見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!   作:めろんムーン

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88.初代教区長

 

 

 

 漁村を進む。

 この村は海に侵食されたような状態で、フジツボや軟体生物、魚の死体などが至る所にあった。

 血や肉とはまた違う生臭さに慣れないと感じつつも、私はどんどん進んでいった。

 

 村民たちは皆無惨に殺され、頭をもぎ取られていた。

 そしてその頭は、網で一纏めに束ねられそこかしこに放置されている。

 ビルゲンワースが行った殺戮の後だろうそれを見れば、全てに必ず眼窩などとは違う()()()()()()()

 

 しかし、まだ生きている村人たちもいた。

 それらは皆一様に魚と合体したかのような……魚人とも言うべき姿。

 魚のような頭に背鰭、フジツボを生やした村人。ゴポゴポという音と共に銛や短刀で襲い掛かってくる。

 

 また、最初に会った男と同様のローブを被った大男もいた。

 彼らは呪詛により大量の怨念を呼び出し、それらは私へと追尾し襲い掛かる。

 カインハーストにあった『処刑人の手袋』と似たそれらを村人たちの陰から展開する戦法は、私にとってはかなり厄介だった。

 

 そして極め付けは、頭部に大きな瘤を持ち異形化した魚人の大男。

 瘤あたまとでも言うべきその魚人は凄まじくタフであり、肉質は硬く、筋肉質で力強い。

 フィジカル面で強いからか、その巨体に見合わぬ速度と巨体故のリーチを併せ持ち、更には体幹も強く怯み難いという、ヤーナムにきてから出会った敵の中でも一際厄介な存在だった。

 挙げ句の果てに、軽い傷ならば()()()()()()というおまけ付き。

 一割以下の少量の神秘を丁寧に練り上げた『月光の貫き』で急所を狙い一撃で倒せることを確認したからいいものの、そうでなければ凄まじく苦戦していただろう。

 

 

 そうして苦戦しながらも進み、たどり着いたのは一つの廃屋。

 そして出会ったのは、この狩人の悪夢で幾度も出会ったあのやつしの男だった。

 

 

「……シモン、何があったんだい」

 

「……ああ、あんた、どうやら俺は、しくじったらしい……」

 

 

 重傷を負い、傍に得物だったのだろう銀の曲剣を落としたシモン。

 彼は腹を大きな物で貫かれた上で、廃屋の木材に突き刺さるように吹き飛ばされたようだった。

 当然、輸血液はもう尽きており……内臓と背骨がやられ、助かる筈もない致命傷。

 

 

 

「鐘の音が、まだ聞こえやがる……獣の皮の殺し屋が、俺を殺しにやってくる……ずっと、ずっと……終わりなく……グウッ……ウッ……」

 

「とりあえず助けるよ」

 

「……無駄だ……やらなくていい」

 

 

 彼は私を手で制し、代わりに一つの鍵を取り出して押し付けてきた。

 鍵には地下牢と銘が彫られていて、彼がつぶやいたのは『鐘の音』。

 おそらくは……ルドウイークと戦った地下死体溜まりの先の医療教会の地下牢にいた男の部屋の鍵だろう。

 凄まじい血の匂いと死臭がしたあの男は記憶に残っている……たしか、鐘の音は聞こえるか、と私に問いかけてきていた筈だ。

 

 



「……あんた、お願いだ……この村こそ秘密。罪の跡……そして狩人の悪夢は、それを苗床とした……」

 

「……」

 

 

 狩人の悪夢はこの地に巣食う上位者が直接生み出したのではなく、この地の宿痾が生み出したものであるという。

 それほどにこの悪夢の怨念は、その呪いは強いらしい。

 ビルゲンワースから生まれた狩人、その子孫たる狩人たちがいつの間にか囚われてしまう程に強力な悪夢……それが副産物としてでも成り立つ程に。

 

 



「……お願いだ、悪夢を、終わらせてくれ……たとえ罪人の末裔でも……憐れじゃあないか。俺たち、狩人たちが…………あんまりにも、憐れじゃあないか……グウッ…ウッ……グウウッ……」

 

 

 彼は、そう唸り声を上げ……息を吐き切り、項垂れた。

 首筋に手をやれば、彼の脈は既になく……その身はやがて塵となり、悪夢に分解され糧となっていく。

 

 

「……そのお願い、聞くことにするよ」

 

 

 もはや聞こえていなくても、伝える先がいなくなったとしても、私は彼にそう応えた。

 そして、廃屋の外へと出る。

 

 見下ろすのは海……否、この悪夢で最も神秘が集う場所。

 ここまで近付けば、この悪夢の核も感知できるというもの。

 それはすぐ近く、しかしここからは遠い、海にあるようだった。

 

 

「……さて、行こうか」

 

 

 リーン、リーン……と、鐘の音が聞こえ始める。

 どうやら、私にも処刑人が来るようだが……そう簡単にやられるつもりは毛頭ない。

 臆することなく、私は足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 狩人の悪夢、大聖堂。

 その祭壇前までたどり着いたイズは、一体の巨大な獣を見上げていた。

 祭壇に横たわるその獣は、まるで寝かされた聖人の如き静謐さを持っている。

 肥大化した左腕はだらりと下がり、頭から指先にまで炎が伝播していた。

 獣皮の下は熱が籠っているかのようにも、中で炎が渦巻いているようにも見え、溢れた火の粉が散っている。

 

 燃え盛る、聖職者の獣。

 それは医療教会の創設者であり、初めて獣化した聖職者でもある。

 

 『初代教区長ローレンス』……それが、彼を示す銘だった。

 

 

 

「……呼んだのは、あなただよね」

 

 

 

 イズがそう呟き見上げる中、それはバキリ、と音を立てて動き出した。

 躰軀の内に抑えられていた焔火が溢れ、灼熱の風が大聖堂に吹き荒れる。

 左の巨腕で地面を焦がしながらその巨躯を支え、右腕で頭を押さえながらゆっくりと祭壇から降りたローレンスは、イズに向けて手を伸ばした。

 その目から、口から、地獄の業火が垣間見える。

 かの獣の頭は左が大きく割れ、焔が溢れ出していた。

 

 ローレンスが求めるのは、かつて自分自身が守れなかった過去の誓い。

 獣の病を根絶しようと夢想し、凡ゆる罪を重ねた彼はしかし、『かねて血を恐れたまえ』という始まりの警句を忘れ、人のカタチを失った。

 彼は今、それを取り戻そうと願うのだ。

 

 

 

 

 

キュアァァァオオヲヲ■■!!

 

 

 

 

 

 全てを焼き溶かす程の熱波が渦巻き、大聖堂を吹き抜けていく中、イズは斧を変形させ伸ばした。

 

 

「……はは」

 

 

 自分の意思とは無関係に、身体が勝手に戦闘準備を整える。

 自分がこれから戦うのを第三者として見ているような感覚に、イズは乾いた笑いが出てしまった。

 

 

「……私を、殺してね」

 

 

 

 

キョアァァァ■■■■■■!!

 

 

 

 

 イズの声に応えるように大きく咆哮したローレンスが、その巨大な左腕を見合わぬ速度でイズへと叩きつける。

 咄嗟に斧で防ぐがローレンスの膂力は生半可なものではなく、イズの脚は大聖堂の床にめり込み、重厚な石材の床が耐え切れずに粉砕した。

 受け止めたイズもまた、両手両足に激痛が走り関節が軋む……が、目に見える傷は皆無だった。

 

 だが、直撃に耐えられたとて熱は別。

 受け止めた斧が、ローレンスの放つ熱により赤色に変化を始める。

 

 

「っ!」

 

 

 危険と判断したイズの身体が、即座に馬鹿げた膂力で頭上の巨腕を跳ね除け、同時に身体に攻撃を叩き込んだ。

 

 

オオオオオヲヲヲヲヲ■■■■■■!!

 

 

 だが、ローレンスの肉体は堅い。

 確実に絶命させる威力が乗っていたはずの斧は、めり込みはすれどしっかりと腹で受け止められていた。

 腹部に斧を叩き込まれても、ローレンスは怯まず燃え盛る左腕で辺りを薙ぎ払う。

 堪らず離れるイズだったが、今の攻防によるダメージは避けきれていなかった。

 

 斧を持つ手から、嫌な匂いがする。

 斧を腹に叩き込んだ時、ローレンスの体内にある熱が即座に斧を伝播し手を焼いたのだ。

 皮膚が癒着せぬよう即座に持ち変え、ローレンスを見据える。

 ローレンスの身体は堅いが、斧自体はめり込む程度にはダメージを与えられた。

 傷口を見れば、体内の熱が漏れ出しそうなほど赤色がチラついており、ダメージを通すきっかけ自体は作ることに成功したらしい。

 

 いつまでも様子見してはいられない。

 ローレンスが巨大な左腕を振り回し、辺り一帯を薙ぎ払いながらイズを仕留めんと迫る。

 しっかりと避けつつカウンターで攻撃を加えていくが、腕が振るわれるたびに辺りには炎が広がり、その熱は確実にイズを削る。

 だが同時に、岩をも砕き鉄をも容易く破壊するようなイズの埒外の膂力から繰り出される斧の攻撃を何度も耐えることができる生物は、この世にはほぼいない。

 ローレンスの肉体にダメージは着実に蓄積し、その傷跡からは炎が漏れんとして内で暴れていた。

 

 ローレンスは動き自体は単調であり、薙ぎ払い、殴りつけ、ジャンプなどの巨体を活かしての質量攻撃の繰り返し。

 だが、それらを行う素早い動きと広がる焔、そして何よりも巨体と肥大化した腕のリーチが複雑化させる。

 

 しかし、戦況はイズに有利だった。

 イズの膂力はローレンスをも上回っており、小回りも効く上に素早い。

 ローレンスが優っているのはその質量と焔のみであった。

 

 

「フッ!」

 

 

 猛攻を掻い潜り、イズの刃が再びローレンスの腹部へと迫る。

 そして、初撃で入っていた傷口へと獣狩りの斧が吸い込まれ、直撃した。

 

 

■■■■■■■■■■■!!

 

 

 それは、ローレンスの肉体を切り裂き、その内側へと到達した。

 

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 

 

 しかし、斧の手応えがおかしい。

 まるで、どろりとした液体に突き刺さったかのような感触。

 イズが注視すれば、途端に斧と肉の隙間から火の粉と共に爆炎が舞い出た。

 

 

「……!?」

 

 

 急いで斧を引き戻せば、途端にローレンスの傷から吹き出したのは溶岩

 勢いよく溢れ出るそれが、大聖堂の石床に煙を上げさせ、同時にローレンスの身すら焼き溶かす。

 それはどんどんと勢いを増し、やがて洪水となり傷口を広げ…………耐えきれなくなったローレンスの腹部が、まるで爆発するかのように噴出した溶岩によって破裂し、下半身が離散した。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

 上半身が地面に落ち、どくどくと腹部の断面からは止まらぬ溶岩が無尽蔵に溢れていく。

 それは止まる気配がなく、むしろ益々量が増えている。

 

 

 

■■■■■■■■■■■!!

 

 

 

 しかし、ローレンスもまた止まることはない。

 上半身となっても未だ生きている彼は、異常発達した左腕を使い這いずるように移動し、イズへと攻撃を仕掛けてきた。

 溶岩と炎を撒き散らし、通った場所全てを破壊するそれを、イズは正面から迎え撃った。

 

 

「たあっ!!」

 

 

 振るわれた左腕に向けて、斧が振るわれる。

 それらは衝突すると共に轟音を響かせ、衝撃波を発生させた。

 

 炎を振り撒きながらローレンスの左腕が弾かれる。

 下半身がないため踏ん張りが効かず、寝転がった状態での攻撃では、イズの攻撃に打ち勝つのは不可能だった。

 

 

 

■■■■■■■■■!!!!

 

 

「はああああっ!!!」

 

 

 

 勢いそのままに振り下ろされた斧が、ローレンスの身体に突き刺さり、その首元を切り開いた。

 途端に溶岩が溢れ、みるみる内に上半身が溶岩の海に浸かる。

 溢れ出る溶岩はグツグツと大聖堂の石床を溶かし、ローレンスと共に沈もうとしていた。

 

 

 ……だが。

 ローレンスの、尽きぬ願いがそれを許さない。

 彼を内から焼き尽くさんとするのは、医療協会が侵してきたあらゆる禁忌と罪の焔。

 地獄の炎か、はたまた被害者たちの怨嗟かは定かではないが……医療教会の関係者たちに向けられた罪、その全てがローレンスへとフィードバックされ、彼を灼いている。

 

 それを知ってなお、彼は立ち上がらんと足掻くのだ。

 築き上げた屍の山が、無駄になってしまわぬように、犠牲が、意味を持つことができるように。

 

 

 

■■■■■■■■■■■■!!!!

 

 

 

 

 

■■■■■■■!!!!

 

 

 

 

 

 地獄の底から這い上がる怪物の咆哮が、悪夢の大聖堂を揺らす。

 その魂すら燃やし、彼は熱量を()()()()()

 辺りの気温が急激に上がり始め、すぐにイズの汗が止まらなくなる。

 

 今まで赤、或いは橙であった炎と溶岩の色が、白色へと変化した。

 それは1300℃をも超える熱量であり、ローレンスの巨体と、燃える炎、そこから噴出した溶岩全体が熱源となって辺りに熱を放射していた。

 

 

「ぐっ……!?がぁっ……!?!?」

 

 

 逃げる間もなく、辺り一体の気温が急激に上がり、イズの身体を灼く。

 呼吸をした瞬間、凄まじい熱を持った空気により肺が焼け爛れそうになる。

 肌も熱波に晒され、即座に潤いを無くしていく。

 

 

 

 だが、それだけで死に至るほどイズ(怪物)は甘くない。

 元より、なぜかは知らないが……この世界が連なる世界線の住人たち(フロムゲーのキャラクター)は皆悉く熱への耐性を獲得している。

 カオリが観測できる世界線の中には、溶岩の上を(ダークソウル)自由に闊歩できるような(エルデンリング)化け物たちが平然といる世界だってあるのだ。

 

 

 

 イズもまた、その領域に踏み込んでいた。

 肌や肺は焼けるが、その身が直接燃えているわけでもない。

 狩装束やその他の持ち物も、防火性の高い素材が多いため自然発火はしない。

 苦しいが、それでも彼女の本能はローレンスを仕留めるために前進する。

 

 しかし、ローレンスの熱量は収まるところを知らない。

 既に大聖堂内の石畳はドロドロに融解し、ステンドグラスは膨張した空気によって破られ、壁面でさえも歪んで見える中、彼は更に大きな咆哮をあげた。

 

 

 

 

■■■■■!!!!

 

 

 

 

 同時に、その炎の色が蒼色へと変貌する。

 もはや溶岩は煮え立つどころか沸騰し、荒ぶっていた。

 炎は温度にして2000℃を超え、放射エネルギーにより大気すらも数百℃をゆうに超えようとしていた。

 

 

「…………!!!!!」

 

 

 もはや息を呑むこともできず、イズの身体が焼け爛れ始める。

 熱波が身体を炭化させ、斧を持つ手は既に黒焦げとなり、様々な箇所から肉体が崩壊する。

 だが、それでも。

 イズは、ローレンスの元へと辿り着く。

 

 ローレンスはもはや、燃やされ尽くしてその首から上しか残っていなかった。

 イズが、直感頼りに斧を振り上げ────身体に残された力を振り絞り、降ろした。

 

 

 大聖堂が、悪夢のヤーナムが、閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 凄まじく大きな気配が感じられる。

 ここ、漁村はあり得ないことだけれど、立地的には狩人の悪夢の直上に位置しているようだ。

 海を覗けば、下に見えるのはヤーナム聖堂街の街並み。

 下から見上げても見えず、海面すらないというのに、上から見れるのはなんとも奇妙な話だ。

 

 恐らくは、イズとローレンスが戦っているのだろう。

 凄まじい気配のぶつかり合いが、海を荒れたものとしていた。

 

 

「……さて」

 

 

 処刑人を退け、脳みその怪物や雷光を操る魚人、そして巻き貝に入った女性などを倒し、セイアがたどり着いたのは漁村の最奥にある浜辺。

 そこにあったのは、凄まじい神秘の塊とも言える、一つの死体。

 エーブリエタースにも迫る、いやそれ以上とも感じられるほどのそれは、恐らく上位者の死骸だろう。

 

 それは小さな鯨の死体とも、鮫の死体とも、はたまた巨大なナメクジとも取れるような、形容し難いもの。

 

 

 その、一部が、動いた気がした。

 

 否、それは本当に動いていた。

 

 

 その死体の()が蠢き、ゆっくりと、その中身が外へまろび出る。

 

 

 それは、()()だった。

 全身が漂白されたように白い色をした、背の高い人間の男……というよりも、老人の姿。

 体格は骨が浮き出るほどにやせ細っており、両腕からは魚の鰭を思わせるような刺々しい部位が露出している。

 その背中には人の皮が捲れたような、あるいは作中の教会関係者が身に着ける教会の聖布を思わせる形状の一対の羽が、萎れ垂れていた。

 右腕には、腐った胎盤のような巨大な内臓らしきものが絡みつき、へその緒とも見れる肉の糸を通じて腹部と繋がっている。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 この悪夢を生み出した、()()()()

 

 それはゆっくりと、悲しげに、天を仰ぎ産声を上げた。

 

 

 

 ゴースの遺子

 

 

 彼はゆっくりと、セイアへと向き直り……遂に両者が、対面した。

 

 

 

 

 




フロムゲーの熱源は、プレイヤーや敵に対して火は効くのに溶岩が効かなかったりとなかなかファンタジーな挙動をする…………
火が効くからと溶岩ばら撒いてもDPS低かったの許さんぞ
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