「んん……」
ベッドに寝かせたミネが唸り、苦しそうな表情をする。
「はっ!セイア様っ!!」
そして、大声をあげてベッドから跳ね起きた。
「静かにしたまえよ、蒼森ミネ」
「っ……!あなたは……!」
「そこにセイアが寝ているのだから、騒がないことだ。患者の近くでは、そうするのがマナーだろう?」
「……」
ミネは側にいた俺を見つけ、敵視するが……言葉には従い、素早く現状を確認するように周囲を見まわし情報を得る。
ミネが寝かされていたのは、地下室。しかし彼女にとっては見覚えしかない場所だろう。なんといってもセイアを安置している場所なのだから。
窓のない簡素な壁。
天井には照明と、空調器具。
部屋には冷蔵庫、電子レンジ、医療器具の入った棚、そして二人分のベッド。
8畳ほどの空間に、これらが用意されていた。
ベッドの上には、昏睡状態のセイア。
点滴がつけられた彼女は、何事もなく安らかに眠っていた。
その様子を確認し、安堵するミネ。そして気を取り直し、こちらに鋭い目線を向ける。
「……あなたはセイア様に危害を加えようとしに来たのでは?」
状況が把握でき、俺がひとまず敵ではないとわかったのか、ミネはそんなことを俺に聞く。
……いや、急に襲われたのもそうだけどさ、なんで???俺悪いことしてなくない?
「……なぜそうなる?私は最初からセイアに呼ばれて来たのだが」
「セイア様ができるのは予知夢と聞いています。あなたを呼ぶ力などないはず……それに、あなたは要注意人物と協力者から聞いていますから」
「……私が?」
というか協力者ってだれ?シスターフッド?救護騎士団の一部の団員とか?それとも蒼森家の密偵とかいるのかな???
「外の世界から来た、ヘイロー持ちの生徒。内情の探れぬビルゲンワース啓蒙学院からの転校生。謎の発狂事件の関係者。正義実現委員会と数日間で親しくなる。様々な噂があるシャーレと積極的に接している……立場も立ち回りも、並大抵のものではありません」
「……前者二つは仕方がないとはいえ、後者は違うな……親しいのは正義実現委員会というよりも委員長の剣先ツルギ個人とのみ。シャーレとも好き好んで接しているわけではない……あくまでティーパーティーから言われたことを守っているだけだ」
「……そうですか……私の早とちりだったようです」
少し申し訳なさそうな顔をするミネ。まぁ言われてみれば俺を警戒するのは9割方正しいっちゃ正しいから、ミネに非はない。
「そんな顔をするものではない。私が怪しい……というのは、トリニティの上層部からすれば事実なのだろう?ならば、セイアを守ろうとした君は正しかったのだろうさ」
「……」
さて、と俺は話題を変えつつ、セイアに向き直る。
たしかセイアの襲撃事件が起きたのは去年……だったはずだ。少なくとも半年、長ければ一年近く寝ている計算になる。
原作でも健康面ではあまり障りのないような感じだったが、それだけ寝ていて何もないはずがない。ミネの尽力と、描写されぬリハビリや何やらがあったはずなのだ。
セイアが貧弱なのは昏睡状態だった背景もあるだろう。
しかし……今目の前にいるセイアは、原作の元気な時と比べてもはるかに健康的な肉体を持っていた。その肉体にあるのは脂肪ではなく筋肉であり、女性的な柔らかさを持ちつつ実践的な力を持つであろうことを予想させる。
神秘が増しているが故にその気配は昏睡しているというのにむしろ濃い……俺以外にこの気配を感じ取れるのは黒服とデカグラマトンぐらいだろうけど。
まぁ眠っている時の外見はさほど変わらないだろう。
「セイアの容体はどうなっている?」
俺はミネに問いかけた。
「……2週間ほど前まで、通常の昏睡状態の患者と同じように筋肉が衰え、徐々に衰弱していく状態にありました。ですが、ちょうど今から3日前に突如としてセイア様の肉体に異常が発生。筋肉は元よりも上どころか常人以上になり、網膜……
おお、予想以上にガチガチに答えられた……医療についてはあんまり知らないからこれぐらいの情報量で割とキツイが……まぁミネ側も省略はしているだろう。
「ふむ。私の予想と概ね同じらしい……」
「……予想?」
「ああ。先に誤解のないよう言っておくが、セイアの状態の変化は私が施した医療によるものだ」
……騙せるかはわからないが、それっぽく誤魔化しておこう。
嘘八百を並べてミネに怪しい医療を認めさせるRTA、はーじまーるよー!!(ヤケクソ)
「順番に話そう。まずは彼女の能力についてだ。彼女には予知夢を見る、という特別な力がある」
「……」
「しかし、襲撃され昏睡し、常に夢を見る状態になって、彼女の能力は暴走した。予知夢を見るだけではなく、夢の世界を意識が漂うこととなったのだ」
「……セイア様が意識を取り戻さないのはそのためですか?」
「いや、違う。夢の世界を漂うセイアが肉体を見つけられないのは事実だが、肉体の方も目覚めるだけの力が足りなかったのだ」
「……足りなかった?今は違うのですか?」
「そうだ。その説明……そしてここに来た本題の話を今からしよう」
原作ではなんだったのかイマイチ思い出せないな……セイアが起きる気力がなかったんだっけ?
「夢の世界を漂ううちに、彼女は私の夢へと辿り着いた。そこで、襲撃のことやこの能力のこと、この場所のことを私に伝えたのだよ」
「……にわかには信じがたいですが、いいでしょう。私にはあなたの言葉を信じるほかありませんから」
うん、よかった。これで信じてくれずもう一回戦闘とかなったら俺お手上げだったからね……
「さて、続きだ。彼女は夢で、私に助けを求めた。私は白昼夢を見ることのできる人間でね、その願いに応えることにした」
その言葉に、少しずつ和らいでいた目つきを一気に鋭くするミネ。一体何をしたのだ、と目線で俺に問いかける。
「ヤーナム自治区。内情を探れぬ怪しい場所だと言われる場所だが……それは事実だ。『血の医療』、と呼ばれる独自の医療があそこでは行われている。そしてその実態は、『虫』や『精霊』と呼ばれる存在、そして『獣血』を含んだ特殊な血を取り込み、肉体に寄生させることで肉体改造を行う悍ましいものなのだ」
「なっ……!そんなもの、医療では……!」
「医療なのだよ。大半の病はこの血の医療で解決し、怪我もまた血を取り込むことで治るようになる。倫理さえ無視すれば、実に有用なものなのだ」
「……っ」
話に聞く限り、俺が語ったことが事実ならば破格の医療であると気がついたのだろう。倫理的な問題はあるものの、効果自体は医療従事者にとって破格、しかも掛かる手間は輸血のみであり、複雑な手術も必要ない。
わざわざ閉鎖的なヤーナムへ、治療を望んでやってくるのが納得できるほど、
「私はセイアに、この医療の副作用から受ければどうなるかまで、全て余すことなく説明した。それでもセイアはこの血の医療を受けることを決めたのだ」
「……しかし、なぜ夢で受けたことが現実になっているのですか?」
「『血』というのは人間を構成する要素の中でも、特に重要な力を持つ。かつて『瀉血』という医療法が流行ったようにな」
「……あの医療法は間違ったものなのでは?」
「ああ、そうだ。瀉血というものは何の意味もない。『プールに垂らしたインクを取り除くことは不可能』なのと同じなのだから。しかし、着眼点はおかしくなかったのだよ」
「血とそれに付随する神秘は、夢と現実を繋ぐ架け橋となる。『血』のみが、夢で起きたことを現実に反映させる」
「故に、夢で行った『血の医療』が現実に作用し、セイアは今の肉体を手に入れた……肉体が起きる準備はできている」
「ではセイア様が目覚めないのは……」
「私の夢にいるからだ。彼女は今、夢の中で強くなった肉体を自身に慣らしている……それが終われば、直に目覚めるだろう」
「……そうですか」
ホッとした様子のミネ。原因不明の昏睡だ、医療者……それも一人で面倒を見ている患者の容態に不安な気持ちも少なからずあったのだろう。
「私はここに、血の医療を施した者として警告をしに来たのだ」
「警告、ですか」
「ああ。『血の医療』を受けた者は、血中に『虫』と呼ばれる百足のような寄生虫や、『精霊』と呼ばれる極小の軟体動物……ナメクジのようなものをその身に宿すようになる。これらは人に寄生するとその肉体を自らの苗床足るように改造していく……超人並みの身体能力と免疫を持つ者へと」
「……」
「しかし、特別な血に混ざる最後のファクター……『獣血』は許されざるものなのだ。これは、人を強靭に、そして頑強にする代わりに、『獣』へと近づける。伝承にある人狼……人を食い殺す化け物になる」
「なっ!?」
ミネが瞠目する。当然だろう、セイアがそうなる、と言われたも同然なのだ。
「幸い『獣』は理性によって抑えられ、また『神秘』と相反する。その精神が屈強であれば、『獣』に堕ちることはない。故にセイアは、肉体に慣れることと並行して精神の訓練も行なっている。心配することはない」
「……」
「君への警告というのはただ一つ。セイアの血を採る行為は絶対にするべきではない、ということだ」
「……寄生虫や、その精霊というものが広まる可能性があるからですか」
「ああ。これらが広まった場合……特に獣血が広まった場合、トリニティが、ひいてはキヴォトスがどうなることか……悍ましい事態が起こることだけは確実だ。絶対にそれだけは阻止しなくてはならない」
「わかりました。全力で対応させていただきます……ですが、流血した場合などはどうするのですか?」
「その心配はない。私やセイアは夢に関して少々特別な力を持っている。『流血した血液』は時間差はあれど夢の世界へ送られ、現実世界から消えるのだ……ただ一つ、『直接採取した血液』のみは消えることはない。これに、君には対処してもらいたいのだ」
「……了解しました。絶対に防ぎます」
「頼んだよ」
ミネの覚悟は固い……というよりもこの行為、『救護』の対象だな多分。未然に防ぐことは何よりも大事だからね。
ちなみに流血した血液が消えるのは、夢の力を使っているのは本当だ。ツルギ戦で俺は大量に出血したが、ちゃんと消しておいたし、消えているのを確認した。
アレだ、原作でボスとか一部の敵を倒した後に死体が消えるのと同じようなものだ。
……そういやツルギとインファイトで戦った時、互いに血塗れになったな……
あれ?まずくね?ワンチャン
……
……影響を今度会った時に調べなきゃな。
「……さて。私の用は終わったが……質問はあるかね?」
「いえ、問題ありません。セイア様の能力、現状、特殊な血の輸血、その副作用、そして対処すべき事柄。全て理解しました」
「了解だ……ではこれにて失礼する」
「……お元気で」
ミネに一礼し、この場を去る。夢を介して帰れば、アリウスやティーパーティーの監視に見つかることもないだろう。
まぁ……ミネとの戦闘、そしてこの話をするだけで数時間は経っているからな……そろそろ怪しまれかねない。
きっと補習授業部の試験は原作通りになっていることだろう。その後の展開も……うろ覚えではあるが記憶はしている。
……戦うことになるであろう、あのお姫様への対処法を考えておかなければな。
【挿絵表示】
本作の表紙を描きました。ちょっと前にTwitterで上げたやつです。下手なのはお赦しください。
本当はトリニティ風の背景も描きたかったんですが……作者にそれだけの作画力はありませんでした。いつかはメモロビも描きたいな!
ふと気がつきましたが、Bloodborne未履修の方を置いてけぼりにし続けているな、と思いまして……本当に申し訳ない……わかりやすく書こうと心がけてはいるのですが……
わからないところは検索などをしてもらえれば……多分出るので……よろしくお願いします……
また、作品が読みにくいなどのご意見があったら、Twitterの方にマシュマロなどもあるので遠慮なく投げつけていただけると改善いたします……
最近(?)ハーメルンの機能でTwitterでの読了報告というものが存在するのに気がつきまして。感想や高評価もそうですが……フィードバックは貰えるとやはり嬉しいものですね……!
おお、あなたですか
それでは、高評価をしましょうか
感想があれば、遠慮なく仰ってください