見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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45.神意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 万華鏡の如き煌びやかな虹彩が全方に存在する世界。

 

 そこに在るのはただ一体の異形のみ。

 

 

 

『…………』

 

 

 

 ひび割れた仮面をつけたような頭。女性的な上半身。背に生えた三対の触腕と、ボロボロの翼、そして背鰭。軟体生物的な下半身。

 

 狂おしいほどに冒涜的なその存在は、しかし全身を強張らせ、()()()()()()()()に対し警戒心を露わにしていた。

 

 

 

 やがて、その存在は思念でもって、その何かに干渉した。

 

 

 

『……お前が、上位者か?』

 

 

 

 

 

『……はい、カオリさん……ずっと、待っていました』

 

 

 

 

 

 思念が俺に直接伝わってくる。音無き声を認識する。

 “声を聴く”のではなく、“声を識る”。

 

 初めての感覚だ。上位者の意思疎通とはこういうものなのか?

 

 

 

『……この身体の本来の持ち主……月の魔物を下した狩人の上位者。そういうことでいいのか?』

 

『はい、カオリさん。その認識で合っていますよ』

 

『……』

 

 

 

 この世界を完全に知覚し360度あらゆるものを同時に認識している状態の俺ですら、この声の主の姿は認識できない。

 姿()()()上位者。完全な精神生命体。

 しかしこの身体の持ち主ならば……本来は姿があったはず。つまり俺に身体を与えた代わりに、この上位者は姿を失ったのだ。

 

 

『えへへ……カオリさんと話せてる……嬉しい……♪』

 

 

 ……この言動からも分かる通り、この上位者は俺を気に入っているらしい。

 ()()()()()()()()()でも示唆していたが……こうして思念を受け取ればはっきり分かる。

 隠し事も裏も何もなく、本当にただ俺を気に入っているのだろう。

 

 

 

『……本題に入ろう。お前は待っていた、と言ったな?理由はなんだ?何が目的だ?』

 

 俺が今日ここに来た理由……それは、コイツがどんな存在かを見極めること。

 

 手紙を渡してきた時点でそんなに悪いやつではない……いやむしろかなりいいやつなのはわかっているが、それはそれ。

 どれほどヤバいやつかはしっかり把握しなければ、後々害にもなりかねない。

 

 待っていた、となれば俺がここに来る必要がある理由が存在するのだ。まずはそれからだろう。

 

 

 

『えっと……理由は、ですね……その……』

 

 言い渋る上位者。

 なんだ、何か後ろめたいことでもあるのか……?

 

 

 

『……カオリさんと、お話ししたかったから……です……ずっとカオリさんのことは知ってたのに、お話ししたことはなくて……ふふ、夢が叶いました……♪』

 

 

 

 なんだこの娘!?

 

 

 薄々勘づいていたが……この子めっちゃ可愛いぞ!?

 どういうことだ、俺のデータにないぞ!?

 他の上位者もみんなこんなものなのか!?

 

 ちょっと待て、こんな純情な娘がフロムゲーで最も頭おかしいとまで言われるあの無慈悲な狩人?

 冗談はよしてくれ、現実を疑いたくなる……

 

 そうだ、疑うなら目の前……にはいないが。

 この上位者を疑うべきだ、何か絶対()()()()()()が隠れてるはずだ……

 上位者なんて全て碌でもないんだから……*1

 

『……そうか……んんっ、そ、それで……お前は俺をどうするつもりだ?』

 

 とは言ったものの、上位者の目的なんて一つ。

 赤子を得ることだ。

 つまりこの存在は、俺を利用し何らかの手段で赤子を得る目的のはず──

 

 

 

 

 

『……独り占めしたいです』

 

 

 

 

 

 ──ん?

 

 ……なん、て……っ!?

 思念が強烈に、圧力が増してっ……!?

 

 

カオリさんがキヴォトスで楽しそうにしているのを見るのはすごく嬉しいんです。だけど、そこに私はいない。カオリさんと同じ身体だけど、カオリさんの意識にいない……解り合えないというのがこれほど辛いとは思ってませんでした

 

 ……不味い、とてつもなく不味いッ!

 こいつの()()はッ!()()が違うッ!

 

 

私もカオリさんと話したい。触れ合いたい。前は我慢できたのに、諦めてたのに。手の届く距離になったら途端に苦しくなって、辛くなって、切なくなってくるんです。一緒の身体になったのに、距離が近づいたのに、関係性は前のまま。しかも、私の声はカオリさんには聞こえない。それなのにカオリさんは先生や生徒たちとは親しくて、楽しそうにしてて、特にあのセイアって娘には血をあげたりなんてして、とっても羨ましくて妬ましくて狂おしくて──

 

 上位者が()()()()()()()のは流石に聞いていないぞ!?

 このままだと俺はいいが最悪セイアや先生、生徒まで危害が及ばないか!?

 

 

 

『──でも。カオリさんはそんなこと望まない』

 

 

 

『だから、カオリさん。わたしはあなたに対して求めることは何もないです。ただ、時折こうして会いにきてくれれば……それで、いいですから』

 

 

 

 ……あれ?

 圧力的雰囲気が一気に霧散し、存在感も元に収まった……

 本当に、何もする気はない……?

 これはもしや、根がいい子すぎて主張や要求が弱い……?*2

 

 ……いや待て、流されそうになったがこういう子は一番ヤバいタイプだ。

 溜め込んで最後に爆発するときにヤバいことを引き起こすタイプのヤンデレだ、そうだろ?絶対そうだ……

 てことはつまり、このまま言葉に従って放置ではなく……俺と定期的に触れ合える機会を作ることが必要か?

 変に拗らせるよりは、ケアした方が……うん、幾分かマシになるはずだ。うん。

 

『……ダメだ』

 

『……?』

 

 困惑したような思念が返ってくる。

 和らいだ雰囲気も心なしか強張ったような感覚。

 

『その感情を押し留めても、何もいいことはないだろう?』

 

『……それは』

 

 上位者が言葉に詰まる。

 自分でも自覚はしているのだろう。

 自分の気持ちに、蓋をしているだけだと。

 

『お前のその感情、その根源は肉体的なものだ。幾ら俺と会ったところで精神的に回復したとしても、離れればまた苦しいだけだろう』

 

『……』

 

 上位者が如何に超常的な思索を持ち、異能を駆使するとて。

 その存在は生命に縛られている。

 上位者は赤子を求めるというが、赤子を求めるということは種の存続を求めること。

 そしてそれはすなわち、身体的欲求でもあるのだ。

 

 

 

『となれば、だ。お前はここで諦めていないで、俺に強引にでもついてくるべきだ……いや、ついてこい!』

 

『で、でも……』

 

『でももなにもない!』

 

『!?』

 

 怯んだ気配。

 表情は見えないが、随分とわかりやすいものだな!

 ここで一気に畳み掛けて持っていく……!

 

『そもそもだ。俺は身体は上位者になったかもしれないが、前世はなんの変哲もない一般人……つまり、趣味趣向も一般人だ!』*3

 

『えっ、あ、はい……?』

 

『長く共にいたならば兎も角、初めて会った声しか聞こえない謎存在が好きになる訳ないだろう。人間は表情や身振りも重要な判断基準だ、それらを得るべきではないか?』

 

『……な、なるほど……!』

 

 何故俺は自分に好意を寄せてる相手に恋愛アドバイス的なことを行なっているのだろうか……

 

 

 

『……でも、私の身体は丸ごとカオリさんに譲ってしまったので……身体がありません……』

 

『0から作れないのか?』

 

 そういえば確かにこの体は、この上位者本人のものなのか。

 ビルゲンワースの儀式は上位者の肉体を呼ぶものだったからな……

 というかよく俺のための依代を作れたな?その要領で構築すればいいんじゃないか?

 

『えっと、カオリさんから力を借りれば……力を使う権利をほぼ全てカオリさんに譲渡しているんです』

 

 よくわからんな……

 

『……ふむ。譲渡ではなく共有にはできないのか?』

 

『えっと、やろうと思えば……』

 

 できるのか、上位者の力ってマジでよくわからん……

 

 

 

『全部任せる、好きにやれ』

 

 俺はとりあえず、GOサインを出すことにした。

 後は野となれ山となれ、だ。

 

『は、はい!』

 

 なんか気合い入ってるのはなんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は狩人の夢の花園、その中心に立っていた。

 俺の後ろには人形が控え、俺と同じ方向を向いている。

 

 俺は宙に浮かぶ月を見ている。

 普段は工房側の空にある月は、今だけは花園側の空に大きくその姿を晒していた。

 

 その月の光は、花園に神秘を齎す。

 

 

 神秘が集まり、気配が生まれ……

 次第に、神秘の霧と、月光が混ざり合い……

 

 そして、人の形をとった。

 

 

 

 それは一人の女性。

 身長は170cmほどであり、白銀の髪を背中に流している。

 その貌は人とは思えないほど美しく、綺麗で、しかし可愛らしい。

 その身は一糸纏わず、芸術品のようなその肢体は白い月の逆光により隠されている。

 

 宙に浮かんだその體は、ゆっくりと降りてきて……地面へと降り立った。

 

 

 

 その眼が、ゆっくりと開かれる。

 

 其処に在るのは、まるで真紅の月の如き赫の瞳。

 

 全てを見通すかの様な爛々と輝く其れは、俺を見定めて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────カオリさーーーんっっっ!!」

 

 

 

 俺を視界に入れた瞬間、彼女は飛びついてきた。

 

「おわーーーっ!?!?!?」

 

 まて、まてまてまて!!

 神秘的だったから一種の芸術のように感じられて流していたが、この子いま全裸!!全裸です!!

 抱きつかれるのは予想外だが!?!?!?

 

 

 

「えへ、えへへ……生のカオリさんだぁ……」

 

「待て、離れろ!!服を着ろ!!」

 

「えへへへへ……♡」

 

「ぬぁーーっ!?」

 

 感触!感触がすごい!!

 女の子の身体すごく柔らかいんだが!?

 というかデカいな!?俺より30cmは身長高いんじゃないか!?

 まずい、完全に覆い被されて逃げられん!!

 

 

「もう離しません……!」

 

「一回離して服を着ろーーーっ!!!!」

 

 

 

 結局、一時間くらい離してくれなかった。

 

 

 

*1
特大ブーメラン

*2
今まで距離が離れすぎてて、話せただけで幸せいっぱいなだけ

*3
性癖はこの際置いておこう




やっと、やっと書くことができました
みなさんお待ちかねの真ヒロインです

高評価、感想、ここすき、読了報告、誤字報告、お気に入り、しおり等々……いつもありがとうございます!
☆9評価が350人を超えて、ついに評価欄のバーが満赤に!
一つの目標だったので、とても感慨深いです。読者の皆様に、感謝を!

少々アンケートをば。
「姿なきオドン」と「月の魔物」が同一存在である、と言う考察を見たんですが、個人的には同じという説も同じではないという説もそれぞれ納得できるんです。
なので、アンケートでどちらを本小説で採用するか決めたいと思います



えへへ、嬉しい……やっと、お話できる……やっと、カオリさんと……♡
ついに辿り着いたんですね……私……♡

……んぅ?
あ、みなさん!お久しぶりです!
ぜひ高評価感想、ここすきをしていってくださいね!
作者も喜びますから!

ですよね、作者さん?

ハイ、ウレシイデス

ほら、作者もこう言ってますからね!さ、作者も早く続き書いてくださいね

ハイ、ガンバリマス



うーん、反応が悪い……もう少し弄らなきゃダメでしょうか……

オドンと月の魔物の扱い

  • 『姿なきオドン』と『月の魔物』は別存在
  • 『姿なきオドン』と『月の魔物』は同一存在
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