見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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52.ヤーナム市街、狩りの始まり

 

 

 

 私は狩人の夢を歩いていた。

 

 洋館に続く階段には使者たちが居て、私に対して手招きしている。

 素直に使者の元へ行けば、地面から何かを取り出して、差し出してきた。

 

 

ヴァァァァァ……

 

 

 使者が差し出したのは、刃のついた杖と、旧式の大型拳銃──

 

──『仕込み杖』と『獣狩りの短銃』。

 

 名前が頭に浮かぶと同時に、それを受け取る。

 

 装備して試してみれば、不思議と使い慣れた感覚だ。

 軽く振ってみても何の違和感もなく、身体が動きを()()()()()かのように自由に振ることができる。

 杖を変形させれば、いつか本で見たことがあるようなファンタジーな武器……蛇腹剣のような、刃のついた鞭へと変化する。

 

「……ふむ、手に馴染むね」

 

 振ってみても、鞭が自身に当たることはなく、まるで使い込んだかのように振ることができる。

 変幻自在とまではいかないが、少なくとも素人ではここまで上手くいかないのは、流石にわかった。

 

 

 

 短銃も確認する。

 銃撃を片手で行えるとは、私の筋力も随分と上がったものだ……射撃も正確で、この身体のスペックにはつくづく驚かされる。

 フリントロック式の拳銃である『獣狩りの短銃』は扱いが難しい……筈だが、難なくリロードやコッキングを片手で素早く行える。

 ……中折れ式の拳銃にどうやって片手で弾を込めているのだろうか。

 

 弾はカオリが貸してくれたという、水銀弾というもの。

 柔らかい水銀に血を混ぜ合わせられたこれは、水銀が触媒になり神秘的な力で弾丸の形に成形されている。

 予備の水銀はたくさんある為、自身の血と混ぜ合わせればいくらでも銃弾が作れるらしい。

 

 液体が弾丸となっているために、今にも零れ落ちそうなのだが……

 何故か銃や弾薬ポーチ、指などに張り付いたりすることはなく、撃って着弾した時のみ相手に炸裂するらしい。

 

(キヴォトスでも見ることのない超常現象の一端をこんなところで見ることになるとはね……こんな異常な場所で生き残れば、強くなるのも当然、と言ったところか)

 

 

 

 武器の確認を終わらせてふと洋館の中を覗き見れば、そこには車椅子に乗った老人がいた。

 

「……」

 

 見知らぬ老人。片脚は義足であり、草臥れた世捨て人のような雰囲気を持っているが……生気を全く感じない。

 

(死人か、もしくは……本物の人形みたいだ)

 

 おそらくカオリがチュートリアルのためにでも用意した存在なのだろう、彼女は狩人の夢の中ならば神と言っても良いほどの力を持つ。

 

(……にしても、同じ創造物である筈の人形とこうも感じ方が違うのは何故なんだろうか。人形はまるで生きた人間のように感じるのに、あの老人は機械と言われても納得してしまいそうだよ)

 

 

 

「やあ、君が新しい狩人かね。ようこそ、狩人の夢に。ただ一時とて、ここが君の『家』になる……」

 

「ふむ、改めて言われるとむず痒いものがあるね」

 

 もう既に、私は一月ほどはここで生活している。

 改めての歓迎の言葉を今まで一度も出て来なかった老人に言われるというのは、非常に違和感があるものだ。


「私は……ゲールマン。君たち狩人の、助言者だ。今は何も分からないだろうが、難しく考えることはない」

 

 狩人の助言者、ということは恐らく最低限のアドバイス程度はしてくれるのだろうか。

 その役割を担っているのは人形の筈だから、わざわざ彼に聞く必要があるかはわからないが……

 

「君は、ただ、獣を狩ればよい。それが、結局は君の目的にかなう……狩人とはそういうものだよ。直に慣れる……」

 

「ふむ。やはりそういうものなんだね」


 最初に脳裏に過った『獣狩り』の単語は、やはりヤーナムにおいて正しい行動を指し示していたらしい。

 

 まるで()()()()()()()()()()()()()()のようだったが……


「この場所は、元々狩人の隠れ家だった……血によって、狩人の武器と、肉体を変質させる。狩人の業の工房だよ。もっとも、今は君に扱える幾つかの器具は封じられているがね……残っているものは、すべて自由に使うとよい」

 

 そう言って、ゲールマンは沈黙した。

 

「狩人の工房、か……」

 

 

 

 その後、狩人としての基本的な技術を人形と使者たちに教えてもらい、幾らか修練した。

 ある程度仕込み杖や銃を扱えると言ってもそれは素人目に映るものであり、生死をかけた戦いをするならばもっと慣れる、もしくは色々な戦いの作法を知っておきたかった。

 

(狩人の業は凄いものだけど、今までの私の身体スペックと差が開きすぎているね……感覚が身体能力についていかない)

 

 なんとか基礎的な武器の振りとステップなどの一通りの動きを思い通りに出来るようになった頃、『F()a()t()h()e()r() G()a()s()c()o()i()g()n()e()』の墓石に手を触れ、ヤーナム市街に戻った。

 

 

 

 目覚めて最初に聞こえてくるのはゴホゴホと苦しそうに咳き込む男性の声。

 目の前の民家で咳込む彼に声をかける。

 

「……やぁ、大丈夫かい?」

 

『ごほっごほっごほっ……あぁ、獣狩りの方……ですね……?』

 

「……ああ」

 

 聞こえてきたのは若い男性の声、本当に生きているまともな人間の男性の声を聞くのは初めてのことだ。

 

『そして、私に声をかけるとは……あなたは外から来た人のようです』

 

「そうだね」

 

 この街の住民は彼の心配すらしないのか、と思ったが……

 こんな街だからこそ、病人に話しかける人間もいないだろう。

 

『若い少女が狩人とは……世も末といったところでしょうか……』

 

「……そこはあまりは気にしないでくれ」

 

『ええ、あなたがそう言うのなら。遅れましたが自己紹介しましょう。私はギルバート……元はあなたと同じヤーナムの外の人間です。私は床に伏せり、もう立つこともままなりませんが、それでもお役に立てることがあれば、言ってください……ごほっ、ごほっ、ごほっ』

 

 ギルバートと名乗ったその男性は、この街のことを少なからず知っているらしい。

 素直に先人の知恵にあやかることにした。

 

 

 

「……青ざめた血、というものを知っているかい?」

 

 セイアは、診療所にあったメモの内容を尋ねる。

 

『「青ざめた血」、ですか?うーん…すみませんが、聞いたことはありません……けれど、それが特別な血であれば、訪ねるべきは医療教会でしょう。医療教会は、血の医療と、その特別な血の知識を独占していますからね』

 

「ふむ……」

 

 医療教会。

 おそらくこの街の医療機関……いや、教会と名のつくことから宗教関係の組織でもあるのだろう。

 古来より、教会が医療を牛耳るというのも珍しい話ではない。

 キヴォトスでセイアの所属しているトリニティ総合学園にだって、『救護騎士団』という医療組織があるのだ。

 神の元に患者を治療する、よくある話ではないか。

 


『ここ、ヤーナムの市街から谷を挟んだ東側に、聖堂街と呼ばれる医療教会の街があります。そして、聖堂街の最深部には古い大聖堂があり……そこに、医療教会の血の源があるという…噂です……ごほっ、ごほっ、ごほっ』

 

「……大丈夫かい?」

 

 あまりに苦しそうに咳をするため、心配でつい遮ってしまった。

 一体何の病なのだろうか、肺炎か、風邪を拗らせたのか……

 できるだけ安静にしておいてもらいたいね。

 

『ええ……なんとか。ヤーナムの街は、よそ者に何も明かしません。常であれば、あなたが近づくことも叶わないでしょうが……獣狩りの夜です。むしろ、好機なのかもしれませんよ……』

 

「ああ、わかったよ」

 

 聞きたいことは終わった。

 ギルバートに振れる話題も今の所ないし、これ以上話し続けるのは彼にとっても辛いだろう。

 ギルバートに別れを告げた私は、民家を離れ市街を進んでいった。

 

 

 

(……思考が噛み合わない)

 

 道を進む中、今まで感じていた違和感について少し考える。

 何か、頭の中で自分が二人いるような感覚だ。

 

(……)

 

 ……

 

(……理路整然と考えているのも、こうしてひとりごちているのも、同じ私の筈だが……)

 

 そう考えるが、答えはまだ出ない。

 苦心しつつも獣を狩りながら、セイアは通りへと出た。

 

 何人もの市民たちが何処かへ歩いていくのを尻目に、セイアは道の奥にあった閉じていた門を開く。

  通じていたのは、最初に目を覚ました診療所の前の通りだった。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

(……まただ)

 

 何か違和感を覚えるが、分からないものは仕方ない。

 私は上手く言い表せない感覚を抱えつつ、診療所へ繋がる道を進む。

 

 以前倒したはずの男が普通に歩いていたのには驚いたが……

 人形から、『目覚め直し』という概念を聞いていた為、なんとか混乱せず冷静に対処できた。

 同じ人間を倒しても、頭の中の声が大きくならなかったのは何故だろうか?

 しかし、何かを得た感覚はする。

 

 

 

 

 診療所に戻ってみれば扉は締め切られており、中に入る事ができない代わりに女医がいた。

 

『…あなた、どなた?獣狩りの方、かしら?だとしたらごめんなさい。この扉を開けることはできないわ』

 

「ふむ……」

 

 当然のことだろう。

 私が目覚めた後の一階の病室には既に獣が侵入し、患者たちの死体が喰い荒されていたのだから。

 おそらくこの診療所の本来の医師であるこの女医が、外から入る者を警戒するのも無理はない。

 ただでさえ、私はカオリを使い不法侵入した身……彼女との面識も当然ないのだから、何かを求めるのも筋違いというものだ。

 

『私はヨセフカ。この診療所をあずかる者として、大事な患者さん達を、感染の危険にさらすことはできないの。だから、街のために狩りに出る、あなたには申し訳ないのだけど……』

 

「いや、構わないよ。感染対策は大事だからね」

 

『……ありがとう。今、私にできることはこれくらい。きっとあなたの役に立つはずよ』

 

 そういってヨセフカが扉越しに渡してきたのは、普通の輸血液よりも濃い血の匂いのする輸血液。

 

「これは?」

 

『それは、【ヨセフカの輸血液】。私の独自の製法で作ったもので、通常の輸血液よりも効果が高いわ』

 

「……ありがたくいただくよ」

 

 自分の名前をつけるセンスはどうなのか……特許でも取っているのだろうか?

 怪しいが、誰のものかわからない血を使っている時点でこの輸血液も他の輸血液も同じようなものだ。

 

『では、これで……少女の獣狩りの方。狩りの成就を、祈っています』

 

 

 

 通りへと戻ってきた私は、横道を探索しつつ街の奥に進んでいった。

 

 大きな斧を持った、ずんぐりとした男には苦戦したが……相手が振りかぶった瞬間に距離をとって銃撃をした際、人形が教えてくれた『銃パリィ』を成功させることができたおかげで、『内臓攻撃』で倒すことができた。

 

 道中での不意打ちも、音と臭いを頼りに全て凌いだ。

 途中で死体にあった血の結晶の欠片のようなものの正体はわからないが……直感的に役立つと思い、拾っておいた。

 ポケットやポーチの中は悲惨なことになっているだろうね。

 何が嬉しくて血の結晶やよくわからない死血、輸血液、水銀を入れておかなければいけないのか……

 

 狩人になってから、懐に許容量以上の物をしまう技を覚えたけれど、一体これらはどこへ行っているんだろうか。

 使いたいと思って懐へ手を入れれば、望んだものが出てくる……本当に、不思議なことだ。

 

 

 

 

 

 そうしてしばらく進んでみえてきたのは、何やら大勢の市民が集まっている広場。

 大橋が上にあり、こちらを一望できるようになっていた。

 

(……あれが大橋……でも、登ることのできる場所が見当たらないね。もう少し進むしかないか)

 

 大橋をくぐるように大通りは続いているが、大扉で閉ざされている。

 何やら向こう側からダンダンと戸を叩く音がするが、怪物の隔離でもしているのだろうか?

 そしておそらくこの大扉の先に、大橋に登る階段や梯子なんかが設置されているのだろうと予想できた。

 通りの左右には細い通路が続き、1箇所だけ大橋の向こう側へ行けそうな場所がある。

 

 市民たちの……広場の中央では、何やら大きな獣が磔にされ、燃やされている。

 よく見ればそれは、私が最初に殺した、あの黒い獣と同じ種の生物のようだった。

 

「あー……あー……」

「うぅ……うぅ……」

「ディスタウンイズ……ドーンフォー……」

「カースド……ウィアオールカースド……」

 

 呻き声や嘆きの声、呪詛を吐きながら獣を見つめている集団。

 何人かは少し高くなった通路の上や馬車の上に陣取っており、ここを突破するのは非常に難しいと思われた。

 

(誘い出すか……そのためにも、他より高い位置にいる男が邪魔だね)

 

 高台となっている通路にいた男の側まで静かに近寄る。

 幸い他の市民達からは見えない位置のようで、無事に気が付かれずに背面まで回り込むことができた。

 背後から高台の男に溜め攻撃を行って誰にも悟られず心臓を一突きにして仕留めた。

 

 肉を貫く感覚、内臓が破裂する感覚が直に手に伝わってくる。

 

(うっ……)

 

 気持ち悪くなるが、なんとかそれを堪えて飲み込む。

 慣れなければ、生き残れない。

 

 

 

(……ふぅ……さて……)

 

 周囲を見れば、他の市民たちからはこの高台は上手く視線が切れているらしい。

 改めて市民達を見てみれば、ライフル持ちの市民も何人か見つける事ができた……が、この高台は射線が切れている。

 

(迂闊に突貫すれば、銃で撃たれて怯んだところを袋叩きだろうね。それなら、ここにおびき寄せたほうがいいか)

 

 そう結論づけ、おもむろに私は市民達に姿が見えるよう身を晒した。

 

「私はここにいる!お前達、来るなら来い!!」

 

 普段やらないような言葉遣いを使い、語気を強めてそう大声で叫べば、市民達は一斉に反応した。

 

「ルックザット!!」

「カースドビースト!!」

「ウィアキルハー!」

 

 走り寄ってくる男たちに対して、私は立ち回りに気をつけながら、変形させて鞭状になった仕込み杖でまとめて打ち払う。

 

「ふっ!」

 

「ギッ!?」

「アギャッ!」

「ゴアッ!」

 

 なんども、なんどもなんどもなんども……

 腕を振れば肉を裂く感触が手に残り、飛び散る血液が私を赤く染め、その臭いが私を酔わせる。

 

 

 

 しばらくして、立っていたのは私だけになっていた。

 攻撃に当たらないよう徹底して立ち回りに気をつけながら戦ったために、傷ひとつない。

 残ったライフル持ちを1人ずつ始末し、落ちていたものの中から使えそうなものを拾った。

 

(帰ったら手癖が悪くなっていそうだね)

 

 そんなことを考えつつ、大橋に入る道を探すために先へと進んだ。

 

 

 

 

 

「オォォォ……」

 

ダンダン、ダンダンダンダン……

 

 大橋を潜り抜けた先は、大通りの行き止まりになる広場があった。

 中央には噴水があり、広場の周りを囲うように民家が広がっている。

 広場の端は大橋に接続するためか段々と高台になるよう設計され、階段が設置されていた。

 

 そして、大男が大橋直下の大扉を叩いている。

 ずんぐりと、熊のような巨躯を持つその大男は、煉瓦を手に持ち戸を殴りつけていた。

 

(手に持っている瓦礫で殴られれば、普通に死ぬだろうね)

 

 そう思いつつ、後ろへと近寄っていった。

 

 

 

 ()の隠密能力は非常に高い。

 しゃがんで姿を隠したり、足音を殺して忍び足で歩けば大概の獣には見つからないだろう。

 

 ……そもそも普通の狩人はこっそり近づく、という行為が何故か『ゆっくり歩く』であり、それでも多くの敵は背後から近づけば気がつかないことが多い。

 ましてや()のようにしっかりと見つからないよう意識した行動を取れば、見つからないのも当然である。

 

 鼻の良い“本物の”獣か、または完全に変貌を遂げていたならば嗅ぎ分けられただろう。

 しかしそれをできない存在は、背後からこっそりと接近する()に気がつくのは事実上不可能なのだった。

 

 

 

 大男の背後まで近づき仕込み杖の溜め攻撃を背中に叩き込んだ後、内臓攻撃を行う。

 流石にタフだったのか1度では死ぬことはなかったが、杖でその後何度か攻撃すれば倒すことができた。

 

「……ふぅ。おや、これは……?」

 

 大男を倒して一息ついた私は、足元に1本の棒を見つけた。

 

「……松明?」

 

 拾い上げてみれば、それは紛れもない松明。先ほどのヤーナム市民達もちらほらと手に持っていたものだ。

 彼らのものはすでに使われて燃料となるものが尽きかけていたが、この松明はまだ新しい。

 どこかで役立つこともあるだろう、と仕舞い込む。

 

 

 

テン テテーン テーン テン テテーン……♪

 

 

 

 何やらオルゴールの聞こえてくる民家の前を通り過ぎると、そこには複数の犬が。

 

 

バウバウバウ!!バウバウバウバウ!!

 

 

「っ!」

 

 見つかった瞬間に吠えられ、瞬時に敵だと判断する。

 そしてまだ距離があったため、即座に銃撃で対処した。

 

 

ギャオン!?

 

 

 銃弾を受けた犬は、意外にも大きく体勢を崩し倒れた。

 私はその隙を逃さず止めを刺す。

 なるほど、犬には銃撃が効くのか……

 

「……獣はどう動くかわからないからね……安全に倒していこう」

 

 その後現れた犬と市民のグループも難なく突破し、私は大橋へと続く階段を登っていった。

 

 

 

 大橋。

 おそらくヤーナムの玄関口であるこの橋は、街の入り口が馬車で塞がれて見えなくなっており、橋の道中でも何台か馬車が横転していた。

 

「……あれは」

 

 横転している馬車が邪魔だが、見える限りでは診療所にいた黒い獣が二体闊歩し、その奥には大男も見える。

 

「……なかなか難しそうだね」

 

 ふと目を逸らしてみれば、大橋の途中に建物が接続している。

 戸は人間一人分の狭さであり、黒い獣はギリギリ通り抜けられなさそうだ。

 

「……一度あの建物の中に逃げ込めば、この獣達は入ってこられないはずだ」

 

 ふと別の方向を見れば、大橋からまた別の場所へと繋がっている道が。

 

「あっちの道も気になるが……今は、大橋の先へ行くことが先決だね」

 

 そういうと一度深呼吸をし、タイミングを見計らって問題なさそうだと確認した私は、一気に走り出した。

 

ゴア!

 

ガァ!!

 

 2匹の獣が襲いかかってくるが、ステップでなんとか躱し建物の前に来る。

 

「これなら──」

 

 

 

 

 

「ビースト!ユーフォルビースト‼︎」

 

 

 

 

 

「──なにっ!?」

 

 急いで建物に入ろうと曲がった先にいたのは、剣を持った市民。

 走っていた私には、臭いや音で気がつく暇も、余裕もなかった。

 

 

ザシュッ!

 

 

「ぐっ!?」

 

 振られた刃に左腕を切り裂かれる。

 が、私はそれに構うことなく建物内に転がりこみ、なんとか逃げ出そうとするが……

 

「ユープラグリデンラット!!」

 

ブォン!ザシュッ!

 

「なっ!?ぐうっ!?」

 

 建物の中は電気がついておらず、真っ暗闇。

 その暗闇の中にも市民がいたのか、声が聞こえた瞬間ザシュリとまたもや左腕を切りつけられる。

 

「くっ……!」

 

 どうやら二階建てのようで、偶然近くにあった階段を転がり落ちて敵の追撃を退ける。

 しかし転がり落ちた先に見えたのは、待ち構えるように剣を構えた3人目の市民だった。

 

「アイルメスアップユアブレイン!!」

 

「っっ!!」

 

 凄まじい勢いで振られた剣をセイアは間一髪で前に転がり避け、1階のドアから転がり出た。

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

 建物から出た先の路地には、ゴホゴホと咳の聞こえるあの民家が路地の石造りの階段を登ったところの閉鎖された門の先にあった。

 灯りのある場所まで逃げれば、ある程度は広い場所で戦えるはず。

 しかし、その階段の踊り場にも市民が待ち構えていた。

 

「ヘルプミー!モーゴット!!」

 

「っは!」

 

 叫びながら武器を振りかぶった敵に対し、私は咄嗟に銃撃を放ちパリィを取った。

 姿勢を大きく崩す市民に攻撃を加えたいところだが、後ろから3人の足跡……先ほどのヤーナム市民達のもの……が聞こえる。

 

「ぐぅ……っ!」

 

 痛む左腕を押さえて庇いながら、階段を駆け上がり門を開ける。

 

ギィィィィィ……!

 

「キルユー!!」

「ユアザビースト!!」

 

 どんどんと走り寄ってくる市民たちの足音。

 

「早くっ……開けっ……!」

 

 

ガシャアァン!

 

 

 ある程度動かした門は、錆びついていた部分を過ぎたのか勢いよく開く。

 なんとか門を開け民家前の広場に出たセイアは、振り向き仕込み杖を振るった。

 

「ゴアッ!?」

 

 うまい具合に首元に吸い込まれ、先頭にいた男が体勢を崩した。後続の市民たちは、先頭の男が体勢を崩したことで走っていたのを邪魔される。

 その一瞬で仕込み杖を変形させ鞭状にした()()()は、安全な距離を保ちつつ追ってきていた四人をズタズタに引き裂いていった。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

『……大丈夫ですか?』

 

 ギルバートの家の近くの地面に座り込み、荒く息を吐く。

 ギルバートは今の一連の流れを聞いていたのか、心配そうな声でこちらに語りかけてくる。

 

「ああ、問題ないさ……」

 

 袖をまくり、傷を確認する。

 大きな裂傷ではなく、浅い切り傷だった。

 切り付けられたのが剣だったからか、2箇所とも広い範囲にはなっているが、酷い怪我ではなかった。

 思ったよりも傷が深くなかったことを安堵しつつ、同時にこの後のことを考えげんなりとする。

 

「……輸血液を使う時が来たね」

 

 スッと懐から出したのは、赤い血の入った注射器。太ももにぶすりと刺し、中身を一気に取り入れる。

 

「……これは……」

 

 身体に血を取り込んだ瞬間、身体中が満たされ、傷が塞がっていく感覚。

 腕を見れば、先ほどの切り傷はもうなくなっていて、元の柔肌に戻っていた。

 

「……これが、血の医療」

 

 改めて凄さと悍ましさを感じるが、その感情を飲み込む。

 これに頼らざるを得ない、のではない。

 

(私が選択した道だ)

 

 今更泣き言を言うつもりはなかった。

 

 

 

「……ギルバート」

 

『はい、なんでしょうか……?』

 

「なんで私はここに戻ってきているんだい?」

 

 私がギルバートに聞いたのは至極当然の問題。

 ヤーナム市街の奥に進んでいたのに、気がつけば元の場所に戻ってきていた。

 一周してきたにせよ、街の奥の方まで進んでいたはずなのだが……

 

『ふむ……ここ、ヤーナムは非常に複雑な街です。恐らくあなたは大通りを進んでいったのでしょうが、気がつけば小道に迷いこんでこちらに来ていたのでしょう』

 

「……なるほど。大通りから大橋に辿り着いたが、その後逃げ込んだ道はここにつながる小道だった、と」

 

 大橋から転がり込んだ建物の1階は、小道につながっていたということを理解する。

 そういえば大通りは道が曲がっていた、弧を描くように街が作られているなら最終的に戻ってきてしまうのもさもありなんといったところか。

 このような迷いやすい街なのをもっと意識していかねばならない。

 

『ヤーナムは南北に広がる街で、それを分断するように聖堂街から街の外へと繋がる大橋がかかっています。谷を挟んだ東側に聖堂街が、北側に市街地とヨセフカ医師の診療所が、そして大橋を挟んで南側に……いえ、これは関係ないですね。ともかく、そのような作りになっています』

 

「ふむ……大通りは確かに大橋の下にあった。ということは大通りは街に物資を行き渡らせる為の場所の通り道かな」

 

『いえ、あの大通りはヨセフカ医師の診療所に患者を運ぶ為のものだった筈です。あの診療所はこの街ができた時に最初に作られたものらしく、医療教会の名のもとに独自に診療所を持つことを唯一許されたほど、彼女の腕前は優れていますからね』

 

「ほう……それほどなのか」

 

 確かに自身で独自製造の輸血液を作っていたが、それが許されるほどの腕前ならさもありなん。

 この街にある教会には『医療』の名がつく通り、恐らく医療に関する権威は唯一と言っていいほどのもののはずだが……宗教系のものでもあろうそれに独立を許されるとは、彼女の実力は相当だったらしい。

 

 

 

「ありがとう、ギルバート」

 

『いえ……お役に立てたのなら幸いです』

 

 改めて先ほどまでのことを振り返ろう。

 一瞬の油断が、常に命の危機となっている……

 疲れも溜まっている、またすぐに戻って探索を再開するのは危険だろう。

 

 

 

「……ここで少し休憩するよ。まだ私もここには来たばかりだから……慣れていないんだ」

 

『でしたら、私が話し相手になりましょう』

 

「助かるよ、ギルバート」

 

 

 ヤーナム市街攻略はまだ始まったばかりだ。

 焦らずしっかりとやっていかなければならないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の何処かで何かが蠢く。

 少しずつ歯車が重なり、噛み合っていく。

 

 

 

 

 




長々書いてて申し訳ないです
次話からは少しずつまたいつもの文字数に戻る予定です
セイア編につき重版!とでも思っていただければ……

街の構造はギルバートのセリフからの推察です
でも大通りがヨセフカの診療所へ行く為の物である、というのや街が作られる時に〜うんぬんは独自解釈です

それにしても怪しいなぁ、一体何でだろうなぁ

セイアちゃん、原作実装後の健康体でもしっかり両手で狙って拳銃を撃っていたことを考えると、片手で短銃を正確に撃てるのしったら相当びっくりしてると思いますよ。
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