見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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70.不穏な気配

 

 

 

 ぐしゃり、ぐちゃり

 ごぷ、こぷこぷ……ぱつぱっ

 

 血が泡立ち、肉は溶け、骨に穴の開く音が教会に静かに響く。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

キュアアアアアアアアア!!!!

 

 

 血に渇いた獣の血は猛毒であり、それを浴び続けたイズの肉体は生きているのが不思議なほどボロボロだった。

 顔に色が無く、銃を持っている左腕は潰れ力なく揺れている。

 口からは血の泡が溢れ、片目は既に見えず、左半身に浴びた毒血に身体が溶かされるような感覚。

 

 対する血に渇いた獣もまた重傷だ。

 右肩からは斧が作り出した裂傷で骨が飛び出ており、剥がれた皮のヴェールは半分が無くなっている。

 爪は折られ、牙は欠け、その身から毒血を撒き散らし、半身を引き摺るようにして尚、獲物を仕留めようと咆哮を上げていた。

 

 両者は互角、故に両者共、命を賭けた死闘となっている。

 次が最後の一撃、最後の応酬となろうという場面で、イズは斧を最上段へと構え、血に渇いた獣はその首を食いちぎらんと折れた牙を剥いた。

 

 

「ぐっ……あああああっ!!

 

キャアアアアア!!!!

 

 

 ゴシャリ。

 

 父ガスコインに勝るとも劣らぬ膂力で振り下ろされた斧は、見事に血に渇いた獣の頭蓋を砕き、そのまま地に突き刺さった。

 

 

 

YOU HUNTED

YOU HUNTED

 

 

 

「こひゅ……はぁ……」

 

 

 満身創痍、息も絶え絶えだがしかし、彼女は今宵初の強敵を倒し得たのだ。

 その手にはいつのまにか()()()()が握られており、それを見た彼女は満足そうにその息を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 オドン教会へと帰ってきて覚えた違和感は二つ。

 一つ目は、オドン教会にあった開かずの戸がいつの間にか開いていたこと。

 二つ目は、避難誘導した人数よりも一人多くこの場にいる、ということ。

 

 

「あ、お姉さん!」

 

「やあ、イズ」

 

 

 その、いつもより多い人影の正体が、私へと近寄ってきた。

 その貌は満面の笑みであり、その黄金の髪は一際輝いて見える。

 しかしその瞳は昏く、見通すことはできない。

 

 

「どうしたんだい、そんなに嬉しそうにして」

 

「ふふ、それはね、とっても強い獣を倒せたから!」

 

 

 とても強い獣……ガスコインやエミーリアのような、強力な獣を狩ったということだろうか。

 ならばいよいよ、彼女は狩人として一端のものとなってしまったらしい……

 目を離していた私の責とはいえ、カオリにも言った通りこれ以上彼女を深いところへ進ませるわけにはいかない。

 そう思い、彼女に獣狩りを止めるよう言おうとしたその時。

 

 

 毛が逆立ち、肌が粟立つような悍ましい気配がイズから放たれた。

 

 

「っ!?」

 

「お姉さん?」

 

 

 イズが不思議そうな顔をしているが、そのプレッシャーはどんどんと大きくなる。

 ()()()()()()()()()()()()()、そんな気配が。

 

 それと同時に、()()()()が漂った。

 それはまるで、狩人の夢の匂いのような……カオリや人形が纏うようなそれが、蔓延していく。

 同時に、ドクドクと血脈の波打つような音が鳴り響いた。

 あまりの圧力に力が抜け、足元が無くなるように姿勢が崩れそうになり──その瞬間、それは何事もなかったかのように消え去った。

 

 

「っっっ……!」

 

「お、お姉さん!?」

 

 

 思わず姿勢を崩した私を見たイズが、心配そうに支えてくれた。

 心臓が早鐘のように打ち、息は荒く、脚は震える。

 周囲を確認すれば、誰も何も感じず、異変など何もなかったかのように全てが、全員が元のままだった。

 

 

「だ、大丈夫……?」

 

「あ、ああ……」

 

 

 今のは、なんだい……?

 赤衣やアリアンナ、老婆がなんの反応もしていない……にもかかわらず、あれだけのプレッシャー……

 どう考えても、私に対する何か……牽制のような意味合いのものだろう。

 発生したタイミングを鑑みるに、彼女が狩人でなくなると不都合な誰かであり……尚且つ姿を見せずとも力のある常識外の……カオリのような存在が、圧力の主だろうか。

 ……不味いことになったかもしれないね。

 

 私の思考を読まれ阻止された時点で、彼女への干渉は難しくなったと言っていいだろう。

 そして、カオリが直接干渉しなかった理由がこの存在にあるとしたら……彼女の助けを借りることは難しいだろう。

 

 

「……イズ、なにか変わったことはあるかい?」

 

「え?うーん……特にないけど……」

 

「そうか……」

 

 

 自覚症状は無し、なら……私が力を尽くすしかないか。

 私の中の彼らもやる気のようだ。

 となれば……もっと、力を得なければ。

 獣を、上位者を……カオリすら超えられるような……!

 

 

「……イズ。これを君に」

 

「……お手紙?」

 

「ああ、カインハーストと呼ばれるものの所以の品だ……どうするかは君が決めていい」

 

「……わかったよ、お姉さん」

 

 

 とりあえずこれで、女王からの依頼はいいだろう。

 今はイズのことはどうすることもできないのだから、せめて彼女の利になるように……そして、私が強くなるために、為すべき事を為さねばならない。

 

 

「さて……行こうか」

 

 

 そう言って、私はオドン教会の開かれた扉へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「アルフレートさん、これ……」

 

「……おお、これは……カインハーストの印章……?」

 

 

 

 聖堂街と禁域の森を繋ぐ通路に、二つの黄金がいた。

 片方は小人であり、その背に大型の斧を背負っている。

 もう片方は大人であり、車輪を担いだその姿は異様に様となりつつも異質さを隠せてはいない。

 小人──イズから渡された手紙に、大人──アルフレートはその眼を丸くしていた。

 

 

「聞いたことがあります。かつてカインハーストの貴族どもは、こうした気取った、招待状を用いたと」

 

「カインハースト……」

 

「……素晴らしい……あなたに感謝します……

私はすぐに出ます……ああ、これも、師の思し召しでしょうか……血の加護に感謝を」

 

「……え?」

 

「ん?」

 

 

 アルフレートが口走った言葉に、イズは頭を傾げる。

 イズとしては、共に行くことになるだろうと思っていたのだ……しかし実際、アルフレートは一人でカインハーストへ赴こうとしている。

 その差が、2人が違和感を覚えた原因だった。

 

 

「……アルフレートさん、一緒に行こうよ」

 

「ふむ……ええ、構いませんよ。カインハーストを清潔にするのならば、強い者は何人いてもいい」

 

 

 そう言うと、彼は懐から一つの兜を取り出した。

 それは黄金の三角形、輝きと熱望の名を冠する処刑隊の象徴である金のアルデオ。

 それを被り、車輪を担いだ彼は、今までとは違う異質な姿となっていた。

 

 それはまさしく『処刑隊』と呼ばれる、古の教会の剣達の装備。

 彼がいつか憧れ、信仰を持った姿そのもの。

 

 

「かつてローゲリウス師は処刑隊を率い、カインハーストの城で血族を浄化しました。けれど、全ては叶わず、故に救いの重石として殉教者となったのです……偉大なる師が、穢れた血族、その呪われた地に囚われるなど!私は師を解放したい。列聖の殉教者として、正しく師を祀りたいのです」

 

「……うん。いいと思う」

 

 

 イズにはそこまでの狂信は理解できない。

 が、しかし……その熱量は、理解できた。

 故に彼女は、それを肯定する。

 

 

「女王と、そして今も尚残るであろう残党は強力です。気をつけて行きましょう」

 

「うん」

 

 

 狂信者と、幼い狂気。

 二つの黄金が、廃城に向け出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは」

 

 

 オドン教会を登った先にあったのは、塔のような建物に設けられた医療教会の工房。

 武具が下げられたそこをさらに登れば、閉ざされた扉と共に『輝く剣の狩人証』が安置されていた。あとカレル文字をいくつか。

 おそらくこの先は、位置関係的にも医療教会の上層部だろうか……とにかく進むことができないので下れば、そこには建物を貫く大穴が開いていた。

 足場に飛び降り、大穴を下っていけば、辿り着いたのは一つの扉。

 

 その扉の先には、狩人の夢が広がっていた。

 

 

 

「……いや、これはそのモデルか」

 

 

 オドン教会と医療教会の工房、聖堂街の狭間に存在する小さな庭園。

 少し進めば、見慣れた工房と石垣、そして階段がある。

 正しく狩人の夢の工房であり、古さからもここがそのモデルとなったものだとわかる。

 工房の中には人形、外には人形の替えの服もあり、棚には櫛……彼女を作った場所なのだろうか。

 

 埃っぽい床や本を掻き分け進めば、ふと燭台の上に何かがあるのに気がついた。

 

 それは渦巻きのようになった生体のようだった。

 無数の目がついたそれは、生きているように拍動している。

 悍ましい気配と共に上位者特有の圧力すら感じるそれは、まるで崇められる邪神のようにそこに鎮座していた。

 

 

「……これも上位者なのか?」

 

 

 警戒するが、これ自体はなんらかの触媒的役割を果たすだけらしく、特に何か私に影響を与えたりはしてこない。

 

 

「……持っていくか」

 

 

 どこで何を使うかも、どのように力を得られるかもわからないからね。

 

 

 

 

 




夏休みになったので不定期にあげることにします
その代わり投稿頻度高めます、今月中にセイア編を終われたらいいなという希望的観測。
文字数も増やしたい……キリのよさと、文字数を並立するのは難しいですね……

やっと確信に迫りつつありますね、まだ赤い月すら登ってないけど……
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