「……ふぅ」
トリニティ総合学園の某所……とある建物の中。そこでは栗色の髪をした一人の少女が椅子に座り──窓の外を眺めながら、紅茶を嗜んでいた。
コンコン
「……紅茶でしたらもう結構です」
戸が叩かれ、それに返事をするが──いつまで経っても、応答がない。
「……?」
「……可哀そうに、眠れないのですね」
「っ!?」
「それもそうですよね。正義実現委員会がほとんど傍にいない状態……不安にもなりますよね、ナギサさん?」
「護衛が少ないことに不安がる気持ちもわかる。自分の身を自身で護れる存在は、そう多くないのだからね」
突然の声に振り向く少女。そこにいたのは、ピンク色の髪をした女子生徒……浦和ハナコと、特徴的な装束を身に纏った白銀の髪を持つ少女……月乃カオリが立っていた。
「う、浦和ハナコさん……それに月乃カオリさん……!?あなたたちが、どうしてここに……!?」
この部屋の主人である、栗色の髪の少女──桐藤ナギサは、その状況に大きく取り乱していた。本来であれば、この場所がバレるはずがない。ここは彼女にとって真に安全な場所だったのだから。
「それはこのセーフハウスをどうやって知ったのか、という意味ですか?それはもちろん、全て把握しているからですよ。合計87個のセーフハウス、そしてそのローテーションまで……ふふっ♡」
「……!?」
「変則的な運用もおおよそ把握しています。例えば……今のように心から不安な時は、ここの秘密の屋根裏部屋に隠れるということも♡」
「なっ……!」
その言葉に動揺したナギサは、がたり、と椅子を蹴り立ち上がって──
「動くな」
──背中に銃を押し付けられて、動けなくなった。横目にチラリと背後を見れば、そこにはガスマスクをつけた白髪の少女──白洲アズサがいた。
「……!」
「ここから何をしても無駄だ、桐藤ナギサ」
「ここまでの間の警護の方々は全員片付けさせていただきました。だからこうやって堂々と来たわけですが」
ナギサはその優秀な頭脳をフルに回転させ、彼女たちの言葉と行動から状況を把握していく。そしてすぐに、その答えへと辿り着いた。
「白洲アズサさん、浦和ハナコさん、月乃カオリさん……まさか……『裏切り者』は一人ではなく、三人……!?」
しかしそれは、固定観念に囚われたナギサにとっての正解であり──事実としては、不正解であった。
「哀れだよ。炎に向かう蛾のようだ……その炎を作り出したのは君だがね」
「……ふふっ、ええ。単純な思考回路ですねぇ♡私もアズサちゃんも、カオリちゃんでさえ……ただの駒に過ぎませんよ。指揮官は別にいます」
「……!!それは、誰ですか……!!」
二人の言葉に、ナギサは己の失策を悟る。真実を求め、三人へとその答えを聞いた。
「そのお話の前にナギサさん……ここまでやる必要、ありましたか?」
「……」
ナギサは答えない。
「補習授業部のことです。ナギサ様の心労は、よく分かります。ですがこうして『シャーレ』まで動員して、何もここまでやる必要はなかったのではありませんか?」
「それは……」
ハナコが淡々とナギサにその問いを投げかける。
「最初から怪しかった私や、アズサちゃんは仕方ありません。ですが……ヒフミちゃんとコハルちゃんに対しては、あんまりだと思いませんか?」
「……」
「特にヒフミちゃんは……ナギサさんと、仲が良かったじゃないですか。どうしてこんなことをしてしまったのですか?ヒフミちゃんがどれだけ傷ついてしまうのか、考えなかったのですか?」
カオリとアズサは黙っている。ただ、ハナコだけがナギサを淡々と詰めていた。それが逆に、ナギサには恐ろしく感じられる。
「……そう、ですね。ヒフミさんには悪い事をしたかもしれません……ですが、後悔はしていません。全ては大義のため。確かに彼女との間柄だけは、守れればと思っていましたが……私は……」
徐々に暗い顔に変わっていきつつも、それが正しかったと言うナギサ。ならばこの話は終わりだとばかりに、ハナコは話を切り上げ口を開いた。
「……ふふっ♡では改めて私たちの指揮官からナギサさんへ、メッセージをお伝えしますね。
『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ』
『ナギサ様とのお友達ごっこ』
……とのことです♡」
「……っ!?ま、まさか、ということは……!?」
その瞬間ナギサは理解した。その言葉の主が誰であるかその顔まで浮かんだのだ。そしてそれに信じられない気持ちと同時に今までの全ての失策を悟る。脳裏によぎるのはあははと屈託なく笑う彼女の姿。補習授業部を任せた時の、困惑したような表情。裏切り者を探して欲しいと頼んだ時の信じられないといった顔。本物の裏切り者は自分が信じていた彼女だったのだ。噂は噂でしかないと信じていたのにそれは事実だったのだ。鳥のぬいぐるみのバッグを背負った彼女こそが真の裏切り者だった。ナギサの脳裏に、黒く笑う彼女の笑顔が鮮明に映し出されていく。あはは、あはは。楽しかったですよ。ナギサ様との、お友達ごっこ。そう脳裏の彼女はせせら笑う。信じていたのに、だからこそ任せたのに。最初から自分は裏切られていた。いや裏切ったのは自分の方だろうか。彼女の事を最初から本当に信じていれば彼女は裏切らなかったのではないか。私が裏切ったから彼女は裏切ったのではないか。彼女が、阿慈ダダダダダダン!
「……目標を確保。近距離で5.56mm弾を丸々一弾倉分当てたから、1時間くらいはこのまま気を失っているはず。カオリ、あとは任せた」
気を失ったナギサを、アズサはカオリに預ける。カオリは自分より身長の高いナギサを軽々と背負った。
「了解だ、アズサ」
「ふふっ♡ではアズサちゃん、ここから敵の誘導をお願いします♡」
「了解。これで、まだどこかにいる『本物のトリニティの裏切り者』に嘘の情報が流れるはず……ハナコの仮説通りであれば、確かにアリウスも襲撃を急ぐに違いない……ところでさっきの最後のセリフ、必要だった?」
「あぁ、あれはヒフミちゃんの頑張りの分、勝手な仕返しと言いますか……ちょっとくらいはショックを受けてもらおうかと。まぁ全てが終われば、すぐに誤解は解けるでしょう」
「……まぁいい。私は私のやる事をやる。夜に外出はあまりできなかったから数は少ないけど、学園の周囲にトラップやら塹壕やらを作っておいた。そこに誘導しつつ、ゲリラ戦で時間を稼げば……どれだけの数が相手でも、少しは戦力を削れるはずだ」
「……すまないね、アズサ。私が夜警をしたせいで、君の準備の機会を減らしてしまった」
カオリがアズサに謝罪する。しかし、アズサは首を振ってそれを否定した。
「ううん、仕方ない。夜に出歩くのは流石に不審すぎたから、怪しまれるのも当然だった……もっと早く、私が素性を明かすべきだった。ともかく、カオリは悪くない」
「……そうか」
そう言われたカオリは、アズサに優しく微笑む。アズサはそれに微笑み返した後、すぐに表情を引き締めた。
「じゃあ、一旦ここで。後でまた、合流地点で会おう」
「はい、また後ほど!」
「了解だ。頼んだよ」
そうしてナギサを背負ったカオリとハナコは去っていく。
それを見届けたアズサは、一人夜の闇に消えていった。
セイア実装、おめでとう!!
新難易度追加は……この作品がそこまで原作に追いつくことはないので関係ないですね……
ビルゲンワースは、古い小説の学び舎です
狩人なら知っているでしょう、ヤーナムの地下深くに広がる神の墓地
かつてビルゲンワースに学んだ何名かが、その墓地からある聖体を持ちかえり
そして医療教会と、血の小説が生まれたのです
すなわちビルゲンワースは、ヤーナムを聖地たらしめたはじまりの場所ですが
今はもう棄てられ、深い森に埋もれているときいています
……それに、ビルゲンワースは医療教会の禁域にも指定されています
今もどれほどが生きているのか分からない、かつての作者たち
彼らに送る高評価や感想、ここすきなどがない限り、門番は門を開かないでしょう