見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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評価と感想がたくさんもらえて日刊ランキングでも上位に入れてとてもモチベ爆上がりなので三日連続投稿しちゃう
皆様ありがとうございます!


78.深まる夜

 

 

 

 闇夜に、一人の人物が歩いていた。

 男とも女とも区別つかぬ体型をしたその人物は、腰に刀を佩き、()()のマントを纏っている。

 頭には美術品と見紛う程の意匠が凝らされた銀のヘルムを被り、その表情を窺い知ることは叶わない。

 

 その人影は、まるで散歩でもしているかのように、獣蔓延る夜の街を歩いていた。

 交差路に立ち入った直後、何処からか獣が襲いかかってくる。

 黒い狼、罹患者の獣は待ち伏せを行い獲物を狩ろうとしたのだ。

 

 しかし、それが叶うことはなかった。

 気がつけば、罹患者の獣は地に臥していた。

 人影は、何事もなかったかのように立ち去っていく。

 

 それに苛立ち、罹患者の獣は追いかけようとした直後、気がついた。

 視界がズレていることに。

 

 その意識を最後に、骸は無惨に血を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 二人の黄金(イレギュラー)が激突する。

 岩盤をも貫くセイアの月光突きを、飛び越えることで避けたイズは、代わりに火炎瓶で爆撃を行った。

 セイアは雨のように降るそれらを月光波により薙ぎ払い、神秘で増幅した光波を返しに放つ。

 

 

「あはははは!すごい!」

 

「それで済まされると立つ瀬がないね!」

 

 

 ()()()()()()()()()()、イズは笑う。

 普段の狩人の戦い方を捨てた、互いの異常な力を押し付け合う戦いは、その余波で広場の地盤を破壊するほどだった。

 

 

「そお、れっ!」

 

 

 ゴォゥン!

 

 

「ぐうっ!」

 

 

イズが投げ放った斧が歪な金属音を立てて聖剣に弾かれ地面に刺さる。

 その隙に走り寄ったイズは、続け様に背負った車輪をセイアに真上から振り下ろした。

 

 

「流石にそれは当たったら不味そうだ!」

 

 

 石畳が放射状に粉砕され、瓦礫が舞い散る。

 飛び退いたセイアがエーブリエタースの先触れを使い、丸太のような触手が襲いかかる。

 しかし、拾い上げた斧にそれは両断された。

 

 

「出鱈目すぎるね」

 

「まだまだいくよ〜!」

 

 

 

 今のイズは神話に語られる戦士(ウォーリアー)のような、野蛮で、全てを薙ぎ倒す身体能力を手に入れていた。

 

 (狩人)の才能、(カインハースト)の血統、夢の狩人(本来の主人公枠)としての力、獣狩りの経験。

 

 それらに加えて、車輪に宿る怨霊と、赤い月の狂気(上位者の影響)……そしてセイアがまだ知らぬ、彼女の及ぼした神秘が、本来あり得ない反応を起こしイズに絶大な力を与えていた。

 

 しかし、与えられた力には代償が伴う。

 彼女の精神は狂気に満たされており、本来の思考回路は成立していない。

 今の彼女は赤き月の狂気のままに動く殺戮兵器(上位者の操り人形)のようなものだった。

 

 

 

 セイアの宇宙色の瞳が煌めき、隕石の弾丸が戦場を舞う。

 それらは厚い大理石の柱すら貫通する威力でイズに迫り、刹那で避けたその肌を熱で焼く。

 

 構わず突撃したイズの斧が、聖剣と鍔迫り合う。

 膂力で劣るセイアだが、既に似た経験(マリア戦)は存在していた。

 受け止められぬ攻撃を流し、弾き、逸らす。

 大剣で行っているとは思えぬ技巧で、当たれば即座に肉体が弾け飛ぶであろう攻撃の雨を捌き切る。

 

 

「あはははははは!あはははははははは!!」

 

「随分と楽しそうだっ!」

 

 

 戦いながらイズを分析していたセイアだが、彼女を言葉で止めることは不可能だと理解する。

 それは、彼女の中にいる『導き』とルドウイークからしても同意見だった。

 ただ狂気に呑まれている……だけならまだしも、今の彼女は()()()()()()()

 それはつまり、獣の病の兆候であり、血に酔った狩人の証。

 ここから正気に戻った狩人など、ただ一人の例外(ルドウイーク)しか存在しない。

 セイアはそれをよく理解しているが故に、最悪の精神状態で現在戦っていた。

 

 

 しかし幸い、彼女は赤き月という特殊な環境下にいることで夢の狩人の在り方をまだ保持したまま血に酔っている。

 つまりそれは、殺せば『目覚め直し』を行うということ。

 目覚め直しはその狩人を本来の状態に戻す力がある。

 故に、狂気が醒めることを願うならば、セイアは彼女を殺すしかない。

 苦虫を噛み潰すように、セイアはそれを受け入れるしかない。

 

 だが……

 

 

「はぁ……はぁ……随分と、強くなったね……」

 

 

 彼女の実力は、強者達を下してきたセイアと拮抗……いや、超えていた。

 技量こそセイアが長けているが、肉体面での差は特に顕著だ。

 イズは連続で放たれた月光を、捲れ上がり宙にある瓦礫を足場に舞い避ける。

 既にセイアの神秘は消耗し、リソースに底が見え始めていた。

 

 

「もう終わり?」

 

 

 セイアと対照的に、イズは余裕が残る。

 今のままでは実力不足であり、彼女を正気に戻すには更なる力が必要だった。

 故に──

 

 

 

 

 

「私の最大の攻撃をさせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 セイアが選んだのは、最大の攻撃を隠れ蓑にしての敗走

 

 

 

 月光の聖剣を、天高く掲げる。

 防御など考えない、大上段の構え。

 セイアの神秘が膨れ上がり、ヘイローが光り輝く。

 神秘が収束し、月光の翠緑が場を満たすほど光り輝く。

 

 

 それに呼応するように、赤き月が()()()()()()気がした。

 

 

 イズもまた、迎撃するために車輪を持ち上げる。

 勢い良く回せば、それは内に秘めた怨霊を溢れ出させ持ち主を包み込む。

 身を蝕む怨霊は、同時にその内なる大力を引き出すのだ。

 それと同時に構えるのは、彼女の愛斧。

 特殊な力などない無骨なそれは、父ガスコインと共に数多の獣を屠っている。

 彼女はそれを、セイアを迎え撃つように深く腰溜めに構えた。

 

 

 静謐な空気が立ち込め、二人の間に刹那の静寂が訪れる。

 星に見紛う程の神秘の光が、一点に凝縮された。

 

 

 

月光の奔流

 

 

 

 世界が、翠緑に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「あれ?」

 

 

 光が収まった時、そこには誰もいなかった。

 あるのは破壊され尽くしたヤハグルの街並みと、大きく抉られた広場のみ。

 イズによって両断された月光の奔流は、隠し街を破壊し尽くし深く傷跡を残していた。

 

 

「逃げられちゃった」

 

 

 それはまるで、鬼ごっこをしていた子供が捕まえ損ねたような軽さだった。

 逃げられたのなら次に会った時に狩ればいいと、そう考えている程度には、彼女は倫理観が欠けてしまっていた。

 

 

獣を狩れ

 

 

「他の獣も、狩らなくっちゃね」

 

 

 何処からか聞こえてくる声に、疑問を抱くこともなく。

 イズは、ヤーナムの闇夜に消える。

 

 

 

 これより一刻、『血に酔った狩人』イズ・ガスコインがヤーナムに殺戮を刻む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 神秘を使い果たし、疲れ果てたセイアは、教室棟にいた。

 月光の奔流を目眩しに逃げた先は、ヤハグルの最奥、何らかの儀式を行っていたと思われる地。

 そこにあった数多の『檻を被った死体』の中で、最も神秘のあるものに触れ、気がつけばセイアはこの場にいた。

 

 今のセイアでは、イズに勝つことはできない……これは、事実である。

 禁域の森、ビルゲンワース、隠し街ヤハグル……そして上位者ロマとの戦闘があったとはいえ、動かすことのできる神秘の殆どを月光へと注いでなおイズに与えられたのは掠り傷。

 

 イズの体力は無尽蔵にも思える程で、最後の月光を叩き切った時にも疲労を感じさせなかった。

 それだけ、隔絶しているということ……セイアは、それが悔しくて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 灯りをつけ、狩人の夢へと帰還する。

 疲労そのままに転がり込んだセイアは、独特な気配を感じ、その主人へと駆けた。

 

 

「はっ、はぁっ、はぁっ……!人形!カオリはいるかい!?って、君は……!?」

 

 

 夢の主、月乃カオリの助けを期待したセイアに待っていたのは、古狩人マリアの装束を身に纏った、カオリによく似た絶世の美少女。

 一部の隙もない、完璧な美術品と見紛うかの如き美しさと妖艶さに、セイアは言葉を失った。

 

 同時に、気がつく。

 その裏の存在に。

 有り得ざる神秘量と、信じられぬ程隙の無い立ち振る舞い。

 存在圧が、違う。

 

 これまで見て来た、()()()()どのような存在とも。

 

 

「初めまして、セイアさん……カオリさんは今、聖杯に出ています。代わりにお話、聴きましょうか?」

 

 

 上位者、月の魔物

 この『狩人の夢』の真の主。

 アメンドーズやロマとも、一線を画した、真なる存在。

 

 月乃ヒトミが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「いやあ、時間がかかったな……にしても、月が赤えな」

 

 

 身をやつした男は、ひいこらひいこらと言いながら森を抜けていた。

 聖堂街近辺へ行くことができるエレベーター付きの風車小屋は、狩人が拠点にしているため近づくわけにはいかない。

 村をこっそりと抜け、森と丘を越え、谷を這い上り、何とか禁域の森から聖堂街へと辿り着いた。

 

 

「ふう……全く。ここは狩人があまりいないってのはいいんだが、アクセスが悪いったらありゃしねえな。まあ……我慢だ」

 

 

 男は口が裂けそうになる程笑うのを我慢しながら、聖堂街を歩く。

 その彼の前に、人影が現れた。

 

 

「……あん?」

 

 

 それは、刀を佩き、鴉羽のマントを身に纏った、銀のヘルムを被っている人物だった。

 

 そして、男は気がつく。

 

 その人物から、有り得ないほど濃密な死の気配が漂っていることを。

 自分に話しかけて来た獣と混ざった狩人という珍しいやつも相当死臭がしたが、目の前のやつはそれ以上。

 

 

「おいおい……」

 

「……」

 

 

 彼、あるいは彼女は……男を見ても、特に何もしない。

 何もしないからこそ不気味だった。

 

 目と目が合った、そんな気がした瞬間、男は半歩右にズレる。

 その頬を掠め、()()()()()が街灯に穴を開けた。

 

 

「……あんた、どこかおかしいのかい?それとも、勘がいいのかな?」

 

「……」

 

「返事無しかよ」

 

 

 二発の弾丸……左手に持つのは連装銃か?

 ギリギリ早撃ちには反応できたが、今のだけでも凄まじい技量だな。

 教会の刺客、にしては身に纏うものに教会らしい装備がないな。

 上は鴉の羽のマント付きコート……噂に聞く狩人狩りとかいう気狂いか?

 頭と足は……銀の鎧か、全く覚えがない装備だな。

 そして、あの刀……かなりの業物か……

 

 

「おいおい、やめてくれよ。俺は普通の市民だぜ?」

 

 

 そう飄々と言いながら、両手を上げた男は一瞬のうちに目の前の狩人の分析を済ませた。

 どう頑張っても、無事では済まなそうだ。

 男は観念すると、手を下ろし……ため息をつきながら、中腰になった。

 

 

「全く……こんな見られやすいところでやりたくなかったんだがな」

 

 

 男の身体が歪む。

 至る所が膨らみ、皮が裂け、肉が増していく。

 やがて全身が毛皮に覆われ、目は赤く光る、大きな獣へとその魔を変貌させた。

 

 

「狩人など、お前らの方が血塗れだろうが!」

 

 

 恐ろしい獣と呼ばれる、理性を持った獣。

 カインの流血鴉と呼ばれる、狩人に対する死神。

 

 二つのイレギュラーが、ここでも衝突しようとしていた。

 

 

 

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