見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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41.動乱の終幕

 

 

 

()()()()()()()……!?っ、浦和ハナコ……!」

 

 

 

 バッとハナコを見るミカ。この中でシスターフッドと繋がりがあるのは、ハナコしかいない。

 

「……まあ、ちょっとした約束をしましたので。まあ、あなたは知らなくてもいいことですが」

 

 

 

ドカァン!!!

 

 

 突如壁が爆発し、爆煙と爆風が吹き荒れる。

 そして歩いてくるのは、三人の少女たち。

 

 

「けほっ、今日も平和と安寧が、みなさんと共にありますように……けほっ……」

 

「す、すみません、お邪魔します……」

 

「シスターフッド、これまでの慣習に反することではありますが……ティーパーティーの内紛に、介入させていただきます」

 

 

 現れたのはシスターマリー、シスターヒナタ、そしてシスターフッドの長であるシスターサクラコ。

 

「ティーパーティーの聖園ミカさん。他のティーパーティーメンバーへの傷害教唆及び傷害未遂で、あなたの身柄を拘束します」

 

 

 

「シスターフッド、歌住サクラコ……あはっ、流石にここからシスターフッドとも戦うのはキッツイなぁ……」

 

 呆然としたような、乾いた声を出すミカ。

 

 シスターフッドによってアリウスは完全に包囲され、自分を抑える個人戦力として剣先ツルギがいる。

 さらに、剣先ツルギがいることでまだ来ていない正義実現委員会の介入の可能性も残っているのだ。

 おまけに補習授業部、月乃カオリ、そして先生まで健在ときた。

 

 勝率は零にも等しい状態だと、ミカは理解する。

 

 

 

「……浦和ハナコ、どうやってシスターフッドを動かしたの?」

 

 もはやツルギに向けていた警戒すら維持できず、くるりとハナコへと向き直るミカ。

 

「シスターたちと仲が良かったのは知ってる。でも、あの子たちが何の得も無く動くはずがない……ねえ、()()()()()()()?」

 

 ハナコへと投げかけられる問い。しかしハナコはそれに応えない。

 

「……顔色が悪いですよ、ミカさん?」

 

 ハナコが指摘した通り、ミカの顔は既に蒼白。

 

「あはっ……どうせホストになったら大聖堂も掃除しようと思ってたし……正義実現委員会も権力で縛るつもりだった。うん、一気にやるチャンスが来たって感じ?」

 

 そう啖呵を切るが……それが不可能なことは、ミカ自身が一番わかっている。

 

「……あくまで戦うつもりですか、ミカさん。この状況で勝算が分からないあなたではないと思いますが」

 

「……うん。でもここまで来て、『おとなしく降参します』なんてわけにはいかないでしょ?はぁ、洒落にならないなぁ……どうしてこうなっちゃったんだろ……」

 

 ぽつりぽつりと心の内を吐露し始めるミカ。

 負け戦だからこそ、全てを吐き出して挑みたいのだろう。

 

「セイアちゃんが襲撃された時だって動かなかったのに……今このタイミングでシスターフッドが介入するなんて、冗談にも程があるよ。何を見誤ったのかな……」

 

 

 

「……ハナコちゃんのことを、見くびったから?ううん、『浦和ハナコ』がとんでもない存在だってことは知ってた。でも、いつの間にか無害な存在になってた。変数として計算する必要がないくらいに」

 

「……」

 

 ハナコは沈黙を貫く。

 まるでそうなるように仕組んでいた、と言わんばかりに。

 しかしその表情はどこか暗い。

 

「……アズサちゃんが、裏切ったから?ううん、アズサちゃんはただの操り人形。裏切ろうと裏切らなかろうと、私の望む結果には何も関係なかった」

 

「……」

 

 アズサもまた、沈黙を貫く。

 

「……ヒフミちゃんはただの普通の子で、コハルちゃんはただのおバカさんでしょ?変数になるような存在じゃなかった」

 

「それなのに、どうして負けるかなぁ……どこからズレちゃったんだろ」

 

 はあ、とため息をつくミカ。

 そしてその目が、カオリと先生を見据えた。

 

 “……”

 

「……」

 

 

 

「……そういえば、とっても大きい変数があったのを忘れてたね」

 

「月乃カオリ。ビルゲンワースからの転校生……あなたがツルギちゃんを呼ばなければ、まだどうにかなったかもしれない……いや、そんなことないか。どのみち浦和ハナコがいたら、シスターフッドは介入してただろうし」

 

「……」

 

「月乃カオリ……あなたはこの学校で、何をしようとしてるのかな?私にはそれが分からない」

 

「……」

 

 帽子を深く被り、沈黙しているカオリ。

 その雰囲気はミカにはどこか恐ろしく……彼女はこの場で正しい側にいるはずなのに、まるで悪役のように感じられる。

 この世界にいてはいけない、許してはいけない、とミカの本能と()()が囁くのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……そして、シャーレの先生……うん、そうだね。考えてみればきっと、あなたを連れて来た時点で私の負けだった」

 

 はあ……とため息をつくミカ。

 本当に落ち込んでいるとわかる、深い深いため息だった。

 

「ナギちゃんが裏切り者がいるって騒ぐから、仕方ないなぁって、ちょうど良さそうだなって思って『シャーレ』に連絡して……そっか、あの時かぁ……いやー、ダメだな、私……」

 

 どんよりとした雰囲気を纏いつつ、ミカはアリウスにハンドサインを送る。

 既にアリウスは対集団戦用の陣形になりつつあり、補習授業部の包囲は解かれている。

 優先的に倒す対象では無く、シスターフッドと同じ扱いで対処するつもりのようだった。

 

 

 

「ミカさん。セイアちゃんは……」

 

 ハナコがミカへ言葉を投げる。

 

「……本当に、殺すつもりじゃなかったの。今の私が何を言っても言い訳になるけど……多分事故だった。セイアちゃん、元々体弱かったし……それに……」

 

 

 

「……セイアちゃんは無事です」

 

 

 

「……………………!?」

 

 

 

 ハナコから告げられた衝撃の事実に、ミカはその目を大きく見開いた。

 今まで自分のせいで殺したと思っていた相手が、生きていると告げられたのだ。

 その衝撃は計り知れない。

 

 ピタリ、とミカの全挙動が停止した。

 

「ずっと、偽装していたんです。襲撃の犯人が見つからなかったので、安全のためというのもあって……今は、トリニティの()()で身を隠しています」

 

「セイアちゃんが……無事……?」

 

「はい。()()()()()()()まだ目が覚めていないのですが……救護騎士団の団長が、今もすぐそばで守ってくれています」

 

「ミネ団長が……?」

 

「はい。そしてあの時、セイアちゃんを助けてくれたのは……いえ、これは直接ご本人の口からが良いでしょう」

 

 そう、締め括った。

 

 

 

「……そっか、生きてたんだ……良かったぁ」

 

 ミカは力無く腕を下げ、アリウスに銃を下ろすサインをする。

 同時に、ミカはがしゃりと銃を地面に落とした。

 

 ざわつくアリウス生たち。

 しかし、最大戦力であるミカが戦うのをやめれば、この戦力差でどうなるかなど末端の兵士でもわかること。

 徹底抗戦などしても、逃げられる可能性すら皆無だった。

 戸惑いつつも一人、また一人と銃を下げていく。

 

 

 

「……降参。私の負けだよ」

 

 両手を上げるミカ。

 

「おめでとう、補習授業部……月乃カオリ……そして先生。あなたたちの勝ちだよ……もう何でもいいや、私のことも好きにして」

 

 近づいたツルギが、ミカを捕縛する。

 アリウス生たちは四方からシスターフッドに向けられた銃口によって動くことはできず、順番に捕まえられていく。

 

 

 

「……」

 

 それを、複雑そうな顔で見つめるアズサ。

 ミカはそれに気がつくと、少し笑いながらも口を開いた。

 

「……アズサちゃん。自分が何をしてるのか、その結果この先どうなるのか。それは分かってるんだよね?」

 

「もちろん」

 

「……トリニティが、あなたのことを守ってくれると思う?これからずっと追われ続けるよ。ずっと、どこに行っても……あなたが安心して眠れる日は、来るのかな?」

 

「……」

 

 沈黙するアズサ。

 しかし、その目は曇らない。

 

「……それに、サオリから逃げ切れると思う?アリウスの出身ならもちろん知ってるよね、et omnia vanitas……」

 

「……うん、分かってる。それでも私は最後まで足掻いてみせる、最後のその時まで」

 

「……うん、そっか。()()()()()

 

 

 

「……行くぞ」

 

「……うん」

 

 ツルギに連れられ、ゆっくりと歩いて出ていくミカ。

 その背に、先生は声をかけた。

 

 

 

 “……ミカ”

 

 その声に、顔だけ振り向いたミカ。

 

「……今はちょっと、先生からは何も聞きたくないなぁ……やっぱりシャーレを巻き込んだのが、私の最大のミスだった。でも……」

 

 

『“もちろん、ミカの味方でもあるよ”』

 

 

「……あの言葉を聞いた時は本当に、本当に嬉しかったんだ。あの時、もし…………ううん、やっぱり何でもない」

 

 ミカはそれ以上は言うのをやめて、前を向こうとし……

 言い忘れたことを思い出して、最後に一回だけ振り向いた。

 

 

「……ひとつだけ、先生に言っておくね。『月乃カオリに気をつけて』。これだけは、本心だから……じゃあね、先生」

 

 そうして、ミカは朝日の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミカが連れられ、シスターフッドと遅れてやってきた正義実現委員会によってアリウス生たちが捕縛された後。

 

 先生と補習授業部、そして俺はボロボロになった合宿所体育館の外にいた。

 

 

 

「あうぅ……もう色々あり過ぎて、疲労困憊です……」

 

「ようやく落ち着きましたね……」

 

「うん……うわっ!?」

 

 ヒフミとハナコの会話に相槌を打ったコハルだったが……

 歩き出そうとして、ふらつきたたらを踏んだ。

 

 慌ててヒフミがコハルの身体を支える。

 

 

 

「こ、コハルちゃん!?大丈夫ですか!?」

 

「う、うん……ごめん、何だか力が抜けちゃって……あ、ありがと」

 

 恥ずかしそうにしながら、しっかりと姿勢を正すコハル。

 それに微笑みつつ、三人は疲労感をあらわにした。

 

「一晩中走り回りましたし、それも仕方ないですよね……」

 

「それにここ一週間、あまり睡眠もきちんと取れてないですからね。これでようやく……」

 

 

 

「何を言ってるのヒフミ。ここからがスタートだ」

 

 

 

 ほっとした様子のコハル、ハナコ、ヒフミに対し、アズサが声をかけた。

 

「……はい?」

 

「……あー」

 

「?」

 

 何を言われているのか分からないヒフミとコハル。

 何かに思い至ったハナコ。

 そこに、カオリが口を挟む。

 

「……君たち、これから試験ではないのかね?」

 

 言われてハッとする二人。

 

「そ、そうでした!試験が……!」

 

「忘れてた……」

 

 思い出して慌て始める二人をよそに、アズサはもうすでに準備を終えていた。

 

「現在時刻は()()()()()()()。試験会場に急がないと。走ろう」

 

 そう言って、全員を置いて先に走っていってしまった。

 

「えぇっ!?走るんですか!?待ってくださいアズサちゃん速っ!ここから走って着く距離ですか!?」

 

「うーん、かなり余裕はありますけど、アズサちゃんは走っていっちゃいましたし……私たちも走りましょう♡さあヒフミちゃん、コハルちゃん!ファイトです!」

 

 あたふたと混乱するヒフミを置いて、ハナコも走っていってしまった。

 

「うぅ、もう歩くだけでも足痛いのに……待ちなさいよぉ……!」

 

「ど、どうして最後の最後までこんなことにー!?」

 

 ひいひいと言いつつも、走っていく補習授業部の四人。

 そのうち姿が見えなくなって、この場に残されたのはカオリと先生のみとなった。

 

 

 

「行かないのかね、先生?」

 

 “うん、行くよ。カオリは?”

 

「私は……そうさね、試験もないしのんびりと行くことにするよ」

 

 “……そっか”

 

 それっきり、沈黙が二人の間に降りる。

 

 

 

 “……ねえ、カオリ”

 

「……何かね」

 

 

 

 “カオリ、君は………………いや、なんでもない”

 

 

「……くくっ、言いたいことがあれば言えばいいものを……まぁいい。早く行ってやれ、先生。()()()()()の元へ」

 

 

 

 “……うん、そうだね。じゃあ、また後で”

 

「ああ」

 

 そうして先生も去っていく。

 

 

 

 

 

 後に残されたカオリは一人、()()を見つめ。

 

 

 

 キヴォトスの夜明けを、その身に感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




話数はストックがあるので順次放出します
これを含め10本。どうぞお楽しみに……




【挿絵表示】

月乃カオリの立ち絵を描きました
ポーズのみトレス素材を使用させていただいています



夢の月のフローラ
小さな彼ら、そして古い小説の漂い
どうか狩人様を守り、癒してください
あの人を囚えるこの夢が
優しい高評価の先ぶれとなり
……また、懐かしい感想となりますように……
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