見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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80.未だ終わらぬ悪夢

 

 

 

「ちょこまかと鬱陶しい!」

 

「アーッハッハッハ!随分と面白いイレギュラーが来たねえ!」

 

 

 メンシスの悪夢、その高楼の中腹にて。

 黄金の狐と、檻を被った狂人が駆ける。

 

 まるで迷宮のように入り組んだ高楼の内部構造ではあるが、流石にトリニティ総合学園ほどの広さではない。

 まして、セイアほど頭が良ければ道など即座に覚えることができるため、あまり苦戦はしていなかった。

 

 セイアが苦戦しているのは、目の前のミコラーシュに対してのみ。

 

 

「アーッハッハッハ!遅い遅い!!」

 

「いい加減に!してくれないか!!」

 

 

 月光波を飛ばしミコラーシュの腕を切断しようとするが、どうということはないとばかりにミコラーシュが投げた()()()に相殺される。

 

 

「君は随分と神秘の扱いが上手い。この私程とは言わないがね!」

 

 

 悪夢の主、ミコラーシュ。

 彼はヤーナムにおいて、最も頭がおかしい人間にして、最も神秘の扱いに長けた人間でもある。

 ヤーナムにおける神秘の総本山、医療教会。

 その上位会派の長という肩書きは、伊達ではない。

 キヴォトスにおける黒服たちゲマトリアをも凌ぐ神秘の使い手、それが彼である。

 

 

「君に一つ講義をしよう。神秘とはそれ即ち宇宙のエネルギーであり、霊的なものでもある。君は少々勝手が違うようだがね?」

 

 

 彼はセイアが放つ斬撃に、手に持っていた様々なものをぶつけて相殺する。

 それは石ころであったり、試験管であったり、はたまた何かのカードであったりした。

 

 

「我々は触媒を使い、形無い神秘を形あるものと定義し扱う。それは例えば固体であったり、液体であったり、あるいは気体であったり。そうして定義したものは、現象として身体の内外に現れるのだ!」

 

 

 テンション高く、彼はそう説いた。

 いくつかの触媒と見られる物を周りに散らしては、マネキンを動かしたり、月光波を相殺したりしている。

 

 

「君は神秘を身体の内で廻し、その結果身体強化を得ている。それは、『身体能力向上の効果がある物質』と定義した神秘を血中に回すことで身体のあらゆる器官に行き渡らせ、擬似的なドーピングを行うことで実現しているものだ。だから──こういうこともできる」

 

 

 逃げ惑っていたミコラーシュが、足を止めて腰を落とし、セイアへと向き直る。

 斬りかかるセイアの、月光の聖剣の腹へと手を添え、達人の動きでその刃を逸らした。

 そして次の瞬間、セイアはその身を壁に叩きつけられる。

 腹にジクジクと残る痛みを残した攻撃が、セイアにはなんだったのかわからなかった。

 

 

発勁、東洋武術の技だ。私は神秘を求め探究する過程で、これを習得した。学徒たちや一部の知人はこれを『ミコラーシュ神拳』と呼ぶ……正直、私にとってはそのネーミングセンスはどうかと思うがね?」

 

「学者にしては随分とスポーティじゃないかい?」

 

 

 ミコラーシュはそんな言葉を意にも介さず、倒れていた二体のマネキンへ神秘を込め立ち上がらせた。

 

 

「神秘を練り上げた()()、神秘を斬撃のように飛ばすその技術。見覚えがある……君は、『聖剣のルドウイーク』に連なる者だね?直接関わりがあったわけではないが、彼は医療教会によく尽くした……」

 

「黙れ。使い潰した側が彼を語るな」

 

 

 迫り来るマネキンを斬り捨て、ミコラーシュを睨みつけるセイア。

 直後にセイアの瞳から飛び出した隕石を、ミコラーシュは華麗に避けた。

 

 

「今のは夜空の瞳か、随分と古い物を持っているものだ!だが、君は些か攻撃が分かりやすすぎる。神秘の核と流れが見え見えなのだよ」

 

「核……?」

 

「神秘を練り上げた時、その中心には結目……分かりやすく言えば心臓、核ができる。それを軽く解けば、それだけでその神秘は崩れ効力を無くすのだ」

 

 

 先程から、セイアの月光波を相殺していたカラクリ。

 彼は飛ぶ斬撃の核を正確に見極め、石ころやカードといった物をそれにぶつけることで月光波を『解体』していたのだ。

 結目は神秘の収束点、最も神秘が集まるが故に攻撃に用いる時には着弾点に集める。

 しかし彼には、それは効果がない。

 

 セイアはそれを知ると同時に、これまで外側へ作っていた月光波の結目を内側へと変更した。

 

 

「なら、崩れぬよう練ればいい!」

 

「ほう、順応が速い生徒だ!面白い!」

 

 

 結目を変更した月光波を、ミコラーシュは解体しなかった。

 彼は袋小路の部屋へと逃げ込み、直前まで立っていた場所には深く斬撃が刻まれる。

 セイアが部屋へと立ち入った時、彼は一冊の本にメモを取っていた。

 

 

「君に先程触れて、わかったことがある。君の身体の組成は、()()()()()()ようだ!」

 

「……私は人間で、獣ではない。獣耳と獣尾(これ)は元からのものだ」

 

「古き血が混じろうと混じらなかろうと人は皆既に獣。そんなことはどうでも良い。だが……本来あり得ないことに、君の身体の何割かは、神秘で出来ている!とても素晴らしい!道理で神秘との親和性が100%に近しいわけだ!神秘の含有量が古遺物……聖杯に近しいではないか!」

 

 

 アハハハハと笑うその姿は、正に奇跡を見たとでも言いたげなほど嬉しそうで、高揚している。

 彼が言い放った聖杯というワードは、使い方は違ったがイズも言っていた言葉……どういったものなのかは知らないが、相当に強力なものらしい。

 

 

今宵は神秘の質が前夜と桁違いだ!私の持つ触媒の幾つかが、質が上がり効果量を増したが耐えきれず自壊する程に!その原因こそが、君だろう?狩人よ!」

 

「意味がわからない!」

 

 

 そう応え、剣を構えたセイアに向かって、ミコラーシュは片手を突き出した。

 その手には、何かが握られて──

 

 

エーブリエタースの先触れ!

 

 

「っ────!?」

 

 

 ()()()()()()()()()()が、セイアを千切らんと飛び出てきた。

 即座に月光の力を解放し、その触手をカチ上げ、強引に自身の居場所をこじ開ける。

 しかしそれでもその衝撃は凄まじく、セイアは壁へと叩きつけられた。

 

 

「ガハッ────!?」

 

「本来あり得ない、効果の向上!君が持つその特異性によって、ヤーナム全体の神秘の質が上昇しているのだ!!

 

 

 

 

 

 原典(Bloodborne)には存在しない、別の世界(ブルーアーカイブ)からの異物。

 それが齎したのは、世界に対するインフレであった。

 

 未来視を発動させる程の莫大で高純度の神秘を保有する、百合園セイア。

 その権能は月乃カオリに封じられたが、()()()()()()()()

 では、その未来視に使われていた神秘は行き場を失った今、何処へ行くのか。

 

 その答えが、原作から強化(インフレ)されているヤーナムの獣たちや上位者たちである。

 ヤーナムという、極小規模な特異点……獣の病が蔓延し、街は獣に溢れ、上位者(神性存在)が顕現し、赤い月と青ざめた血の空が現れるような異常な環境は、山々と湖に囲まれ外界と隔絶されている。

 

 それを成立させているのが、ごく当たり前に溢れる空気のような存在、神秘である。

 このヤーナムという土地は、外界と比べ遥かに神秘の濃度が高い。

 

 その神秘が、学園都市キヴォトス(神秘で成り立つ世界)から到来した、別の神秘に当てられ、変質し、その質を遥かに向上させたのだ。

 

 

 

 

 

「その身体を、是非とも解剖してみたいところだ。脳に瞳はなくとも、十分すぎる検体となるだろう……!」

 

「させるわけがないだろう」

 

 

 月光を、刀身に集める。

 神秘を相殺できるというのならば、できないほどの威力で消し飛ばせばいいだけだ。

 そう考えたセイアは、過剰な程に神秘を束ね、練り上げる。

 一極集中、イズに向けたものほどの神秘は込めないが、その質を高め小さく圧縮する。

 

 認めたくはないが、ミコラーシュの言葉はセイアにとって金言であった。

 神秘をより強く意識し、それをどう形作るかをよく思考する。

 神秘を自身の思い通りにできる物質と定義したことで、今までよりも更に扱う練度が上がっていた。

 

 

「ほう!この短時間でそれほど神秘への理解が深まるとは!君は実に良い生徒だ!!」

 

「君の()()ではないがね!!」

 

 

 構えは『突き』。

 過圧縮された神秘は、本来眩い輝きを放つ筈の月光の刀身をぼんやりと薄く光らせるのみ。

 しかしその内包する神秘を示すように、空気が焼け、刀身の周囲の空間が捻じ曲がり、異様な怪音が鳴り響く。

 

 受け流しは不可。

 即座にそう看破したミコラーシュだが、時既に遅し。

 

 

 

 

 

月光の貫き(ムーンライト・ピアサー)

 

 

 

 

 

 練り上げられ圧縮された神秘が解放され、一本の槍となる。

 それは凡ゆる障害を即座に蒸発させ、ミコラーシュを射抜くに留まらず、大高楼の一部を崩壊させた。

 

 正面に大きく開いた風穴は、暗く涼しい外の空気を運んでくる。

 外に覗く悪夢の山嶺と雲海を前に、セイアは聖剣を下ろし────

 

 

 

 

 

Oh!MAJESTIC!

 

 

 

 

 

 その声が聞こえた瞬間、聖剣を再び構えた。

 辺りを見回しても、その声の主は見当たらず、視線の先は虚空に消えていく。

 

 

『夢の中でも狩人とは!けれど、けれどね……悪夢は巡り、そして終わらないものだろう!

 

 

 それは奇しくも、『狩人の悪夢』に囚われた、終わりない狩りに狂っていく狩人たちを暗示しているかのような言葉だった。

 ミコラーシュは、狩人の悪夢の出来事を認知しえない。

 だがそれでも、その言葉はセイアの琴線に触れた。

 

 

「ミコラーシュ!!お前は絶対に狩る!」

 

『アッハッハ!アーッハッハッハ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 四人が舞う。

 イズと流血鴉の暴威は、アイリーンと恐ろしい獣にとって凄まじい脅威であった。

 音を遥かに超える剣速でもって凡ゆる物を粉微塵に斬り散らす流血鴉と、本能から来る超直感と馬鹿げた膂力で全てを粉砕し押し通るイズ。

 どちらも超常、二人が移動した場所には草も生えぬ有様である。

 聖堂街であった戦場はいつしか聖人墓地を過ぎ、禁域の森へと変わる。

 

 

「……!」

 

 

 埒が明かぬと判断した流血鴉は、イズを早急に仕留めるためその刀を鞘へと収めた。

 イズの攻撃の合間を縫い、その両脚をしっかりと地面へ付ける。

 即座に刃が鞘を伝い、加速し射出された。

 それは簡単に音を超え、人では認識できない速度となり、命を刈り取らんとする。

 

 血を伴う、居合。

 その刃が、イズへと届く。

 

 

「っ、〜〜〜〜!」

 

 

 袈裟斬りにされたその身は、小ささも相まって致命傷。

 しかし彼女は、それを無視して、その小さな口を開く。

 

 そして、斬られた拍子に宙を舞った()()()の注射器を、その歯で噛み砕いた。

 

 

「どんな化物になっちまったんだい」

 

 

 そう呟くアイリーンの視線の先で、イズはその肉体を完全に修復していた。

 通常の狩人ではありえない輸血液の使い方だが、彼女はそもそもイレギュラー(動脈注射)で狩人になった存在。

 血に酔った今では、常識になど囚われることはない。

 

 

「今のは危なかったかなぁ!」

 

 

 ぎりり、と音が鳴りそうなほどに力を込めて、彼女はその脚を地面へと叩きつける。

 

 直後、()()

 

 彼女の震脚が、地面を砕き、周囲を隆起させる。

 超反応により跳んで回避した流血鴉だが、イズの目的は足留めではない。

 重心を瞬間的に落として安定させ、体重を武器に乗せる、それこそが目的であり、震脚は単なる予備動作に過ぎない。

 

 

「はぁぁあ!!」

 

 

 繰り出すは異なる世界(エルデンリング)で『獅子斬り』と呼ばれた、武器を支点に縦回転し、その勢いのまま叩きつける技。

 イズの膂力と、獣狩りの斧の重さにより、それは本物へと昇華される。

 

 

「……っ!!」

 

 

 直撃した衝撃を受け止め切れず、樹を幾本もへし折りながら吹き飛ばされる流血鴉。

 その身体は森にあった風車小屋へと激突し止まった。

 

 叩き潰されぬよう瞬間的に幾重にも斬撃を重ねインパクトをズラしたものの、その衝撃は空中で受けたこともあり流血鴉の身体を駆け巡っていた。

 肋骨四本、指三本、左腕に罅。

 自身を診断しつつも即座に立ち上がろうとした流血鴉へ、巨大な回転ノコギリが振り下ろされた。

 

 

「……!」

 

 

 ギャリギャリと音を立て血の刃が削り取られる。

 回転力と反発するように弾かれた流血鴉は、態勢を立て直しその武具の主人を見た。

 

 

「……いまや夜は汚物に満ち、塗れ、溢れかえっている……穢れた獣、気色悪いナメクジ、頭のイカれた医療者、そして、血に酔った狩人……みんなうんざりじゃあないか……」

 

 

 その男は、目穴を開けた()()()を頭に被り、青い警隊服を身に纏っている。

 手には成人男性の背丈ほどの柄に、複数層の鋸刃のついた円盤がついた()()()()()()のような得物。

 

 

「俺はヴァルトール、連盟の長だ」

 

 

 連盟

 このヤーナムに古くからある、狩りの夜に轟く汚物すべてを、根絶やしにするための協約である。

 

 彼ら連盟のカレルを刻む者は、その誓いにより『虫』を見出す。


 それは、汚物の内に隠れ轟く、人の淀みの根源。


 連盟の最終目標は、すべての「虫」を踏み潰し、人の淀みを根絶すること……だからこそ、もはや『虫』などいないと分かるまで、狩りと殺しを続ける。


 血濡れの狩人集団、それが彼らである。

 

 

「血に酔ったのならば、お前は獣だ。穢れた汚物というわけだ……」

 

 

 流血鴉、イズ、アイリーン、恐ろしい獣、そして連盟。

 数多の思惑が、重なり合おうとしていた。

 

 

 

 




 なーんかミコラーシュが強くなっちゃった……
 まあでもキヴォトスにおける近接のできるゲマトリアって考えると多少はね……うん、多少は……
 いやそれでも強過ぎないか?

 イズちゃん'sドリームマッチ
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