狩人の夢へと戻ってきた私は、人形と話していた。
私は水盆近くに置かれた鏡の前の椅子に座り、人形はその側に置かれた椅子に座っている。
「そうだ、人形」
「はい、セイア様。なんでしょうか」
会話の途中、ふとあることを思い出して私は人形に声をかけた。
「聖職者の獣を倒した時に拾ったんだが、これが何かわかるかい?」
懐から取り出したのは、剣の柄のような形状をしたバッヂ。(もしくはバッジ)
頭に浮かんだ名称は『剣の狩人証』。
正確には拾ったわけではないのだが、まぁ同じようなものだろう。
(にしてもなぜ私の頭に名称が浮かぶのだろうか。ヤーナムに来てから、知らない知識を勝手に知ってしまう不思議な状態が続いてしまっているね……今の所は助かっているが、そのうち実害が出るのも困るのだが……)
(……それはさておき)、狩人証とはなんなのだろうか。
「それは、狩人証……かつて、医療教会の工房が発行したものです。もう工房は存在していませんが……水盆の使者たちは、それに意味を見出すようです」
「ふむ……」
スッと視線をズラし、水盆を見れば、そこには三人の使者が。
ヴァァ……ヴァァ……
ふりふりとこちらに手を振ってくれる使者たちに手を振り返しておく。
「なるほど。狩人証を集めれば、使者たちから何か貰える……いや、買うことができる、ということかな?許可証のようなもの、というわけだね」
「はい、セイア様」
なるほど、品揃えが増えるというわけだ。
使者たちはこの夢で血の遺志を対価に店を開いているらしい。
そういうわけで、少し買い物をすることにした。
どうやら頭の中でこちらに囁いてくる血の遺志を消費することで、物を買うことができるらしい。
「……血の遺志を消費したら、この遺志の声は無くなるのかい?」
「いいえ、セイア様。血の遺志の核となる遺志は、既にセイア様の中にあります。声が聞こえなくなることはありません」
「……ふむ?だとしたら、どうやって血の遺志を消費するんだい?」
「血の遺志は、『遺志』とその周りをコーティングする『血の遺志』で構成されています……」
「……」
「『遺志』は、声。彼らの最期の願望。セイア様に託した願いです」
「……ふむ」
頭の中で囁く声、それは遺志だという。
(そんなものが頭の中で常に聴こえていれば、
……聞いていて心地いいものではないが、私はそれを背負うと決めたのだ。
とやかくいうつもりもない。
「『血の遺志』とは、それらの持つありあまる力。強い力を持った存在は、それだけ願いそのものにも力がつくのです」
「……なるほど。『遺志』についた余分な物を削ぎ落とし、それを扱う……そういうことだね」
「はい、セイア様。水盆の彼らが、遺志を物とし。私が、普く遺志をセイア様の力といたしましょう」
「……カオリも、血の遺志を取り込めば肉体が強くなると言っていたが……そういうことだったか」
どうやら人形も血の遺志を扱うことができるらしい。
技量を磨くには実践しかないが、肉体は血の遺志を取り込むことで人の域をも越えるという。
……物語の中では意思は力、などというものだが、本当に力になる思念もあるというのは不思議なものだね。
水盆に行くと、早速使者の内の一人が白い布でできたバッヂを持ち上げ主張してきた。
『狩長の証』という名称が頭に浮かんでくる。
なんとなくどこかで必要になるものだろうと感じたため、とりあえず購入。
続いて使者たちのおすすめしてきた『携帯ランタン』を購入。
その後も買い物を進めようとすると、一人の使者が大きな石鎚の武器を勧めてきた。
『教会の石鎚』という名称のそれを見るが……
「……すまない、流石にそれは持てない……」
……ヴァァァァ…
どう考えても筋力が足りないためそれを持つことは流石にできない。
私は使者が悲しそうに石鎚をしまうのを見守るしかなかった。
その後、追加で『ヤーナムの狩帽子』、『ヤーナムの狩装束』、『ヤーナムの狩手袋』、『ヤーナムの狩ズボン』も購入。
これまでは『黒いフード』、『異邦の服』、『汚れた包帯』、『異邦のズボン』という、防御力皆無の普段着のようなものを着ていたのだ。これで、少しはまともな狩人の装備が整ったというところだろう。
その後は人形に教わりながら、武器の強化。
工房内に入り、人形に教わりながら作業をする。
四つ持っていた『血石の欠片』……血の結晶を使い、仕込み杖を『仕込み杖+2』に強化した。
軽く素振りすれば、空気を裂く音が聞こえ、その鋭さがよく分かる。
「……使いやすいね」
ポツリとこぼす。
「武器は強化するにつれ、切れ味が鋭くなると共に使い手に馴染みます」
人形が補足してくれた。
「……なるほど」
そして最後に、血の遺志を取り込むことで自身の肉体を強化した。
「頼むよ、人形」
「わかりました、セイア様。少し近づきます。目を閉じていてくださいね」
そう言われ目を閉じる。
人形が跪く布擦れの音がしたかと思えば、瞼の裏に文字が浮かび上がってきた。
レベル :20
体力 : 9
持久力 :14
筋力 : 9
技術 :13
血質 : 6
神秘 :19
事前にカオリに言われていた事を思い出す。
……
…………
『セイア。ヤーナムへ行けば、いずれ君も血の遺志を取り込み力とすることになる』
『血の遺志?』
『ヤーナムへ行けば自ずとわかる。血の遺志を得たら人形に聞くといい……それよりも、だ』
『……?』
『君が血の遺志を取り込み力にする時は、まず持久力から高めるといい。持久力は最低限なければ話にならないからだ』
『……そうだね』
『君は肉体はあまり強くない。持久力を高めてから、他の項目を高めたまえ……いざという時の持久力が足りない……というのは、狩人の一番の死因さね』
…………
……
(……その後にカオリが指定したのは……確か、持久力が15……だったかな)
持久力が上がるように念じれば、数値が上がる。
レベル :21
体力 : 9
持久力 :15
筋力 : 9
技術 :13
血質 : 6
神秘 :19
さらに、余った血の遺志で技術と神秘を少し上げる。
得意分野を伸ばすのは基本だとカオリが言っていたからだ。
レベル :22
体力 : 9
持久力 :15
筋力 : 9
技術 :13
血質 : 6
神秘 :20
最終的には2レベル分上げることができた。
しかし、変化をあまり感じ取ることはできない。
「……これで終わりかい?」
セイアと人形は、2人とも目を開け姿勢を正し、向かい合う。
「はい。これでセイア様は強くなられました」
「そうか……」
「お試しになられますか?」
「そうしよう」
そうして軽く運動するセイア。確かに以前より少し……本当に少しだが、疲れにくくなったような気がする。
杖を何度か振れば、一連の動作で振ることのできる回数が一回増え、ステップも連続でできる回数が一回だけ増えた。
頭の上では、今までより輝きを増したヘイローが漂っている。
予知夢を見る程に元から強力だった神秘は、強化によってキヴォトスでも三本の指に入るほどの強さになっていた。
本人にとっては微々たる差だろうが、成果は着実に出ている。
「これが、血の遺志を力にするということか……」
「いかがでしょうか」
「……ああ、いい感じだね。ありがとう、人形」
そうして私は狩人の夢で一休みし、またヤーナムへと赴くのだった。
やってきたのはヤーナム市街、ギルバートの民家の前の灯り。
私はギルバートに大橋が封鎖されていた事を伝えた。
『なるほど……この市街から聖堂街に向かうには、大橋を使うほかないのですが……獣狩りの夜、橋門が閉じられているとなれば、そうもいきませんね……うーむ』
悩ましそうな声を出すギルバート。
聖堂街は門を閉ざし、ヤーナム市街は隔離された。
封鎖を開けること叶わず、これでは私が『青ざめた血』とやらに近付くことも難しいだろう。
「鍵などもないし、封鎖されたと態々言っているのならば向こう側からしか……つまり、聖堂街側しか開かないはずだ。他の道はないかい?」
『うーん……であれば、下水道はどうでしょうか?大橋を挟んで市街の南側に、なんというか、あまりよくない地域があるのですが……そこから、聖堂街に下水橋が架かっていたはずです……ごほっ、ごほっ、ごほっ……失礼、気にしないでください』
「……下水道、水道橋か……大橋の向こう側に見える橋のことだね」
『ええ、その通りです。常であれば、よそ者が入り込むような場所ではありませんが……あなたにとって、今は貴重な機会でもある。そうでしょう?』
「ああ。じゃあ、そこを当たってみよう」
そうして踵を返そうとし、ふと立ち止まる。
先ほどの、『隔離された』というので一つ思い当たることがあったからだ。
「そうだ、ギルバート。旧市街、というのがどのようなものなのか知ってるかい?」
『旧市街、ですか……すみません、簡単なことしか』
「構わないさ」
『ふむ、そうですね……旧市街というのは、かつてここヤーナム市街や聖堂街のある崖の下、谷の底にあった街のことだと聞いたことがあります。獣の病が大流行した夜、焼き捨てられたとか……』
「……」
この惨状がまだ残っているところを見るに、ヤーナム市街は二つ目の旧市街とはならなかったようだ。
代わりに、教会の機能も麻痺しているようだが。
今やこの街は全てが滅びかけで、立て直しも効かないほど手遅れなのだろう。
『私がこの街に来る以前の話らしく、これ以上のことは私には分かりませんが……』
「いや、十分さ。じゃあ、私は行くよ」
『ごほっ、ごほっ、ごほっ……はい、頑張ってください。貴女の目的が、どうか果たされますように……ごほっ、ごほっ、ごほっ……』
(……そういえば、大橋に来た時に別のところへと繋がる小道もあったか。噴水広場には大橋に接続するための道の他は行き止まりで、道はなかったような気がする……あそこを少し確認していくことにしようかな)
そう考え、歩みを進める。
ギルバートの家から大橋に接続する建物に入り、二体の罹患者の獣や市民を慎重に倒しつつ、未探索だった小道へと足を踏み入れた。
あったのは高台。
(……大通りを真っ直ぐきて、橋を潜ってからまわりこんで橋に登ったから、Uターンのような経路になっているのか)
地理を把握したセイアは、その高台の周辺を探索した。
「……これは」
そうして見つけたのは、梯子の設置された深い穴。
下から漂ってくる強烈で腐敗したような臭いにおいが鼻を刺激する。
「……下水路?」
そう、この深穴は下水路。
しかし……
(……ギルバートは、大橋を挟んだ街の南側にあるよくない地域に存在する下水橋が、私の目指すべき場所だと言っていたね……しかしここは南側ではなく西側。つまり、この下水路はギルバートの言っていたものではない……おそらく、噴水広場には私が見つけていないだけで道がある……)
しかし、噴水広場には記憶の限りでは道がなかったのも事実だ。
唯一あった、
(……大橋に接続している建物は、小道の途中に建っていたね……もしや、大橋に登るのではなくそちらの小道を進むのが正解か……?)
もしそうだとしたら、間違った道を歩いてきてしまったのかもしれないが……
(……いや、下水橋ということは下水路で繋がっているはずだ。おそらくここからでも行くことができる……探索してみよう。幸い梯子はついているから戻ってくることはできるからね)
下水路では鼻も利かなくなるだろう。
……悪影響がないといいが。
今の私の鼻は
下っていった先にあったのは、確かに下水路。
(……石造の通路が下水の流れる道の両脇にあるのはキヴォトスと変わらないが……高い……)
高さの差が数mはあろうかという、水面と通路が噛み合わない構造。
木造の梁が遥か下に見えることからも、推定された吃水と通路の高さが噛み合っていない。
しかも水面のすぐ下には地面が見え、子供ほどはあろうかという大きなネズミが走り回っていた。
飛び降りるのは無謀というものだ、どこか安全に降りる場所はないだろうか。
(なぜこんな構造にしたんだか……整備しづらいだろうに)
何やら大型の、獣化が進行した市民が何人かいたが構わず倒して進む。
道中いた槍持ちの獣は手強かった、獣でも武技を身につけているとは……
途中で梯子を見つけ、下水に降りる。
下水はくるぶしの程度、少し深い水たまりのような深さだった。ブーツでなければ水が中に入っていただろう。
どうやら狩人のブーツは耐水性が高いらしい。
買っておいてよかった、とセイアは心から思った。
(しかし……臭い……)
ネズミを倒し、セイアは下水路を進む。
見えてきたのは数mの高さはある、別の水路に下水を落としている崖。
待ち伏せしていた槍持ちの獣化市民を倒しつつ、下を伺う。
(……高いね……今の身体ならなんとかいけるかな……?)
あったのは数メートルはある崖。
下水は流れ落ち、下には流れ着いたであろう腐乱死体がいくらかある。
元々キヴォトスの人間は物理的なダメージに強い。
キヴォトス人同士での戦いならともかく、単純な物理攻撃はそれほどダメージにはならないのだ。
流石に数十mの高さから
(……下水路の向こう側、ここの対岸にも何か建物がある。下水橋が見つけられていない以上、この辺りの探索は必須……人形に教えてもらった『狩人の徴』を強く脳裏に浮かべれば、夢には帰還出来るらしい……)
飛び降りた後の安全や、詰みポイントをしっかりと考え考慮していく。
戻ることはできるが、探索できそうな箇所がまだ残っていてそこへ行く道も見つかっていない以上、この機会を逃すのは悪手だ。
(……問題なさそうだ。飛び降りるか)
私は意を決し、空中へ躍り出た。
風を切りながらあっという間に下水路の地面へと落下し、着地する。
「ぐっ……」
びしり、と両足に激痛が走る。
流石に高所から飛び降りたがために、足への負担が大きかったらしい。
急いで輸血液を注射し、傷を癒していく。
……一度使ってしまえばあまり気にならなくなってしまうね。
(空になった輸血液の注射器を捨て、足に不調がなくなったのを確認してから私は歩き出した……ん?)
セイアは知らないことではあるが、神秘によってあらゆるダメージはカットされている。
通常の落下ダメージより遥かにその怪我は減衰されているが、それでもなお落下というものは足腰への負担となる。
「……今後もこういうことが必要になるなら、カオリに何か対策の助言を貰わなければ」
そう呟きながら、私は対岸にあった建物に進む。
途中腐乱死体が動き出すということもあったが特に問題なく処理を行い、建物に備え付けてあった梯子を登り始めた。
梯子を一段登り、その後にもあった長い梯子を登っていけばあったのは民家。
大男が目の前に陣取っていたので後ろからの不意打ちでサッと倒した。
さらに梯子が設置されており、上にも民家が見える。
住宅街と下水路が合計3段に渡って崖に建設された構造だったらしい。
おそらく縦に街が成長していった結果だろう、住民は難儀だろうと思いながら、更に梯子を登っていく。
テン テテーン テーン テン テテーン……♪
(……またオルゴール?)
噴水広場で聞いたオルゴールの音色が、梯子を上がったところの民家から聞こえていた。
どうやら、噴水広場に戻ってきてしまったようだ。
深穴から下水路を通ってこの梯子を登った民家までは、ちょうど一周する経路だったらしい。
ということは、噴水広場で怪しかった閉じている門は目の前にある門のことだろう。
振り出しに戻る……といったところだろうか?
はたまた、先ほどの梯子を登る前の下水路が正規のものだったのだろうか。
とりあえずはこの民家の住民に声をかけることにした。
「すまない、少しいいだろうか?」
声を投げかければ、少しガタガタと音がした後、人が窓の近くに来た気配が。
「……あなた、だあれ?」
返答で返ってきたのは、幼い女の子の声だった。
みんな大好きなあの子がついに登場です
セイアちゃんの不穏さについて考察が進んでいますが……
少なくともよからぬものではないとだけ……
書き溜めが尽きたので今後は毎週日曜日に投稿します
THE DUSKBLOODS……?
もし、もしもしもしかして……!?!?!?!?
まて、落ち着け……慌てるな……まだ我らに瞳を与えてくれると決まったわけでは……