始まりは、愚者だった。
腕の立つだけの貧乏人だった私は、まだ医療教会ですらなかったソレに雇われ、聖者の墓の探索に駆り出された。
親も死に、明日をも知れぬ我が身……恐怖に侵されながら、私は地底を駆けずり回った。
そうして地下深くへと潜り……大群に襲われ死の淵へと追いやられた私を救ったのは、確かに教会の者だった。
無骨な手甲、厚く拵えられた聖布、そして特徴的な黄金のアルデオ……
当時英雄だった彼らは、強きを挫き弱きを救う存在であり、確かに『教会の名誉ある剣』だったのだ。
故に私は、誓った。
私も、彼らのように──
***
「……まだ、生きているのかい」
「そう警戒することはない……この身で何かできるはずもないのだから。少し、話に付き合ってくれないかい」
その瞳は蕩けている訳でも、はたまた狂気に冒され何処かを見ているわけでもなく、ただ澄んで私を見つめていた。
「不思議だ……こんなに
「……私は何もしていないのだけどね」
彼は酷く感激した様子だが、私は覚えがない……そもそも、そんなことになっているのはルドウイークが初めての事だった。
「……なるほど、益々面白い。外来の……それも、更に外からか」
「……!?」
この街どころか、この世界の外から来たことを見抜かれた……!?
どうして……いや、どうやって……!?
「なるほどなるほど、在り方が違うらしい。私がこうして
「言っている意味がわからないのだか……」
「ああ、すまない。こうして清らかな気分なのは……それこそ生まれて初めてなのでね。少々、感傷に浸ってしまった」
そう言うと、彼は息を吐き……改めて、こちらを見た。
「私はルドウイーク。英雄と持て囃された愚昧だ……黄金の狩人よ、君の名を聞きたい」
「……百合園セイア。君の言う通り、ここではない所から来た通りすがりの狩人というところかな」
「そうか……良い名だ。さて、セイアよ……君は、光の糸を見たことがあるかね?」
彼はそう言い、どこか懐かしむような表情を浮かべつつも私へと笑いかけた。
***
これより棄てられた街
獣狩り不要 引き返せ
教会の秘密の道を下って行ってあったのは、大きな扉とこの張り紙。
「獣狩り不要……?」
獣の鳴き声は聞こえるのに、なんで不要なんだろう……でも、引き返せと言われてるし……
うーん……
獣を狩れ
……行かなきゃ、ダメかな。
***
「とても脆く儚く……そしてか細い糸だ。だがそれは、血と獣の香りの中で、ただ私のよすがだった。私はそれを、導きと呼んでいたのだ」
「導き……」
私の中に
そういえば、
「真実それが何ものかなど、決して知りたくはなかったのだよ。私は、導きが正しい道を示してくれればそれでよかったのだ」
「……」
「しかし……残念ながら、導きは善いものではなかった。いつしか導きの走狗となった私は、瞳を求めた……護るべき民を狩人として獣狩りへと召集し、獣と……そして獣へと堕ちた狩人を狩り、瞳を集め続けた」
「……瞳」
「ああ……『導き』は瞳に宿るものだった。そして……そのために、私は悪戯に被害を増やす結果となり……そうして自身もまた、この悪夢へと囚われ獣に堕ちたのだ」
そう語るルドウイークは、酷く後悔しているようだった。
しかしそれは
「そんな私が医療教会にとっても都合が良かったのだろう。彼らは被験体を大量に得る機会を得て、その動きを一層活発とさせた……その裏の、非道な行動も」
「……君はそれを知っていたのかい?」
「ああ。しかし、導きを……そして教会を盲信していた私は、それに見ぬフリをした。もし私が今もそうであれば……悲観に暮れ、狂人のように喚いていたことだろう」
とてもそうは見えないほど、その目は真っ直ぐでその言葉は芯があった。
彼が、喚き暴れるなど……獣になっている以外ではあり得ないと、そう思わせるほどに。
「……今は違うと?」
「ああ。今は不思議と全てが理解できる……その上で、私は、そうだな……爽快な、あるいは清々しい気分なんだ。恐らくは、君のおかげで」
「……私の?」
そんな力は、私にはないはずだ。
現に、私が今まで狩ったことで宿った遺志たちは、思い思いの願いを私に告げてきているのだから。
そのどれもが、ドロドロと煮詰められた怨嗟とも見紛う執着の塊で、希望ということを知らなければ気が狂いそうなのだから。
「ああ……その身に纏う不可思議なそれのおかげだろう。導きを宿していた私だからこそ、
「……確かに私は神秘を纏っているけれど、これは防御用……そう聞いているよ」
かつてカオリに教わった、神秘とは何かという話。
すべての生徒が持つ、個々の本質……力の源泉だというこれは、
「ははは、なるほど……面白い、神秘を防御に使うとは……こほっ、だがそれは単なる防御膜ではない……そもそも、我々の知り得る『神秘』と君の持つ『神秘』は違いそうだ……こほっ……ヒュー……差し詰め、
「……待て、話すのを止めるんだ」
異変に気がつく。
ルドウイークはいつの間にか、咳き込み、息が細くなっていた。
気が付かなかったが、声も小さくなっている。
「ははは……流石に首だけで話すのも限界か……」
「っ……」
引き留める権利は私にはない。
私は彼を狩った側なのだから。
だというのに、私は彼をこのまま朽ちさせたくはなかった。
「……セイア。二つ、頼みを聞いてはくれないか」
「……なんだい?」
なんとかボロボロの身体を起こし、彼の前へと移動する。
今まで気が付かなかったが、ルドウイークの首の後ろの地面に一振りの大剣が突き刺さっていた。
それはルドウイークが背負っていた状態の、鈍銀に輝く一振りの聖剣だった。
「一つは……その剣を、君に貰って欲しい。その剣自体に、特別な力はないが……数多の獣を、そして怪物を……上位者をも狩り、しかし
「……わかった」
私は聖剣に手をかける。
動かぬ右腕を強引に動かし、両腕で引き抜けば、途轍もない重量の筈のそれは難なく引き抜けた。
元から自身の手足だったかのように手に馴染むような感覚……筋力不足で振り回されてはいるが、軽く振るってもある程度思い通りに動かせる。
ルドウイークはそれを見て、やはり、と言いながら笑っていた……私とこの剣の相性に気がついていたのかな?
「二つ目は……私の遺志を、連れて行って欲しい」
「……いいのかい?」
彼はこのまま眠れば、悪夢から解放されるだろう。
安らかに、この因果から解放される筈なのだ……
しかし彼は、なお夜に関わることを選ぼうとしている。
「君に、興味が湧いた。君を、君の為す事、その一助になりたい……そう思うのだ」
そう真っ直ぐに、私を見つめて彼は告げた。
***
「狩人よ、警告は読まなかったのか?」
谷に、そして旧市街に声が響き渡る。
「引き返したまえ。旧市街は獣の街、焼き棄てられて後、ただ籠って生きているだけ……上の人々に、何の被害があろうものか」
男は静かに、しかしよく通る声を、新たに現れた狩人へと投げかけた。
「引き返したまえ……さもなくば、我々が君を狩るだろう」
入り口にいる黄金は戸惑うような仕草を見せているが、引けぬ何かがあるのだろう。
腰が引けつつも、確かに一歩を旧市街へと新たに踏み出した。
分かり合えぬ悲しみと失望、そして怒りを抱えつつ、男はため息をつく。
友の遺したガトリングに手を掛け、もう一度視線を狩人へと向ければ、そこでは獣を斧で二つに割った黄金の姿があった。
まだ幼く見えるが、その正確さと力は既に一人前、故に男は慈悲を無くすことを決めた。
「……貴公、よい狩人だな。狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。よい狩人だ……」
「だからこそ、私は貴公を狩らねばならん!」
***
「……ん?カオリ、来ていたのかい?」
狩人の夢へと帰還した私は、椅子に座るカオリの姿を目にした。
直感が疼くのを感じるが、悪い感覚ではない。
……何を示している?
「ああ、君に用があってな……それは、かの英雄のものか?」
私の背に据えられた銀の剣を指し、彼女はそう言った。
「……託されてね」
ただ一言、それで十分だろう。
私の中の彼が笑う。
「……なるほど。その世界の英雄は託すことを選んだか。私は遺物として受け取ったからね……」
「……」
彼女はどのような道を辿ったのだろうか。
どのようにして、彼と対峙したのだろうか……
「それで、私への用事とはなんだい?」
「ああ、キヴォトスの神秘の業を狩りに落とし込む方法を思いついてね。セイアにも教えようかと」
「ふむ……神秘の業?」
私の中の彼が興味深そうに聞き耳を立てている。
彼はなかなか学者肌らしく、頭も回るが故に、興味を惹かれたことを探究するのが好きらしい。
「ああ。君たちキヴォトスの生徒たちは、神秘によって身を守っている。そうだろう?銃弾は致命傷にならず、爆発物でさえ大した怪我にはならない。それが、神秘によって形成されている防御だ」
彼が
ヤーナムでこの防御が役に立った気がしないのだが……いや、普通なら銃弾で致命傷になるのを防げるだけでアドバンテージなのかな?
まあ、当たれば爆ぜて仰け反れば隙ができ、それがヤーナムでは致命傷だからほぼ意味がないことではあるが……
「……しかし、私はすでに神秘を防御に使っている。そもそも、神秘による防御は極端に消耗していなければ常時発生するものだとカオリは言っていただろう?」
「ああ、そうだ。防御は常時発動……しかし、神秘の使い道はもう一つある」
「……攻撃かい?」
「ああ」
ルドウイークとの戦いでナメクジに喰わせたように、神秘にも防御以外の使い道がある。
そもそも私たち生徒は銃弾に神秘を纏わせているというが……
カオリの説明を聞き、実践すれば……どうやら近接攻撃にも神秘の転用が可能らしい。
武器に纏わせ、相手の防御を神秘により
神秘を纏わせることで自身と武器がより近い存在になるから、より手に馴染む気もする。
「おお、明らかに扱いやすいね……これを、あの剣で扱えれば……」
「ふむ……」
聖剣は、彼に言わせれば私の持つ神秘と相性がいいらしい。
神秘を使いさらなる強化をすれば……獣を狩る一助となる筈だ。
まだ無強化、血欠片による強化もしていないからね……
「セイア。あれを使いたいならば、筋力が必要だろう……」
「ああ。今の所、技術と神秘は十分だからね。ここらで少し筋力を伸ばさなければ、競合いやそもそものパワーが足りないと思っていたのさ」
「……なるほど……血の遺志は?」
「あいにく狩人の悪夢でたんまりと稼がせてもらったよ。何度か無くしかけたけれど、どうにか無くさずに済んだ……これは私が狩った彼らの遺志。私が背負うべきだからね」
シモンに会うまでも、ルドウイークに会うまでも、かなり死に戻った。
古狩人や大男、血を舐める獣に犬……そして大男……それらに負けては血の遺志を取り戻し、彼らを狩った。
早速人形にレベルを上げてもらい、これを使えるようにしよう。
レベル :40
体力 : 9
持久力 :17
筋力 :16
技術 :20
血質 : 6
神秘 :22
今上げられる分を筋力に振り、軽く剣を振る。
どうやら振った分で筋力は足りたらしく、不自由なく剣を扱うことができた。
試しに神秘を込めてみせれば、薄く銀に光る刀身……期待通りになるかもしれない。
……そういえば、カオリもヤーナムを踏破した筈。
それも、獣狩りの夜を乗り越えて……
ガスコインを斃し、エミーリアを斃し、ルドウイークを斃し、人々を助け──、……
「……一ついいかな、カオリ」
「なにかね、セイア」
「……ヤーナムの少女が狩人に目覚めたのだが……私は彼女をどうすればいい……?」
「…………ヤーナムの少女が……セイアはどうしたいのかね?」
ふむ、と一瞬考え込むようにカオリは首を傾げ、そのまま私へとその意思を確認してきた。
「……できるなら、普通の道に戻してあげたいんだ。狩人の血が流れていると言っても、彼女はまだ幼い子供……普通の人生を送ってほしい」
「ふむ……セイアが少女を救いたいと願うのならば、正しい道に導いてやることだ。もし、どうしようもなくなれば……その時は手を貸そう」
それはつまり、彼女を助けるのは、そして救うのは、私一人では成し得ないほど困難な道ということ……
「……わかった。そもそもあの子が獣狩りの血に目覚めてしまったのは、私のせいだからね……頑張ってみるよ」
「ああ……この後はどうするのかね?」
「……そうだね、『カレル文字』というものを扱うための道具を取りに行こうと思っている」
「ふむ……」
カレル文字……人形によれば、人ならざる者たちの言葉を表音したもの。
それらは特別な力を持つというから、取りに行って損はないと思う。
「……上手くやるといい」
「ああ、わかってる」
聖剣を携え、私はヤーナムへと目覚め直した。
***
『ソレ』は、目玉に宿っていた。
宿主の目を自身に適する様に変質させ、宿主を導き自身の成長に必要な瞳を集めさせる。
主たる月の力を使い、武力を与え、脳を刺激し智慧を錯覚させる……それが本能。
特別優秀な宿主についたお陰で、ここ数十年は満たされていた……のだが。
宿主が命の危機に晒され、それにより生存本能が掻き立てられたそれは月の力を久方振りに行使し、
しかし、ただの上位者由来の寄生生物であるソレに感情はない。
宿主を倒した存在に自らを移せば、より効率的に生存できる……
そう感じていれば、都合よく
一時的に宿主から離れ、ソレが宿っていた剣を彼女は手に持ち……彼女の気が付かぬうちに、彼女へと宿主を変えようとして──
【──来たか】
自身より遥かに格上の寄生生物に、一瞬にして喰われた。
【『尖兵』の捕食と、『導き』のカレル文字への適合──成功】
そして、ソレが扱っていたものと同じように自身の『主』へとパスを繋げ──
【……主よ、どうか彼女にその力の一端を】
──いいでしょう。
主の赦しを得たことで、その存在は【月光】を実現することが可能となった。
そして、その瞬間──
『おや、先客がいたのか』
強力な思念体──ルドウイークの、
実は本日は偶然にも作者の誕生日なのですが、水着セイアちゃんという最高の少し早め誕生日プレゼントをヨースターが発表したことで狂喜乱舞しています。ああ……導きのヨースターよ……
やっぱりセイアちゃんを……最高やな!
どんどん独自解釈というよりこのままでは魔改造ブラッドボーンが変な方向に突き進まないか?という状態ですが、こうでもしないとやりたい展開が書けないので仕方がないのです
というかセイアちゃんにそのまま導きと月光使わせるわけにはいかないよなぁ!?