星の娘、エーブリエタース。
名前はよく耳にする……私も幾度となく使ってきた『エーブリエタースの先触れ』に名前がついているからね。
ただ、あんなものとは比較にならないほど目の前の上位者は『硬い』。
『■■■■!!』
気をつけるべきは、丸太ほどの太さの前腕と、巨木程の大きさの背の触手。
基本の戦い方はこれらを使っての薙ぎ払いのようだが、巨大にしては動きが速くとにかく範囲が広い。
そして脅威となるのは、その質量。
エーブリエタースの先触れは幾度となく敵を貫通し、千切り、そして危うい場面で私の盾となってきたが……それらは全て、凄まじい質量があったからこそ。
力は速さと重さ、その両方を満たしている眼前の上位者が弱いはずもない。
「はぁっ!」
前腕へと斬撃を加えるが、その分厚さに阻まれ傷は浅い。
先触れと違い、本体だからか神秘で構成される防御の厚みも桁違い。
簡単には倒させてはくれないらしい。
『■■■■■■■■!!』
「随分と馬力があるね」
重戦車よりも大きな巨体が、力任せに体当たりを仕掛けてくる。
全てを薙ぎ倒さんと走る姿はブルドーザーが迫ってくるようだ。
余裕を持って避ければ、壁に激突し大空洞全体を揺るがす。
しかしそれだけのことを成せば大きな隙が生まれるのは当然、ここぞとばかりに斬りつけたが、傷は浅いようだ。
大技を当てれば大きく削ることはできるだろうが、そうするには私が扱える神秘の何割かを使わなければいけない……
倒す見通しも立っていないうちに用意するのは、メルゴーの乳母の時のように打開の可能性を得られる可能性があるが……あれは、一撃当てれば倒し切れると分かったからこそ。
何発当てても倒し切れるかわからない相手に使うのには、あまりよくないだろう。
『■■!!』
エーブリエタースが頭を振り上げ、ハンマーのように振り下ろす。
衝撃で地面が揺れる──が、他の攻撃と比べて遅いか?
「ふっ!」
避けた直後、聖剣で頭を斬りつける。
刃が深く入り手応えを感じた直後、薙ぎ払いを避けるため強制的に距離を取らされる……
「……なるほど」
急所は、ザクロのように開いた頭部かな。
他の比べて皮膚の厚みが薄く、ダメージを与えやすい……と共に、エーブリエタース自身も無意識か攻撃を緩めるため対応しやすい。
そうと決まれば、早速神秘を編み始める。
使う神秘は一割、イズには五割やミコラーシュ、乳母などには三割を込めていたが様子見という意味でもそれらよりは少なめにしている。
神秘を編み始めれば、エーブリエタースはすぐさま察知しこちらへの攻撃を苛烈なものに変化させた。
威力は高いが、巨大なために大振りで避けること自体は難しくないそれを、私はしっかりと判断し避けていく。
元々、どんな攻撃に当たっても致命傷なのはこの街に来てからずっとだったからね。
なら、何も問題ない。
「その目に焼き付けるといい」
神秘の練り上げが終わる。
狙うは頭部、技選択は突き。
一点突破だ。
「月光の貫き!」
練り上げた神秘が、攻撃に伴うようにその姿を形成する。
槍のように鋭く形成されたそれは、全てを貫かんとエーブリエタースの頭部へと吸い込まれていった。
『■■■■■■■■■■!?』
咄嗟にエーブリエタースが神秘の守りを全て集中させていなければ、即座に貫かれていた威力だ。
しかし彼女は、他の守りを捨てるのと引き換えに、その膨大な神秘でもって一点集中の攻撃を受け止めた。
ピキィィィィィィィン!!
「なにっ!?」
甲高い音と共に、神秘の障壁が月光を防いでいた。
あまりの高密度の神秘の衝突により、空間は揺れ、本来見えない筈の神秘が可視化される。
大空洞を彼我で隔てる程の巨大で、複数層で構成された極彩色に輝く壁が、エーブリエタースを守護していた。
流石に月光を完全には止めきれないようで、一枚、また一枚と壁は壊れていく。
しかし、壁は想像以上に強固だった。
月光の威力は徐々に減衰し、その威力を失わせ……最後に、光の糸を残して消失した。
「なんとも信じられないね……まさか、真正面から止められるとは」
かつてイズに向けて放った『月光の奔流』は、わかりやすく言えば範囲攻撃。
今だからわかるが、当時は神秘の目を隠すも何もあったものではなくただ浴びせかけていただけだった。
それならば、イズの力で強引に力場を切り裂き居場所を作り出すことも不可能ではない。
しかし、『月光の貫き』は違う。
ミコラーシュに講義された神秘の扱い方を私なりに解釈し、神秘を束ね、圧縮し、練り上げることで解放時の威力を格段に跳ね上げ、明確に形あるものとして定義し放つ技。
込めている意味は『貫通』であり、その名の通りに正面からぶつかればどんなものでも貫くことができる筈だった。
ミコラーシュは鏡で避け、メルゴーの乳母は逸らすことでこれを避けたが、直撃すれば致命傷は免れなかっただろう。
事実、乳母の分身体二体を葬るに留まらず、その領域を破壊した実績があるのだから。
使った神秘が少なかったというのはあるが、それでもエーブリエタースにダメージは通るだろうと考えていただけに少し衝撃的だった。
「強くなった実感があったのだが……自信を無くしてしまうね」
そう呟く私の前で、エーブリエタースは何かを発動しようと力んだ。
キュァァァァァァァン
先ほどとは別の甲高い音と共に、エーブリエタースの周りに透明な何かが展開される。
薄く何か揺れ動いているようにも見えるそれは、エーブリエタースを覆う程の大きさ。
足元の海面が、エーブリエタースを中心に波紋を描くように波打っている。
彼女がゆっくりと移動した時、展開された何かに当たった小石が砕けた。
「……バリア……いや、一定の範囲内に振動波を送っている?」
試しに懐から石ころを取り出し投げれば、領域内に入り少しした後に砕けた。
「砕けるまでの時間は物にもよる……か」
近接を主体とする私とは相性が悪く、加えておそらく月光波などを乱し掻き消すための結界だろう……戦えないこともないが、やり辛い。
問題は、この領域の防御への転用……先程見せられたように、目の前の上位者は大技に対して十分過ぎる効果の障壁を即座に展開するだけの神秘操作を見せた。
先程は壁を大きく展開していたが、今度は本当に一点集中で神秘を集めることもできるだろう。
それを超えてエーブリエタースを倒せるかは……わからない。
「さて、どうするか」
距離をとりつつ、様子見をする。
エーブリエタースの行動パターンはあまり変わったところはない。
強いて言えば、頭部から血のような液体をこちらに吐いてくるようになったことだが……冷静に見ていれば当たることはない。
振動波を当てた方が強いのはわかっているのか、突進を多用するようになったがそれくらい。
こちらは消耗するわけにはいかないため攻撃できず、あちらの攻撃は私に当たらないという千日手……どうしたものか。
そうこうしているうちに痺れを切らしたのか、エーブリエタースが新たな行動を始めた。
天に手を伸ばし、翼を大きく広げ、その神秘を順転させる。
掲げた前腕の間に、星の如き眩い光が見える。
それを私は、
「っ!
その神秘の流れは、ミコラーシュが魅せたものと同じ。
しかしその総量と起こる結果は、比べるまでもなかった。
天上に、
それは遍く総てを照らし、星界の神秘との接続を試みた。
エーブリエタースによる、『輝ける星』との交信。
それは、かつて彼女を見捨てたものへの接触。
しかし──エーブリエタースの望みは『此度も』叶わず、それはただ砕け散る。
星の小爆発により生まれた凄まじいエネルギーが、宙空で
「出鱈目だね」
大空洞の天蓋を埋め尽くす規模の光の雨が、こちらに照準を定めて動き出そうとする。
光弾は加速し、私を狙うビームとなって降り注ぐだろう。
ミコラーシュ戦の時のように、全て聖剣で叩き落とすのは無理だ。
数が十倍以上というのもあるけれど、そもそもの威力もこちらが圧倒的に高い。
けれど、なんだってやりようはあるものさ。
私は懐に手を突っ込み、『古い狩人の遺骨』を取り出した。
「フルスロットルで行くよ」
全身に、神秘を廻す。
血管、いや細胞一つ一つに至るまで、神秘を巡らせる。
私の全身全霊、最大出力。
思考が加速し、世界の時が延長される。
空から一斉に降り注ぐ光の雨が、多少遅く見えた。
それと同時に、その光の雨の落ちる先が
同時に、『古い狩人の遺骨』に流し込まれた神秘が発動し、私の肉体そのものが加速していく。
理解する前に、身体が限界を超えて動き出す。
私の身体が、
第一射、空の雨の半数が私のいた場所に降り注ぎ、地面を蒸発させ爆発とともに大穴を開けた。
しかしその時には、私は大空洞の天蓋にまで到達していた。
私が行ったのは、マリアがやった流星の如き飛び上がり。
身体を捻り、その回転力によって力を高めるもの。
しかしそれを攻撃には使用せず、私は天蓋に飛ぶ手段とした。
第二射、残る光弾のうち半数が私がいる天蓋へと発射される。
しかし私は天蓋を土台として、エーブリエタースへと
私が天蓋を蹴り落ちた加速力に、自由落下の速度が加わり、直後後方で起こった光弾の着弾による衝撃波に後押しされる。
第三射、残った光弾全てが、エーブリエタースへ落ちる私へと発射された。
それは奇しくも、私が光弾が展開されていた高度を通過した瞬間。
奇跡的に交差点がズレた光線を、身体を捻り回すことで紙一重で回避する。
更に、捻った回転を正すことなく利用することで、攻撃に回転の力を加える!
「はあああああっ!!」
『■■■■■■■!!!』
エーブリエタースが全体に張っていた振動の結界を、多積層型の障壁へと変化させる。
先程の自他を隔てる巨大な壁ではなく、私を止める為に用意された人間大、一点集中の防御壁。
それは聖剣とぶつかり合い、またも大きな干渉音を立てた。
ピキィィィィィィィン!!
神秘を束ねていない聖剣では、この壁を破ることなど到底不可能。
しかし私の狙いはこの壁を破ることではなく、
一見して無害な攻撃ではあるが、エーブリエタースは先程障壁を貫通されそうな大技を見ているから止めにくるだろうと予測し、賭けに勝った。
即座に防御壁を構成する神秘の構造を『導き』に解析させ、
同時に私は神秘を聖剣へと集い、束ね、編み上げる。
徐々に空間が歪む程の洗練された神秘が刀身に集い始め、同時に中和され強度を保てなくなった障壁は突き立てられた刃に耐えきれず一枚、また一枚と破れていく。
「はあああああぁぁぁっ!!」
『■■■■■■■■!!!』
エーブリエタースが壁を操作し物理的に押し返そうとするが、もう遅い。
聖剣へと集約する神秘と中和される障壁の神秘は反比例し、振り下ろされている月光の刃が加速していく。
そして──障壁を、抜けた。
■■■■■■■■■■■■■■!!!!
鈍い感覚と共に、暗い翠緑の刃がエーブリエタースの頭部に突き刺さった。
絶叫を上げ暴れ狂うエーブリエタースの頭が、青白く輝く。
「さらばだ────
────
大空洞に光が満ちた。
***
地下で起きていたかつてない程の神秘の衝突は、地上にも影響を及ぼしていた。
イズの注意が、その過敏すぎる感覚が、地下深くのセイアの神秘を感じ取っていた。
それに気を取られてか、イズの動きは散漫となり、流血鴉もまた地下に気取られながらも生きながらえるだけの隙を見つけ出していた。
「……シッ」
「……!」
ダパァン!
教会に響いた銃声。
イズが無造作に振り下ろした斧の側面に、流血鴉が神速の早撃ちで弾丸を撃ち込んだ。
本来であれば人の限界極限まで増したイズの膂力とそれから繰り出される超高速の攻撃をパリィすることは不可能。
しかし彼女と相対するはこのヤーナムで最も技巧が高い存在。
激戦で限界まで研ぎ澄まされた感覚と、磨き上げてきた最高の技能がその離れ業を可能とした。
「……!」
生まれたのは、一秒間の硬直。
その瞬間に、流血鴉は息を整え──その刃を、納刀した。
ヴァルトールとアイリーンは、二人の戦いに巻き込まれぬようある程度の遠巻きから隙を窺っていた為に、動き出してはいたが間に合わない。
繰り出されるは、遠く東の地でかつてとある剣聖が『竜』を討ったと伝わる技。
如何に斬ろうか、如何に斬るべきか……そう突き詰めた武の極地。
その刃が抜き放たれた時、イズの身体は
秘伝・竜閃。
高速の斬り下ろしと共に、斬撃が
肩口からバッサリと逆袈裟に裂かれたイズの身体から、血が噴き出した。
「カハッ────」
血を吐いたイズに向け、トドメを刺さんと再び納刀される千景。
それが抜き放たれんとした時──流血鴉とイズの間に、翠緑の剣波が撃ち込まれた。
「!」
即座にイズと距離を取り、新たな敵に備えた流血鴉。
その視線の先に
エーブリエタースを狩った百合園セイアが、大聖堂へと現着した。
エーブリエタースはヤーナム編でトップ5の強さです
硬い!重い!速い!単純明快な暴力は強いってはっきりわかんだね
セイア以外だとA.T.フィールドもどきを突破できずにすり潰されます