見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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前回、聖堂街のメモの描写をし忘れるという大ガバをしたのでオリチャー発動します


63.教区長エミーリア

 

 

 

「……これが、大聖堂」

 

 

 教会の使いと大男達を切り抜けたどり着いたのは、荘厳な雰囲気の聖堂だった。

 トリニティにはこれを超える聖堂など山ほどあるが、私が目を見張るのはその作り。

 聖堂と大きな時計塔が合わさっているその建築様式は、なかなか珍しいものがある。

 上層もあるようだが、時計塔へと繋がる道で完結するような広さではない……いったい何があるのだろうか。

 そこまで考えて大聖堂から視線を外し、ふと足元を見れば、何かの紙片が落ちていた。

 拾い上げてみれば、それは何かのメモのようだ。

 

 

合言葉の門番はビルゲンワースの番人

ただ大聖堂の警句だけが、その門を開く

 

 

 合言葉の番人……あの、扉で合言葉を要求してきた声の主人だろうか。

 ビルゲンワース……オドンの地下墓のメモにもあったものだろう。

 あの扉の先に、ビルゲンワースがあるのか……?

 そして、大聖堂の警句……これは進まなければわからないか。

 

 

 

 大扉を開ければ、そこにあったのは礼拝堂へと続く大階段……そして、その両脇に立ち並ぶ異形の像。

 頭はアーモンドのような形状であり、身体は痩せ細った身体。

 槍のようなものを掲げ階段の上まで並んでいる像達に威圧感を覚える。

 あまり良い心地がせずに目を逸らせば、床や壁に立ち並ぶ燭台の中に、()()のメモが落ちているのに気がついた。

 

 

血の秘儀を継ぐ者、血の施しの主たる者よ

祭壇の聖蓋に触れ、師ローレンスの警句をその身に刻みたまえ

 

 

 血の秘儀というのは……血の遺志を受け入れる行為のことかな?

 あれは正確には人形が行なっていると思うのだが……私が継ぐ者、なのか?

 しかし血の施しの主とはなんだい……?まさかカオリのことか……いや、カオリはこの世界にはいない、ならば誰のことだ……?

 

 祭壇の頭蓋、師ローレンス……わからないことだらけだ。

 先に進め、ということか……

 

 

 

 

 

 大階段を登る。

 歩くたびに静寂を私のブーツの音が破る。

 やがてその音に何者かの声が混ざり始めた頃、私は大階段を登りきった。

 

 

 

「聖血を得よ」

 

 

「祝福を望み、よく祈るのなら」

「拝領は与えられん」

 

 

「拝領は与えられん」

 

 

「密かなる聖血が、血の乾きだけが」

「我らを満たし、また我らを鎮める」

 

 

「聖血を得よ」

「だが、人々は注意せよ」

 

 

「君たちは弱く、また幼い」

「冒涜の獣は蜜を囁き、深みから誘うだろう」

 

 

「だから、人々は注意せよ」

 

 

「君たちは弱く、また幼い」

「恐れを失くせば、誰一人君を嘆くことはない」

 

 

「聖血を得よ」

 

 

「祝福は望み、よく祈るのなら」

「拝領を与えられん」

 

 

「拝領を与えられん」

 

 

 

 その祈りの言葉は、か細い声だというのに礼拝堂全体に小さく響いていた。

 医療教会の祝詞であろうそれは、警句のようであり、神に祈るようなものではない。

 白い衣に身を包んだその女性は、水瓶を持った女性の像……そしてそれが祀られた大祭壇へと、祈りを捧げている。

 

「……」

 

 しかしその声は、どこか酷く()()()で。

 頼もしいとは、到底思えない。

 そして何より、()()()()()()()()()()()()

 脳裏に過ぎる一つの言葉。

 

 

 

 聖職者こそがもっとも恐ろしい獣になる

 

 

 

 故に私は、仕込み杖を変形させた。

 それと同時に、いや若干早く、彼女は苦しそうに身を縮め。

 ()()()()()()()

 

 

「う、うぅぅうっ……うああああ!!

 

 

 

 その身体が内側から裂け、血飛沫が壁や床、そして祭壇の像を紅く濡らす。

 肉体は膨張し、肉は生え、骨は伸び、その身を包む白磁の布は引き裂かれ意味を成さなくなる。

 

 

「……フー……グルルルルルル……」

 

 

 ゆっくりと、こちらへその身を向ける獣。

 もはや原形はない数倍は巨大化した肉体は、白銀の毛皮に覆われ、窓から入る月明かりと祭壇の蝋燭の火に照らされている。

 

 ツノが生え、ヴェールの残骸が被さった頭部。

 口元は鋭い牙が生えそろい、手脚は獣のように変質し、鋭い爪が鈍く煌めいている。

 

 そして、彼女の左手には、獣となっても離さなかった、黄金のペンダントが握りしめられていた。

 

 

 

 キュオオオォォォォォォ!!!!

 

 

 

 

教区長エミーリア

 

 

 咆哮が空気を揺らし、その名が頭に浮かぶと同時に、私はエミーリアへと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖堂街の上層……ビルゲンワース……」

 

「お役に立ちそうですか?」

 

「うーん……私には、あまり関係なさそう」

 

 

 聖堂街、石棺の教会。

 私とアルフレートさんは、情報交換をしていた。

 医療教会の血の源である大聖堂、そして聖堂街の上層のお話。

 医療教会の前身、学び舎ビルゲンワースとその門番のお話。

 

 どちらも興味深いけど、私にとって特に行く必要はない場所。

 獣狩りの道中に、立ち寄ることはあるかもしれないけど。

 

 

「……ところでアルフレートさん、私、何も情報を持っていないけど……」

 

「大丈夫ですよ、私の欲しい情報は限られていますからね。それにあなたは……狩人となって日が浅いように見えます」

 

 

 確かに、私はついさっき……ほんの一時間前ぐらいに狩人になったばかり。

 狩人さんたちが着るような装束も何も持っていないから、新人って言われるのも仕方ないと思う。

 ……そもそも私に合う装束も、ないと思うけど。

 

 

「この街を共に清潔にするため、生き残るためにあなたには多くのことを知ってもらいたいのです……なんでもよろしいですよ」

 

「……じゃあ、一つだけ」

 

 

 気になっていたけれど、聞けなかったこと。

 もし聞いて怒られたらどうしよう、とも思うけど、知っておいた方がいいと思うから。

 

 

「穢れた血族、って何?」

 

 

 私がそう言った瞬間、アルフレートさんはぴくりと眉を振るわせて……けれど、表情を変えずに、無機質に、口を開いた。

 

 

「そうですね、あなたにも伝えておきましょう。偉大なるローゲリウス師は言っています……『かつてビルゲンワースの学び舎に裏切り者があり 禁断の血を、カインハーストの城に持ちかえった』……そこで、人ならぬ穢れた血族が生まれたのです」

 

 

 人ならぬ……穢れた血族。

 禁断の血……カインハースト……聞いたこともないことばかり。

 

 

「……血族は、医療教会の血の救いを穢し、侵す、許されない存在です。その血族が、血族の長が、今もまだ生き残っている……だから私は、師の意志を継ぐために探しているのです。カインハーストに至る道を……」

 

 

 ぐっと手を握りしめるアルフレートさん。

 その瞳には、どろりとした、何やら暗いものが映っているようにも見えて……少し、怖くなった。

 

 

「というわけで、私が探しているのはカインハースト……及び、穢れた血族に関する情報です。もし何かあれば、何でもよろしいので教えて頂きたいのですが……」

 

「……ごめんなさい、私もまだ何も知らなくて」

 

「いえいえ、仕方がないでしょう。もし手に入れれば、で構いませんよ」

 

 

 そう言ってニコリと笑ったアルフレートさんの金の髪が、月光に照らされてキラリと光る。

 ギルバートさんと話している間にいつの間にやら日は沈みきって、月が空に昇っていた。

 

 

「……さて。もうこんな時間ですし、そろそろ私は移動します」

 

「……移動?」

 

「ええ、大聖堂の方へ。大聖堂前の円形広場はここヤーナムの中心地であり、様々な場所へと道が繋がっていると聞きますから」

 

「そうなんだ……」

 

 

 大聖堂、円形広場……ヤーナムの中心地だから、聞いたことはある。

 でも、獣狩りの夜、聖堂街の円形広場に続く正門は閉じられる……っていうのは、同じくらいの有名な話。

 どうやって入るんだろう……?

 

 

「あなた、そう怪訝そうな顔をしないでください。確かに獣狩りの夜、円形広場への正門は閉じられる……しかし、それはこの『()()()()』で開くことができるでしょう」

 

 

 そう言ってアルフレートさんが取り出したのは、布で出来たアクセサリー。

 白い布だったはずのそれは血に濡れていて、何となく私のリボンと重なって親近感を覚えた。

 

 

「これは教会の狩長が持っていたとされるもの……しかし、狩長はかつての獣狩りの夜で獣化してしまいました」

 

「じゃあ、それは……」

 

「私が獣となった狩長を狩った……というわけではありません。血濡れたこれを、大橋上の高台で拾ったのです……これで、円形広場に入ることができるでしょう」

 

 

 そう言うと、アルフレートさんは側に置いていた武器……大きな石鎚を持ち上げて、背負った。

 

 

「どうです?共に聖堂街へ行くというのは。この教会の下は旧市街、かつては市街地でしたが今はただの廃街と聞いています。得るものは、あまり無いとも思いますが……」

 

 

 ……旧市街。

 昔、焼かれた街。

 私が生まれる前の話みたいだけど、そこで何かがあったらしい、ということだけは大人たちが喋っていたから知ってる。

 ……そしたら、先に聖堂街に行くのもいいかも。

 一応、旧市街にも行ってみたいけど……優先度が高いわけじゃないから……

 

 

「……うん、私も行くよ、アルフレートさん」

 

「では、参りましょうか」

 

 

 歩いていくアルフレートさんについて行く。

 聖堂街、どんな所なんだろう……

 そういえば、お姉さんは……聖堂街に、いるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 避ける、避ける。

 迫り来る鋭爪を潜り抜け、噛みつきを避け、降ってくる巨体から距離を取る。

 教区長エミーリアは、まるで癇癪を起こした子供のように暴れる戦い方をしている。

 決して洗練されているわけではない、力と身体能力に任せた戦い方だ。

 ガスコインと比べれば余りにもお粗末、だというのに私は攻めきれてはいなかった。

 

 

「……全く、優れた肉体だね」

 

 

 祈りを捧げその身を癒し、傷を治したエミーリアを見て私はぼやく。

 

 その巨体に見合う毛皮はかなりの厚さを持っているのか、仕込み杖の刃が通り難い……聖職者の獣と戦った時以上に、効いている感覚が無いのだ。

 その上回復まで扱うとなれば、千日手になるのも必然。

 

 エミーリアは私に攻撃を与えられず、しかし私はエミーリアに対する決定打を持たない。

 火炎瓶という切り札はあるにはあるが……下手な時に投げても、治されて終わりだろう。

 故に切ることができず、こうして手詰まりの状態なのだ。

 

 

「はぁ……」

 

 

オオオォォォォォォォ!!!!

 

 

 地面を抉りながら迫る爪を避け、仕込み杖の一撃を見舞う。

 祈りで治りきっていない腕の傷を抉りつつ、2箇所に攻撃が集まるように攻め立てる。

 毛皮が厚く、攻撃の効き目が薄いのならば、一点を攻めればいい……というわけさ。

 エミーリアの動きも少しずつ悪くなっている。

 

 振り下ろされた両の拳により爆風が発生するが、それを躱し腕に攻撃を当てる。

 飛びかかってきた巨体を避け、腕の傷を広げる。

 こちらを掴もうとした手から逃れ、同時に刃を振るう。

 

 そうして腕が深く避けた頃、エミーリアは私から離れ、手を胸の前へ持ってきた。

 

 

「させないよ!はぁぁっ!!」

 

 

ガアアァ!?

 

 

 すかさず仕込み杖を振るい、その刃はエミーリアの傷へと吸い込まれ……大きく裂けていた皮の内側、露出していた肉を裂き、骨まで届いた。

 ()()()()、というやつだね。

 

 堪らず姿勢を崩したエミーリア。

 その頭部に、私は手に持っていた()を投げ当てる。

 

 

ガッ!?

 

 

 頭に茶色の液体を被るエミーリア。

 困惑した様子の隙に私はもう片方の腕の傷へと仕込み杖を突き込んだ。

 

 

ギュアアァ!?

 

 

 骨まで達したそれに、エミーリアは悶絶する。

 そうして頭が下がった瞬間、私は懐から取り出した瓶を三つ、エミーリアへ投げつけた。

 

 

ボボボォン!!

 

 

ァアアァァアアア!?!?

 

 

 爆発し、猛火を振り撒くそれは、エミーリアの頭にかかる布を焼き、毛皮を焼き、肉を焼き……その頑丈な肉体を覆う装甲を、捲れ上がらせた。

 

 倒れ伏すエミーリア。

 その露出した眼窩へと、私は躊躇なく腕を突き入れた。

 

 

キャァアアァアァァアアア!?

 

 

 目を抉り、その神経を千切り、そして繋がる脳を掴み、潰し、引き摺り出す。

 巨体に見合わぬ大きさの、人間のものから少し大きくなった程度の脳は、人の名残であろうか。

 聖堂の地面へとぶちまけると同時、エミーリアは倒れ、動かなくなった。

 

 

 

YOU HUNTED

YOU HUNTED

 

 

 

 爆発するかのようにその身に残ったエネルギーが解け、放出し、どこかへと消えていく。

 やがて全てが消えたその場に残されたのは、唯一彼女が離さなかった黄金のペンダント。

 

 

「……ふむ」

 

 

 見事な装飾の入ったそれは、おそらく医療教会にとっては重要なものなのであろうが……私にはそれがどのようなものなのかわからない。

 とりあえずは懐へと仕舞い、私は眼前へと目を向ける。

 

 

 そこにあったのは、獣の頭蓋骨であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんた、ガスコインの……そうか、そうなったか」

 

 

 聖堂街、オドン教会の裏手。

 アルフレートさんと共に聖堂街へと移動した私は、一度オドン教会へと戻ってきていた。

 目の前には、鴉羽を纏い仮面をつけた一人の女性……昔、お父さんと話しているのを見ていたことがある。

 たしか名前は、アイリーンさん……だったはず。

 

 

「……まあいいさ、狩人になったんならしっかりやりな。ほら、これでも持っていくといい」

 

 

 そう言ってアイリーンさんがくれたのは、火炎瓶。

 獣には火が効く、もし襲われたら火を当てろ……お父さんはよくそう言ってたっけ。

 

「……ああ、それと……警告があるのさ。聖堂街、オドン教会の地下墓には近付くんじゃないよ……ヘン……ンンッ、古狩人が正気をなくしている。狩人になったばかりのあんたじゃ、まるで歯が立たずに殺されるだけだ……いいね?」

 

「……うん」

 

 

 古狩人、お父さんもそうだったらしいけど……ずっと長い間、狩人だったらしい人。

 

 それなら、もしかしたらとっても凄い人なんじゃないかな。

 近づくな、って言ってたけど……遠くから見るくらいなら、大丈夫だよね?

 

 

 

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