見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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55.ヤーナムの少女

 

 

 

『……あなた、だあれ?』

 

 

 

 オルゴールの音色が聞こえてくる家を鉄格子のかかった窓越しに声をかければ、返答で返ってきたのは幼い女の子の声だった。

 

 

(……少女、か?)

 

 

 この血に濡れ、獣蠢く街で幼い子供の声を聞くとは思っていなかった。

 思わず驚くと共に、この少女はこんな街にいていいのか?と不安になる。

 

「……私の名前は百合園セイア……といっても、つい最近来た外来人さ」

 

 さっと自己紹介を済ませる。

 獣狩りの夜、外で長話をしたら、すぐさま襲われてしまうだろう。

 登ってきた道に敵はおらず、目の前の門は閉じきっていて強襲される心配がないとはいえ、警戒するに越したことはない。

 

 

『……知らない声。でも、なんだか懐かしい臭いもするの。もしかして、獣狩りの人かな?』

 

「そうだね。私は狩人だよ」

 

 少女の声はこんな恐ろしい夜だというのにとても落ち着いていて、心の深いところに染み渡る様な印象を受ける。

 たどたどしく幼い滑舌ではあるが、それが大人らしさと調和していた。

 

 

 

『だったらお願い、お母さんを探してほしいの』

 

「お母さん?」

 

 少女は私が狩人であるとわかると、そうお願いしてきた。

 

『獣狩りの夜だから、お父さんを探すんだって……それからずっと帰ってこない。私ずっと……でも、寂しくって……』

 

 どんどんと悲しい感情が乗り、深く沈んでいく様な雰囲気を漂わせる少女の声。

 寂しさが滲み、ひとりぼっちの孤独感がひしひしと伝わって来ていた。

 

「……わかった。君の母親を探そう」

 

『……本当?ありがとう!』

 

 大きく声を上げて喜ぶ、というわけではないが、確かに嬉しいのが伝わってくる静かな喜声。

 ダウナーな印象を受ける少女だが、大人しめなだけでしっかりと情緒は幼いのだろう。

 幼子の親がこんな時にいない、というのは大きな問題だ。

 庇護者がいない、抵抗力のないものなど……この街で生き残れるとは、到底思えなかった。

 

『お母さん、真っ赤な宝石のブローチをしてるんだ。大きくて、すっごく綺麗なんだから、きっとすぐに分かると思う』

 

 つっかえないよう、一つずつ丁寧に伝えてくる少女。

 私は聞き逃さないよう、少女の願いに真摯に向き合っていた。

 

『それで、それでね?お母さんを見つけたら、このオルゴールを渡してほしいの』

 

 窓の隙間から、蓋の開いたオルゴールを手渡される。

 鉄格子の合間から出されたそれを受け取ったそれを見れば、その『小さなオルゴール』の蓋の裏についた紙片に書かれた、『ヴィオラ』と『()()()()()』の名が書かれていた。

 蓋を閉め、懐に仕舞うと同時に、何か大きな見落としがあったような気になる。

 

 

 

(……ガスコイン……?その名前は……)

 

 思考を回そうとするが……少女がまた喋り出し、それは中断された。

 

「お父さんの好きな、思い出の曲なんだって。もし、私たちのこと忘れちゃってても、この曲を聴けば思い出すはずだって……それなのに忘れていくなんて、おっちょこちょいなお母さんだよね」

 

 くすり、と笑う少女。

 私はその静かな笑い声に、微笑みたかったが……

 狩人の夢で見た、ヤーナム市街に続く墓石が脳裏によぎり……

 

 嫌な汗が、止まらなかった。

 

 

 

 

 

 少女の家を後にし、街の南側につながる小道の捜索を始め、紆余曲折あり見つけることができた。

 目の前にあるのは、たくさんの檻……中にはそれぞれ犬が入っており、こちらに吠えているね。

 

(……犬か。檻の中にいるし、狩らなくても……)

 

 そう油断しきっていた()()()を、それは襲った。

 

 

 

バウバウ!バウバウバウバウ!!

 

 

 ガキンッ!

 

 

 

「っ!なにっ!?」

 

 一匹の犬が思いきり檻に体当たりしたかと思えば、檻の扉が開き、中から犬が解き放たれた。

 

 

 

バウバウ!

 

 

 

「鍵はしっかりかけておいてくれっ!」

 

 こちらに飛びかかってきた犬に銃撃し、怯んだところに杖で串刺しにする。

 心の臓へと石突を突き立てれば、ズブリ、と鈍い感触が手に伝わってきた。

 

 

 

ギュアオン……!

 

 

 

 そう断末魔をあげ、動かなくなる犬。

 

「お、驚いた……」

 

 一応念のため、と一つずつ檻の鍵をチェックし、出てきそうな犬や出てきた犬はサクッと始末していった。

 

 

 

 少し進むと、小さな橋がかかっていた。

 下を覗き込めば、少し遠くに下水路に接続する橋……下水橋が見えた。

 

(見つけた。あそこに行けばいいんだね)

 

 どう行くのだろう、と水道橋に繋がっている下水路を辿っていけば、遠くの方に見覚えのある場所が。

 

(……あそこ、私が飛び降りた場所じゃないかい?)

 

 下水橋からまっすぐ一本に伸びる下水路の行き止まりは、セイアが見たことのある特徴の下水路の地形をしていた。遠目では確証はできないが、おそらく当たっているだろう。

 

(……ということは、少女の家から降りれば聖堂街に──いや、少女の母親を探す頼みもあったね。一応、この先も捜索しなければ……)

 

 探索を怠れば痛い目を見るのは自分だと、セイアはすでにこの街のルールを理解し始めていた。

 

 

 

 橋を渡ったところには、一軒の民家と大きな建物が。

 民家の前では、犬が扉に向かって吠えていた。

 

(……あそこの民家には人がいるらしいね。助けるか)

 

 こっそりと近づき、後ろから銃撃して仕込み杖で串刺しのコンボ。

 徐々に手慣れてきているような感じがする。

 

 犬を殺した私は、住民に声をかけた。

 

 

「やあ、大丈夫かい?」

 

 

 そう話しかけたが、帰ってきたのは歓迎していない声だった。

 

 

 

『なんだいあんた、恩着せたつもりかい?』

 

 

 

 捻くれ、しゃがれた女の声。

 家の中にいたのは、老婆だったようだ。

 

「いや、そういうわけではないんだが……」

 

『嘘おっしゃい……まぁいい、あんた、狩人なんだろう?だったら知らないのかい?どっか安全なところをさ』

 

 そう聞かれるが、思い当たる場所はない。

 ヨセフカのところは安全そうだが、頑なに扉を守ろうとしていた彼女が老婆を入れるとは思えない。

 

『あたしゃあ知ってるよ、もう家の中だってダメらしいじゃあないの。あんたたち狩人が役立たずで、こんなことになってるんだから、あたしを助ける義務があるってもんさ。さあ、はやく。どこか知ってるんじゃあないのかい?』

 

「……いや、ないね」

 

 こちらが考えている間にも捲し立てていた老婆だが、私がそう答えると呆れるような声を出す。

 

『なんだいそりゃあ?役立たずだね。それとも、ババアに用はないってか?』

 

「いや、そうでは──」

 

『ああ、よそ者なんて所詮そんなものだよ。どうせ、あたしらを、おかしいと思ってるんだろう?消えちまいなよ!あたしゃあ知ってるんだよ!』

 

「──……ああ、わかった。すまなかったね」

 

 言葉を遮り拒絶を伝えられ、自分にできることは無いのだと思った私は引くことにした。

 こうなってしまえば時間を置き、落ち着くまで待つしかない。

 いずれ安全な場所が見つかればそこを教えてもいいかもしれないが、知らない今はどちらにしろ無力だ。

 先を急いだほうがいいね。

 

 

 

 民家を離れ、街の南側にある大きな建物に入った。

 

(………ん?)

 

 ふと、壁際に穴が空いていることに気がつく。

 樽で隠されているが、人が通るには十分な大穴で、建物の中を覗けそうだった。

 

(ちょうどいい。偵察させてもらおうかな)

 

 樽を仕込み杖で壊し、壁に開いた穴から建物内を覗き込む。

 

 建物内はどうやら三層構造らしい。

 自分の今いる層は最上層、梁に足場が敷かれている天井裏のような場所。

 中層はクレーンがあり、下層には打ち捨てられた小舟がある。

 

 おそらく、ここは造船所だったのだろうと推測できるが……こんな街のど真ん中でなぜ造船しているんだろうか……

 

 とりあえず、セイアは最上層から探索することにした。

 最上層には、死体が吊られている。

 

(……物騒な……いや、もうまともな人間の方がこの街には少ないのか?ん……?また壁に穴……いや、これは通路か)

 

 先ほどと変わらず樽に隠されていた通路。

 

(こういった隠し道はヤーナム各地にありそうだ、探索する時はもっと注意を向けなければ……)

 

 先ほどと同じように樽を壊し、その通路に足を踏み入れれば、そこはテラスのようになった場所だった。

 

(……人?)

 

 そのテラスの端に、一人の黒い服を纏った人物が立っているのを見つけた。

 

(……まともそうだ)

 

 立ち姿を見ていれば、その黒い人物は綺麗にまっすぐと……凛として立っていた。

 ここまで見てきたなかでこちらに敵対してくる人間は、皆ふらふらと安定しない姿勢をとり……一目見て正気で無いと分かるものたちばかりだった。

 

(……話しかけてみるか)

 

 警戒させないよう足音を消さずに彼女の横まで歩く。

 

 

 

「……少しいいかな?」

 

 そう声をかければ、その黒い人物……服の上からカラスの羽のようなマントを羽織り、ペストマスクのような仮面をつけた女性は、私に顔を向けて声を出した。

 

「……なんだい、あんた狩人かい……ん?あんたのそれは……獣か?」

 

 帽子から出た私の耳を見た瞬間、黒い人物の声が鋭くなる。

 さらにはどこからかいつのまにか短剣までも取り出して右手に携えていて、今にも狩殺されそうだ。

 それでもこちらが手を出していないのを見て襲いかかってこない分別を持っているあたり、彼女は相当な人格者であり精神力があるのだろう。

 

 流石に獣の特徴であるこの耳を無闇矢鱈に出しておくのは不味かったか……

 

 この状況、答えを待ってくれているだけで温情、ということがひしひしと伝わってくる。

 獣の特徴を有しているだけで敵意を向けられる、というのはキヴォトスではあり得ないが為に、私は新鮮さすら味わっていた。

 

「私のこれは自前だ……生まれつきのものでね。そして、私はヤーナムの外の出身さ」

 

 そう聞くと、ひとまず黒い人物は殺意をこちらに向けるのをやめる。

 ただし、警戒心と敵意は叩きつけたままだが……

 

「……そうかい。ひとまずはその言葉を信じるよ……あんたはまだ正気みたいだ」

 

「ありがたい、感謝するよ」

 

 和解の一歩は会話から、最初に手を出してしまえば問答無用で戦闘になってしまうからね。

 彼女が冷静で、状況分析できる狩人でよかった。

 

 

 

「にしても因果なことに巻き込まれちまったね。特に今夜は、ひどいものさ」

 

「全くだね。ここまでこの街が酷いとは思わなかった……けれど、私がこの街に来たのは獣狩りが主なんだ」

 

 キヴォトスの記録で見た凄惨な戦場と比べてなお酷いこの街の惨状を見れば、カオリが如何にしてあそこまで強くなれたかがわかる。

 正真正銘の『滅亡』の危機なのだから。

 

 カオリはツルギと戦っていたが、今思えば明らかに手加減していた。

 当然だ、こんな街で生き抜くための戦い方ならばそれは『殺し』の戦い。

 生徒同士の『鎮圧』のための戦いではないのだから……

 

 

 

「へぇ……あんた、あの血の医療が目的じゃなかったのかい。獣を狩るためにこの街に来た?仇を追ってでもなく?物好きなやつもいるもんだねぇ」

 

「ああ、まったくさ。私をこの街に誘った奴はここまで酷いなんて言ってくれなかったよ」

 

 まあ、獣狩りに限らず何にも彼女(カオリ)は教えてくれないが……いや、人形に知識を渡してくれているだけ有情というものか。

 

「……ところで、あなたは?」

 

「……そうさね。狩人同士なら名乗っておくか。アタシは狩人を狩る狩人、『鴉羽のアイリーン』。あんたも狩りに酔ったら、アタシが息の根を止めるよ」

 

 そう言うアイリーンに、しかし私はただ感心していた。

 このヤーナム、狩人が狩られる側に変質しても不思議ではない……それを狩る役職の狩人もまた存在していたのかと。

 

(よくできたシステムだ……しかし、彼女は……)

 

 ……夢の墓石の一つにあった名前を聞き、冷や汗をかく。

 

 が、目の前の彼女は死んでいない……あれが、未来を示すものでなければいいのだが。

 私はずっと、脳裏にその考えを置いていた。

 

 ()()()()()()()()()()()、その先の結末だとしたら……

 

(……いや、予測しても仕方ない。今の私は未来も見えないからね、現在を生き抜くしかないんだ)

 

 そう考えに耽っていた私に何を思ったのか、アイリーンは懐から何かを取り出し私に差し出した。

 

「……これは後輩に、餞別だよ。1匹でも多く獣を狩ってくれるんなら助かるからね」

 

 そう言って手渡されたのは、金色の布に『逆さ吊りのルーン』が印刷……染色されたもの。

 

「これは……」

 

「そいつは『狩人の確かな徴』……そいつを使って狩人の徴を強く思い浮かべれば、狩人は目覚めをやり直せるのさ」

 

「……なるほど」

 

 『狩人の徴』の強化版だろうか、それとも徴を思い出せなくなってしまう狩人もいるのだろうか。

 とりあえず、先達の好意は素直に受け取るべきであろうと考え、受け取ったそれを懐にしまう。

 

「……しっかりするんだよ。もう誰も人じゃあない。人を喰らう獣どもだからね……」

 

「ああ、わかった……忠告、感謝するよ」

 

 

 

 アイリーンと別れ、造船所内を探索していく。

 いくらか階層を降り、アイテムを回収しつつ造船所から出れば、そこは下水道だった。

 おそらくここは少女の家の下の下水道に繋がっているのだろう。

 

(死体に武器が突き刺さっていたから回収したが……これは……なんだ?カオリが使っていた武器ではないね)

 

 今私が懐にしまった武器は『ノコギリ槍』という名称のもの。

 槍にノコ刃がついているという、なかなか物騒な造形をしていたが……確かに殺傷力は高そうだ。

 いきなり使うのは憚られるから、後で狩人の夢に持っていって検品しなければ……

 

 

 

変形前は優秀な振り速度をもつノコギリで、変形後はノコギリ刃のある槍としてリーチのある攻撃を行える武器だが……ノコギリ武器を生徒に使わぬようにしているカオリは、まだキヴォトスでは使っていない。

故にセイアの知識にもないものだ。

 

 

 

(……詳細も後で人形に聞くことにしよう)

 

 獣市民を狩りつつ、下水路を進む。

 途中で少女の家のある場所へ登るための梯子を発見し、やはり来たことのある場所だったと悟った。

 

(二度手間……いや、探索不足だね。ただまぁそのおかげでアイリーンや少女に会うこともできた。隅々まで探索する必要性は高そうだ)

 

 そう考えながらも、道中にいるカラスや水死体のように変質した獣市民を狩りつつ進む。

 彼らはどうやら肉質が柔らかいらしく、変形後の仕込み杖の鞭のような刃がかなり効くらしい。

 

(……梯子か、奥まで続く水路か……)

 

 しばらく行くと、私は二通りの道を示された。

 一つ目は、目の前にある下水路の続き……先の見えない通路を行くこと。

 おそらく下水橋の下を通っているこの部分は、通っても特に問題はなさそうだが……奇襲に対応しづらい。

 

 二つ目は、通路の横にある、下水橋に登るための梯子。おそらくこちらの方が安全なのは確実で、どう考えても衛生的にもいい。

 何よりギルバートは下水橋とはっきり言っていた。

 橋下よりも、下水橋をちゃんと渡る方が心配要素はないだろう。

 

(……登るとしようかな)

 

 ()()()とて歳若き少女。あまり下水路に長居はしたくないものだ。

 

 

 

 梯子を登った先は、思った通り下水橋だった。

 近くにあったエレベーターを起動し、下水橋とヤーナム市街をつなぐ道を確保したのだが……

 

(……このエレベーター、見つからなかったが……探索し損ねた場所があったのか)

 

 エレベーターで登った先にあったのは、大橋に接続する民家の傍の路地。

 そしてここには、大男が2人も闊歩していた。

 流石に体格の優れる2人を同時に相手するのは厳しいため、私は息を潜めつつ今までの道筋を脳内で組み立てていく。

 

(こんな見つけやすい場所を放置して探索していたなんてね。もっと探索をしっかりしなければ)

 

 そう自戒しつつ、地理を把握した私は下水橋に戻り、進んでいく。

 下水橋の上には、何人かの獣市民が屯していた。

 しゃらり、と集団戦に強い鞭に仕込み杖を変形させると、一気に仕留めるべく走り出し、即座に戦闘へと思考を切り替えた。

 獣市民たちがこちらに気がつき、走り始めるが……動きが鈍い。

 

これならば簡単に狩れるか……と思ったその時。

 

「fire!」

「ooooO!」

 

 獣市民たちが走り寄ってくる向こう、下水橋の端で、何かに火がつき転がってくるのが見えた。

 

(!?!?)

 

 転がってきたのは、火のついた大きな球。

 それは走り寄ってきていた獣市民を構わず轢き、下水橋の地面に火を走らせながらこちらに転がって、気がつけばすぐ目の前まで迫っていた。

 

「不味っ……!」

 

 咄嗟に飛び退き、転がる火球をなんとか間一髪で避ける。

 チリチリと尻尾が焼けたかのような感触がするが、燃えてはいないようだね。

 

 転がってきた方向を見れば、そこには大男と松明をもった獣市民……おそらく彼らが球を転がしてきたのだろう。

 

「……仲間にすら容赦ないとはね」

 

 先ほど轢き潰されて、さらに引火したのか焼けこげた死体を乗り越え、少し怒りを覚えながらも足を前に踏み出した。

 

 

 

 しばらくして。

 私は道を進み、橋を越えた崖の対岸……そこに存在していた、墓地の入り口のような場所に辿り着いていた。

 

(……ここが、聖堂街……なのかな?それにしては墓地ばかり……いや、聖堂街と言うくらいだ。ここは殉教者たちのための墓地かそれに近しいものだろう)

 

 ざくざくと荒れた地面を踏み、墓地に足を踏み入れる。

 墓地は大量の墓石がまばらに立ち並び、いくつかは纏めて弔われたのか墓石群となっている。

 あまり広い空間はなく、ここで戦うならば工夫が必要か、とすぐに分析した。

 

 そうして警戒しながら墓地を観察していると、ふと、墓石の間に人影が見えた……

 と、同時に、何かを叩き潰すような、そんな音が聞こえてきて、血腥い臭いまで漂ってくる。

 

 

 

ぐしゃ……

 

 

 

ぐちゃ……

 

 

 

 墓石をいくつも跨いだその先で、男性が何か……()()()()()()()()()()()に斧を振り下ろしている。

 

「ハァ…………」

 

 私の気配に気がついたのか、男は深く息を吐き、ゆっくりと向き直った。

 

 

 

……どこもかしこも、獣ばかりだ……

 

 

 

 異教の神父服のような装いの施された、標準的な狩装束に近しいものに身を包み。

 丸っこい帽子を被ったその男は、目元に幾重にも包帯が巻き付けられている。

 

 

 

……貴様も、どうせそうなるのだろう?

 

 

 右手には、ずるり、と残骸から引き抜いた斧。左手には、散弾銃と思わしきもの。

 それが、私へと向けられ……神父は徐に走り出した。

 

 

 

「まともでは……無さそうだね!」

 

 走り寄ってきた男に対し、私は仕込み杖を振りかぶり──

 

ババァン!!

 

「っ!?」

 

 杖を振るそのわずかな隙を狙って、男は散弾銃を放った。

 しかし、私はキヴォトスの住民。

 銃弾など、大したダメージにも、ましてや隙を晒す要因にすらならない。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

ズガッ!バババババッ!!

 

 

 

 その散弾は、()()()に当たった瞬間に()()()

 時限式なのか、()()()に当たっていない散弾も近くの空中で爆ぜている。

 

「ぐっ……!?」

 

 キヴォトスの人間といえど、予期せぬ攻撃に晒されれば怯む。

 ましてやそれが、衝撃力の高い散弾、さらに爆ぜるとなれば……体勢を崩すのは必然。

 

 そして狩人同士の戦いにおいて、その隙は致命的だった。

 

(まずっ……!?)

 

 気がついた時、既にその神父は目の前にいて。

 

 その斧が、私の身体に()()()()()

 

 ゆっくりと、どこか他人事のように私がそれを見ている中──

 

 

 

 

 

 紅い華が、咲いた。

 

 

 

 

 

YOU DIED

YOU DIED

 

 

 

 

 

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