見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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77.見たまえ!青ざめた血の空だ!

 

 

 

 古狩人デュラは、旧市街の上の時計塔で一人思案を続けていた。

 上層の空気が変わったことを察したのだ。

 ここ、旧市街は最早捨てられた街であり、それは『獣狩り』や『居住区』としてだけではなく『儀式の地』としての役割も放棄された場所を意味する。

 かつて医療教会が行った儀式が何かは知らないが、赤き月が出た夜にこの街が地獄へ変貌したことは記憶に焼き付いている。

 

 最早どこで何が起ころうとこの街にその兆候は現れない筈だが、何があってもおかしくはないとデュラは警戒していた。

 そして、気付く。悍ましい気配が、上層から降りてきたことに。

 

 

「……友よ、今回は些か厳しいぞ」

 

「……」

 

 

 いつの間にか側に居た、ノコギリ槍を携えた狩人が無言で頷く。

 幾度となく死線を潜りこの街を守ってきた彼らだったが、今回ばかりは生き残れるかわからなかった。

 血に酔った幼い黄金が、笑いながら一人、また一人と斧で獣を両断する。

 その膂力は以前にも増しており、速度、正確さともに熟達したものとなっていた。

 肉体のリミッターが外れてしまっているのか、自身の肉体が壊れてしまいそうなほどだが、それを技術で補うことで正常にしているという、歪なバランスで成り立っていた。

 

 

「砲台は以前既に潜り抜けられている。二人でかかるぞ」

 

「……ああ」

 

 

 

 並び立つ二人を視認した黄金は、やはり笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 頭が痛い。

 ロマを倒した後の記憶が朧げだ……確か、女性と会って……それから……

 

 赤い月が、出た?

 

 あれが秘匿されていた儀式ということだろうか。

 まるで弾かれるように()()()()()()()()()()、気を失った……神秘の総量が大きく減っていることから、何かしらを防御したのだろうが……

 

 そもそも、私は湖の底にいた筈、なのだが目が覚めた時にはアメンドーズのいた大教会、そして今はヤハグル……『隠し街ヤハグル』にいる。

 

 以前も一度来た所だが……その時とは随分と違う様子だ。

 そこかしこで鐘の不協和音が鳴り響き、様々な所に大アメンドーズが張り付いている。

 

 そして極め付けは、鐘の音と共に地面から湧き出てくる獣たち。

 まるで物語に出てくる召喚魔法だ……湧き出してくる魔法陣が血というのもそれっぽい……いや血溜まりから直に湧いてくるのは違うだろうが。

 

 

 そういえば、最初に見た獣もこんなふうに血から湧き出ていたか……

 ヨセフカの診療所で、輸血された直後に……うん、やはりあの場所には何か秘密が隠されているのだろう。

 いずれ調べにいかなければ……

 

 

 

 

 

 道中で湧く獣や、それを呼び出す鐘女を狩りつつ進む。

 途中、小さなトルトニス……いやトニトルス?という雷を起こす装置を手に入れたが……名前が分かりづらいな。

 まあともかくこれが便利で、離れたところまで雷撃を行うというなんとも魔法のようなアイテムだ。

 神秘を込めれば本数や太さが変わるか……と思い試してみたら、目の前が真っ白になるほどの豪雷が落ちたのには驚いたね。

 

 それと、聖堂街上層につながる鍵も手に入れた……おそらく医療教会の工房の上にあった閉ざされた扉のことだろう。

 いずれこっちも、行かなければならない。

 

 

 

 時たま成体のアメンドーズの放つ極太ビームで渡ろうとしていた橋が獣ごと薙ぎ払われた時はヒヤリとした。

 あれ当たればおそらくひとたまりもないだろうね、当たった獣が蒸発していたから。

 何はともあれ、以前ヤハグルに来た時にあった、牢のある建物……大教会までたどり着くことができた。

 以前、牢の最奥で怯えていた女性は……残念ながら、救えなかったが……

 同時に人攫いも、何者かに鏖殺された跡があった。

 そこかしこに、死体が転がっている。

 

 大教会の外に出れば、そこには一枚のメモが落ちていた。

 

 

 

 

 

見たまえ!青ざめた血の空だ!

 

 

 

 

 

 どうやら、探し求めていた青ざめた血……それはこの空のことらしい。

 ……本当か?だとするとカオリはこれを求めろということに……いや、これを解決してみせろということか?

 それとも、また別のものが……「青ざめた血」が存在し、この空はそれと似ているということか……?

 まっったくわからない……わからないが、とりあえず……この儀式は、止めなければならないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 速すぎる。重すぎる。

 友が防御のために盾にした彫刻が粉砕されたのを見て、早々に直接の打ち合いは諦めざるを得なかった。

 二対一の利点を活かし、隙を突く形で攻撃を仕掛ける。

 しかし目の前の幼女はその身体の小ささを活かし、段差や障害物でリーチや攻撃を誤認させる。

 相性は五分、いやまだこちらが有利か。

 脅威は斧と、炸裂する散弾。

 距離感を測りづらく、当たればどちらも大きく怯んでしまう。

 そしてこの練度ならば、隙ができた瞬間狩り殺されるだろう。

 

 パイルハンマーの杭をセットし、銃で牽制しつつ隙を窺う。

 友がノコギリ槍で撹乱しつつ、背を向けた所へと撃ち込みたいところだが……流石に警戒されるか。

 以前は友を相手にして逃げおおせるのが関の山だったというのに、異常な成長速度だ……

 夢の狩人の中でも特殊な素質を持つのだろうか。

 時間をかければかけるだけ不利だな……早く仕留めることにしよう。

 む?斧をしまい、代わりに、車輪を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 動く死体の山や人体をつなぎ合わせて作られた犬などの悍ましい獣を狩り、やがて私は、広場へと辿り着いた。

 冒涜的な鐘の音は益々大きくなり、赤き月は爛々と輝いている。

 見ていると頭がおかしくなりそうだ……そして直視すれば、神秘が凄い勢いで減っていく。

 

 恐らく精神汚染か何かを防御しているのだろう……これに晒された、防御手段のない人がどうなるかは想像したくないね。

 

 そう考えていれば、その赤い月が黒くなっていく。

 いや、赤い月を覆い隠すように、黒い血の球体が形成されている。

 

 ボトボトと臓物や骨肉の混ざり物が血に落ちる中、黒血の球体には悍ましい生命体がその存在を形成していた。

 様々な人の部位が繋がれた、悍ましい肉の塊。

 四方八方から腕や足を生やしたそれは、接木と形容することすらも憚られる。

 

 やがてそれは、ゆっくりと黒血から産まれ落ち、鈍い音を響かせた。

 

 

 再誕者

 

 

 悍ましすぎる。

 ヤーナムへ来る前ならば、ショッキングすぎて見ただけで気絶していたかもしれない……

 これが街へと出る前に、今ここで狩らなければならない。

 

 赤黒い液体が()()()()()()()()()

 と同時に、私は横へとステップした。

 数瞬遅れて、骨と肉の雨が私の元いたところへ突き刺さる。

 骨は砕け、肉は腐っていて、なかなかの速度で降り注いだそれは直撃すれば恐らく命も危うい。

 

 

 更に、再誕者を召喚する儀式を行なっていた鐘女も火の球を放ってくる。

 時折ピンクの光弾が再誕者に当たれば、再誕者の裂けていた部位や折れていた部位が再生する……

 

 なるほど、火力支援に回復係……厄介だね、先に潰すか。

 

 懐から取り出した『処刑人の手袋』に神秘を流しつつ、水銀弾を入れる。

 中に入った水銀が溶け消えるとともに、18の怨霊が爆発するように溢れ出て、支援していた鐘女たちへと襲いかかる。

 忽ち命を吸い尽くし、力尽きる鐘女たち。それと同時に、再誕者は身体から生えた死体を私に向かって投げつけてきた。

 

 

「悪趣味が過ぎないかい?」

 

 

 月光で一閃すれば、また死体の滝が現れる。

 続けてまた死体が投げつけられる。

 

 

「もう手札がないのかい?拍子抜けだね」

 

 

 まだ産まれたてだからか、ワンパターンな行動しかしてこない。

 身体から生えた人間の部位の叩きつけや暴れ、死体の滝、死体投げ、時たまに手足で魔法の爆発。

 そのどれもが殺傷力こそ高いものの、私にとっては恐れるべきものではなかった。

 

 

「成長性に期待、といったところかな……まあ、ここで終わりなのだが」

 

 

 その言葉とともに、私は月光を解放し仕留めにかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

……

…………

 

 

「ゴフッ」

 

 

 失敗だ。

 彼女の底を見誤った。

 友は……もう息絶えているだろうな……即死だ。

 私は見逃されたらしい、いやトドメを見ずに去ったというべきか。

 車輪を持ち出した少女は、恐ろしい程に強くなった。

 恐らくは車輪に纏わり付いた呪詛の類を利用したのだろうが……

 

 友はノコギリ槍が一撃で砕かれ、その骨身が車輪の汚れになるまで大した時間は掛からなかった。

 パイルハンマーは片手を犠牲に()()()()受け止められた。

 反撃に振るわれた車輪は最早大砲と形容するような威力であり、私は即死こそしなかったが建物を貫通し下層へと叩き落とされた……

 

 

「すま、ない……友よ……」

 

 

 ひとえに、力不足……

 引き際を見誤った、私の失態だ。

 いずれ私も息絶え、生き残っている獣たちの餌となるだろう。

 最早起き上がることもできず、彼女の去っていった方向を見ることしかできない。

 

 異様な気配を漂わせる、墓地に繋がる大門。

 

 ()()()()()()()への入り口。

 

 

 誰か、彼女の狂乱を止めてくれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 静かになったヤハグルの最奥、そこでセイアは死体の山の上に立っていた。

 手にするは『黄色い背骨』……導きが回収しろという、儀式の素材らしい。

 一体全体何に使うのか皆目見当もつかないが、必要なものなのだろう。

 

 そう思いながら死体の山を降りようとした時、全身に悪寒が走った。

 振り向けば、広場の入り口に何かいる。

 

 それは、とても見覚えがあり、しかし全く知らない一人の少女だった。

 

 

 

「セイアお姉さん、遊びましょう?」

 

 

 

 悍ましい神秘を纏った車輪を携え、濃密な死の気配を纏った彼女は、私の知るイズではなかった。

 

 

「イズ、君は……血に酔った、のか……?」

 

「お姉さん、何を言ってるの?私はまともだよ」

 

 

 そんな筈はない。

 なら何故、その瞳が蕩けているのか。

 

 

「私ね、気がついちゃったの」

 

 

「どこもかしこも、獣ばかりだ……って」

 

 

 それは、その言葉は、その気付きは。

 彼女の父と、全く同じものだった。

 

 

「ヤーナムには、もう二種類の人しかいないんだよ?獣になった人か、これから獣になる人」

 

 

「なら、獣を狩れってことは……皆殺せってことだよね」

 

 

 彼女はその言葉を、欠片もおかしく感じていない。

 狂気に完全に飲まれてしまっていた……

 彼女もまた夢の狩人だが、道を踏み外せばこうも……壊れてしまうのか。

 

 しかしそれでも、私は彼女を止めなければならない。

 そしてできることならば……彼女を正さなければ……

 

 

「……そうか。それで、私はどちらかな?」

 

「ふふ、わかんない!だから ── 遊ぼっか」

 

 

 怨霊を解放した車輪を()()()、イズが構えるは愛斧と愛銃。

 

 

 月光を解放し、私は彼女と相対した。

 

 

 

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