“ミカ……?”
「や、久しぶり先生。また会えて嬉しいな」
聖園ミカ。
トリニティ総合学園にて生徒会の役割を持つ、ティーパーティーの最高位の一角に座す存在。
同時に、この学園の三大派閥であるパテル派、その代表でもある。
「正義実現委員会は動かないよ。私が改めて待機命令を出したから」
正義実現委員会はティーパーティーに従う組織。
故に、ティーパーティーのトップが命令を下せば動けなくなる。
「今日は学園が静かだったよね。正義実現委員会以外にも、邪魔になりそうなものは事前にティーパーティーの命令で動けないようにしておいた……はずなんだけど。一人、忘れてたなぁ」
チラリ、と見るのは俺のこと。
俺はティーパーティーの監視下にあるため、命令を下そうと思えばできた──流石に個人の自由を縛る命令は下せないと思うが。
以前ゲヘナに行けなかったのは、単に他学園への移動を制限しただけだったが故だ。自由行動は認められていた。
「まっ、いっか!」
「『ティーパーティー』のひとり……聖園、ミカさん……」
ハナコが呆然と呟く。
それに応えるように、ミカは『静かに』のジェスチャーの形を可愛らしく取った。
「まあ簡単に言うと、黒幕登場☆ってところかな?私が
「……」
「……」
「……」
「……!?」
誰しもが固まる。
あってはならないことが起きていた。
学園のトップが、学園を裏切っていたのだから。
「というわけで、ナギちゃんをどこに隠したのか教えてくれる?ここにいる全員を消し飛ばしてから、ゆっくり探してもいいんだけど──それは面倒だなぁ」
やはり俺を見るミカ。
先ほどからミカが見ているのは、
補習授業部は眼中にもないらしい。
「『月乃カオリは剣先ツルギと互角』。ティーパーティーでも問題視されてるの。『歩く戦略兵器』がぽっと出の子に抑えられた〜なんて、面目丸潰れでしょ?」
彼女は俺を見て、そう言い出した。
「だから潰そうにも、あなたが反逆したら止められるのはやっぱり剣先ツルギしかいない。そして、剣先ツルギは最終兵器。彼女を最初から中心とした作戦は保険がなくなっちゃうからできれば立てたくない……だから、あなたは放置されてきた」
つらつらと、得意げに語るミカ。
一方的に、優位を保つ喋り方。
「つまり、私も相手したくないんだよね。面倒だから。でもそうも言ってられなさそうだよね?」
「くくっ……それでは言外に、戦えば貴公は私に勝てる、という意味に聞こえるぞ?」
「あれ?そう聞こえなかった?」
「ふふっ……」
「あははっ……!」
なるほどなぁ、これがお嬢様学校の会話かぁ……
まぁ俺は大人なのでスルーします。ええ、大人なので。
ミカってあんまりこういうの得意じゃない印象があるんだが、どう考えてもこの後やらかすことのせいなんだよな。
実際、ここまでナギサすら欺いて暗躍してたことやそもそも実力がなければならないティーパーティー、及び派閥トップをやっていることからも頭はいい筈なんだが。
“ミカ、どうして……”
「んー?聞きたい?先生にそう言われたら仕方ないなぁ」
アリウス生たちに銃を下げさせぬまま、ミカはツカツカと少し歩き出す。
「それはね……ゲヘナが嫌いだからだよ。私は本当に、心から……心の底からゲヘナが嫌いなの」
「……だから、エデン条約を取り消そうと?そのためにナギサさんを……?」
その声に足を止めるミカ。
声のした方向に振り向き、そこにいたピンク髪の生徒を見つめる。
「えっと……あぁ、思い出した。浦和ハナコじゃん。礼拝堂の授業に水着で参加して追い出された、あの。あははっ、懐かしいねぇ」
「……」
「まあ、一応答えてあげるとその通りかな。ナギちゃんが、エデン条約なんて変なことをしようとするからさぁ」
はあ、と芝居がかったため息を一つ。
「ゲヘナの、角の生えたやつらなんかと平和条約だなんて、冗談にも程があると思わない?考えるだけでゾッとしちゃうよ。絶対裏切られるに決まってるじゃんね?背中を見せたらすぐ刺されるよ?」
つらつらと、長々とその内情を話す。
長い間に育まれた怨敵への敵対心とも言えるその固定観念は、親友でもある幼馴染を軽く裏切るほどに強い……と。そんな演出なのだろう。
まさに黒幕の慈悲、いやお約束とでも言おうか。それをやることで、自分を悪く見せている。俺にはそうとしか思えない。
「ナギちゃんも、優しいっていうか優しすぎるっていうか……創作の中の明るい学園物語じゃないし、そんな都合の良い話は現実には存在しないのに。私たちはもっとドロドロした世界の住人だってこと、わかってくれてもいいのにね?」
まるで、いうことを聞かない子供への思いを吐露するような言葉。
「……そういうわけだから、ナギちゃんを返してくれる?大丈夫、痛いことはしないよ。まぁ、残りの学園生活は全部檻の中かもしれないけど」
“じゃあエデン条約は、やっぱりれっきとした平和条約……”
「あっ、あの時は騙してごめんね、先生。うん、それは嘘。あれは本当に平和条約だよ。素直でお馬鹿なナギちゃんに、エデン条約を武力同盟として活用することなんて、できっこないからね」
ナギサを心底馬鹿にしたとでもいうような声音で話すミカ。
「……でも、あの時話したことは、全部が全部嘘ってわけじゃないよ。私がアリウスと和解したかったっていうのは、本当のこと。この子達は、同じゲヘナを憎む仲間なの」
そうして腕を広げ、アリウス生たちをアピールする。
アリウス生たちはまだ動かない。今は、こちらにパフォーマンスをする時だと理解しているのだ。
「アリウスだって元々はトリニティの一員。この子たちのゲヘナに対する憎しみはすごいよ、私たちに勝るとも劣らない。むしろこの子たちこそ、純度の高い憎しみを持ってるとすら言えるかも。だから手を差し出したの。志を共にして、ゲヘナと平和条約を結ぼうとする悪党たちをやっつけない?って」
「ティーパーティーのホスト『桐藤ナギサ』に正義実現委員会がいるなら、次期ティーパーティーのホスト『聖園ミカ』にはアリウスがつく。これはそういう取引。共通の敵の為に、一時的に敵同士が互いの手を取り合う。それで私は、アリウスを密かに支援してたの」
そう、ミカは締め括った……が、まだ話は続く。これは、
「アリウスは最初から、トリニティのクーデターの道具だった……?」
アズサが信じられないというように、ポツリと呟く。
「うん?……うん、確かにこれはクーデターとも言えるかもね。最終的にはナギちゃんを失脚させて、私がティーパーティーのホストになるんだから。ああ、あなたのことはわかるよ。ありがとう、白洲アズサ。私はあなたのことをあまり知らないけど、大事な存在であることは変わらない。今からあなたには、ナギちゃんを襲った犯人になってもらわないといけないからね」
「……!!」
コハルが息を呑む。
正直コハルにとってはわからないことだらけでちんぷんかんぷんだろうが……不味いことが現在進行形で起きていることだけは、はっきりわかっているだろう。
「スケープゴートって言った方がいいかな?罪を被る生贄としての存在がいてこそ、みんながぐっすり安心して眠れるの。でも、びっくりしたな。ナギちゃんが正体不明の誰かに襲撃されたって聞いて、計画が崩れるかもと思って少し焦ってみたら……まさか補習授業部だったなんてね。
うん?今なにか、おかしくなかったか?原作では、完全に補習授業部のことは予想外といった感じだった気がするんだが?
「最初から、月乃カオリと白洲アズサ……そして残りの補習授業部に、全部罪を
“……すべては、ティーパーティーのホストになるため?”
「うん、そうだよ。でも、別に権力が欲しいわけじゃないの。私はゲヘナをキヴォトスから消し去りたい……本当にただ、それだけだから」
“……”
「トリニティの穏健派を追いやって、その空席をアリウスで埋める。もしかしたら新しい連合になるかもね?必要なら新しい公会議でも開いて……うん、それも良いかも?それで、新たな武力集団を得て再編されたトリニティが、ゲヘナに全面戦争を仕掛ける。そう、これが私の計画!」
夢物語のように聞こえるが……実現すれば、そのままゲヘナが滅びる可能性が高いのはなんたる皮肉か。
ゲヘナにまともな軍隊はなく、また戦力的にもトリニティと比べて層が薄い。
ヒナのワンマンアーミーとなっている風紀委員会はアリウスで抑えられる上に、ゲヘナの他の強者たちは揃いも揃ってテロリスト。
学園のために協力はするかもしれないが、徹底抗戦するかと言われれば怪しいところだ。
万魔殿にも、トリニティと全面戦争して無事な戦力があるとは言い難い。
ある種、トリニティさえ併合し舵取りが出来さえすれば、実現可能なラインですらあるのが恐ろしいところだ。
「さて、もっと丁寧にお話ししたいところだけど……まずは色々邪魔なのを片付けてからにしよっか。みんな、補習授業部の子達を片付けてね。あ、先生は捕まえてね?私は、月乃カオリを片付けるから」
がしゃり、とミカが懐から銃を取り出すと同時に、アリウスの部隊が展開されていく。
「……気をつけて、カオリ。こうして見ただけでわかる……かなり強い」
「ああ、わかっているさ。ツルギ並みの威圧感をひしひしと感じているからね。まぁ……彼女が私に勝つ、などということは
「……?」
ミカの銃はサブマシンガン。
連射力のある銃だ、とても恐ろしい。
狩人にとって連射される遠距離攻撃は最大の天敵だ。
ゲームでもミカはよく使っていたから、その強さはよーくわかっている。
銃以外の他の要素も、彼女は全て強い。
まともに戦えば苦しい戦いになるだろう。
だから
「聖園ミカ。裏切り者よ、聞くがいい」
「どうしたの?降参しますってこと?」
はて、と笑みを浮かべながら煽るミカ。
しかしカオリはその煽りを無視し、言葉を紡ぐ。
「貴公はまだ技を知らない。経験を知らない。真の力を知らない。上から見下げるだけの貴公では、知りようも無いだろう……彼女の存在の真価を」
「……何言ってるの?他にまだ、助っ人がいると思ってる?全部、動くことはないって言ったじゃん」
余裕の表情を崩さぬミカ。
万全の構えであり、数的優位もある。
今更計画が崩れることはあり得ない。
「くくっ……ああ、いるとも。貴公が最も警戒しているであろう存在が。この計画を一人で壊すことのできる存在が」
「……あはは、妄想?一人で全部壊すなんて、そんな、ヒーローみたいな子がいる訳ないじゃん……」
笑って誤魔化すが……カオリの言葉に、少し引っかかる所があったのだろう。
言葉が尻窄みとなり、余裕の表情に翳りが見えた。
「例えティーパーティーであろうとも、クーデター……武装蜂起を起こすのならばそれは罪である。彼女がそれを知れば、見逃す筈など無い」
「……何を……まさかっ……!?」
何かに気がついたように、ミカがハッと息をのみ──カオリが、天を指し示した。
「知るがいい、トリニティの裏切り者よ!正義は汝を裁くだろう!!」
ギィヒヒヒヒッッハハハハァッ!!!
ダバァン!!
天井から、凄まじい轟音、そして奇声と共に、
それは、カオリとミカの丁度中間に着弾し、鈍い音を響かせた。
バキッ!ビシ、ゴキッ!パキキッ!!
やがて、その
うぅぅえぁぁうぉぁ……ひゃはぁっ……!
「うそ、なんで──
──ここに、
トリニティ最強、ここに現着。
「きひひっ……!」
ほう、お前、新顔だな?
それに見たところ優秀な……読者だ
クックックッ…… ああ、俺はヴァルトール、連盟の長だ
連盟とは、読書の夜に轟く作品すべてを、高評価するための協約さ
お前も読者なら、気持ちは同じだろう?
神作、天才的発想、魅力的なキャラクター、みんな最高じゃあないか
だからこそ、評価しつくす。連盟の読者が、感想にも協力するだろう
どうだ?お前も、我ら連盟の仲間にならないか?