見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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あと10話前後で終わらせられそうだ……目算100話まで掛かる見通しだったから思ったより早くいけそう……



79.混沌

 

 

 

「なるほど。少女……イズさんが、血に酔ってしまったと」

 

「ああ……しかし、彼女は夢の狩人だ。ここの者でないとしても、何かしら特別な存在であることに変わりはない。何か手立てはないかい?」

 

 

 狩人の夢にて、セイアは月乃ヒトミと語らっていた。

 最初こそカオリ以外の上位者の気配に警戒したものの、人形に嗜められ一先ず気にすることではないと断定。

 カオリの代理として話を聞くと言う彼女に、イズに関しての相談を持ちかけた。

 

 

「結論から言うと、私で彼女を元に戻すことは不可能です」

 

「っ……そうか……」

 

「ですが、彼女を戻す手段は存在します」

 

「本当かい!?」

 

「はい。まず、彼女の血に酔った状態……これは、セイアさんの考えの通りに目覚め直しにより直すことができます。しかし……狂気に呑まれた状態、これは目覚め直しで解除することはできません。これは赤き月の上位者が齎しているからです」

 

「ふむ……」

 

 

 赤き月の上位者。

 既に儀式の秘匿は破られ、ヤハグルが行なっていた儀式も潰した……それなのに赤い月が続いているということは、まだ裏に何かあるということか。

 

 

「赤き月の上位者。その正体は、狩人の夢の主たる『月の魔物』です。彼女を元に戻すには、彼女の狩人の夢の『月の魔物』からの影響を取り除いた上で彼女を目覚め直させる必要があります。しかし、ここで最大の障害となるのか……老ゲールマンでしょう」

 

「ゲールマン?」

 

 

 以前こちらに迷い込んできていた、あの老狩人か。

 確かに立ち振る舞いは熟達していたが、それほどまでなのか?

 

 

「彼は全ての狩人の祖であり、夢の狩人が道を違えた時に介錯する役割を持っています。そして、彼が介錯した時……夢の狩人は、夢の狩人足り得なくなる」

 

「それはつまり、ゲールマンがイズを倒してしまえば目覚め直しができなくなるのか!?」

 

「ええ、そうです」

 

 

 なんということだ。

 老ゲールマンも、向こうの『月の魔物』もどちらも向こうの狩人の夢に存在している。

 私ではそもそも手出しはできず、イズが夢に帰ってしまえばその結末に干渉することはできない。

 

 

「ですが、セイアさんが向こうの狩人の夢に行く方法が一つだけ。然るべき時に、私とカオリさんに任せて頂ければ、あなたを送り届けることができるでしょう」

 

「……その、然るべき時とは?」

 

「まずは、ヤーナムに関わる儀式を解く必要があります。ヤーナムには、『月の魔物』以外にあと一体、街を混沌とさせている元凶がいます。それが壁となり、今のままでは向こうの狩人の夢に干渉することができないのです」

 

 

 つまりは、ヤーナムにおける元凶を叩かねば彼女の狂乱は止まらないということか。

 ならば、止めよう。

 そしてイズを止めるために、更なる力を得る。

 

 

「わかった。感謝するよ、ヒトミ」

 

「ええ。ですが、イズさんを狩り、目覚め直させ正気に戻す。これらはセイアさんにしかできません。頑張ってくださいね」

 

「ああ。成し遂げてみせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 聖堂街に、暴風が吹き荒れ雷が舞う。

 恐ろしい獣が操る風と雷が、カインの流血鴉を寄せ付けまいとしていた。

 

 

 

「死ねっ!死ねっ、死ねっ!狩人など、この人殺しが!」

 

「……」

 

 

 一方の流血鴉は、様子見に徹し、舞うように攻撃を避けながら抜き放った刀で正確に()()()()()()()()

 その刃を遮るものは存在せず、巧みに操られたそれは場を支配せんとする雷嵐を無意味と斬り伏せていく。

 

 第三者が彼のことを見たら、まるで彼の周りが()()()のようだと言うことだろう。

 刀一本で周囲の領域を支配するその練度は、紛れもなくヤーナム最高峰のものだった。

 

 

「くそぉっ!舐めるなぁ!!」

 

 

 流血鴉を寄せ付けぬよう暴風と雷をばら撒いていた裏で、恐ろしい獣は計算高くその頭を回していた。

 言動はあまり賢くは見えないが、彼の頭脳は本質的に狡猾であり残忍。

 故に、彼は対処される相手への雷の最も強い使い方を思いついていた。

 

 電荷を全身に溜め、毛皮を擦ることで増幅させる。

 そして、彼はその蒼雷を周囲一帯へと放出した。

 

 

 いつかどこかの星(ルビコン3)で、アサルトアーマーと言われたものと類似した、自身を中心とした電荷爆発を行ったのである。

 

 

 しかし、それすらも流血鴉には届かない。

 彼はその卓越した技量により、恐ろしい獣が行動する前に、連装銃を抜き放っていた。

 銃声は、三回。

 神速の早撃ちにより二発一射の弾丸は放出された雷撃を逸らし、その脅威を散らしたことで流血鴉には痺れひとつ残らなかった。

 

 

「化け物がよ……」

 

 

 

 

 そして、見極めは終わったとばかりに、その刃は命へと向かう。

 

 

 

 恐ろしい獣の攻勢を物ともせず、流血鴉が放った数閃。

 それらは的確に恐ろしい獣の厚い毛皮を裂き、確実に大きなダメージを与えた。

 

 

「くそっ!くそっ!!」

 

 

 あまりに技術の差がありすぎた。

 そこらの狩人であれば何もさせず鏖殺できるような実力のある恐ろしい獣が、ただの獣と同じように扱われていた。

 

 その首筋に、刃が届く────

 

 

 キィン!

 

 

 ────寸前、一本のナイフがそれを防いだ。

 続け様に投擲されたナイフを難なく弾き、後退する流血鴉。

 その顔を上げた先には、一人の女狩人がいた。

 

 

「獣を手助けする時が来るとはね」

 

 

 『狩人狩り』鴉羽のアイリーン、現着。

 戦いの行方は、未だ分からず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 教室棟、その二階。

 ヤハグルの最奥から移動できた場所だ。

 相も変わらず、溶けた学徒たちがいる中を駆ける。

 最奥の扉を開けば、身体が引き摺り込まれ……気がつけば、開けた土地にいた。

 

 暗く、()()月夜の高地。

 空気は冷たく、そして澄んでいる。

 雲海の上に佇む、山嶺の高楼。

 

 医療教会、その高等学派。

 隠し街ヤハグルを拠点とした、メンシス学派。

 

 その追い求めた悪夢──

 

 

 メンシスの悪夢である。

 

 

 

 

 

「ここにも銀獣がいるのか」

 

 

 悪夢の辺境で見た銀の体毛を持つ獣たちを狩りながら、セイアは山嶺を登る。

 周囲にはまるで人面が集まって固まったかのような気持ちの悪い岩が並んでいる。

 風景との差異が大きいと感じるはずのそれは、それは世界と調和し一種の芸術のようになっていた。

 

 そうして見えてきたのは、カインハーストの城にも見劣りせぬ大高楼。

 二棟あるそれらは大きな連絡橋で繋がれている。

 

 その中央にある大橋から、怪しい光がセイアへと降り注いできた。

 

 

「なんだ、これは────ごふっ!?」

 

 

 光に当てられた身体に、突如血の杭が現れ深々と突き刺さった。

 即座に岩に身を隠せば、杭は脆く崩れ落ちる。

 

 

「……辺境にいた、脳と瞳の怪物か」

 

 

 セイアの脳裏に浮かぶのは、細い身体に巨大な脳と無数の瞳を持った、クラゲのようなフォルムの化物。

 彼ら彼女らは瞳から怪しい光を放つことで、見つめた相手に血の杭を生やし蝕む。

 

 

「……なら、見つめられなければいい」

 

 

 見れば、そこらを闊歩する銀の獣にも血の杭は突き刺さっている。

 ならば、とセイアは足元の銀獣の死体を見やり、その身を担ぎ走り出した。

 狙い通り、セイアの身体に血の杭が生えることはなく、背負った銀獣の死体が怪光線を全て受けてくれている。

 

 やがて、怪光線が届かぬほど歩いたころ。

 セイアは、大高楼の麓へとやってきていた。

 

 

「さて……何が待っていることやら」

 

 

 ()()()()()()()気味の悪い感触を感じながら、セイアは大高楼へと侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 恐ろしい獣とアイリーンが、互いの隙を縫うように踊る。

 対する流血鴉は、猛攻を物ともせずまるで柳のようにその攻撃をいなしていた。

 

 

「あの化け物はなんなんだ!」

 

「昔の馬鹿弟子さ!イカれてたから破門したけどね!」

 

 

 一手間違えれば斬り伏せられる緊張感の中、本来共に戦うことなどできるはずもない二人が共闘する。

 

 しかし、流血鴉にとってはあまり面白くなかった。

 確かに師であるアイリーンには動きを読まれ、獣の命を取ろうとすれば潰される。

 アイリーンに近付こうとすれば獣が嵐と雷で妨害し、その隙に逃げられる。

 

 だが、そんなものは流血鴉にとって何の障害でもない。

 二人纏めて斬り捨てればいいだけなのだから。

 

 

 流血鴉が動き出す。

 手に持つその刃──カインハーストの名刀、千景。

 その刃に刻まれた複雑な波紋に血を這わせ、緋色の血刃を形造る。

 

 暴風も、雷も、アイリーンの妨害も、どれもこれもを斬り落とし、その脚を一歩、また一歩と確実に進めていく。

 その歩みは実に優雅で、カインハーストの歴史の重みを感じさせるものだ。

 

 

「おいおいおいおい……どうにかしろよ!」

 

「チッ……できればやってるさ!」

 

 

 反面、アイリーンと恐ろしい獣は後退せざるを得ない。

 恐ろしい獣による流血鴉との接敵から二十分、既にアイリーンのナイフは底をつきはじめ、恐ろしい獣には無数の斬り傷がつけられていた。

 

 

「くそっ!くそっ!役に立たん!」

 

「アンタもね!」

 

 

「……」

 

 

 絶体絶命、もはやこれまでか──そう思われた時、天は二人に微笑んだ。

 

 

 

 突然、カインの流血鴉に悪寒が走る。

 迫る攻撃を全て斬り伏せ退けば、先程まで居た場所に一本の斧が突き刺さった。

 

 

 直後、()()()()()が地面を揺らす。

 

 

「匂い立つなぁ……」

 

 

 戦闘の結末を待たずして介入したのは、隠し街ヤハグルにて殺戮の限りを尽くした狂気の狩人、イズ・ガスコイン。

 

 

 現在のヤーナムにおける、技の頂点と暴の頂点の邂逅。

 流血鴉に、初の緊張が走る。

 

 

「堪らない血で誘うんだから……」

 

 

 その瞳は、血の刃を形成している千景へと向いていた。

 

 その様相に、アイリーンは動揺する。

 知人の娘が、血に酔っているなど。

 しかも、自分の弟子と、同等の脅威かも知れぬと肌で感じ取ることに。

 

 

(ふざけるんじゃないよ……)

 

 

 内心、最悪を想定し……彼女は一人、心の中で黄金の狐に愚痴を吐いた。

 そして、イズを狩ることを決意する。

 

 それを見抜いた恐ろしい獣もまた、狩人は信用ならんと裏切りを決めた。

 

 

 

「あはっ、あはははっ、あはははは……!」

 

 

「……」

 

「チッ」

 

「クソが……」

 

 

 三竦みの、潜在的な四つ巴。

 戦局は、より混沌とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 メンシスの悪夢、その中腹。

 そこでセイアは、一人の男と対面していた。

 

 

 

 

 

ああ、ゴース、あるいはゴスム……

我らの祈りが聞こえぬか……

 

 

 

 

 

 彼は何かを求めるように、祈りを捧げる。

 しかしそれが何かに結実する訳ではなく、彼はため息を吐き、セイアの方へと向き直った。

 

 

 

 

 

けれど、我らは夢を諦めぬ!

何者も、我らを捕え、止められぬのだ!

 

 

 

 

 

 悪夢の主、ミコラーシュ

 この獣狩りの夜、その元凶の一人が、セイアの前に立っていた。

 

 

 

 

 




現時点のセイアステータス

レベル :80
体力  : 9
持久力 :25
筋力  :20
技術  :30
血質  : 6
神秘  :40

なかなか器用貧乏
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