見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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忌々しい狩人の小説に囚われ、だが逃れたければ
高評価と感想を書け。さもなくば、夜はずっと明けない


7.【幕間】狐と狩人の夢

 

 

 

「……つまるところ、エデン条約というのは、『憎み合うのはもうやめよう』という約束」

 

 広いテラスのような場所に立つ二人の男女。

 

「トリニティとゲヘナの間で、長きにわたって存在してきた、確執にも近い敵対関係。そこに、終止符を打たんとするもの」

 

 一人は、スーツを着た、黒髪黒目の顔の整った成人男性。

 

「互いが互いを信じられないがゆえに、久遠に集積していくしかなかった憎悪を解消するため、それに代わって新たに信頼を築き始めようとするプロセス」

 

 そしてもう一人は、その小柄な肉体を個性的な制服で包んだ、金髪にキツネの獣耳と尻尾が生えている少女。

 

「より簡単に言おうか。つまりエデン条約とは──ゲヘナとトリニティの平和条約だ」

 

 

 

 その少女──百合園セイアは、対面に立った『先生』に対して、静かに語りかけていた。

 

「ただ、連邦生徒会長の失踪をきっかけに、この条約は何の意味も持たなくなってしまった」

 

 対する先生は無言。しかし、一言も聞き漏らすまいと、真摯に向き合っていた。

 

「『エデン』……それは太古の経典に出てくる楽園の名。そこにどんな意味を込めていたのかは分からないけれど、まあ連邦生徒会長のいつもの悪趣味だろうね」

 

 エデンの園。外の世界では『東のかた』にあるとされ、あらゆる生き物の生まれた楽園。生物の願いが叶う、理想郷。

 しかし、キヴォトスにおいて細かい情報は失伝され、今では楽園であることしかわからない。

 

 

 

「キヴォトスの【七つの古則】はご存知かい?」

 

 セイアが先生に問いかける。しかし先生はセイアの目を見つめたまま動きもせず、黙っている。

 

「その五つ目は、正に『楽園』に関する質問だったね。【楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか】」

 

「他の古則もまたそうであるように、少々理解に困る言葉の羅列だ。ただ、一つの解釈としては、これを【楽園の存在証明に対するパラドックス】であると見ることができる」

 

 淡々と語るセイア。

 

「もし楽園というものが存在するのならば、そこに辿り着いた者は、至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出ることはない」

 

 それは、追放される者以外にとっての絶対の真実。

 

「もし楽園の外に出たのであれば、つまりそこは真の悦楽をえられるような、『本当の楽園』ではなかったということだ」

 

 かつて追放された者の末裔が、楽園を追い求める理由。

 

「であるならば、楽園に到達した者が、楽園の外で観測されることはない。存在を捕捉されうるはずがない」

 

 楽園を追い求める者たちが、楽園に決して辿り着けない理由。

 

「存在しない者の真実を証明することはできるのか?」

 

 それが、この問いである。

 

「つまるところ……この五つ目の古則は、初めから証明することのできないことに関する『不可解な問い』なのだよ」

 

 セイアがそう締める。

 

 

 

「しかしここで同時に、思うことがある。証明できない真実は無価値だろうか?この冷笑にも近い文章を通じて、何か真に問いたいことがあるのではないのだろうか?」

 

 そうセイアが問いかける。

 

「エデン……古い経典に出てくる楽園(パラダイス)。どこにも存在せず、探すことも能わぬ場所」

 

「夢想家たちが描く、甘い甘い虚像」

 

 セイアが少し悲しそうに、諦めたような表情をする。

 

「どうだい?そう聞いてみると、この『エデン条約』そのものが、まさしくそんなもののように思えてこないかい?」

 

 そう問われる先生だが、少したりとも動かず、ただ聞いているだけ。しかしよくみると、体が透けて、空間に溶けるように無くなっていっているのがわかる。

 

 

 

「……先生」

 

 セイアはそんな先生に言い聞かせるかのように呼びかける。

 

「もしかしたらこれから始める話は、君のような者には適さない、似つかわしくない話かもしれない」

 

「不快で、不愉快で、忌まわしく、()()()な……」

 

「相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実を疑い……()()()()()ような……」

 

「悲しくて、苦しくて、憂鬱で、狂いそうになるような……それでいて、()()()()()()()()()、そんな話だ」

 

 セイアが顔を少し青ざめさせ、身震いするかの如く身を縮こまらせながら語る。

 

 

 

「しかし同時に、紛れもない真実の話でもある」

 

「どうか背を向けず、目を背けず……最後のその時まで、しっかり見ていてほしい」

 

「それが、先生……『この先』を選んだ、君の義務だ」

 

 そう言い終わると同時に、先生はセイアの前から消え去る。

 

 

 

「……目覚めたかな、先生。今話したことが、少しでも彼の力になればいいのだが」

 

 セイアは、先生が消え後、ボソリと呟いて近くにあった椅子に座る。

 

「……キヴォトスは、滅びる……何通りも、何十通りも……」

 

 そして、うつむき、顔を暗くしてポツポツとつぶやく。

 

「獣によって、触手によって、機械によって、人によって、霊によって……人々は傷つき、ヘイローは砕け、死に至る……」

 

 深く、絶望した様子で。

 

「未来は、変わる。誰でも、変えることができる……だけれど、滅びを止めることはできない」

 

「せめてどうか、緩やかな滅びを……安らかな眠りを、キヴォトスに与えてくれ……」

 

 そう言ったきり、目を瞑って黙ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして。

 

「…………」

 

 周囲の雰囲気が変わる。

 

「…………?」

 

 座っていたはずの椅子は真新しい純白のトリニティのものではなく、古い骨董品のようなささくれた木の椅子に。そして吸い込む空気は現代特有の少し汚染された空気ではなく、清涼な自然の空気となる。

 

「ここは…………」

 

 顔を上げたセイア。

 

「またどこかに迷い込んだか……」

 

 見渡せば、どこかの庭のようだ。花畑が一面にあり、庭と外の境界には鉄柵が生えている。

 

「むっ……?」

 

 庭の外には広大な雲海。そして雲海から幾本もの塔のようなものが曇天を貫くように生えている。

 

「雲海と曇り空の狭間……?そんなところにこのような場所が存在できるはずが……」

 

 さらに周囲を確認すれば、後ろには巨大な木。木の淵には墓石がある。

 

 右を見ると、大きな屋敷のようなものが見える。

 左の空を見ればその部分だけ開いた雲の隙間から、通常の数倍は大きな、表面の模様がくっきりと見えるほど近くにある月がある。

 

 

 

「……夢ならば何でもありだとは思うが、こんな世界もあるものなのだな……」

 

 そうひとりごちるセイア。

 

「……ここは美しい景色だが、ずっとここにいることもできないだろうね……とりあえずは、あの家にでも向かってみようか……」

 

 そう言って、セイアは椅子から立ち上がり、歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花畑の庭を抜け門を抜けると、石畳が屋敷に続いていた。

 

 少し高台にある洋館の手前には少し開けた空き地があり、坂と階段が左右に回り込むように屋敷に向かい、坂に沿って墓が並んでいる。

 

 空き地の一番奥には、謎の水盆。そして、洋館のある高台の基礎の部分に出っ張った石垣の前に、一人の女が立っていた。

 

 

 

(彼女は……ヘイローがない……?)

 

 セイアが見たその女は、ヘイローを持っておらず、またキヴォトスの住民にしては凄まじく高い身長を持っていた。

 

(ヘイローを持たないということは、キヴォトスの住人ではないのだろうね)

 

 セイアは、キヴォトス外の住人と出会うのは、先生に次いでこれが二人目だった。

 

(キヴォトスの住人ではないということは、ここはキヴォトスの外なのか……?そういえば……ここには()()()()()()()()()()()。……情報を得るためにも、話しかけるべきか?)

 

 

 

「ヴァァァァァァ…………」

 

「?」

 

 ふと下から音がして、セイアは下を見る。

 

「ヴァァァァァァ…………」

 

 見た先にいたのは、地面から這い出てきた灰色の小人。*1

 

「ひっ!?」

 

 思わず飛び退いてしまうセイア。そして、少し恐怖しながらその小人を観察する。

 

(少々奇形だが……まるで()()()()()が動いてるかのようだ……)

 

「ヴァァ……」

 

 それを気にすることもなく、その小人は高身長の女を身振り手振りで指さしている。

 

「……」

 

(あの女と話せ、ということかな?)

 

 見たところセイアとは身長が50cm以上開いており、威圧感がすごい。ドレスのような服を着ており、その上から分厚いケープを羽織っている。胸には美しいブローチを、頭には人形のつけるようなボンネットをつけていた。

 

(……ここでこうしていても仕方がない。話すとするか)

 

 そう心に決めて、セイアは人形に近づき、

 

「やあ、見知らぬ人。私は、百合園セイアだ。あなたは?」

 

 できる限りフレンドリーに話しかけた。

 

 

 

「はじめまして、セイア様。私は人形。この夢で、あなたのお世話をするものです」

 

 人形はそう返した。


「人形?」

 

 セイアが驚き、まじまじと見つめる。

 

 人形と名乗った女の顔は、きめ細やかでとても美しく、しかし恐ろしいほどに色白で血の気がなかった。

 

「君は本当に人形なのかい?その、頭にかぶっているボンネットはいかにも人形らしいとは思うが」

 

「はい、セイア様。こちらをご覧ください」

 

 セイアの疑問に、人形は両手を差し出す。

 

「なるほど、君は確かに人形のようだ」

 

 そこには、立派な球体関節が。肌は血の気のないだけでほぼ人のような見た目であるだけに、関節の部分のみが球体関節となっていることにひどく違和感を覚え、また同時にどこか納得のいくものでもあった。

 

 

 

「セイア様。ご要望をお申し付けください。私がそれを、普く遺志を、手助けいたしましょう。どうか私をお使いください」

 

「まさに人形……というよりも、君は使用人だね。人形は普通は動かないものだけれど、ここは夢の中だから……何でもありだろう」

 

 そうして少し考えた後、セイアは口を開く。

 

「ここは、どこなんだい?キヴォトスにこのような場所はないし、君のようにヘイローのない()()()()()はいない。君が人形だからヘイローがないのだとすれば別にいいが、ここはキヴォトスではないだろう?」

 

「ええ、セイア様。ここは、狩人様の造られた、救いなき現実から逃れることのできる時の狭間の花園。狩人の夢と呼ばれる、古く新しい楽園です」

 

 その言葉に驚くセイア。

 

「楽園?君はここが楽園というのかい?」

 

「はい。少なくとも、創造主たる狩人様はそうおっしゃっていました。『私にとっての、私のためだけの楽園の夢』と」

 

 そう、ここは(狩人にとっての)楽園。

 人形ちゃんと戯れ、集めた血晶石を敵の心配なくうっとりと眺められ、武器の感触を確かめるための試し振りができ、生命線であるカレル文字を変え、ヤーナムのあらゆる場所、悪夢のあらゆる場所に移動し、そして聖杯の作り出すあらゆる地底に潜ることのできる楽園なのだ。

 

「そうか……ここが一種の楽園とはね……」

 

 自分の求める本当の楽園かどうかは置いておいて、楽園と呼称される部類のものである場所に辿り着いたことにセイアは感慨深くなる。自身を長年苦しめてきた夢によって来訪することには非常に複雑な気持ちではあるが。

 

 

 

「そういえば、あの小人たちはなんだい?」

 

 灰色の小人を指さすセイア。

 

「ああ、小さな彼らは、『夢の使者』。この夢の住人です。あなたのようなこの夢に入れる者を見つけ、慕い、従う…言葉は分かりませんが、かわいらしいものですね」

 

 そう説明する人形。

 

「か、かわ……?そうか……」

 

 困惑するセイア。しかし、あれが悪いものではないと知れたので先ほどの恐怖心は少し薄れた。

 

 

 

「狩人様にお会いしましたか?あの方は遠き世界の開拓者、そして(ソラ)の果ての上位者です。今はキヴォトスに出かけていますので、もう暫くでこの夢にいらっしゃるでしょう……それが、あの方の運命ですから…」

 

「狩人様とは誰のことだい?」

 

 そう聞き返すセイア。

 

「セイア様が先生と話してから数週間後にこのキヴォトスへ外から来訪した、この夢の創造主様です」

 

「そうか……待ちたまえ、この夢の創造主が私が先ほど話してから数週間後に来ただと!?もうそこまでの時間が!?」

 

「いえ、セイア様。ここ、狩人の夢は時の狭間。現在、過去、未来。あらゆる場所の狭間にあるのがここ狩人の夢なのです。現実の時間で言えば、まだ貴方が話してから一時間と経っていません」

 

「そ、そうか……」

 

(なるほど……たしかに『楽園』とも言える……時の狭間、あらゆる時間の外側にある一つの世界。それでいて例外を除けば招き入れられぬ限り決して入り込むことはできない夢……)

 

 

 

「ここにきたのは……私が初めてではないのだろう?」

 

 セイアが並んだ墓石を見ながら質問する。

 

「過去、狩人様ただ一人がこの夢を訪れました。ここにある墓石はすべて、かのお方のお知り合いの…名残です。もうずっと前の話ばかりに思えるそうですが」

 

 セイアはそう言われて墓を見る。みえる範囲の墓には、『Eileen』『Father Gascoigne』『Gehrman』『Ludwig』『Alfred』等と書かれている。

 

「望んで行く楽園ではなく、進み辿り着いた果ての楽園か……なるほど、ここが狩人とやらの行き着いた、望みの地なのか」

 

 セイアはそう結論づけた。

 

 

 

「そういえば君は私がここに来る前に話したことを知っているような口ぶりだったね。もしかしてここは外を見ることができるのかい?」

 

「はい、セイア様。ご覧になりますか?」

 

「……ああ、見よう。私が先生と話した後、どのようになっているのかをね」

 

「では、こちらを……」

 

 そう言って人形が指し示した先に、椅子と大きな鏡が使者によって設置される。

 

 

「これは、この館に設置してある鏡です。狩人様が、慰みにと私に用意してくださったものですが……どうぞご覧ください」

 

「ああ……わかった」

 

 こうしてセイアは、狩人の夢へと迷い込み、人形と親交を深め、これより始まる先生とトリニティの物語を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

*1
啓蒙+1




この世界のセイアちゃんは、原作とは違い『未来が変えられる』ことを理解しているかわりに、見た全ての未来で『キヴォトスが滅ぶ』のを見ているので『滅びは避けられない』と思っています。あと、この世界のバッドエンドスチルは全てセイアが見たものと運営に言われたりします。

セイアちゃんが座ってた位置は、ラスボス戦前にゲールマンがいる位置です。向きも、ゲールマンと同じ。
そしてこの小説ではセイアちゃんは尻尾があります。なぜならセクシーセイアだから……

人形ちゃんの身長は概算2m10cm。セイアちゃんは不明ですが150cm前後だと信じています。身長差のある子たちが仲良くするの……いいよね!

ランキングに載ってました。一番高い時は日間2位とかいう高順位に見えたんですけど……?皆様ありがとうございます!



頂いた狩人くんちゃんの名前です!みなさま良い名前をリクエストありがとうございました!!名前の募集はこれにて終了になります!!

エントリーNo.1
・月乃カオリ

エントリーNo.2
我(らの)脳(に)瞳(を‼︎)
・我脳ヒトミ

エントリーNo.3
人の形をした宇宙から呼び寄せられた上位者
・人形ソラメ(人形宙召、ヒトカタ ソラメ)

エントリーNo.4
・月極チカ(月極血狩、ツキギメ チカ)

エントリーNo.5
狩人ちゃんが明治ごろの元士族としてロールプレイするというのなら
・生駒ナナ

エントリーNo.6
・朱月ミコラ(蒼褪めた月+ミコラーシュ)

エントリーNo.7
・月詠チサキ(月の魔物+血咲=Bloodborne)

エントリーNo.8
SEKIROから
・変若水トモエ(おちみず ともえ)

エントリーNo.9
脳に瞳があればコーラルの声も見えるはず…
・狩人エア (かりど えあ)

エントリーNo.10
上位者として、人を見て人を識る
・人識ヒトミ

エントリーNo.11
脳に瞳を得るから、脳→能にして、
・能野ヒトミ(よきの ひとみ)

エントリーNo.12
モツに血の花を咲かせる
・盛付似チハナ
・盛付似チサキ
(もつに ちはな / もつに ちさき)

エントリーNo.13
栗本を崇めよ→拳で殴る→ガラシャ
・栗本ガラシャ

狩人くんちゃんの名前は

  • 月乃カオリ
  • 我脳ヒトミ
  • 人形ソラメ
  • 月極チカ
  • 生駒ナナ
  • 朱月ミコラ
  • 月詠チサキ
  • 変若水トモエ
  • 狩人エア
  • 人識ヒトミ
  • 能野ヒトミ
  • 盛付似チハナ
  • 盛付似チサキ
  • 栗本ガラシャ
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