわけにはいきません。ただでさえ貴女は要警戒対象なのですから」

 

「……」

 

 そうなのか……?警戒されるようなことはしてないような……*1

 

「どうやってここを特定したのかは知りませんが……セイア様の安全のため、貴女を逃すわけにはいきません」

 

「……はぁ……力尽く、というわけか……あまりそういうことはしたくなかったのだがね」

 

 俺は教会の石鎚を構え、ミネは盾を構える。

 

「……あまり恨まないでくれよ?」

 

「……それはこちらのセリフです」

 

 一息ついた次の瞬間、俺たちは同時に駆け出していた。

 

 

 

*1
今までの行動をよく鑑みた方がいい




セイアが匿われていたところは完全に妄想です
どっちかというと駐車場でバトルっていう仮面ラ○ダー的なシーンが書きたかったので……
書き終わった後に、セイアはトリニティの外にいる、とハナコが言っていたことが発覚しました……オリチャー発動!今作では郊外ってことです!!

ヤーナム住民の方々のイベントは拾うのが大変だったので残念ながら後書きには登場しません……偏屈な男とか口悪いし……



……あなた、ハーメルンの読者ですか?
ああ、そうですよね。私もかつてはそうでした
申し遅れました、私はアルフレート
今はローゲリウス師の教えに従い、穢れた荒らしを狩る者です
どうです?対象は違えど、お互い狩り人です
これから協力し、情報を交換し合うというのは?
『協力する』
おお!それでは、よろしくお願いします
これは、お近づきの印に
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高評価や感想、ここすきなどは貴い業です。あなたに、血の加護がありますように
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