「……っ、正義実現委員会は待機命令を出してた筈!なんで命令違反してるの!?」
「きひひっ……通報があった……」
相対するツルギとミカ。
ツルギにとってミカは上司であるが、姿勢は前傾のままであり口調に敬意は感じられない。
「通報……?」
「私だよ」
「っ!」
声がした方向、ツルギの向こう側をミカが見る。
そこには、ポケットから取り出したスマホを持って振る月乃カオリの姿があった。
「私が一度目の戦闘を終えた直後、貴公らが押し入ってくる直前に私はスマホでツルギに連絡して……通話をしたままにしていたのだよ。前もって、
「……!」
息を呑み狼狽えるミカ。
単なるアリウス以上の、月乃カオリで対処が難しい敵が出るのを見越していたと暗に言っているのだ。
トリニティ最強クラスの戦力を二人揃える必要のある戦局である、ということを。
「で、でも、ティーパーティーの命令が……」
「くけけっ……正義実現委員会は治安部隊。ティーパーティーの命令は絶対ではあるが……」
こきり、と首を捻り、ツルギが凝りをほぐす。
その後上半身を起こし、全身を伸ばして筋肉をリラックスさせた。
「命令者が法を犯しているならば……きひっ、ましてやクーデターならば……現場判断が優先となる……」
「クーデター……まさか、今までのこと……!」
「けひっ……ああ、全て聞こえていた……」
引き裂かれるように、ツルギの口が開かれていく。
目は鋭く、凄まじい眼力だ。
どろりと滴るヘイローの粘度は以前よりはるかに高く、悍ましく溶け出しているように垂れている。
「つまり……私は……」
すっ、と懐から取り出したるは、二丁の銃。『ブラッド』と『ガンパウダー』と名付けられたこれは、ツルギの愛銃。
「お前の……敵だ」
器用にスピンコックにて銃を回転させ、チューブに装填された
「きひひひひひひっ……!!」
その正義の銃口はついに、裏切り者へと向けられた。
戦いの火蓋は、ツルギが動き出したことにより切られた。
同時に、三つの戦局が開始したのだ。
銃撃を放ちつつひとっ飛びにミカへと切り込み、追加の銃撃を行うツルギに対し、ミカは飛び退きながら銃を放つ。
それは綺麗にツルギへと直撃し、
「硬いっ……!」
けひゃひゃひゃ!!!!
ミカは引き撃ちに専念するつもりだったが、直撃して怯みすらしないツルギを見てそれは意味がないと悟る。
バゴン!!ダバァン!!
ツルギの両手のショットガンによる、それぞれの
目の前の知っているツルギとはどこか
知っている情報ではこれほど
銃の装弾数も、二発ずつだった筈なのだ。どう考えても
どう考えても、知っている情報より強い。ミカはその事実に、いつのまにか冷や汗をかいていた。
「冗談っ……!キツいなぁっ……!」
ツルギの散弾を避けつつ、ミカは
それはツルギに吸い込まれていき、一瞬怯んだが……それだけだ。
再生すら必要ないほどのダメージしか与えられないのを見たミカは、この状況に歯噛みする。
奥の手を切ることも、既に検討し始めていた。
きひゃっ!きひゃひゃひゃひゃひゃ!!
大きく移動しながらの、実力者同士の戦い。
アリウス生たちは近づくことは叶わず、巻き込まれぬよう退避するしかなかった。
先生と補習授業部もまた、アリウスに対して切り込む戦いを展開していた。
コハルが手榴弾にて道を開き、そこにアズサが突貫し穴を広げる。
ヒフミとハナコはアズサを支援しつつ、完全に包囲されないよう周囲を牽制している。
“コハル、次は右の奥の狙撃兵をお願い”
「う、うん!」
指示された通りに、何人ものスナイパーを逆に狙撃し倒していくコハル。
先生が指示した通りに撃てば、ポンポンとまるでゲームのように当たっていく。
“ヒフミはアズサの援護。アズサが囲まれないように”
「はい!」
アズサの退路を塞ごうとする敵を狙い撃ちし、アズサの背後を守るヒフミ。的確なサポートは、アズサが全力で戦う助けとなる。
“ハナコは見計らって、包囲を組まれないように牽制”
「ええ♡」
ハナコはその優れた頭脳と判断能力から、どこを、だれを攻撃すればアリウスの動きが阻害されるかを瞬時に見抜き攻撃する。
“アズサ!暴れて!”
「わかった」
優れた技量と正確な射撃で次々とアリウスを制圧していくアズサ。
数で押そうにも、切り込まれては同士討ちの危険が出るため迂闊に攻撃できなくなる。アズサはそこを突いたのだ。
数の不利をものともせず、次々と敵を倒していく補習授業部。
ここまで共に努力してきた団結力は高く、例えアリウスの連携だとしても先生の指揮の元に切り崩していった。
そして、最後の戦局……月乃カオリは。
「向こうはツルギに任せて、私は私の後始末をしなければね」
銃弾の雨霰を、周囲に鳴る音楽に合わせて、まるで踊るかのように避けていた。
相手をするのは自分へと向かってきたアリウスの部隊。
狩人を捕えるために派遣された、本来はいない追加のアリウス生たちを相手にしている。
「もう少しミカが強ければ君たちではなくミカを相手にしていたのだが……」
チラリ、とミカの方向を見れば、ツルギに追い立てられるミカの姿。縦横無尽に戦う二人だが、ミカは防戦一方に見える。
「まぁ、楽しみはいつかにとっておくとしよう」
─【Celestial Emissary】─
月乃カオリの肉体は上位者かつ狩人であり、超人の如き強度を誇る。
水銀弾という特別な弾を扱わぬ限り、銃でまともなダメージを与えるのは
ならば何故彼女は銃弾を
単純明快、数的優位により袋叩きにされるからだ。
ダメージは負わずとも、衝撃は少し程度とはいえ通る。
その結果足止めされてしまえば、蜂の巣にされ動けなくなる可能性があった。
絶え間なく飛んでくる銃弾を躱し、時にすり抜け、時に手に持つ大型の
『教会の杭』の名を持つこの武器は、大型の杭に刃がついた武器だ。
「ふんっ!」
「ぐあっ!?」
剣の状態であるこの武器で斬られ、気絶するアリウス生。
「突き刺す」、や「斬る」、という行為にも生徒たちは神秘によりある程度耐性が存在する。
たとえ今のように斬ったとしても生徒からすれば鈍器をぶつけられたに等しいのだろうが……
通常の仕掛け武器では殺しかねない相手でも、無強化のものを刃引きしていれば殺さず扱える。
「く、くそっ!」
「や、やめろ!こちらに当たる!!」
カオリもまたアズサと同じようにアリウス生の包囲の中にいる。
つまり、同士討ちを恐れるアリウス生たちは弾幕を張る、という行為ができず、その結果狩人は自由に動けてしまう。
かといって格闘を仕掛けようと近づけば、あの鉄杭の餌食になってしまう。
しかし、攻めあぐねれば、当然──
「離れていていいのかね?」
カオリが左手に持つ噴射器……『ロスマリヌス』をアリウス生たちに噴霧する。
「がっ!?これ……はっ……」
「こひゅ……ごほっ……」
水銀弾を触媒とし『神秘の霧』を放射するこの武器は、生徒たちの神秘に作用し瞬時に昏倒させる。
通常の生物には劇物であり即座に体組織を破壊する神秘の霧も、同じ神秘に包まれた『生徒』相手なら大きなダメージを与えはしない。
しかし、神秘は干渉し合う。
生徒の神秘へと触れたロスマリヌスの神秘の霧は、即座にその持ち主を昏倒させる。
故にロスマリヌスは、生徒を安全に無力化するにはこれ以上ない程に適切な武器となるのだ。
「くっ、化け物め……!」
「ビルゲンワースっ……!」
「くそっ……またアリウスはビルゲンワースに……!」
悪態をつくアリウス生たち。
彼女たちにとっては、トリニティやゲヘナと同じほどにビルゲンワースは憎む相手なのだが……狩人にとっては、そんなものは関係ない。
「ふふ、ふふふ……さあ、もっと楽しもうじゃないか!」
悪夢は踊る。
ただ一人に蹂躙されるアリウスたちに、救いはない。
「ぐぅ……っ!」
爆風と爆煙が吹き荒れ、吹き飛ばされ着地するミカ。
既に全身に軽くながらも傷を負い、少なくない弾を消費してしまっていた。
爆煙から歩いて出てくるのは、ツルギ。
ミカの渾身の一撃により幾度かはダメージを負っているはずなのだが、その身体に傷はない。
より凄惨な、まるで怪物のような笑みは、強者であるミカにすら怖気を感じさせるものだ。
ひひっ、ひひひひひっ、ひゃははははっ!!
「うーん、確かにこんなに怖かったら戦った子がトラウマになるのもわかるかも……」
チラリと他の戦局を確認するが、あまり状況は芳しくない。
補習授業部には数で押しているが、先生の指揮と生徒たちの連携で攻めきれず。
月乃カオリに関しては、もはやアリウスの方が一方的な蹂躙を受けている。
アリウスは大隊規模、まだ残りが数百人はいるといっても、この状況はあまり好ましくない。
「はぁ……あんまり、剣先ツルギとか月乃カオリには見せたくなかったんだけど……」
かといって有効打が無い現状、ジリ貧もいいところ。故にミカは、切り札を使うことを決めた。
聖園ミカは天才だった。
恵まれた肉体、優れた頭脳、そして天性の戦闘の才。
キヴォトスの中でも有数の神秘。
故に、彼女はまだ敗北を知らない。
「それじゃ、いくよ?」
ミカが天を指差す。
ミカの運用する神秘が、指した先に従うように、宙空にて集っていく。
超常的な
ピンクの光が、ミカの頭上、体育館の天井あたりに広がり、やがて
ぁ゛あ゛ぁ゛……?
見上げるツルギ。そのピンクの雲の中心が輝き、その光はまるで──恒星のようだ。
「それっ☆」
ミカが、腕を振り下ろした次の瞬間──
シュゴォン!!
ピンクの雲から、
ミカの隕石がツルギに向けられたな。
あまりの威力にツルギのいた周囲が煙で何にも見えん。
そんなことを思いながら、俺はとりあえず包囲を突破し補習授業部の元へと戻ってきた。
彼女たちも巧みに戦い、アリウスに必死に抵抗していた。
既に3割程度は倒しているようだ。すごい実力。
残っているアリウスは俺が倒した分も考えれば約半分ほど。
しかし、増援はまだまだ来るようだ。今も続々と入ってきているしね。
ミカが大技を決めたことで、アリウスは戦闘を一時停止した。
ミカの手が空くから、指示をもらえるとでも思っているのだろう。
ぁ゛ぁ゛ぁ゛……ゲハハっ!
奇声が聞こえると同時に衝撃波と散弾により煙が晴れ、中からツルギが出てくる。
流石にあの隕石を喰らって無傷とはいかなかったのか、服はいつにも増してボロボロだ。
怪我は既に治ったのか、もうすでに跡すら無いが。
「はぁ……これでもダメ、なんて…。ツルギちゃんを侮ってたなぁ」
元々電車に轢かれてもあまりダメージのないツルギのことだ。
俺と戦った時はルドウイークの聖剣でズバズバ切れたから勘違いしそうになるが、そもそもの防御力も並外れている。
その上で常時高速再生持ちなのだ。化け物という他ない。
にしても、俺の攻撃より火力高いだろうに、あの隕石を受けてしれっと立ち上がるのはすごいと思う。
まあ、ツルギの実力は、俺と戦った時より数段上がっているからな。『虫』、『獣血』、『精霊』を余さず自らのものに還元吸収した神秘は、以前と比べてもかなり濃くなっている。
防御力上昇、再生速度上昇、身体能力上昇。
銃もそれに呼応したのか、装弾数が片手につき四発、両手八発という状態へとランクアップしていた。
ただでさえ原作ツルギより基礎が強かった存在が、その能力のある限りを完全に解放しきった状態。
それに、この
まさに『トリニティ最強』に相応しい、戦略兵器をも超えた戦力。
それが現在の、『剣先ツルギ』という存在だ。
「……はぁ、問題大有りだね。ナギちゃんを捕まえるだけだと思ってたのに、どうしてこうなるかなぁ……まぁ、まだまだ増援は来るしいいけど」
すこしムスッとしながらミカは喋る。
「セイアちゃんもナギちゃんもいなくなるんだし、これでようやく始められるっていうのに、変に邪魔しないでほしいなあ」
その、ミカの何気ない言葉に目を見開くハナコ。そして咄嗟に口を開く。
「ミカさん、一つ聞かせてください!セイアちゃんを襲撃したのも、あなたの指示だったんですか!?」
キッとミカを睨みつけるハナコ。
その目には、強い敵意が篭っている。
「……あは、ハナコもそんな目をするんだね。うん、私の指示だよ。セイアちゃんってば、いつも変なことばっかり言って。楽園だのなんだの、難しいことばっかり……」
あっさりと認めるミカ。
しかしその目はハナコを一瞥したのち、またツルギへと向けられる。
最大限の脅威を前にして、目を離し続けられるほど悠長な場ではない。
「でもヘイローを破壊しろとは言ってないよ。私は人殺しじゃない。ただ卒業するまで、檻の中に閉じ込めておいた方が良いなって思っただけ……でも、自然とああなっちゃったの」
「……」
アズサの息が詰まる。
「それ以上は、当事者に聞いた方がいいんじゃない?……ねぇ、白洲アズサ。何だか一部誤解があるみたいだし、私の代わりに説明してくれない?」
ツルギからゆっくりと目を離し、チラリとアズサを見るミカ。ツルギは隙を探っている。ミカは目を離しつつも、意識だけはツルギに向け警戒を全開にしていた。
「セイアちゃんがあんなことになっちゃったのが、ここまで事態が大きくなったきっかけなんだよ?そこからもう色んなことがどうしようもなくなっちゃったわけだし……ねえ、その辺りどう思う?」
そうミカに問われたアズサは、びくりと肩を振るわせ、動揺したように目を彷徨わせた。
同時に、ぎゃり、とツルギが脚に力を込める。
ミカもまた目をツルギへと戻し、戦いに備えていた。
「そ、それは……」
「アズサちゃん……?それはいったい、何のお話、ですか……?」
ヒフミが、要領を得ない、というのと、信じたくない、という意味を半々に込めたかのような言葉でアズサに聞いた。
「ち、違う……あれは……」
アリウスが、アズサたちに狙いを定める。
結束が緩みかけた今こそ、最大の好機であるとばかりに。
そして、ツルギが走り出そうと姿勢を下げた瞬間──
──アリウスたちに、大きなどよめきが走った。
「きひゃ……………なんだ?」
「……ん?」
事態の急変を感じ取ったツルギは、走り出すのをやめ。
ミカは、走り寄ってきたアリウスから知らせを受け取る。
「トリニティの生徒が一部、こちらに向かってきています!」
「……正義実現委員会?」
ツルギが目の前にいる以上、そう判断するミカ。
しかし、すぐその考えは覆されることとなる。
「
「っ!まさかっ……!」
「
真夜中の武装蜂起。
それを鎮める最後の一手が、打たれようとしていた。
BGM『Celestial Emissary』は星界からの使者戦でのもの。
前話からカオリの服装は聖歌隊なのでその繋がりです
神秘的でいい音楽ですよね……
……夜にありて迷わず、血に塗れて酔わず
名誉ある教会の作者よ
感想は救い、救いは高評価
そして君たちは、教会の筆とならん