目覚め、死に、目覚め、死ぬ。
食いちぎられ、八つ裂きにされ、轢き潰され、踏み潰され、撥ね飛ばされ……
その度に私は目覚め直し、ルドウイークへと挑んでいった。
その巨体から繰り出される攻撃は一撃一撃が今までのどれよりも重く、簡単に骨を砕き得る。
その獣爪は神秘の防御など関係なく私の身体を両断し、その分厚く硬い筋肉は仕込み杖の刃が通り辛い。
何よりも、鈍重な見た目だというのにその動きはスライムのように滑らかで立体的、故にその行動が読み辛いことが彼の者を強敵たらしめていた。
ヒャァアア!!!!
「くっ……!」
一つ前の死因である頭突きを避け、私は身体の横へと回る。
体側面というのは四足歩行をする生き物にとって弱点であるということを私は最近学んだからね。
その巨体は滑らかで素早いといえど、頭突きや突進といった大振りな攻撃をすれば隙が生まれるのは必至、故に私はガラ空きの胴へと腕を伸ばす。
「
私がそう呟くと共に、手の中に握ったナメクジは水銀弾と
ギャァァァアア!?!?
呼び出された触手はルドウイークの胴体へと吸い込まれていき、その堅牢な身体を難なく撃ち破る。
私の胴体よりも太く長いそれは、ルドウイークの身体を貫いた上で暴れ回り、その身体を蹂躙した。
ルドウイークはその脅威をすぐに引き抜き下がるが、横腹に開いた腹からは血が吹き出していた。
「ふむ、これは効いたみたいだね」
決定打の無い私が得た、脅威への切り札。
これが無ければアメンドーズ戦においても、100や200ではきかない死があったはずだ。
隙が大きく、また消耗が激しい代わりに、今までとは比べ物にならない火力を手に入れたというわけだ。
警戒を深めた二発目以降は当たらないだろうが……ルドウイークの攻撃は飛び掛かり、突進、頭突き、噛みつき、そして爪による切り裂き、つまり必ず体側面を晒す瞬間は出てくる。
ならば、そこへ仕込み杖を突き立てればいい。
そう思い、ルドウイークの次の行動を見れば──
キャォォォォオオオ!!!!
その身を縮め、何かを溜め込む姿。
それに悪い予感がして地面へと這い蹲った瞬間─────
ギャギャギャギャギャギャギャッ!!!!
────獣耳を掠め、何かが頭上を薙ぎ払った。
思わず背後を振り向けば、壁は横一文字に大きく裂け、抉られた跡。
そしてそこから滴る、白濁とした液体。
ルドウイークの方を見れば、その肩にある瞳が集まった器官が同じ白濁液を垂らしていた──
「ウォーターカッターかっ……!それも、神秘由来の……!」
直感──いや、啓蒙が最大限に警鐘を鳴らす。
先程のアレは単なる水の斬撃ではなく、神秘を
あの器官がどのようなものかも、目覚め直しにどう干渉するかも分からないが、当たればとにかく不味いのだと。
あの速度で飛んできたものを避けることはできないが、唯一の救いがあるとすれば予備動作が長いことだろうか。
再び撃たせぬ為に接近し、傷だらけの胴体や頭部へと攻撃を仕掛ける。
鉤爪を避け、突進を躱し、隙のできた胴体へ仕込み杖を突き込んだ。
同時に手を当て、押し付けたナメクジに水銀弾を食べさせる。
「エーブリエタースの先触れ!」
ゾパァン!と何か重い物が弾けるような音と共に、生えた触手はルドウイークの胴体を貫通した。
オオオォォォォォ……
どしゃり、と倒れ込むルドウイーク。
触手に貫かれ開いた大穴からは血が噴き出し、血の海へと流れ出していく。
その背に据えられていた大剣は滑り落ち、ルドウイークの眼前へと突き刺さった。
「はぁ……はぁ……やったか…………っっ!?」
一息吐こうとした瞬間、私は身の毛のよだつ感覚を覚え飛び退いた。
圧倒的上位者の気配、生物としての格の違いを感じさせるそれの存在感が、私を押し潰そうとする。
汗が噴き出て、動悸が激しくなる、
なぜだ、ルドウイークは倒した筈だ、そう思い其方を見──────
──そう、認識した。
「ああ」
その目に光が戻る。
蕩けた瞳は纏り、確かな光を見出した。
「ずっと、ずっと側にいてくれたのか」
劍を握る。彼が英雄であるための其を。
此なるは聖剣、闇夜を晴らす儚き刃。
「我が師」
「導きの月光よ」
神秘の嵐が吹き荒れる。
翠緑の刀身には、考えられぬほどの神秘が凝縮されている。
それは綿密に紡がれ形成された星の輝き、その一端である。
気絶しそうになる程の濃く、粘り強い圧力が私を潰そうとする。
掲げていた剣を、ルドウイークはゆっくりと下し、眼前へ構える。
一分の隙も無く、覇気を持って
それは、正しく英雄であった。
「……勘弁してくれ」
「……」
ルドウイークが聖剣をゆっくりと下ろす。
ザンッ!
斬撃が、飛んだ。
一拍遅れて突風が吹き荒れ、斬撃の軌道にあった石畳が抉れ死体の山は両断されている。
なんとか避けられたのは奇跡だ、斬撃は
「っ!はぁっ!」
長期戦や様子見は不味い。そう考えたセイアは、全速力でルドウイークに迫りその身体を杖で切り付ける。
「うおおおおっ!」
ルドウイークの咆哮が聞こえた瞬間、即座に逃れる。
と、同時に先程までいた場所に深々と剣筋が刻まれ、続く二撃目が眼前に迫っていた。
「──くっ!」
仕込み杖を地面に突き立て、慣性を利用し身体を無理矢理転ばせる。
自身の上を通り抜けていく斬撃に全身の毛が逆立つのも無視して、私は再度ルドウイークへと走り出した。
「さっさと決めなければ駄目かっ……!」
左手に握りしめたナメクジに、水銀弾を
瞬間、膨張するように膨れ上がったソレをまだ距離のあるルドウイークへと向けた。
対するルドウイークも、剣を真っ直ぐに振り下ろしてくる。
「はあっ!」
「先触れっ!」
発生した
高波、そして降り注ぐ血の雨に隠れ、私はルドウイークへ今度こそ肉薄した。
水銀弾を更に2つ喰わせたナメクジに、更に神秘をありったけ持っていかせ繰り出した。
ゴパァン!!
腹を貫通し、ルドウイークの背から伸びる触手。
それは暴れ狂い、内臓をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせる。
「があああっ!」
ルドウイークが暴れ、周囲に斬撃が吹き荒れる。
触手が収まり引けば、ルドウイークの腹には大穴が開き血がとめどなく溢れ出ていた。
先程貫いた穴も再度開いたのだろう、全身から血を噴き出させながらも、ルドウイークはこちらをしっかりと見据える。
そして、剣が妖しく光ると同時にそれを頭上へと掲げた。
「はぁ……はぁ……はあああああぁぁ………」
光が集まる。
空気が張り詰め、光の粒子が舞い踊る。
瞬間、爆発したかのように神秘が高まりエネルギーが収束する。
「っ!不味────!!」
「うぉぉぉぉぉお!!」
斬。
振り下ろされた聖剣に集った神秘が、指向性を持ち前方を消し飛ばす。
それは眼前の一切合切を区別なく蒸発させ、翠緑の光へと消え去らせる。
正に聖剣の一撃、英雄だった彼の奥義。
壁を貫通し
「ぐっ……かはっ……」
それはセイアとて例外ではない。
直撃こそ避けたものの、余波によりその身体はボロボロだった。
右目は見えず、耳も聞こえない。
高エネルギーに晒された腕は装束ごと皮が持っていかれ肉が露出し、杖はどこかへと飛ばされてしまった。
どうやら余波により水銀弾は失ってしまったらしく、懐を探ればそこには一つしか残っていなかった。
足はまだ走れる程度に被害を抑えられているが、そう長くは保たないだろう。
ギリ、と歯を噛み締め、走る。
ルドウイークは先程の一撃の反動か、全身の血が更に吹き出し片膝をついていた。
一部から内臓すらまろび出ているその姿体は正に満身創痍、しかしセイアが駆け出したことで力を振り絞り立ち上がる。
聖剣に神秘が再び集い、ルドウイークはそれを引き絞った。
セイアはナメクジに水銀弾を喰わせ、意識が保つギリギリまで神秘を
セイアへ向けて月光の突きが放たれ、しかしそれを皮一枚で躱した彼女は、ルドウイークの胸、そして首へとその手を向けた。
「エーブリエタースの、先触れ」
それは荒れ狂う触手を呼び出し、胸を貫き──ルドウイークの首を、落とした。
「はぁ……はぁ……」
満身創痍で倒れ込む。
もはや立ち上がる気力もない、これでは相打ちだね。
ふと側を見れば、そこにはルドウイークの首が消えずに残っていた。
胴体はエネルギーの奔流として消えたにも関わらず。
そして、その目はまだ
「……名も知らぬ狩人よ」
その生首は、ポツリと呟き、
「よくぞ、私を討ち取ってくれた」
そう、言葉を溢した。
【導きのカレル、依代には丁度いい】
【邪悪な白痴、その尖兵を奪うにはこれ以上ない蓑だろう】
【これで、更に彼女を──】
セイア編と本編
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セイア編を続け、終えてからメインに移る
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両方を混ぜる(完結後に別に纏め直す)
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両方を混ぜる(合わせて一つの章にする)