見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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58.オドン教会、そして別れ

 

 

 

 私はガスコイン神父を倒して得た鍵を使い、聖堂街へと進んでいた。

 進んだ先の建物の狭間にあった暗い下水路のような場所に存在している梯子を登れば、そこはどこかの建物の地下室のよう。

 

 地下室から出ようとすると、扉の横に一つの宝箱がある。

 珍しいなと思いつつ、住民のものだろうとスルーしようとすれば……

 

ヴァァァ!

 

「!?」

 

 使者の声が唐突に宝箱の中から聞こえた。

 まさか捕えられているのか、いやそんなはずはない……はず。

 何か意図があるのか……?

 とりあえず開けてみようか……

 

 

 

ヴァァァ!

[つ 工房道具]

 

 

 

「えーっと……大丈夫かい?」

 

ヴァ!

 

 元気そうにしているからとりあえず問題ないのだろう。

 まぁそもそも彼らが囚われるなど想像もできないし、やれる方法があれば教えて欲しいものだが……

 にしても何か持っているのは珍しい、手持ちのスクロールまで持ってくるとは……

 

「工房道具ってなんだい?」

 

 私がそういうと、使者は新たなスクロールを取り出して私に見せた。

 

 

 

[狩人の工房]

 

 

 

「ああ、なるほど」

 

 そういえば狩人の夢にある洋館は『狩人の工房』である、ということを思い出す。

 そして工房道具が欠けているともゲールマンが言っていたような気がするが、もしやこれがそうなのだろうか。

 

 主に二つのパーツからなるこの道具は、上から押さえ付けるためにあるような形の万力のようだ。

 力を強く込めるために大きいハンドルがついており、それを回転させることで軸の先についている型を利用し『宝石のようなもの』を『何か』に捩じ込む……そういう用途の道具であると看破した。

 

「……」

 

 使者から受け取ったそれを懐にしまう。

 使者が出してきたのならば、今後必要なものなのだろう。

 

「ありがとう」

 

ヴァ!

 

 

 

「さて……ん?」

 

 工房道具を受け取り先へと進もうとした私は、ふと足元に一枚の紙が落ちているのに気がついた。

 

「メモ書きか、そういえばヤーナム市街にもあったね」

 

 

 

〝 ビルゲンワースの蜘蛛が、

  あらゆる儀式を隠している

  見えぬ我らの主も。ひどいことだ。

  頭の震えがとまらない 〟

 

 

 

 ビルゲンワース……ビルゲンワース啓蒙学院のことかな?

 ……いや、同じ名前の別物だろうね、ヤーナム市街もそうだった。

 蜘蛛とはなんだ……?儀式を隠す……という能力があるのはわかるけれど。

 

 『見えぬ我らの主』……これはおそらく神のことだろう。

 今までのことから推察するに、『姿なきオドン』のことだろうか……

 ……とりあえず、進むしかない。

 私に許されているのはそれしかないのだから。

 メモを置き、私は先を急ぐことにした。

 

 

 

 階段を上り、小さな扉を開け──

 

 

 

──そこにあったのは、小さな教会だった。

 

 

 

 

 

 ゴーン、ゴーン……とどこからか聴こえてくる鐘。

 それは聖堂街にたどり着いた証。

 香が臭いほど焚かれ、薄暗いその教会は……静寂に包まれていた。

 

 ()()()は数瞬見惚れていたが、はっと我に返り……目の前にあった灯を燈す。

 

「なあ、あんた──」

 

 そして、()()()()()()()()()()

 自分に呼びかけようとしていた存在がいたのにも気が付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

「おかえりなさいませ、セイア様」

 

 狩人の夢に帰り、椅子に座って一息つく。

 一度休憩を挟んだとはいえガスコイン神父との最後の一戦は凄まじく濃厚な時間だった……精神的な疲労を癒すべきだ。

 

「……私はどうしたらいいんだろうね。既に終わりが決まっている世界とはいえ……あんなのは、あんまりじゃないかい」

 

 途端に蘇ってくる、残酷な運命。

 

 カオリはヤーナムを『すでに滅んだ街』と形容した。

 あの惨状を見れば、確かにもう街としての機能は失い滅んだと形容するべきだろう。

 だからと言って……惨劇を目の当たりにして尚何も出来ないというのは、夢で既に経験した私にとってトラウマを抉られるようなものだ……精神的にきつい。

 それを乗り越えなければならないとカオリが暗に告げているのをわかっていても、辛いものは辛い。

 

「……」

 

 人形は何も答えない、答えようがない。

 被造物である彼女は、たとえその身が人と同質であったとしても、経験が足りない。

 他人の苦痛を想像すること、そしてそれに静かに寄り添うことはできても、励ますことや道を示すことはできない。

 

「……少女には、隠すことにするよ。幼い彼女に事実は酷だ。私にはそれしかできない」

 

 憂鬱でも思考は停止しない。

 今まで散々と自棄になってきたが、そんなことをしている余裕はない。

 

 ()()()()()

 

 既に私は、進み続けるしかない道を……薄暗い、血に塗れた道を歩んでしまっている。

 ただ、あの少女だけは……せめて、少しだけでも悲劇から遠ざけてあげたかった。

 キヴォトスの生徒たちに、その在り方を重ねていた。

 願わくば、平穏に……それが偽りのものだとしても。

 

 ()()。神という不確かなものに。

 

 

 

 

 

 やがて、休み終わった私は立ち上がり──人形の元へやってきた。

 

「引き摺っていても仕方無いからね。前を向くことにするよ」

 

「セイア様……」

 

「さぁ、血の遺志を力に変えてくれ」

 

「……わかりました」

 

 何か言いたげな様子の人形を手で制し、私は人形へと手を差し出した。

 

 人形は差し出された手を優しく手で包み、私が目を閉じれば内なる血の遺志を力へと変え始める。

 

 

 

レベル :22

体力  : 9

持久力 :15

筋力  : 9

技術  :13

血質  : 6

神秘  :20

 

 

 

 レベルアップというのは、徐々に要求する血の遺志を増やされるものらしい。

 今回はあまり血の遺志を持っていなかったこともあり、一つしか上げる余裕はなさそうだ。

 

 

レベル :23

体力  : 9

持久力 :15

筋力  : 9

技術  :14

血質  : 6

神秘  :20

 

 

 

 私はガスコイン戦で、狩人の肉体と業を完全に我が物とした。

 型にハマった動き(コントローラー操作)に振り回されることはなくなり、臨機応変に、そして自由自在に戦えるようになった……と思う。

 なぜそう思うかはわからないが、何やらわかるんだ、()()()()()()のだと。

 

 どうやら技術は肉体制御に関する項目らしく、上げると動作がより正確になるらしいから上げることにした。

 確かに技術は真の意味で身についたが、その精度はまだまだ拙いからね。

 今後はガスコイン以上に強い敵も出てくるだろう、それに備えておくのは悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて人形が手を離すと、私もまた目を開いた。

 

「ありがとう、人形」

 

 特に何かが変わったようには思えない。

 強いていえば手ブレが抑えられているかな?

 もしかしたら、別のところでなにか伸びている可能性もあるが……

 

「セイア様……私の役割はセイア様をお助けすること。お礼を頂くわけには……」

 

 そう言って人形は遠慮しているが、今まで接してきた人に一線を引かれるというのはあまりいい気はしないね。

 

「人の感謝は素直に受け取るものだよ、人形」

 

「……はい、かしこまりました」

 

 そう言って、人形は微かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 しばらくして。

 私はガスコイン神父の使っていた獣狩りの斧と短銃を検分していた。

 

「ふむ……どう見てもカスタムがされている」

 

 これらを人形に見せた時、通常のものでは無い、と言われたからね。

 じっくりと観察してみれば、加工跡が様々なところに見受けられた。

 未だ獣狩りの斧の原型を見たことのない私だが、それでもなお節々に感じられる使いやすくするために設けられた工夫は、長年使い込まれた証だろうと感じる。

 

 

 


獣狩りの斧+4


古狩人ガスコインが獣狩りに用いた仕掛け武器

長年の狩りに用いたこれは

持ち主に合わせ、改造が施されている

 

だが持ち主は血に呑まれ

ついに恐ろしい獣と化した


 

 

 握り込みやすいよう削られたグリップ、重くするため厚くなった刃。

 変形後でも銃を使うためだろうか、滑りにくいよう持ち手の布は入念に巻かれている。

 石突もまた鋭く、そして太くすることで威力を増しているようだ。

 スラリと真っ直ぐ変形する機構は、彼の膂力に合わせてか頑丈に作られていた。

 

 

 


獣狩りの散短銃+3


古狩人ガスコインが獣狩りに用いた特別な銃器

短銃で散弾を撃てるよう改造されたもの

 

古狩人ガスコインは、恵まれた肉体と独自の業を用い

数多の獣を狩り殺してきた


 

 

 こちらも取り回しやすくするため、グリップは手に馴染むようにスリムに削られている。

 変形後の斧と併用するためか、合わせて持ちやすいようトリガーは延長され、滑り止めの布は粗いものを使っているようだ。

 装填の利便性を考え機構は丁寧に整備され、コッキングレバーは激しい戦いでも折れないよう太く、しかし引きやすいようになっていた。

 

 

「……ふむ」

 

 これらの武器をどうするか、私は悩んでいた。

 少女に渡すことも考えたが、それは少女に両親の死を伝えることに等しい。

 同様に、使うところを見られれば同じことになることは予想できた。

 しかし遺品であるが故に、使者達に売り払う気にはなれない。

 

「……大人しくしまっておくことにするかな」

 

 いつか、彼女に伝えるとして。

 彼女がそれを受け入れてくれるかわからないが……その時は、必ずこれを返そうと……そう思って。

 

 

 

 

 

 気を取り直して目覚め直し、教会へと帰ってくる。

 まだ『青ざめた血』とやらの正体すらわからないからね、早く突き止めなければ。

 

「さて……ふむ?」

 

 違和感を感じて、スンスンと周囲の匂いを嗅いでみれば……何やら煙たい。

 辺りを見回せば、香が焚かれているようだ。

 最初に来た時には気が付かなかった……

 

 

 

「なあ、あんた」

 

「!?」

 

 唐突に呼びかけられ振り向く。

 そこにいたのは、赤い布を見に纏い、蹲った……醜い男だった。

 

「あんた、ここを訪ねてきたんだろう?足音が獣じゃないから、声をかけたんだが……」

 

「……ああ。私は獣じゃない」

 

 男は目が見えないようだった。

 足も不自由なのかもしれない、一歩も動く気配がなく……それどころか、蹲ったまま身じろぎすらしていない。

 

「よかった。俺はこのオドン教会の住人さ……名前は……ないようなもんだ」

 

「……ふむ、オドン教会」

 

 どう見ても怪しいが……マトモに意思疎通してくれるだけでこのヤーナムではかなり数少ない『人間』なのだ。邪険にしてはいけない。

 この教会も気になる、まず間違いなく信仰しているのは『姿なきオドン』だろう。

 いつか来たいと思ってはいたが……こうあっさりと来れるとは。

 

「……では、君のことは『()()』、と呼んでもいいかな?呼び名がないというのは不便だからね」

 

「おお、構わないよ!今までマトモに俺に話しかけてくれたやつなんていなかったからさ!」

 

 発言の内容を踏まえると、どうやらこの男は周りの人間に嫌われる存在らしい。

 それは彼の性根か、身体的特徴か……それを今、計りかねていた。

 

「あんたが狩人なら、お願いがあるんだ。獣狩りがはじまって、まともなのは皆閉じ籠ってる。昔のように、いつものように、すべてが終わるのを待ってるんだ」

 

「……確かに」

 

 今まで出会った生きている人間の中で、外に出ていたのは獣狩りの人間のみだった。

 ヨセフカ、ギルバート、老婆、少女……

 逆に外に出れば、死人となるだけだ。

 少女の母のように。

 

「……でも、今回は異常だよ。実際、閉じ籠った連中にも被害が出始めてる。さっきから、女の悲鳴と獣くさい呻きばかりが増えてるんだ……」

 

「……閉じ篭もった人々にもかい?」

 

 思い返してみれば、死体は狩人や獣以外にも山のようにあった。

 明らかに寝巻きや部屋着の死体も、よく思い返してみればあったかもしれない。

 

「おそらく、ヤーナムはもうおしまいだ……ヒヒッ……でも、もしあんたが、まともな生き残りを見つけたなら……この場所、『オドン教会』を教えてあげて欲しいんだ。ここは安全だ。獣避けの香もしっかりと焚かれている。だから……なんとかここに逃げてこいってさ……」

 

「……」

 

 ……胡散臭い。とてつもなく胡散臭い。

 しかし、悪意や……いやらしさは感じない。

 トリニティでよく感じることのある、相手を貶めようという感覚が。

 巧みに駆け引きをする存在になるほど悪意は感じないが……そういう輩と話す時、直感は訴えかけてくるのだ。

 『警戒しろ』と。

 

 しかし、目の前の男からはそれが感じられない。

 なればこそ、彼は純粋な親切心からこちらに頼み事をしているのだろう。

 

 

「なあ、お願いだよ。ヒヒッ……」

 

「……わかった。私が会話できる人間だけでも、ここに来るよう言っておくとするよ」

 

「ああ、ありがとう……よろしくな……」

 

 ほっとした様子の赤衣。

 彼のことは、あまり悪くは思えなかった。

 

 

 

 

 

 赤衣の言葉で一番最初に頭に浮かんだのは、ギルバートだ。

 病人であるギルバートは、獣に襲われたらひとたまりもないだろう。

 故に私は、転送によりヤーナム市街へとやってきていた。

 

「やぁ、ギルバート……調子はどうだい?」

 

『ごほっ、ごほっ、ごほっ、ごほっ……はぁ……ああ、あなた……』

 

「……大丈夫かい?」

 

『……ええ。私のことは、もう気にしなくて構いません。聖堂街にたどり着いたのでしょう?』

 

「ああ。君のおかげだよ、ギルバート」

 


『……ふふ、ありがとうございます……ですが、もう、お役に立てることもないようです。私はこのヤーナム市街のことしか知りませんから』

 

「……」

 

 言外に別れを告げるギルバート。

 もう永くない、というのは聞いて取れた。

 家の中から薄らと血の臭いが漂ってくる……きっと、そういうことなのだろう。

 


『最後に、これを』

 

 窓の格子の隙間から渡されたのは、ずんぐりとした塗料の噴射機のようなもの。

 

「……これは?」

 

『それは、火炎放射器です……結局、私には無為の品でしたが、あなたなら違うでしょう?ごほっ、ごほっ、ごほっ、ごほっ』

 

「……ギルバート、避難しないかい?ここはあまり宜しくない場所だ。この家のすぐ下の道には獣が跋扈しているほど。安全なところを見つけたんだ、どうだい?」

 

 答えはもうわかっている。

 彼は絶対に、この提案を断るだろう。

 ……けれど、今言わなければならないと直感が訴えかけてきた。

 ここで言わなければ、一生後悔することになるだろうと。

 

『……これは不治の病、一縷の望みでこの街を訪ね……怪しげな血に頼ってでも、今まで生き長らえたのです。もう、十分ですよ。むしろ、獣の病に罹らぬことを、感謝しています。せめて、人のまま死ねるのですから……ごほっ、ごほっ……ごほっ、ごほっ、ごほっ……』

 

「…………そうか」

 

 わかりきっていた。

 覚悟もしていた。

 短い間だったけれど、このヤーナムで一番親交を深めたと言っても良かった。

 こんなに、胸が苦しいとは思わなかった。

 

『……あなたの望みが叶う事を願っています。さあ、行ってください』

 

「……ああ」

 

 

 

 私はそれきり、何も言わずに立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 




高評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり、読了報告等々いつもありがとうございます!
☆10評価があと1人で100人になるので、どうか高評価をお願いします!
もちろん感想などもよろしくお願いします!!

推薦ありがとうございます!
通知が来ないので一月ほど前に貰っていたのに気が付かず……申し訳ない。
しかしとても嬉しいです、一つの目標だったので感慨深いです……!
これからも本作品をよろしくお願いします!



それはさておき、前回投稿したセイアのガスコイン突破前後でまたガスコインの突破率が下がったと聞いて笑っていました
こんな偶然があるんですねぇ
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